第238話 属性大盛料理娘、現実逃避中②
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10/9(土) 11:00 ~ 18:30くらいまで。(前回実績:1話/13分で計算)
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次の日。
早朝はいつも通りに屋上公園でバイトをして、午前の終わり頃は食材の買い出しと屋台の準備。
で、いつもは下準備まで進めて、お客さんが来るのを待っているんだけど、今日は試食用サンプルを作る。
一口大で100食分ほど。
そして、冒険者たちがクエストを終えて戻ってくるタイミングに合わせて、冒険者ギルドへ移動する。
向かう階層は6階。狙いは、Dランクの冒険者たちだ。
「え~と……」
ボクも一応、冒険者登録はしてあるものの、ランクはE。
しかも、Eランククエストは数える程度しか受注したことがない、兼業冒険者としても中途半端だ。
それでも全く知らない訳ではないので、冒険者ギルド内の繁忙タイミングは大体分かる。
一日の内で、まず一度目の繁忙ピークが来るのは、冒険者たちの受注が最も多くなる時間帯。
具体的には、依頼書が更新される早朝で、大体5 ~ 6時頃。依頼は早い者勝ちなので、余裕のある冒険者でなければ、大体この時間を狙って活動を開始する。
二度目のピークは、お昼頃。
一日に二つのクエストを受注したい冒険者が、午前中に一つ目のクエストを終わらせて、完了報告と次のクエスト受注をしに来るのが この時間帯。
三度目のピークは、日暮れ前。
比較的 簡単なクエストを受注した冒険者が、完了報告に来るのが この時間帯。四つのピークの中で最も人が少ない。
四度目のピークは、日暮れ後。
二つ目のクエストを終わらせた冒険者と、比較的 難しめのクエストを受注した冒険者の完了報告が重なるのが この時間帯。ここは、四つのピークの中で最も継続時間が長く、遅くなる程 難しいクエストを受注した上位冒険者が多くなる。
で、現在ボクがいるのは、三度目と四度目の合間の時間帯。
繁忙ピークに挟まれた時間帯ではあるものの、その時間帯からは外れているので、思ったよりも人は少ない。
それでも数十人くらいの冒険者たちで、そのフロアは賑わっていた。
キョロキョロと周りを見渡しながら、ルーシアちゃんに教えてもらった『声を掛けるべき相手』の条件を思い出す。
その1:王都の外から来た人
王都の外に出たことのないボクには分かりにくいけど、王都の外から来た人たちにとって、王都の食事は、なんというか、『合わない』らしい。
まぁ人に依るのだろうけど、少なくとも彼女が遭遇した王都外冒険者は、ほぼ確実に王都の食事に不満があったとのこと。
その2:低ランク
食事に不満があっても『ランクが高い = 資金に余裕がある』冒険者は、食費に掛ける金額を増すことで、その不満をある程度 解消することが出来る。
よって、狙うならそれが出来ない低ランク。ただ、主要な活動拠点を産まれ育った地元から王都に変えるには、最低でもDランクは必要。
この中から、 (言い方は悪いが) 資金に余裕のない冒険者を探す必要がある。
後は、この条件に合う冒険者の見極め方だけど…………
『…………あ、なるほど』
ルーシアちゃんの言ってた『見極め方』は、正直 半信半疑で、手当たり次第に声を掛ける可能性も考慮に入れてたんだけど、『それ』を前提にじっくりと見定めると、なるほど、言った通りだった。
つまり…………これから一仕事ありそうな『緊張した表情』である。
人間にとって、食事とは安らぎだ。
クエストという大きな仕事を終え『後は休むだけ』となれば、普通ならリラックスした『安堵の表情』を浮かべるものだ。
しかし、もし食事で安らぎを得られないならば、どうなるか?
そこ答えは、今、目の前にある。
『王都の食事が合わない冒険者にとって、毎食の食事もある種の『闘い』なんだよ』と、ルーシアちゃんは冗談めかして言ったが、その表現はあながち間違いとは言えないかもしれない。
『喰うか喰われるか』は言い過ぎだと思うけど、『喰うか喰わないか』くらいの葛藤は、十分にありそうだった。
…………まぁ、実は、全く見当違いの理由故の違いかもしれないけど、少なくとも表情に違いがあることだけは確実だ。
と、いつまでもそんなことを思い出していても仕方が無いね。
相手は、クエストを終えて疲れている冒険者。もし、迷惑そうな雰囲気を感じたら、最低限の宣伝だけして話を切り上げることは忘れずに。
壁際で休んでいる年配の冒険者パーティに声を掛けた。
「お疲れ様です。今、お時間よろしいでしょうか?」
「あぁ?」
あ、ダメぽい。
返ってきたのは『話し掛けんな』的なニュアンスを多分に含んだ応答だった。泣きそう。
堅苦しい言い方が悪かったのか、人を見る目が無かったのか…………
反省は後でするとして、当初の予定通り最低限 宣伝だけして引くこととしよう。
「お疲れのところ申し訳ありません。ボクは、この近くの積層市場で食べ物屋台をやっておりまして……」
「はぁ?」
…………泣きそう。
何故かさらに不機嫌になった男性の視線が、ボクの頭から足元を無遠慮にジロジロと往復し、最後に試食品を入れた籠で止まった。
その間にも、男性の仲間がからかうようにボクに話し掛ける。
「ホント~に、飯屋の姉ちゃんなのか~? 許可取ってる~?」
「そうだな。冒険者ギルド内での宣伝活動には許可がいる。その際、虚偽の申請をすれば商業ギルドへも連絡が行って、罰則もありうるぞ」
「当たり前だが、商業ギルドに登録もしてないってのは、論外だかんな? まぁ、真っ当な商売をしてるなら、言うまでもないが、なぁ?」
……………………ボク、なんかした?
何故か、料理人であるところから疑われている気がする。
確かに、今のボクの格好は、『料理人』を示すシンボル的なものはないけども。
屋台をやっているときは『調理服』を。
屋上バイトをしているときは『作業衣』を。
冒険者として外に出るときは『戦闘服』を。
普段は、それぞれの仕事に合わせて見て分かる服装をしているけど、『宣伝用の服』なんてパッと思い付かなかったというか、試食品やチラシを持っていれば大体分かると思っていたから、普段からアンダーウェア的に着ている極々一般的の服だけになってるんだけど…………ダメですか、そうですか。
『次に宣伝に来るときは、調理服っぽい格好をしてこよう』と心に決めて、ギルドカードと事前に冒険者ギルドから発行された許可証を見せる。
「えっと……この通り、正式に許可はいただいていますよ」
「む……………………そうか。なら、悪いことしたな。すまない」
「あ、いえ」
ギルドカードと許可証を見た彼らは、先程までの不機嫌な雰囲気から一転させて、素直に頭を下げる。
正直、理由もなく難癖を付けてるだけだと思っていたので、こうくるとは思わなかった。
そのせいで、どうして不機嫌だったのか、確認するのも忘れて話を進めてしまう。
「えっと……試食、いかがですか?」
「ん? あぁ、その籠かい?」
「あ、そうです そうです」
最初に話し掛けた男性が、随分と柔らかくなった口調で問い、籠の中を覗き込む。
ボクは全員に見えるように大きく籠を開いて見せた。
「…………ふむ」
「確かに、食いもんだ~な」
「まぁ……な?」
「上底って訳でも……ねぇよな」
上底って……こんな籠にそんなもの仕込んで、一体なんのメリットがあるの…………
ここで、『何か怪しいでしょうか?』とでも聞いてみればスッキリするのかもしれないけど、薮蛇になって本来の目的が果たせなくなるは本末転倒なので、深くは突っ込まないことにする。
何やら怪しまれる状況から始まってしまったがそれも解けたようなので、『最低限』のつもりだった予定を修正し、説明を始めた。
「実はですね。王都の外から来ている方の好みに合わせた料理を販売しておりまして。もし宜しければ、試食してみませんか? 一口分ですけど、無料ですよ」
「王都の外……上京者向けってことか」
「マジで? ホントにタダ?」
「いや、それよりも上京者向けって、どんな味だ? 単純に薄味でしかないなら、見当違いも甚だしいぞ?」
「あー……たま~にあるよな、そういうの。クッソまじぃ」
「う、う~ん……まだ研究中ですので、自信を持って『大丈夫、美味しいですよ!!』とは言えないのがツラい……
確かに、王都料理にありがちな調味料をたくさん使う調理法ではないので、薄味なのには違いありません。ただ、コンセプトとしては『食材の味を生かした味付け』ですので、ただ味が薄いのとは違うと思います。
とりあえず、ご意見は有り難く頂戴しますので、おひとつ如何ですか?」
期待を込めて人数分の試食品を取り出すが、手を伸ばしてくれたのは、最初に反応した男性のみ。
彼は、包みを開く前に『くんくん』と匂いを嗅ぐ。
「匂いは確かに、王都料理でよくある香辛料がガツンとくる感じじゃねえな。ただ、俺らが期待するようなメシの匂いっていう感じでもない……」
そして、次に包みを開く。
「見た目は、まぁ……旨そうだな。食材の質は…………う~ん、よくないな。どちらかというと悪いくらいだ。資金が無いのかもしれないが、もうちょっと良い食材を仕入れた方がいいぜ?」
……………………なに、この人、超意外なんですけど。
なんとなく、『旨けりゃ食材の鮮度なんざ、どうでもいいんだよぅ、べらんめぇ!!』とか、言いそうなタイプだと思ってました。ごめんなさい。
「あ、そぅ……」
!! ま、まずい!!
その評価を聞いて、明らかに仲間の期待度が下がったのを肌に感じる。
逆効果になる可能性も忘れて、慌てて言葉を重ねてフォローを入れた。
「あ、あの!! 確かに食材の質は悪い自覚はありますが、できれば味付けの方を評価して貰えると……!!」
冒険者の必須技能として、『価値の高い素材やアイテムの見極め』というのがある。
収納量には、当然 限りがあるのだ。クエストで見付けた素材を、片っ端から持ち帰ることは出来ない以上、素材の厳選は必要不可欠。
故に、どんな冒険者でもこの技能はある程度 獲得しているものではある。……が、得手不得手というものもある。
パーティを組んでいるなら、最も得意な者に取捨選別の最終決定権があるのは至極 当然のことだし、クエスト以外で頼られるのもまた当然のことだ。
この男性は、つまりパーティ内における目利き人なのだろう。
そうなると、ボクにとってのメリットとデメリットが、表裏一体に存在する。
この人の信用が得られれば、他のメンバーの信頼もほぼ確実に得られる一方、得られなければ、他のメンバーに試食して貰うことすら不可能になる。
て、適当に声を掛けた相手が、まさかそんなピンポイントに重要な人だったなんて……!!
い、いや、落ち着け、ボク。パーティ内の誰に話し掛けたとしても、この人のチェックが入るのはほぼ確実。
なら、直接 話し掛けたのがこの人だったのは、悪いことじゃない。むしろ、最初に話し掛けた分、僅かながら信用は得られてるはず。
他の人経由で、いきなり試食されるよりは、多少有利なはずだよ!!
……………………今更、会話で印象操作したり、試食品に手を加えたりすることは出来ないんだし。
「確かにな。ま、食わせてもらうわ」
「ど、どうぞ どうぞ」
予想以上に低い期待値からのスタートになってしまったが、ようやく食べてもらえた。
…………って、ああああ~~~~…………『どうぞ どうぞ』じゃないでしょ。
もっと、良い感じの言い方があったでしょうが~~~~……!!
密かに内心で悶絶するボク。
そんなボクの内心には関せず、『パクッ』と一口でいった。
食べる前に入念にチェックしていたからか、いざ食べる時は全く躊躇がない。
「ん~…………んぉ?…………ん、んん……………………ぅん…………」
……………………その反応は、どんな感情なの……?
とりあえず、『旨い!!』という反応ではないのは確か。
まぁ、ここは納得するしかない。ボクもさすがにそれはないと自覚している。
ただ、『不味い!!』という反応とはまた違う。
ドキドキと、緊張した心持ちで、食べ終わるのを待った。
…………………………………………
「ど、どうでした?」
「……………………」
その沈黙、ボクの精神に効く。
他のパーティメンバーにとっても、あまり見ない反応なのか、興味深げな雰囲気で続きを待っている。
「……………………微妙……」
「そ、そうですか…………」
『不味い』と言われなかっただけマシかもしれないけど、消耗した精神力分だけガックリときた。
「あ、いや、すまん。今の感想は料理全体の感想……いや、これも失礼か。とにかく、お前らも食ってみろよ。将来性は高いぞ」
「え、マジで?」
「珍しいな。お前が誉めるなんて」
「どれ」
「ぁ……」
思いがけない言葉が続き、反応できない。
彼らは、思考が停止したボクの手からひとつずつ試食品を取ると、次々と口にする。
「ん……? …………ぉぁ? ……………………ぅん」
「ぅん。…………ん? んんんん? ……………………うん」
「ん…………ん!? んん~……………………ぅん、うん……」
……………………胃が痛い……
高々数分が、数時間に感じられた。
長い長い試食時間を終えて、最初に試食した男性が、仲間に意見を求める。
「どうよ? 俺の反応の意味が分かんだろ?」
「そうだな……」
「確かに微妙…………だが、元の食材はお前が『悪い』と言うくらいだったし、それから考えれば、将来性は十分……あるかな」
「そうか? オレはこのレベルなら、十分に選択肢に入るぜ? うめぇ」
「っ!!」
「お前は、バカ舌だからな~」
「なんだと!?」
ぎゃーぎゃーと男同士で騒ぎ始める彼らの陰で…………思わず、泣いてしまいそうになった。
だって、『旨い』『美味しい』と言われたのは、とてもとても久し振りだったから…………
ボクだって、本当は『美味しいですよ』と自信を持って勧めたい。
そんな自分の本心に、ひさしぶりに気が付いた。
なんとか動揺を表に出さないように堪えていると、『バカ舌』とからかわれている男の人が、話を断ち切るように大声を上げる。
「だああああ!! いい加減にしろっての!! 良いだろ、旨かったんだから!!」
「はいはい。確かに、そうだな。おい、お嬢ちゃん」
「ひゃ、ひゃい!?」
油断してた。
「おいおい…………お前、顔 怖ぇんだから、気をつけろよ」
「そーだ そーだ~!!」
「ううううるっせいわ!! アンタも客商売やってるなら、このくらいで泣くなっつの!!」
「はい!? ごめんなさい!?」
自分では気付かなかったけど、泣きそうな顔をしていたらしい。
泣き出される前に誤魔化そうとしているのか、男性が畳み掛ける。
「ほれ!! まだ、重要な情報がひとつ抜けてるだろ!?」
「じゅ、重要な情報ですか?」
咄嗟のことに、何を指しているのか頭が回らない。
男性は一呼吸おいて続きを切り出した。
「値段だよ、値段。ひとつ幾らなんだ? 味は及第点だが、その分 高いんじゃ、買ってはやれないぜ? 俺たちだって、人様に施しができるほど余裕は無いんだし」
「あ!! そ、そういえば、伝えてませんでしたね。すみません」
そういえば、『試食品は無料』と言ったけど、商品が幾らなのかは言ってなかった。
最後に言うつもりだったのもあるけど、予想外の展開にすっぽり抜け落ちていたのも大きい。
「え~と、ですね…………に、200テト、です……」
「「「「え?」」」」
う゛ぇあ!? 高かった!?
でも、言い訳じゃないけど、この値段設定はルーシアちゃんのアドバイス。
曰く、『商人としてやってくなら、ちゃんと人件費や利益も値段に反映させないとダメ。その辺を低く抑える『薄利多売』って方法もあるけど、それでやっていけるのは、多売できる確信がある時だけだよ。料理人が一人の状態で、それは無理。奇抜な方法で、一気に起死回生を狙いたくなる気持ちも分かるけど、基本的には無難に足場を固めた方が、後々役立つと思うよ』とのこと。
『いや、別に奇抜な方法で起死回生を狙ってるつもりは無いんだけど……』と言ったら、『安さだけを全面に押し出す宣伝法は、十分に奇抜だと思うよ?』と言われた。
…………全く反論はできませんでした。
と、とにかく、この値段設定は、食材や調理なんかに掛かる費用にプラスして、料理人の人件費や利益を加えたもの。
これらの金額は、商業ギルドの資料を参考にしたから、高過ぎることは無いと思う……けど…………
資料に間違いが無くても、ボクが見る項目を間違えた可能性もある。そもそも、計算は苦手な分野だし。
「た、高過ぎましたでしょうか……?」
恐る恐るそんなことを聞いてしまう。
せっかく、印象も持ち直してくれてお客さんになってくれそうだったのに…………
勝手に意気消沈するボクに、しかし彼らは手を左右に振って否定する。
「いやいやいや……逆だよ、逆。安いんだよ」
「え?」
「そうだな。それとも、私たちがイメージしているサイズが間違えているんだろうか? お嬢さん。失礼だが、商品はどのくらいの大きさなのだろう? このくらいをイメージしていたのだが……」
「あ、そのくらいで間違いありません」
「だとすると、他の店で買ったら、500はするだろ? ちょっと高けりゃ1,000だ。ちゃんと値段設定考えたか? 自分が作るからって、人件費0とかにしたら長くやっていけねぇぞ?」
ルーシアちゃんと同じこと言われた…………
「ちゃんと考えたつもりです。…………妥当かどうかは自信がないですけど」
実のところ、『どのくらい売れるのか?』の目途が立たないと、正確なところが分からないのだ。
自信無くそういうボクに、訝し気な表情をしていた男性は、
「ふ~ん…………まぁ、俺らにとっちゃ『旨い』『安い』は、幾らでも極めてくれて構わないけどな……………………よっし!!」
と言って一度大きく頷き、『パンッ』と手を叩く。
そして、『にやり』と悪い笑みを浮かべた。
「嬢ちゃん、さっき『まだ研究中』って言ってたな。つまり、今までに無い料理を作りたいが、研究だけに集中して完成形まで持っていけるほど、資金に余裕がない。だから、まだ試作段階のこれを売って、資金を回収しつつ、継続的に改良を進めたいってのが、大きな目的なんだろ? ついでに、客の意見も集まれば、なおよし、てな感じで」
「そ……そうです そうです!!」
この人ホントに意外ーーーー!!
今の話は適当に合わせたのではなくて、元から考えていたこと。
ルーシアちゃんに教わったレシピに頼るだけでは、商売として先は無い。
でも、今の収支じゃお店を開いていない時間はほぼ全てバイトなどに使われていて、レシピの研究・改善に割ける時間が無い。
なので、本業の屋台だけである程度の収入を得、研究・改善できる時間を確保しなければならなかったのだ。
…………まぁ、すぐにではなくて、『いずれ』くらいに考えていただけだけど。
え? 今? …………本業が赤字で、バイト代で補填してる感じですが何か? (涙目)
もちろん、そんな商売の裏側の話を わざわざするつもりは無かったけど。お客さんにとっては、あまり関係の無い話だし。
「そういうことなら、俺らも協力してやるよ。ま、なるべく買いに行く頻度を増やしてやる、くらいしか出来ないが。ついでに、知り合いの冒険者にも薦めといてやろう」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ。お前らもいいだろ?」
「おぅ」
「あぁ」
「俺は最初から旨ぇって言ってたろ」
「ぅ…………あ、ありがとうございます!!」
本当に、昨日から人の縁が絶好調過ぎる。
幸運の揺り戻しで、死んでしまいかねないかも…………気を付けよう。
何度かダメかと思ったが、結果だけ見ればベストな結果に落ち着いている。
それが嬉しくて、狂ったように頭を下げるボクを慌てた様子で彼らは止めた。
「ちょ、待っ……!! やめろ、コラ!! 周り奴らに勘違いされんだろが!!」
「ぅぅ…………すみません……」
確かに、『じとー……』という視線が周囲から集まっている気配を感じる。
周囲に向けて絡まれているわけではないとアピールして、なんとかその色は薄めることはできたが、代わりに興味の色は増してしまった気がする。
男性は『ったく……』と、嘆息混じりに言葉を溢すと、
「ほれ。なんか、宣伝用のチラシとか無いんか? 数に余裕があるなら、10枚くらいくれよ」
「あ、あります あります。どうぞ」
「さんきゅ。…………すっげぇ奥まった所にあんのな」
「あ、あはははは……」
地代の関係でね…………そこが一番安かったんです。
「長々と引き留めて悪かったな。ほれ、他の冒険者も興味が湧いてるみたいだし、今の内に宣伝してこいよ。チャンスだぞ」
「うわ、ホントだ……それじゃ、お言葉に甘えて、そろそろ失礼します」
「おーぅ。また、会おうぜ」
「はい、お待ちしています!!」
最初の時は、マズイ人に声を掛けてしまったと思ったけど、とんでもない。とても親切な人たちだった。
昨日、ルーシアちゃんと別れた後のような期待に胸踊る気持ちで、興味の視線を向ける冒険者たちの元へ向かうのだった。
「……………………しかし、さすがにびっくりしたな」
「ま、色々 苦労してんだろうぜ」
俺は、先程まで話していた飯屋の姉ちゃん……そういや、名前を聞くの忘れたな……の背中を見送りながら、仲間の呟きに答えた。
あれだけの料理を作れていながら、今まで名を知られていなかったということは、何か真っ当じゃない方法で邪魔されていたんじゃないかと勘繰ってしまう。
…………いや、まぁ、何に一番驚いたかと言えば……
「正直、最初は完全に水商売の姉ちゃんかと思ってたがな……」
「「「分かる」」」
異口同音の同意が返ってきた。
あ? 男なら嬉しいだろって?
バカ言うな。これでも俺らは妻子持ちだっての。
「なんで、あんなぴっちぴちの服着てんだよ……」
「服を買う余裕が無いんじゃね~?」
「よく考えれば、冒険者ギルドでそんな客引きが許可される訳ないんだから、勘違いのしようもなかったんだが…………」
「だから、未許可だと思ったんだろ? …………大丈夫かね? 中には、素行の悪い冒険者もいるんだぜ?」
「ギルド内で宣伝してる間は大丈夫だろ。外では知らんが、子供でも無いしどうにかするだろ」
多分…………
と、そんなことを話していると、若い男女四人の冒険者パーティがにやにやしながら近寄ってきた。
「見~た~わ~よ~♪」
「自分の子供程も歳の離れた相手に手を出すのはどうかと思いますよ、父さん」
「アホか」
男の方が『父さん』と言っていることから分かる通り、コイツらは俺たちそれぞれの娘息子どもだ。
ズルズルと冒険者を続けている父親を見て育ったせいか、それぞれの子供ら四人で冒険者パーティを組んで、早数年。
出来の悪い俺たちの遺伝子を受け継いでしまったようで、ようやくDランクとして安定してきた新米冒険者たちだ。
その癖、夢は一丁前に大きく、ならせめて『楽出来るところは楽をさせてやろう』と親バカ心が働いて、王都での活動のコツなんかを含めて、先輩冒険者として指導中である。
…………過保護? 悪いか? 出来の悪いヤツ程、他人の手を頼った方がいいんだよ。いつまでも他人に任せっきりなのは、別問題で論外だが。
「期待の新人だよ。ある意味、お前らなんぞ目じゃねぇくらいにな」
「ぶぅ~……どーせ、あたしらは、期待出来ない新人ですよーだ」
「まぁまぁ。いいじゃないか。僕らは僕らで頑張れば」
ぶー垂れる我が娘に、苦笑する男が慣れた手付きで頭を撫でる。
……………………仲間の息子とはいえ、一発入れてやろうか…………
粘着質な殺意を込めて睨んでやると、それに気付いた男が慌てて手を離して自分の父に話を振る。
「そ、それで、『期待の新人』と言ってましたが、どんな方だったのですか?」
「料理人さ。しかも、私たち王都外出身者向けの料理を研究しているらしい。味はまだまだだが、値段も考慮すれば十分に許容範囲内。いや、コストパフォーマンスで言えば、むしろ合格か。収入が安定すれば、味の改善も進むだろうから、なお期待大だ」
「へ~……それは助かりますね。王都に来てまだひと月ですが、正直 王都の料理には辟易し始めた頃合いでした…………」
「ねー」
『うんうん』と、残りの二人も含めて頷く。
「軟弱な奴らだな……俺らがお前らの歳の頃は、もっと不味かったぞ?」
「それ、何十年前の話よ」
「三十年?」
「まだ二十年の方が近い」
そうだったか? …………まぁ、いいや。
「ほれ。チラシを貰っておいたから、気が向いたら行ってみろよ」
「え? うん…………あれ? 父さんたちは、まだ帰らないの?」
「あぁ」
流れでチラシを受け取り、首を傾げる我が娘。
まぁ、俺たちはコイツらの完了報告を待っていたのだから、その反応は分からなくもない。
「ちょっと、昔馴染みにも宣伝してくらぁ」
「昔馴染み?」
「ギリギリCランクの俺らみたいな冒険者にも、優秀な知り合いってのはいるんだよ。ま、本当に優秀な奴らには不要な情報だろうが、ちょい優秀くらいなら、喜んでくれるだろうさ」
「ふ~ん…………付いていってもいい? ご挨拶に」
「あ? あぁ……別に構わねぇが…………なんだよ、『ご挨拶』って」
「『不出来な父が、いつもお世話になってます』って」
「よし。お前らの今度の課題は、『面倒臭ぇ癖に報酬が低い、割に合わないクエスト』でいくからな」
「「「とばっちり!?」」」
チラシを覗き込んでいた娘の仲間が、異口同音の悲鳴を上げた。
別に、ただの意地悪ではない。
『割の良いクエスト』も『割の悪いクエスト』も、日々 同様に発生し続けている。
俺たちみたいな出来の悪い冒険者が、クエストの選り好みなんてしていたら、収入が無くなって立ち行かなくなるのは必然。
ならば、手広く様々なクエストをこなせるようになっておくのは、長く冒険者を続けるなら必須の経験といえる。
……………………まぁ、その中でも特に面倒なのを選ぶかもしれないが。
娘らのパーティも加わって、一見 八人の大パーティで、とりあえず上の階を目指す。
途中で料理人の姉ちゃんの方を見やると、俺らのやり取りで大体の事情を把握していた冒険者連中に囲まれて、慌ただしく試食や説明をしているところだった。
中にはあまり芳しくない表情もあるが、概ね高評価の印象が多いように見受けられる。
これは…………宣伝も早めに切り上げないと、俺らが行くときは売り切れてる可能性もあるな。
試験的に販売を開始したのなら、どの程度 売れるか分からず、食材の在庫も抑えている可能性は高い。
王都の料理にやられかけている娘のためにも、心持ち急いで階段を駆け上がった。




