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ゴーレム娘は今生を全うしたい  作者: 藤色蜻蛉
10章 遭遇!! 王都の住人
247/264

第236話 ゴーレム娘の引きの良さ

221 ~ 252話を連投中。


10/9(土) 11:00 ~ 18:30くらいまで。(前回実績:1話/13分で計算)


word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿してますので、時間が掛かります。


申し訳ありません。



ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。

夢茶会で身包み剥がされた翌日。

王都に向けて、ゆっくりと歩みを進めていた。……………………オズが。


「え~と…………ボロ負けしたの私なのに、この状態おかしくない?」


「おかしくないですよ? 体力を付けたいので『重荷になって下さい』って、私がお願いしたわけですから」


「それはそうなんだけどね?」


昨日のゲームは、別に何かを賭けていたわけではないけど、あんまりに私がボロ負けだったから、『トップには何か簡単なお願いを聞いてあげるよ』と申し出たのだ。

いや、私が弱すぎて、つまらない思いをさせちゃったかなー、とか思ってね?


それを言うまではナビが圧勝だったけど、最終的にはオズがギリギリのところで優勝を勝ち取っていた。

ちなみに、二位はナツナツ。

何故か、調子を崩したナビは、あれからほとんど勝てなくなった。


『(…………本気になったあの二人の間に入って、勝てるわけ無いだろ……)』


『ん? 何か言った? ナビ?』


『いいや、何も。『二人には敵わないなぁ』とかそんなことを思っただけだ』


まぁ、それには同意。


そして、見事優勝を果たしたオズのお願いというのが、『今日の帰路は、重荷代わりに私に乗ってください』だったわけですよ。

……………………やっぱりおかしくない?


「ああ~~~~、もう!! 私の背に乗った義姉さんの気持ちがよく分かるよ!!」


「それは良かったです。他人の気持ちが分かるチャンスなんて、そうそう無いですからね」


「そういう意味じゃないよ!! こら!!」


手綱代わりの背の紐を軽く引いて、抗議の意とする。

私より体力が無いとはいえ、当然ながらこの程度でバランスを崩すことはない。

ちなみに、馬具は《どこでも錬金》で複製した。素材はあったのでね。


「まぁぁ~~…………そんなに気にしなくても、いいんじゃな~い? 自分が逆の立場だったら、似たようなこと、言うでしょ~…………ふぁぁ~~~あぁぁ……」


今日は私の胸ポケットの中で丸くなっているナツナツが、殊更大きな欠伸をしながらそんなことを言う。

まぁ、確かに実体験として、私が義姉さんを乗せても大して重く感じなかったのだから、多少 小柄なオズが私を乗せたとしても似たようなものだろう、というのは分かるんだけどね?

…………逆に言うと、重荷としては微妙なんでない??


そんな私の葛藤と疑問は、いつか私が義姉さんにしたように、適当に誤魔化されて話が移る。


『それにしても…………なんで、この森はこんなにオークが集まってるんだ?』


「分かんにゃ~い……」


「可能性としては、そろそろ繁殖期の時期だから…………ですかね?」


「やっぱり異常なの?」


こんな話で誤魔化されるって、女の子としてどうなんだろうとは思う。でも、気になるしな……


ナビが言っているのは、今 右手側に見えている森のことだ。

立地としては王都の北部、近いとも遠いとも言えない微妙な距離にある。

また、その規模も大きいとは言えず、さりとて何の準備もなく抜けるには厳しい、そんな曖昧な大きさの森。

さらに言えば、特に目立った素材が取れるわけでもなく、何かのついでに寄るには立地が悪いので、わざわざ近寄る者は冒険者であってもほとんどいない。

森と山の違いはあるものの、サノス山と似たような特徴の場所と言える。


そんな場所にオークが集まっていることに気付いたのが、普通の人とは異なる行動をする私たちであるというのは、ある意味必然であると言えた。

ナツナツが、いつも通りに《遠視》と《透視》を発動させて周囲を索敵していた時に、偶然見付けたのだ。


『異常かどうかは、正常を知らんから何とも言えんな……』


「ねぇ、オズ~。繁殖期にこのくらいオークが集まるのって、普通~?」


「正確な規模が分からないのでなんとも…………でも、この森いっぱいにいたとしても、ギリギリ正常の範囲内の気がします。ちょっと王都に近過ぎるような気はしますが……」


「う~ん、微妙……ギルドの方から情報は出てなかったよね?」


『出ていなかったな』


「まぁ、わたしたちが王都を出発したの、数日前だからね~。もしかしたら、今なら出てるかもだけどぉ~……」


「ここまで増えるなら、事前に注意情報くらい出ているでしょうし、その可能性は低いのではないでしょうか。ちなみに、ギルドの資料室にもそのような情報はありませんでしたね」


魔獣の種類によって様々だが、定期・不定期 問わず大規模な魔獣の群があると予想される場所は、ギルドから『魔獣警戒情報』として張り出される。

増加の予兆が確認されたら『注意情報』、増加が確認されたら『警戒情報』、一定以上に達したら『危険情報』と三段階で公表されるので、数日前とはいえ情報が一切なかったのは不自然だ。

距離的にもここは十分に調査範囲内のはずだし。


「どうすっか……」


と言っても、取れる選択肢は、そう多くはない。


① 殲滅

② 間引き

③ 放置 (ギルド報告あり)

④ 放置 (ギルト報告なし)


この内、①と④は無い。

テモテカールでもそうだったが、魔獣の生息数管理も冒険者ギルドの業務のひとつ。その業務に影響がある①と、把握漏れに繋がる危険がある④は、冒険者として選択できない。

…………と、それっぽく言いつつも、本心はただの責任逃れだったり。

①を選択しないのは、万一 手に負えなかった場合を懸念してのことで、④を選択しないのは、万一 被害者が出た場合に、余計な心理負担を負いたくないというのが本当のところだ。


で、そうなってくると、私が取り得る選択肢は②か③になってくるが、無難なのはやはり③。

そもそも冒険者ギルドだって、全ての魔獣の生息数や繁殖地について、しっかりと把握できているわけでもないのだ。

ここが見落とし または 新規の繁殖地だとしたら、報告だけしておけば十分だろう。


②?

う~~ん…………オーク討伐のクエストを受注しているわけでもないし、食肉の在庫は十分だし、私たちが襲われている訳でもないし…………

①と同じで、やるメリットがないかな。半端でめんどいし。


まぁ、オークたちにとっては災難か。

冒険者ギルドに知られていないということは、ここはオークたちにとって『安全な繁殖地』であったはずだが、それをひとつ潰してしまうことになる。

魔獣だって、世界を構成する自然の一部であるのだから、必要以上に生存を脅かされるのは理不尽というものだろう。

…………でも、ごめんね。私、ゴーレムだけど、人間と魔獣なら、今のところ人間寄りなのよね。


以上。甚だ自分本意な理由に依り、王都に戻ったら報告することとしよう。

願わくば、獣人たちが早急に用事を済ませて、立ち去らんことを…………


「というわけで、王都に戻ったら、ギルドに報告だけしとこう」


「おっけ~♪」


『まぁ、無難だな』


「いいんじゃないですか? ミドリス一周で、保存中の食肉総量は結果的に増加してますし」


「選り取り見取りだもんね」


豚系、牛系、山羊系、羊系、狼系、鳥系、魚介系……マイナーどころだと、蛇系や蛙系、鰐系など。

虫系? …………実はあったけど、見た目の先入観が抜けなかったので、保存はしてない。

りょ、料理? …………お、おいしかった、よ? (涙目)


「なら、軽く情報収集だけして帰りますか」


「そ、そうね。お願いしていい?」


「はい。もうちょっと近くに寄りますね」


「うん。接近に反応するオークがいるなら、それは狩っちゃおう」


まぁ、反応は森の中心部付近に固まってるから、多分それはないと思うけど。


そんなことを考えているうちに、オズが進行方向を変えて森に接近し始める。

鋭角に進路を変更したオズは、急接近した森の外縁部から10m程度のところで角度を緩め、距離を保ったまま並走した。

そして、


「マルチデバイス、順次展開」


全20機のマルチデバイスをひとつずつ射出していく。

それぞれ異なる角度で射出された20機のそれらが、森の全域を隈なくカバーする軌道で静かにかっ飛んでいった。


「光照射情報収集システムより、空間転移ジャンクションNo.1105:ヒトコ 中枢にリンク。情報集積、統合演算開始」


森を半周したところで20機全ての放出が終わったが、そのままの速度と軌道で走り続ける。

…………あ、これはあれか。体力作り。別に、足を止めた状態でマルチデバイスを射出しても問題はないはずなのに、わざわざ周回するように走ってたところから察して然るべきだった。


…………

……………………

………………………………

…………………………………………


十数分後。


「マルチデバイス、第一走査を終了。第二走査開始」


「どんな感じ?」


「そうですね……オークの通常種ばかり、1,000体前後になりそうです」


「そんなに?」


予想外に多い。いや、繁殖期のオークの群がどの程度なのかは知らんけど。

ただ、ココネさんたちとこなした再評価クエストは、キング・ゴブリンの群 (約500体) の討伐でBランクだったのだ。

通常種であれば、ゴブリンとオークであればオークの方が危険度は高い。

上位種の有無による影響はあるだろうが、もしこの群の討伐クエストがあるならば、難易度もAランク相当なのではなかろうか? 王都から距離が近いし。


『待て。通常種しかいないのか?』


「えぇ」


「……? おかしいの?」


『…………いや……まぁ、無いことも無い……のか?』


よく分からない。

普段、別々に行動している小さな群が集まっていると考えれば、ここに通常種しかいなくてもおかしくない気がするのだけど……


そんな私の疑問を知ってか知らずか、オズが話を続ける。


「通常、繁殖期のオークの群は平均500体前後と言われています」


「倍じゃん!! もしかして、ヤバい~?」


『…………いや、そうとも限らんな。繁殖期のオークは、集まれるだけ集まる傾向があるから誤差が大きい。それに討伐クエストの難易度は、進化種の有無で大きく変わる。通常種のみということであれば、Cランクに収まるのではないか?』


「そんなもん?」


「えぇ。別に、『1,000体全てを同時に相手にしろ』というわけではありませんし」


「あ~……普通は時間を掛けて、ちょっとずつ削っていくんだっけ~?」


『うむ。増え過ぎないように間引きつつ、解散するのを待つ感じだな。別に、ひとつのパーティだけが受注する訳でもないし。そう考えると、然程おかしな数ではないだろう』


「あ、そんなものなの?」


「ですね」


なんか、一気に難易度が下がった気がする。

別にオークだって生まれた直後から闘えるわけでもないから、削れば削るだけオーク側の戦力は減っていく。

不用意に奥に突っ込んでオークに囲まれでもしない限りは、それほど難易度は高くないのか……


「「『あ』」」


「ん? どしたん? そんな声を揃えて」


なにやら怪しい三人の呟きに、不穏な気配を感じる。

念のため、森の外縁部の索敵を行いながら反応を待っていると、やがてナツナツが『くいっ、くいっ』と私の髪を引いて自己主張した。


「ねぇねぇ」


「はいはい」


「もし、森の中に誰かいたら、どうする~?」


「……………………」


え? なに、そのフラグっぽいセリフ。

口にするとフラグとして確定しそうだから、黙っておくけど。


「まぁ…………状況によるけど、冒険者なら放っておいてもいいんじゃない? 危険は承知の上だろうし。あぁ、でもココネさんたちなら声くらい掛けるかな」


まぁ、ココネさんたちなら、この辺にはいないはず。


「ふ~ん…………冒険者じゃ無かったら~?」


「冒険者じゃなきゃこんなところ来ないでしょ…………いや、冒険者ですら来ないって話はしたんだけどさ」


別に、王都から来られない距離ではない。

歩きで半日、馬を借りれば数時間で辿り着ける。……が、それをするメリットが無い。

魔獣素材も植物素材も、同じ物がもっと近い場所で、もっと容易に手に入るからだ。

まぁ、人手が入っていない分、植物素材なら高品質品と出会える可能性はあるけど、その程度では労力に見合った対価とは言い辛いところ。

元の価格が安いから、高品質品でも劇的に報酬が増えるわけではないのだ。


『冒険者以外でも、採集のために森に入る者はいるぞ?』


「まぁ、いるけどさ…………そういう人たちは、冒険者ギルドに登録してないだけで、実力的には冒険者と見做(みな)していいでしょ。そんで、そんな人たちでも、こんなとこに来るメリットは無いでしょ」


「そうでしょうか? 専業の冒険者とは目的が違いますから、必ずしもメリットが無いとは言い切れないんじゃないですか?」


「まぁ、そうかもしれないけど…………錬金術師とか? 商人とか?」


「そーそー」


「むぅ……」


確かにそうなんだが……


錬金術師なら『高品質の素材を入手すること』が目的だし、商人なら『原価0で商品を入手できる』ので、必ずしもメリットが無いとは言い切れない。

でも、素材や商品の収集を自力で行っているということは、それによって生じる危険も承知の上で、対抗手段も持ち合わせているはず。

それは、戦力的な話だけでなく、戦闘回避能力も含めた話で。


あれだけの魔獣が一箇所に集まっているのだ。魔法での索敵が不得意でも、物理的な痕跡も多く残っているだろう。

森に入っておいて、異常に気付かないとは考えにくい。

となれば、話は冒険者の場合と同じで、この状況を承知の上でどうにかできる自信があるから侵入していると考えられ、それならば余計な手出しは無用と言える。


…………まぁ、さすがに『今、まさに殺されかけてます』的な状況なら、助けないわけにもいかないだろうけど。


「冒険者でもそれ以外でも、余程のピンチ以外は放置でいいんじゃない? 『助けてー!!』って叫んでるとかさ。

森に侵入してアレに気付いてないってのは さすがに無いだろうから、何か考えがあってのことだろうし。ほら、もし私たちが何か目的があってこの森を訪れたとしたら、親切心でも声を掛けられるの、正直 困るじゃん?」


「…………そっかー」


『…………そうだな』


「…………そうですね」


「ん?」


なんか、違和感が……?


「『助けてー!!』じゃなくて、『だぁ~~じぃ~~げぇ~~でぇぇぇぇ!!!!!!』って感じだしぃ~」


『冒険者でも錬金術師でも商人でもなく料理人だが、森の異常さに気付いていないわけが無いしな』


「目的は、食材としてのハーブ類の採集でしょうか。薬草として使う場合よりも採取時期が早いですし、他の採集地での採取を控えたのかもしれません。他の冒険者からしたら、未成熟な薬草を採取してしまう厄介者ですし」


ちっ、ちっ、ちっ、ちーん。


「……………………パルツェさんがいるのか もしかしてええぇぇぇぇ!!!!!!!!」


「「『いえす』」」


早・く・言・い・な・さ・い!!!!


両の(あぶみ)を蹴って馬具に乗り、オズの指し示す方向へ跳躍。

すぐさま飛行ユニットを展開し、落ちるよりも早く天へ昇る。


「状況は!?」


『オーク数体に追われているところですが、マルチデバイスでオークの攻撃を妨害していますので、切迫した危険はありません。そのままナビの指示する方向へ向かってください』


「了解!!」


『状況や場所の詳細は、ナツナツとナビに確認を。私は、予想されるパルツェさんの到達出口付近にいます』


「分かった。気を付けて」


向かうべき場所は、ナビが投影してくれる。

パツ子さんの予想逃走経路と私の予定飛翔軌道、そして、そこから算出される予想合流地点。

そこに最速で到達できる軌道を加速する。

まずは、鋭角に飛んで高度を稼いだ。


「もう!! 知り合いの命が掛かってる時に、ふざけるのはダメでしょ!!」


「ごめん ごめん。でも、パッツンを見つけたの、ほんの数分前なんだよ~」


『三人で『あ』と言った辺りだな。ついでに言うと、発見と同時にオズがマルチデバイスでフォローに入ったから、安全は保たれていたぞ』


「そ、そうなの?」


なら、あのくらいは許容範囲か。

まぁ、現在進行形で恐怖と絶望のどん底にいるかもしれないパルツェさんにしてみれば、全く許容できないかもしれないが、言わなきゃバレへん。

最低限の護衛は就いているし、それで我慢してもらおう。


『それよりも、念のため気を付けろ』


「ん? 何に?」


「何かに~?」


…………分からんのだが。


そんな私の困惑を感じ取ったのか、ナツナツは小さく苦笑する気配と共に『何か』について話し始める。


「最初はさ、な~んかオークたち全体の様子がおかしい気がしただけなんだけどさぁ~……」


『繁殖期に限らず、オークたちは群の内部で役割分担がはっきりしている。大まかに言うと、内務組と外務組だな。内務組は集落の中で建築や家事など生活の基礎を作り、外務組は集落の外で敵や獲物を求めて警戒する』


「あ~、うん。なんとなく分かる」


その辺は、オークだけの特徴ではなく獣人全般の特徴かな。

この前のキング・ゴブリンの群の場合は、外務組が外へ出る前に侵入した形になってたから、よく分からなかったけどね。


『その役割分担は、繁殖期であっても変わらない。ところが、オズが調査した結果では、集落を作っている様子がないそうだ。加えて、通常種のみ1,000体。進化種が見当たらん』


「さっきも引っ掛かってたね。やっぱり、おかしいの? 進化種がいない小さな群が集まっているのかと思ったんだけど……」


『その可能性もあるが、ハイ・オークの1体もいないのは、さすがにおかしい。というか、1,000体も集合しているなら、その途中で進化する個体が出てもおかしくない。繁殖期の集合は、新しい個体を産んで個体数を増やすだけでなく、安全に進化するにも適しているからな』


なるほど。進化するのも簡単じゃないだろうからな。


「それにさ~、繁殖目的で集まっているにしては、オス同士でメスを取り合ってケンカしたり、繁殖行為を行っている様子が無いんだよね~。ただ集まって、時間を潰してる感じ? いや、狩りとかはしてるみたいなんだけど~」


「…………じゃあ、何のために集まってる?」


大きな群を作るにも、デメリットはちゃんと存在する。

分かりやすいのは、食糧の問題だ。小さくはないが大きくもないこの森に、オーク1,000体は多過ぎる。


『それが分からなくてな……』


「で、仕方ないから、テキトーに《遠視》で森の中を見てたら、オークに追われるパッツンを発見したのです」


「なるほどね……」


魔獣には魔獣なりの思考回路があり、その全てを異なる種族の私たちが予想するのは不可能。

私たちが分からないだけで、オークたちがここに集合する理由があるのかもしれず、それが私たちにとって致命傷となる『何か』でないと確実には言えない。

ゆえに、『何か』に注意しろ、という話になるわけだ。


「あれだね。『臆病は怠惰に勝る』だね~」


「くっふぅ!!」


数日前に私を撥ねていったブーメランが、今再び私を強襲した。


こ、こいつ……今まで飛空し続けていたと言うのか……!?


『いや、むしろ今使うべき言葉だと思うが……魔獣が、普段と異なる動きを見せている場合は、臆病なほどに警戒しておいた方がいい』


「そ~そ~」


「ホントに!? ナツナツは『隙あり!!』とか思ってない!?」


同意が雑なんですが!?


ナツナツの言葉に疑念を覚えつつ、落下軌道に入る。

後は、速度を上げていくたけだ。


「それにしても、パルツェさんもなんでこんなところに……」


料理人でしょ、貴女。食材が足りないなら、狩りに来るんじゃなくて、買いに行きなさい。

それに、こんなあからさまに異常な気配のある森なのに、やけに奥の方にいる。危機回避能力も低そうだ。


「まったく。仕方ない人だね」


「いや~……」


『多分だが、ルーシアナのアドバイスで状況が変わったせいではないかと……』


「…………え」


もしかして、私のせい? …………いやいやいや。そんなまさか。


『この前、レシピと宣伝についてアドバイスしていただろう? アレがマジ当たりして、ハーブ辺りが足りなくなったんだろう。教えていたレシピ、ハーブの使用量が多かったし』


「いや…………足りなくなったからって、王都の外に探しに来ないでしょ……」


買うとか休むとか…………


『ルーシアナも気付いていただろう。食材の購入に何かしらの難があるようだったし、生活もカツカツでは簡単に休みにはできないだろう』


「なるほど~。今まで閑古鳥が鳴くわ 本人も泣くわで、じわじわと真綿で首を絞められてたところに、ドバッとお客が来たのかぁ~…………『絶対に離すものかぁ~~!!』って、無茶もしそうだねぇ~」


……………………ありそう。とても、あり得そう。

…………いやいやいやいや、でもそんな劇的に効果が出るようなレシピにアドバイスだったか?


『適切で劇的なアドバイスだったと思うが?

『上京したC・Dランク冒険者にターゲットを絞り、彼らが飢えている料理を提供する』。

言ってみればこれだけのことだが、金を掛ければ得られるものではないし、かなりのフラストレーションが溜まっていたことは確実だ。そのものズバリの料理ではないが、王都のものよりも近いのは確かだろう。潜在的な需要は高かったはず。加えて安い。圧倒的に安い。評判にもなると思わんか』


「冒険者同士の情報伝達速度は、侮れないからね~。ルーシアナの『人形遣い』ってダミー情報、流した次の日にはテモテカール中の冒険者に知れ渡ってたし。しかも、一応だけど口止めしてて。

口止めもせず、むしろ 積極的に広めただろうから、数日でキャパオーバーするのは、妥当なところじゃないかな~」


「必死に目を逸らしてたけど、やっぱり私の責任なの!?」


「『ノーコメント』」


それは、実質の肯定です。否定できひん。


と、そんなことを話していると、そろそろ高い木の天辺にぶつかり始める。


『気を付けろ。太い枝葉にはぶつかるなよ』


「了解」


無数の枝葉の向こう。木の根に埋もれるように倒れるパルツェさんに向かって、真っ直ぐに突っ込んだ。


・注釈(語意系):『願わくば』について

本来は誤用で、『願わくは』が正しいらしい。

ただ、江戸時代辺りから使ってるらしいし、使用率も半々くらいらしいので、どっちでもいいんじゃないでしょうかね?


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