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ゴーレム娘は今生を全うしたい  作者: 藤色蜻蛉
10章 遭遇!! 王都の住人
248/264

第237話 属性大盛料理娘、現実逃避中①

221 ~ 252話を連投中。


10/9(土) 11:00 ~ 18:30くらいまで。(前回実績:1話/13分で計算)


word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿してますので、時間が掛かります。


申し訳ありません。



ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。

皆様。ご機嫌よう。

(わたくし)、しがない料理人をさせていただいております、パルツェと申します。

以降、お見知りおきくださいませ。


……………………え? 『お前、誰だ?』ですか?

嫌ですわ。今、ご紹介させていただいたではありませんか。

イジワルしないでくださいませ。


……………………あら、そうではない?

『そんな口調じゃ無かっただろ?』ですか?

『違和感がある』? なるほど。

そう言われてしまっては、このまま続ける訳にもいきませんね。

では、失礼して…………猫を被らせていただきます。


…………………………………………


「ぎぃぃぃぃにゃゃゃゃぁぁぁぁああああ!!!!!!!! だぁ~~じぃ~~げぇ~~でぇぇぇぇ!!!!!!」


いいよね!? 猫被って良いって言ったもんね!? 容赦しないからね!?


現実から目を逸らそうとする本能に段々 素になってきた自覚のある猫の皮を被せ、かつての知人たちに聞かれたら確実に眉を(ひそ)められる汚い悲鳴を上げながら、全力で木々の間を駆け抜ける。


「ぶきぃぃ~~~~♪」


「ふごっ!! ふがっ!! ふご~~はーと」


「ふがが!! ごごが!! ごがぁが~!!」


そのすぐ背後から、喜色に染まったオークの鳴き声が、重唱となって追い抜けていった。


本体も一緒にどっか行ってくれて良いのに!!!!

なんだか、リズムに乗ってるの腹立つ!!!!


「ふご~♪ ご~♪」(ぴしゅっ!!)


「ふが~♪ が~♪」(じゃっ!!)


「ふぎ~♪ ぎ~♪」(ひゅん!!)


「ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさいぃぃぃぃ!!!!」


機嫌の良さそうなリズムの鳴き声に合わせて、木矢・水刃・風矢が、奇跡のように足元・頬・首筋を掠めて通り過ぎていった。

反射的に上がった悲鳴と共に、無自覚に零れた涙が水平に流れていく。


これが、火事場の何とやらなのか…………

自分でも信じられないような速度が出ているのか、一瞬だけ眼尻を濡らしたそれは、すぐに乾いて冷えた感触を残して消えた。


先程から、嬲るように狙い澄ました攻撃が散発的に飛んでくる。いや、正しく嬲っているのだろう。

攻撃に反応して上げる悲鳴に、オークどもの笑い声が常に重なるのだから。

…………それが分かったところで、必死に逃げる以外に、ボクの取れる選択肢は無いのだけど。


あぁ…………どうして、どうして、こんなことになってしまったのだろう…………


現実を見つめなければいけないことは、痛いほどによく分かっているのに、思考はそんな単純な事実すらからも目を背け、未来が輝いて見えていた数日前を思い返すのだった…………



― 回想開始 ―


「えっと…………うん。味付けは おけ。で、風味を飛ばさないように、低温で乾燥させる……」


数日前。

ボクはその日、偶然出会ったおっぱい魔人に教えてもらったレシピを試していた。


味付けのコンセプトは単純。

『料理全体に味付けできないなら、味を集中させて強調させよう』という話。

具体的には、『濃い味付けの粉末ソースを作って、表面に振り掛ける』。

こうすることで、『濃厚なソースが直接 舌に接し、少ない量でも満足できる味に感じられる』とのこと。


初めは半信半疑だったけど、それを察した魔人が慣れた手付きで作り上げた料理は、確かにボクの作ったものよりも遥かに美味しかった…………

本人的には、不服だったみたいだけど。


「低温で乾燥……」


ボクも料理人の端くれ。低温に限らず、乾燥法は色々知ってる。

知ってるけど、自然環境を利用する天日干し以外は、基本的に専用の調理器具が必要だ。

当然、日々の生活すらままならないボクにそんなものを導入する余力はなく…………

見た目10ちゃいのお子ちゃまに そんなことを暴露するのが恥ずかしくて、ボソボソと小声で白状するボクに、彼女は事も無げにやって見せた。


……………………魔法による急速乾燥を、だ。


驚きに固まっているボクの目の前で、鍋の中にそこそこ溜まっていたソースは ものの数秒で色褪せてカサカサになり、指で触れると簡単に塩の粒のような結晶状に砕けサラサラになってしまった。

それは、ボクが今までに見てきたどんな魔法・魔道具よりも圧倒的だった。


…………凄かった。凄まじかった。別次元だった。もちろん、ボクに真似できるものではなかったよ。


唖然として固まるボクの様子からそれを察したのか、元々 理想系として見せただけだったのか、彼女はボクが使える四大属性魔法を確認すると、さらさらと複雑奇怪な図形……乾燥魔法の術式構成を書き上げ、ボクに手渡した。

曰く、『火属性と風属性だけで乾燥できるようにした簡易型です。水属性が無い分 乾燥は甘くなるので、その分 時間と魔力を使うか、別の方法……事前に煮詰めるなどして水分を飛ばしてください。尤も、後者は風味が損なわれるのが難点ですけど』とのこと。


……………………さらりと三属性複合魔法だった。


一般的に魔法は、その威力や難易度などから初級、中級、上級、特級に分けられる。

正確に言えば、初級より下に『使えるとちょっと生活に便利な魔法』として、『生活魔法』とか『簡易魔法』とか呼ばれているものもあるが、それはちょっと置いておく。

で、初級は基本的に単一属性。中級で複合属性も見られるようになり、上級以上はほぼ複合属性。その種類も上に行くほど多くなり、中級で二属性、上級以上で三~四属性。

え? 『順当にいけば、特級は五属性以上じゃないのか?』って? 多ければいいってものでもないんですよ?

それはさておき、複合属性魔法を使用するに当たって最低限 必要となるスキルというのが、《○魔法》や《○魔法の才》などの術式補助スキル。


つまり、彼女は最低でも《火魔法》《水魔法》《風魔法》のみっつの術式補助スキルを習得済みで、かつ、それらを使いこなし上級魔法を使用可能。

さらに、術式を高度に理解・解析し、中級魔法に落とし込めるだけの知識も有している、ということになる。


10……いや、15歳だっけ? どちらにしても、その程度の年齢の子供にできることではない。

ボクも昔はそれなりに勉強をする機会に恵まれていたので、一般人に比べれば、理論方面から術式を読み解くこともできる…………と思っていたけど、これにはさっぱり。

根本的に異なる体系の知識を元に作られた術式のようにすら感じられる。


「え~と、こんな感じ、かな?」


術式の意味はさっぱりだけど、そんな状態でも正しく術式を構成できさえすれば、正しく魔法を発動させることはできる。

…………理解度が低いとそれが難しいんだけど。

例えば、『食材を切る』という行為であっても切る目的……『大きさを揃える』のか『脂身を落とす』のかが分からなければ、適切な結果には繋がらないのと似ている。

それゆえ、自分の主観やクセが術式に現れないように注意して、ただただ正確に術式を構成し、魔法を発動させる。


…………………………………………


10分ほど掛かって、ソースは一枚の板のように固まった。

手で持ってもベタつかない。が、触れるだけで砕けるほどではない。

彼女のやって見せてくれた乾燥魔法に比べれば、児戯のような結果だ。


……………………一般的な乾燥用魔道具と比べれば、この術式だけでひとつの財産だよ…………

高々10分程度で、ドロッドロのソースがここまで乾くなんて、あ、あり得ない…………


無論、魔道具として製品化するとなったら、ここから更なる工夫が必要になってくるだろうけど、基礎となる術式がここまで完成しているのなら、開発はもう半分は終わったようなものである。

これに大金を出す錬金術師や商人は、きっといる。


……………………大金か。

ふと、邪な気持ちが芽生えて、手に持ったメモに視線を落とした。


あの日からボクは、かつて『私』だった全てを捨て、一人の『パルツェ』として、生きていこうと心に決めた。

捨てたつもりの一部は、未だ手足に絡み付く悪意として、ボクを拘束し続けている。

まともな食材を仕入れられないのも、そのひとつだ。


でも…………コレをうまく使えば、アイツの悪意から逃れるのは出来なくても、護ってくれるような組織の庇護下に入ることは出来る……かも?

ルーシアちゃんにとってコレは、その日に出会ったばかりの赤の他人(ボク)に、簡単に教えてしまえる程度の、取るに足らないものであろうし、もし仮にコレを元に製品化し販売したとして、本人がそれに気付くかどうかも分からない。

気付いたとして、自分の術式が元になった製品だなんて、判断できな…………できるか。こんな特徴的な術式。

いや、でも、製品を買って分解でもしなきゃ分からないだろうし、分かったとしても、法的に何ができるでもない。


……………………そうだ。どうせ一期一会。今日、偶然出会った、ただの他人。

『また、いずれ』なんて、社交辞令を交わして別れたけど、二度と会わない可能性の方が遥かに高い、赤の他人。

利用出来るだけ利用して、何が悪いと言うのか…………


…………………………………………ゅぱぁぁぁぁんん!!!!


「予想の数倍いっっっったああああい!!!?」


そこまで考えたところで、大きく両腕を広げて、全力で左右の頬を(はた)き倒す。

余りの衝撃に、一瞬だけ視覚と聴覚が昇天した。


『いたたたた……』と、両頬を擦り、シワの寄ってしまったメモを見る。


「アイツなら、き~~っと『いいカモがきた』って、骨の髄までしゃぶりつくすんだろうねぇ~~。でも、ボクはそんなのごめんだ。善意を踏み躙って私欲を満たすような、人間のクズにはなりたくない」


そうなれなかったから、『私』は『ボク』になって、今ここにいる。


とりあえずこのメモは、術式だけ急いで頭に叩き込んで即行 焼却処分しよう。念のため。

まぁ、術式だけ見て、すぐにこの価値に気付ける人はそうそういないだろうけど。

ボクだって『乾燥魔法の術式だ』って知らなきゃ、素人のラクガキだと思う自信がある。実際に術式を構成してみて発動しようとする人はそうそういない。


「あ~、でも、『万一を考えると、子供を巻き込む訳にはいかない』って思って協力は遠慮したけど、『冒険者だ』とも言ってたし、もしかして実力も十分あったり? ギルドカードでも見せてもらえばよかったかなぁ~……」


いや、無いか。さすがに、あの年齢で。


奇跡のような出会いに高揚して、そんなあり得ないことを考えてしまった。

未だじんじんと痛む頬を再度撫で、浮かれる心を落ち着かせる。


…………うん。今度 会えたら、もっとお話ししてみるのもいいかもしれない。

いや、助けてもらう云々は関係なく。

そのためにはまず…………教えてもらったことくらい、完璧にこなしておかないとね。


明日は、教えてもらったことのもうひとつ、宣伝の方を試してみるつもり。

それには試食用のサンプルが必要なので、今日の内に粉末ソースだけは作る必要がある。

とりあえず、ボクの乾燥魔法じゃ板状に固まるだけだから、おろし器で削るか……


その日は、久し振りに楽しい気持ちで下準備を進めることができた。

まるで、初めて料理を作ったあの頃に帰ったよう。


そんな気持ちで眠りに付いたせいか、懐かしい夢を見た。

それは、かつての諸々と共に捨ててきた、でも、本当は手離したくなかった、あの人との記憶。


哀しみは、確かにある。苦しみは、今も続いている。

でも、それ以上の希望に包まれて、穏やかに夜は更けていった。


・注釈(語意系):『眉を(ひそ)める』『顔を(しか)める』について

どちらも、不快を意味する言葉。でも、読み方が違うのに、漢字は同じとか分かりにくい……というか、送り仮名も一緒やないけ。

そのせいかどうか不明だけど、『眉を(しか)める』という誤用も、半々くらいの確率で使われているそうな。


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