第245話 ゴーレム娘と属性大盛料理娘の共同戦線
221 ~ 252話を連投中。
10/9(土) 11:00 ~ 18:30くらいまで。(前回実績:1話/13分で計算)
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一時間後。
「うわ~……なにこれ、うまっ。ぜんぶ、うまっ」
「パツ子さん、語彙が死んでますよ?」
「……………………」
「ボクの料理の味 知ってるでしょ? あのレベルで生きてきた人間がこれを食べたら、誰でもこうなるって」
「…………微妙に褒められてないような」
「……………………」
私たちは森を出て、早めの昼食を取っていた。
近くには早々に合流したオズの他、パツ子さんが借りてきた馬もおり、そちらはオズが家庭農園で使用している飼料を貪り食っている。
家庭農園で放し飼いされている動物たちも似たような感じなので、多分 動物味覚的に美味しいのだろう。
それから、パツ子さんの《魅了》についてだけど、汚物に塗れた状態で正気に戻した結果、再度 暴走した。
しっかりきっちりかっちりと、人生の汚点を記憶に刻み付けてから、簡易お風呂魔法で綺麗にしてやり、善人を罠に嵌めて地獄に堕としてから、素知らぬ顔をして救いの手を差し伸べる詐欺師の気分で優しくしてあげたら、思い外 簡単に暴走は収まった。
そして、とても懐かれた。ちょっと幼児退行してた。…………さすがにやり過ぎたと思った。
慌てて色々とネタばらししてみたものの、幼児退行は戻ったが、懐かれ具合は変わらず…………
森から出てオズと合流するまで、妙にべたべたと密着された。
というか、合流したオズに睨まれたり、『動きにくいから離れて』と私が言ったりしても離れようとせず、いい加減 口頭での説得が面倒になった私の物理的説得で引き剥がしたのだった。
その時のパツ子さんは、何故か嬉しそうで…………いつぞやのサリーさんを彷彿とさせた。
『ルーシアナ、知っているか?』
『聞きとうない』
『人間と言うものは、あまりに強大な恐怖に晒され続けると、その精神を安定させるため、恐怖対象と自身を同一化することがあるらしいぞ』
『あーあーあーあー』
『この場合の同一化とは、相手に好意や共感などを抱くことだが、物理的に接触していると安心感を覚えたり、邪険にされても喜んで受け入れたりと、相手に対して過度の肯定性を示すのも そのひとつと言えるな』
『あーいーうーえーおー』
『…………姉妹よな。血、繋がってないが』
『やっぱりサリーさんと同じ状態なのか!!』
私が感じた印象は正しかったらしい…………全く嬉しくないが。
実は、食事中の今も私はパツ子さんの膝上に抱えられている状態で、先程からオズの視線が痛い 痛い。
調理中はさすがに邪魔になると分かっているからか くっついてくることは無かったので、話が通じない訳ではないのだが。
「…………パツ子さん」
「ん? どうしたの? オズリアちゃん」
いい加減 我慢が出来なくなったのか、オズが低い声でパツ子さんに呼びかける。
対するパツ子さんに怯んだ様子が無いのは、私を抱え込んでいる安心感ゆえか。結構な殺気が飛んでる気がするのだが。
「……お姉ちゃんは私のお姉ちゃんなんです。そろそろ離したらどうですか」
「も、もうちょっと……もうちょっとだけ貸して欲しいの!!」
「ダメです」
「な、ならほら!! オズリアちゃんがルーシアちゃんの上に乗るとか!! ボク、二人分くらいなら耐えられるよ!!」
「…………仕方ないですね」
「こらこらこらこら」
『仕方ないですね』じゃない。変なところで妥協すな。
さすがに、二人も抱えて食事は難しいでしょうが。
「私が二人の間に座るから、左右半々で我慢しなさい」
「「えー」」
「『えー』じゃない」
というか、『左右半々で我慢』も、冷静に考えると十分に頭おかしい発言だから。
不満そうなパツ子さんの腕から逃れ その隣に腰掛けると、そそくさと移動してきたオズが空いた右側から密着してきた。
パツ子さんも言わずもがなである。
「……………………ぶるふぅ……」
ペギーちゃんがこちらを見て、『やれやれ……』と言いたげに首を振って食事に戻った。
…………さっきから思ってたけど、この子 私たちの言葉分かってないだろうか?
「まぁ、それはそれとして……結局、パツ子さんの《魅了》の状態は分かったの?」
「えぇ」
私の問いに、オズが力強く頷いてくれる。
暴走が収まった後の《魅了》は、パツ子さんが主張していた通り、精々中級程度の効果のスキルに変化しており、パツ子さんへの疑いは綺麗に晴れた訳だが、それはそれで『パツ子さんの精神状態に連動して、なぜスキル効果が変化するのか?』という新たな疑問が発生することになった。
私の知識からでは、その疑問に対する解は得られなかったので、私が昼食を作る傍ら、先程までオズによるスキルの分析が行われていたのだった。
「多分ですが……パツ子さんの《魅了》は、初級~特級までの四つの術式がごちゃ混ぜになっている状態 かつ それぞれを適正に切り替えできていない状態のようですね」
「ごちゃ混ぜ? 切り替えできていない?」
「えぇ」
その後のオズの説明は、難しい上 ややこしかったが……私が理解できた感じだと、こんな感じ。
まず、《魅了》というスキルは、本来『亜人 ― 淫魔 ― 』の種族特性に由来するスキルらしい。
《淫魔の心得》の具体的な内容は、こんな感じ。
淫魔の心得:亜人 ― 淫魔 ― の種族特性。あらゆる生物が無意識に好意を持つ。また、性的魅力が向上する方向へと成長する。スキル『魅了』を取得。
通常の淫魔であれば、《淫魔の心得》が《魅了》限定の術式補助スキルの効果を発揮するため、《魅了》の使用時間や回数に比例して高度化していくと共に、最適化・高効率化が進み、成長していく。
つまり、初級である《魅了》から、中級、上級、特級へとスキルが増えて行って、当然 使い分けもできる。
こうして増える中級 ~ 特級のスキルは、初級の《魅了》から全く別の術式として発生するのではなく、初級の術式から枝分かれする形で高度化するらしい。
例えば、初級の術式がa─b─c─dだとすると、中級はa─B─c─dのような形に。
この時、a、c、dの部分は、初級も中級も同じ術式なので、正確には
┌B┐
a┴b┴c─d
というように、初級から中級が生えたような形になる。
これは上級・特級も同様な上、実際の術式はもっと長大 かつ 派生部分も大量となるので、容易に全体像を把握できないほど複雑化してしまう。
このように複雑化した術式を適切な術式に最適化するのが術式補助スキルであり、《淫魔の心得》だ。
また、分岐 (┴) の部分は使用者の意志 (初級を使うか、中級を使うか) で経路が切り替わるスイッチのような機能を有するのだが、この機能の付与・管理も行っている。
で、次にパツ子さんの場合。
彼女は、《魅了》を所持しているが、種族は人間だ。…………表向きは。
オズが調べた結果、パツ子さんの種族は『限りなく淫魔に近い人間』であるらしい。
そのため、スキルとしては顕在化していないが、中途半端な《淫魔の心得》のようなものが存在しているという。
このせいで、《魅了》が『使用者の魔力を勝手に消費してしまう半常時発動状態』でスキル化したため、意識的に抑えてこなかった十数年間、使用し続けることになった。
スキルは使用時間や回数に比例して高度化していくので、本人の知らぬ間に中級 ~ 特級まで成長してしまう。
が、《淫魔の心得》が正しく機能していなかったため、最適化は行われず、『分岐 (┴) はあるが、スイッチ機能なし』の状態になってしまった。
個々の術式を切り替えることができないので、取得スキルとしては初級の《魅了》のまま、初級 ~ 特級までの術式が発動可能な状態になってしまったのだ。
このうち初級と中級に関しては、使用していた期間が長かったため経路が他より太く、上級・特級よりも前面に押し出された結果、平常時では『初級・中級程度の効果』、暴走時では『上級の効果』が発現する《魅了》となった。
さすがに特級の術式は、暴走状態では発動しなかったようである。
これが現状のパツ子さんの状態。
『では、どうやって解決しましょうか?』という話になるのだが、やるべきことは『《魅了》の最適化を進めて、正しく四つのスキルに分離させること』だ。
本来ならこの作業は《淫魔の心得》が行うべきことだが、不完全ゆえに適切に機能していない。
そこで、代わりに似たような効果を持つ『《精神魔法の才》に代行させる』というのが、オズの考えた解決法だ。
そう、実はパツ子さん、《精神魔法の才》を修得しているのだ。
…………え? 『術式補助スキルである《精神魔法の才》を持っているなら、なんで今まで機能していなかったのか?』って?
それについては、オズ曰く『《魅了》の成長に関する権限は、由来元である《淫魔の心得》に優先権があるんですよ。だから、不完全とはいえ《淫魔の心得》がある以上、《精神魔法の才》は《魅了》に効果を及ぼさないんです。ただ、この優先権は使用者が意識して使用することで解除できるので、まぁ、なんとかなるでしょう』とのこと。
『今までしてこなかったのか』とも思ったけど、パツ子さん的には『《魅了》の発動を抑える努力はしてきたけど、成長させる方向で考えたことはなかった』らしい。
「そんなわけで、《精神魔法の才》を使って各等級のスキルを意識して使用することで、時間は掛かると思いますが最適化できると思います」
「えーと、オズリアちゃん。それ、最適化のために使用してると、周りの人を魅了状態にしちゃって、ボク捕まる流れなんじゃ……?」
「えぇ。パツ子さんのことは忘れませんよ。しばらくは」
「ちょっとぉ!?」
あー……《魅了》の対象を絞って周囲に影響が出ないようにすればいいんだけど、失敗した場合、周囲に洗脳級や支配級の精神干渉魔法を使ったことがバレるのか。
洗脳級や支配級の精神干渉魔法は、さっきパツ子さんをエビ反りにさせながら話した通り、街中で剣を振り回しているようなものだから、きっと大騒ぎになるな。で、捕まる。
「まぁ、これまで通り放っておくって手もあるけど……」
「それは推奨しませんね。街中に不発弾を放置して生活するようなものです」
「ふ、不発弾…………ルーシアちゃん、ボクもできればしっかり制御できるようになりたいなぁ……な~んて」
まぁ、確かに街中でパツ子さんの《魅了》が今回と同レベルで暴走してたら、パツ子さんを守ろうとする人たち同士でバトルロワイヤルが始まってもおかしくないからな……
王都にも知り合いは出来たし、やっぱり危険と分かってて放置はしたくない。
「なら、レベル上げですね」
「レベル上げ?」
「えぇ。レベルアップ時にスキルの成長が促進されるのを利用して、《魅了》の使用とレベルアップを繰り返すんです。幸い、パツ子さんのレベルは、そう高いものではないので、比較的簡単に上げられるでしょう」
「なるほど」
ただ、これにはひとつ問題がある。
「パツ子さん。一人で魔獣倒せる?」
「あはは。それができるなら、オークに追われて死に掛けたりはしないと思う」
「だよね」
これである。
《魅了》の制御に失敗したときのことを考えると、他の人と共闘して魔獣を倒すことは出来ない。
かといって、一人で魔獣を倒せるだけの戦闘力はない。
となると……
「パツ子さんの《魅了》に耐性がある、私たちと一緒に魔獣討伐するしかないけど……」
「いくら払えますか?」
「…………真っ当な依頼料を払える余裕があるなら、こんなところにいないデス」
実は、レベルというものは、戦闘職以外の仕事に就いている者にとっても重要な要素である。
しかし、レベルは他の生物を倒した際に、近くにいないと上がらない。
これは、レベルというものが『他の生物の生命力であるから』と言われている。本当のところは分からないが。
もちろん、攻撃や補助といった『生物を倒す行為』に関われば、なおのこと上がりやすくなる。
まぁ、簡単に言えば、『戦闘に参加しなくても、討伐時に近くにいるだけでレベルは上がり、参加すればさらに上がりやすくなる』ということ。
そのため、非戦闘職の者がレベルを上げるための『レベリングクエスト』なるものが存在するのだ。
基本的な内容は、依頼人を連れて指定された場所・期間、一緒に魔獣を討伐すること。
依頼人に対する補助 (戦闘時の護衛や移動時の野営など) については、増えれば増えるだけ依頼料が上がる。
今回、パツ子さんのレベル上げに付き合うとしたら、彼女からレベリングクエストを受ける形になる訳だけど、これが思いの外 高額なクエストだったりする。『知り合いだからタダでいいよ』と言うには、桁が大き過ぎるくらいに。
パツ子さんがまともに闘えるだけの戦闘力を有しているなら、『臨時にパーティを組んで討伐クエストを受注した』という体でもよかったのだが、私の見立てではゴブリンとすらまともにやり合えない程度の実力でしかない。
というか、ゴブリン程度を相手にするなら、100体くらいの群をサクサク倒していかないと大してレベルは上げられないし。
「代わりに払えるものはありますか?」
「…………ぅ、ぅぅぅぅ」
そんなものがあるなら、すでに換金してしまっているのだろう。
提示できる札を持たないパツ子さんが、小さく呻いて私との密着を強くする。
……………………
『……………………』
『お・ね・え・ち・ゃ・ん?』
『何も思って無いデス』
そう、マシュマロのように柔らかで、慈しみすら感じる温か
『お・ね・え・ち・ゃ・ん?』
『…………何でも無いデス』
そう、何でもない。なんでもないんです。
オズが右腕をギリギリと抓り上げていますが、なんでもない。
そんな諸々を強引に抑え込み、パツ子さんが払える別案を提示する。
「戦闘力もないし、お金もないし、価値のある物もない。ないない尽くしのパツ子さんに、私たちからご提案です」
「改めて言われるとグサッとくるね……」
「残念ながら事実だからして。で、提案をする前に、ちょっとこちらの契約魔法を結んでいただきたい」
「て、提案をする前に……?」
さすがに警戒心を顕にするパツ子さん。
うん。正しい反応だ。
ここで軽く『うん。分かったよー』とか言われたら、それはそれで頭を抱えるところだった。
オズが虚空から取り出した、契約魔法用の書類をパツ子さんに手渡す。
「簡単に言えば、私たちのことを『詮索しない』『他人に話さない』。この二点の契約になるね」
「契約魔法の締結は私が行いますので、王都まで戻る必要はありません。もちろん、王都に戻ってから、本職に依頼するのでも構いませんが……」
「お~か~ね~が~……」
「だよね。まぁ、契約魔法なんて、破ったことが相手に伝わるくらいの効果しかないから、どっちでもそんな大きく変わりはないと思うけど」
そう。『契約魔法』なんて大仰な名称で呼ばれているものの、互いの行動を縛るような効果はないのだ。
結局のところ、契約内容を守るか守らないかは、契約を結んだ当人の意志に依るしかない。
それでもこんな魔法に需要があるのは、契約を破ったか破っていないかを、客観的に判断できない状況があるからだろう。
その点では、私たちにとっては、とても有意義な魔法である。
『秘密にしてね』と約束したことを話したか話してないかなんて、水掛論になることが目に見えてるし。
「ほら。この内容なら、そんなに気にする必要も無いんじゃない? パツ子さんにデメリットはないでしょ?」
「まぁ、うん。そうだね」
「…………私たちが犯罪行為でもしない限りは (ボソッ)」
「聞こえてるぞう」
偽証罪まではいかなくとも、証言しないことで共犯者と見られる危険があるからね。
まぁ、今のところ犯罪を犯すつもりもないし、そもそも そういう連中は契約魔法を一方的に破棄させることも出来るのだが。
私の冗談はスルーして、一応 納得してくれたパツ子さんと、サクッと契約を結ぶ。
「さて……では、私たちの提案なんだけど……」
「うん」
「…………私たちが生産している食材……買ってくれない?」
「はいぃぃ?」
パツ子さんが分かりやすく素っ頓狂な声を上げた。
気持ちは分かる。
「さっきパツ子さんが、白目剥きながら目汁鼻汁口汁大小垂れ流しながら『えへあへ』言う前にちょっと話してたけど……」
「あは、死にます」
「ごめん。冗談」
瞳から光が消えたパツ子さんを素早く抑え込む。
何を? 解体用ナイフに伸びた腕をだね。
「でも、お姉ちゃん。しっかりと記録には残してるんですよね?」
「なんで残してんの!?」
「いい感じの弱みだから。見る?」
「食事中は勘弁してください」
「契約とか関係なく、貴女たちの言うこと聞くしかないじゃない!!」
その通りである。
両手で顔を覆って嘆くパツ子さんの頭を軽く撫で、逸らした話を修正する。
「覚えてるかな? 私たちは家庭菜園を持ってるから、そこで採れる食材で良ければ適正価格で融通してあげるよって言ったの」
「ぅぅ……い、一応、覚えてるよ……」
「その時は大分 誤魔化してたんだけど、そこで採れる食材の量って、結構シャレにならないレベルなのよ。だから、大量に消費してくれそうな卸先を探してたんだよね」
「そうなの? それはボクも願ったり叶ったりだけど……ボクの店もそんな大きくないというか小さいし、普通に食材として売却した方がいいんじゃない?」
「それを本気ですると、既存の農業と流通が壊滅するからダメ」
「可能性でなく、確定なの!?」
「うん。手加減したらしたで、色々面倒臭そうだしね。流通方法を探られたりとか。妥協点が『適当なお店に卸す』だったのよ」
「それでボクの店……? ちなみに、どのくらいの生産能力が?」
「王都の食材市場を塗り潰せるくらい」
「ええぇぇぇぇ…………」
「地産地消レベルの新鮮さと安さでご提供可能」
「ええぇぇぇぇ…………」
「全力を出せば、ミドリス全域もイケるに違いない!!」
「いや、それはさすがに…………」
「イケるよね!! オズ?」
「イケますよ? パツ子さんが希望するなら、潰しますか? 国」
「対象が広がってるうぅぅぅぅ!! Not 崩国!! ダメ、ゼッタイ!!」
ははは。食糧供給は、国家運営の生命線だからね。
食糧を過剰供給して農業を衰退させ、人口を支えきれなくなったところで、一方的に供給を停止すれば、国が荒れるのは必然。
本当に崩壊するかは分からないが、その切っ掛けくらいになるのは確実だ。
何事も、身の丈に合わないものに頼ると、その先には破滅しかないということである。
私の肩を掴んでガクガクと揺するパツ子さんを落ち着かせ、話を続ける。
「それでどうする? 多分だけど、パツ子さんが想定してなかったレベルの厄介事が舞い込むと思うけど。例の商会からも、もっと直接的で面倒臭い妨害が増えると思うよ?」
「わ、分かってて提案するんだから、フォローくらいあるよね!? ね!? 丸投げ、良くない!!」
「詳細は後で詰めますが、パツ子さんのお店の経営を含めて、フォローできる代理人を送るつもりです。表向きは、その人とパツ子さんの共同経営という形になればよいかと。パツ子さんは料理だけを……というと語弊がありますが、まぁ、料理をメインに働いていれば良いようにしますよ」
「あと、これ重要。食材やその他の供給は、私やオズが代理人を通して行うけど、表舞台には一切顔を見せないつもりだから」
「えっ……と、それはどうして? というか、それって代理人さんに丸投げってことなんじゃ? その人は信用できる人……なんだよね?」
「理由としては簡単です。万一、パツ子さんが失敗したときに、巻き添えを食わないためです」
「そうそれ!!」
「『そうそれ!!』じゃなぁぁぁぁい!!」
真顔でボケたオズと私に、律義にツッコミを入れるパツ子さん。
うむ、良い反応だ。
なおも言葉を募るパツ子さんを軽く受け流し、本当の理由を口にする。
「まぁ、理由のひとつであることはウソではないんだけど。パツ子さんも納得できる理由としては、やっぱり失敗したときに、確実に逃げられる道を確保しておきたいってのがあってね。いざというとき、私たちまでまとめて拘束されたりしたら、本当に詰みだから。もし、パツ子さんが誘拐とか冤罪とかで不当に捕まったとしても、生きてさえいれば絶対に助け出す。そのために、私たちとパツ子さんは、他人でいた方が都合がいいんだよね」
「その後は、まぁ、状況にも依るでしょうけど、他の街で別人としてやり直すか、他の国でやり直すか……どちらも選択できますので、あまり気負わずにいられますよ」
「いや、誘拐だろうと冤罪だろうと、捕まっちゃったら助け出すのは難しいような……」
「やりようはある、とだけ覚えておいてくれればいい。元々、私たち用の奥の手だから、方法も含めて教えたくないし多用したくない。戦闘と同じで、奇策は手の内がバレていないからこそ有効なんだし」
とは言っても、捕まったら空間転移で救出して、ほとぼりが冷めるまで空間転移施設に引き篭もるだけなのだが。
まぁ、繰り返せば繰り返すだけ、対策される危険性が高くなるのは変わりないか。
「とりあえず、こんなところかな。私たちは、パツ子さんの《魅了》を安定化させるため、レベル上げに付き合う。パツ子さんは、私たちが卸す食材を適正価格で購入し、その後は代理人と一緒に共同経営する。短期的には私たちの負担が大きいけど、長期的にはパツ子さんの負担の方が大きいから、バランスは取れてると思うけど……どう?」
「よろしくお願いします」
『ちょっとは悩むかなー』と思っていたが、パツ子さんの回答は早かった。一瞬の躊躇も無かった。
思わずオズと顔を見合わせた後、聞き返してしまうくらいに。
「本当にいいの? 何がってわけでもないけど、裏があるかもよ?」
「それでも、今の状況より数倍マシ。そもそも、このまま王都に戻っても経営を続けられないことが確定したし、いつ暴発するかも分からないスキルを抱えてビクビクしなきゃならないし。それに、《魅了》のついでみたいになってるけど、非戦闘職のボクみたいなのがレベルを上げられる機会は、そうそうないからね。それだけでも利点が大きいよ」
「んー…………そんなもん?」
「そんなもん。それに、ルーシアちゃんには明確に命を助けられたからね~。本来なら、これだけでも信用するに足る理由じゃないかな?」
「そのあと、ヒドイ目にも合わせたけどね」
「敵なら死を覚悟するしかないけど、味方ならこんなに頼もしいことはないよね♪ まさしく救世主。是非とも安全なところで見守ってて、危なくなったら助けてね♪」
そう言ってパツ子さんは両腕を伸ばすと、オズごと私を抱き締めるのだった。
うむ。ぽよんぽよんだし、オズもむくれないし、これは良い。
パツ子さんの『恐怖対象と自分を同一視する症状 (?) 』は、ストックホルム症候群を大袈裟に拡大解釈したものですので、実際にこんな心理状態になるかは不明です。
ググってもよく分からんかった……
※ スキルの成長まとめ。
┌B┐
a┴b┴c─d
↑初級魔法(a─b─c─d)と中級魔法(a─B─c─d)を発動できるスキルの術式。
─,┴,┌,┐を『術式経路』、a,b,B,c,dを『術式素子』と呼ぶ。
① 高度化
既存の術式から新しい術式経路・術式素子を派生させ、複雑化すること。具体的な変化としては、等級が上の魔法が使えるようになる。
② 最適化
高度化の結果 複雑化した術式をコンパクトにし、分岐タイプの術式経路(┴)に経路切替のスイッチ機能を付与・管理。具体的な変化は、特にない。
③ 高効率化
術式素子を改良(b→B)する。具体的な変化としては、威力・効果が強化されたり、必要魔力が減ったりする。
① ~ ③合わせて、『スキルが成長する』という。
これらは、術式補助スキルが無いとほぼ不可能……だが、心得系のスキルのように、メインの効果のついでに同様の効果があるスキルは割とある。




