第234話 ゴーレム娘、爆走中
221 ~ 252話を連投中。
10/9(土) 11:00 ~ 18:30くらいまで。(前回実績:1話/13分で計算)
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数日後。
私たちは、王都のCランククエストを終わらせ、街道を外れた道無き道をケンタウルス型でのんびり爆走していた。
…………え? 『のんびり』と『爆走』は矛盾してる?
考えるな。感じろ。
今日は義姉さんがいないので、オズもケンタウルス型に換装しており、疲労と人の目以外 気にする必要がない。
義姉さんもパーティメンバーに加わったものの、共に行動する機会は実は然程 多くない。
ランクアップだけを考えるなら、義姉さんにくっついて、Bランククエストを受注するのが最も効率が良いのだが、頑なにそれはしてくれない。
逆に、Cランククエストに義姉さんがくっついてきて、昇格ポイントを減らされることの方が多いくらいだ。
どうも、私たちが思った以上の速度でランクアップしているものだから、Bランクに上がる前にしっかりと経験を積ませたいと考えているらしい。
私たちとしても、ランクだけ上がって中身が伴わないのは遠慮願いたいところなので、特に文句は無い。
そして、今回は義姉さんがいないCランククエスト。つまり、昇格ポイントを稼ぐ日なのだ。
ちなみに、ココネさんたちは、一昨日 別のクエストを受注して旅立った。順調に進めば、また会えるのは一週間後くらい。
彼らがいない間も『部屋を貸してやろうか?』と提案されたが、さすがにそれは遠慮した。
あくまで、友達の家に遊びに行くついでに泊まっているのであって、泊まるのがメインではないからね。
そんな訳で義姉さんは今、一人で狭い宿の部屋で『あ~』だか『う~』だか言って暇を潰しているか、適当な低ランククエストを受注して小銭を稼ぐか しているだろう。
…………暇だからと言って、ナタリィさんに迷惑を掛けていないか、ちょっと心配。
「このまま行けば、ギリギリ閉門に間に合うかな?」
「そだね~。でも、オズが結構キツそうだよ~」
「だ、大丈夫、……です」
『いや、ダメだろう。セレスには明日帰ると伝えておこう』
「お願い、ナビ」
転移基点端末と光照射情報収集システムを経由した長距離通信機能を利用して、義姉さんに予定の変更を伝えてもらう。
転移基点端末には元々、情報の送受信機能の他に、空間転移元座標と周辺環境情報の収集、空間転移術式の調整機能しかなかった。
その後、状況に合わせて様々な機能が追加されたり削除されたりしていて、正直 私にはどんな機能があるのか把握しきれていない。オズが勝手に追加してる機能もあるし。
最近よく使うのは、今ナビにやってもらった長距離通信機能で、念話をする感覚で遠く離れた相手と会話をすることができる。
必要な条件は、転移基点端末とそれに連動して音声を入出力できる魔道具を所持していること。現状、その対象は義姉さんだけだ。
ちなみに、私・ナツナツ・ナビ・オズは、音声の入出力は念話で行えるので、転移基点端末を所持しているだけよい。便利ですね?
若干……いや、ぐぐっと速度を落として、オズが疲れないペースにまで落とす。
常歩と呼ばれる、馬にとっての歩行程度の速度だ。
「今日はこの速度で、のんびり行こう。たまには、景色を楽しみながら移動するのも良いよね」
「そ、うです、ね……」
「う~ん……ベーシック・ドラゴンの魔石を使ってるのに、オズの方が先に根を上げるの~? おかしくな~い~?」
『それだけゴーレム種族の『単純・反復作業限定の疲労軽減効果』が強力なのだろう。『単純作業』と認識出来るほど経験を積む必要があるが、一定以上慣れてしまえば、それこそ眠っていても作業出来るのかもしれん』
……いや、さすがにそれは言い過ぎなのでは…………?
『試してみたいが、この能力は『無意識動作の補助能力』だからな。『試そう』という意識が働く限り、完全に発動することはあるまい』
「夜中とか~。眠ったまま御手洗い出来たら楽なのにね~」
「あ、それは楽そう」
『……………………女子力よ……』
ナビがなんとも悲しそうに呟くけど、私に女子力を期待するのが間違ってる。
そういうのは、オズの担当よ。マジで。
で、なぜオズが息も絶え絶えになりながら走っていたのかというと、『ちょっと体力を付けたいので、帰り道を利用して走り込みさせてください』と言われたからだ。
実のところ、オズは持久力的な体力はそれほど高くない。いや、魔道士なんだから当然か。
なので、普段私たちが長距離を移動するときは、私がオズを乗せて走ることがほとんどだ。
というか、オズが私を乗せて走ることは一度もない。そもそも、オズのケンタウルス型に合った馬具は作って無いし。
それに、私の馬体ですら義姉さんが乗るのに不安になる程 小さいのだ。況や、オズの馬体をや。
そんな諸々の理由があって、私には『オズの背に乗って移動する』という発想すらなかったのだが、常に背に乗せられていた本人にとっては、色々思うところがあったらしい。
その第一歩が『体力を付けるための並走』であり、あわよくば『私と同等の持久力がある』ことを証明して、背負われ続ける現状を打破しようという狙いがあったのだろう。
結果は、残念なものに終わってしまったが。
『トボトボ』と、疲れと消沈により大きく肩を落としたオズに、そっと話し掛ける。
「大丈夫?」
「大丈夫、です……」
「いきなり私の速度に合わせるのは、さすがに無茶だったかな? 普通の馬で言うところの速歩より速いらしいし?」
「いえ…………速度がどうとかより、継続して何時間も走れるのがおかしいと思います…………結構、本気で身体強化 掛けてるのに…………」
「そりゃあ、元のステータスは私の方が上だし、ナビが言った通りゴーレムの種族特性もあるし。義体だって、情報生命体の種族特性でオズも使えてるけど、元々は私専用の物だしね。オズより相性がいいんだよ」
慰めるつもりでもなく、本当にそう思っているのだが、オズの納得は得られない。
「確かにそうかもしれないですけど…………長距離移動を得意とする軍馬などの魔獣ならまだしも、それを真似ただけの義体でそれが出来ます? …………いえ、確かに『機能を真似る』以上、最終目標は『本物以上』なんですから、悪いことじゃないんですけど……」
「ルーシアナは馬並み~?」
『待とうか、ナツナツ』
「いえ、馬超えですね」
「馬超越!!」
『こら~~~~!!!!』
…………なんだろう? 字面通りの意味じゃない気がする。
意味は分からないが、ナツナツとオズの頬を引っ張って制裁とする。
むにむに……
「まぁ、オズの体力強化は今後の課題ね。と言っても、特に問題があるようには思えないんだけど」
こと戦闘に限れば、長くても10分程度で終わる。それ以上の時間が掛かるようなら、仕切り直した方が無難だ。
それに、オズは後衛にいるので、それほど動き回る必要がない。前衛でピョンピョン跳ね回る私や義姉さんに合わせる必要は無いのだ。
そう考えると、体力を付けてもそれを発揮する機会はあまりない。
「私もそう思ってたんですけど……」
「けど?」
「最近 受注するクエストの関係で、長距離移動や山登りすることが多いですけど、明らかに私が足を引っ張ってるじゃないですか。ヒトコの階段を降りた時とかもそうです。せめて、ああいうところでお姉ちゃんたちの手を煩わせないくらいの体力は欲しいなと思ったんです」
「あ、あぁ~……」
確かに、オズを背負っている状態で不意打ちを喰らった場合、咄嗟の反応が遅れることは十分にあり得る。
もちろん、その可能性は十分に考慮して周囲の警戒は普段より強くしてはいるものの、万一はある。
自力で付いてこれた方が、安全なのは確かだ。
「それに、私も飛行ユニットを使えるように《スキログマー》の能力を使って、飛翔制御スキルを構築中なんですけど、現状の完成度だと必須体力値が高くて…………
とはいえ、これ以上の改良を施すには、実際に使ってみて実データを入手しないと…………」
「体力値が足りないから改良したいのに、使わないと改良出来ないのか…………」
『ループしたな』
よくあるパターンだ。
『夢茶会で試用してみれば~』とも思ったが、オズがそれを思い付かないはずもない。何かしらうまくいかないのだろう。
時々こういうことがあるので、なかなか難しい。
他には……
「ナビ。義体の体力値を上げる素材って、なんかある?」
『難しいな。この国のメジャーどころの魔獣素材は、前回の特別運搬クエストであらかた遭遇・使用してしまったし…………回数を増やせばいいというものでも無いしな。あとは、Bランク以上の魔獣を探すか、他国に出るくらいだが……』
「Bランクは何体か狩ったよね~」
そのとおり。
そして、その素材も使用済みで、残りの素材はチコリちゃんのお土産になって、私たちの武器になった。
あ、そう言えば…………
「この前のキング・ゴブリンの時もそうだったけど、ベースシリーズはちゃんと《下克上》で自己強化したみたいだけど、新しい《マテリアルシフト》の形態は増えないよね。属性も」
そう。
キング・ゴブリンの時は、『スキルは、火・地属性寄りだったけど、本体は無属性だったからかな?』と思ったのだけど、明らかに四大属性のBランク魔獣を狩り、その魔獣素材を取り込んだにも拘わらず、結局 基本性能の強化に留まったのだ。
そのせいか、魔石を取り込まれることも無かったけど。
理由は不明…………というか、予想はできるけど確証がない。
「ひと~つ。魔獣のランクが低過ぎた。つまり、《マテリアルシフト》の形態を増やすには、Sランク魔獣の取り込みが必要~」
「解。Sランク魔獣を倒してみないと分からない」
『ふたつ。形態追加は確率で発生。つまり、スレイプニル・ワークゴクの魔獣素材 取り込みからの形態追加は偶然』
「解。たくさん取り込んでみないと分からない。《下克上》が発動したの、まだ数例だからね」
「みっつ。形態追加は大罪継承のオマケ。つまり、大罪スキル《孤独の嘆き》を継承するのに、闇属性形態が必要で、各武器スキルはオマケだった」
「解。大罪魔獣を倒してみないと分からない」
ナツナツ、ナビ、オズが順に挙げる可能性に、既に何度か交わした結論を挙げる。
そして……
「四つ……というか、三つ目の亜種。魔獣側からのアシストが必要。
スレイプニル・ワークゴクは、自分が死んで別の者に大罪が渡るのを憂いていた。もしかしたら、自分の魔石に少しでも長く大罪が残留するよう、何かしたのかもしれない。
それが《下克上》と相互作用した結果、魔石の取り込みに繋がり、大罪の定着に寄与する闇属性形態への《マテリアルシフト》を発現させた。
そのひとつの根拠として、大罪 - 悲嘆 - は、しっかりと武器に残っている」
解。他の大罪魔獣を倒してみないと分からない。
最後の答えは、胸の内で答える。だって、四つ可能性を上げたけど、答えは実質二つなんだもの。
しかも、3:1。具体的に言うと、『大罪魔獣を倒す』か『Bランク以上の魔獣をたくさん倒す』か。
いや、必ずしもSランク魔獣 = 大罪魔獣じゃないんだけどさ。
口に出すと、《龍王の系譜》が余計な気を使って遭遇時期を早めてきそうなので、胸の内に留める。好き好んであんなのと闘いたいヤツは、早々おらへん。
「もし四つ目が正解なら、新しい形態はもう増えないかもしれないですね。現存する大罪魔獣は、かなり長期間存在しているため、正常な意思が残っているとも思えません。魔石を取り込めたら分かりませんけど、意思が無ければ根源の継承が出来ないでしょうから、一時的に大罪スキルや武器スキルが顕れるかもしれませんが、次代の大罪魔獣の誕生と共に消える可能性が高いと思います。…………他の要素が絡んできたら分かりませんけど」
「他の要素ねぇ……」
闘いたいわけじゃないが、どうせ大罪魔獣と闘う羽目になるのなら、リターンは最大限に欲しい。
大罪スキルの《孤独の嘆き》も《共在の友愛》も、効果範囲が広いため他人を巻き込む危険があって使い勝手は悪いのだが、効果は絶大。
武器スキルの《スティール》《ドッペル》《ダークブレッド》《黒毒》は、使い勝手がよく効果も強力。
リターンとして、せめて武器スキルが手に入るなら、御の字だろう。…………闘いたくないが。
……………………また話が逸れた。
「ごめん。話が逸れたね」
「いえ。先延ばしにしているだけで、ソレはそれなりに大きな懸念事項なので……」
「ま~、大罪魔獣に拘わらず、敵わない相手が出てきたら、即行で逃げようね~」
『《龍王の系譜》発動時に負けた場合の代償は、『恒常的にステータスが1/10になること』と『一時的に経験値取得量が激減すること』だからな。今は、ガア・ティークルなりヒトコなり、引き篭もるのに不便はない拠点も多数ある。そう考えれば、敗北のデメリットは、致命的とまではいかないだろう』
「そだね。それもこれも、天人の遺跡を使って、家庭農園作ってくれたお陰だね。ありがとう、オズ」
「そういうつもりは全く無かったので、反応に困りますね……」
別に『全て想定内です』とかでも、ええんやで~。
困ったように赤くなるオズの頭を『ぽんぽん』と叩き、本題に戻る。
「で、オズの体力向上計画だけど……」
『オズ固有の能力としては、《スキル喰い》と《機械仕掛けの可能性》があるな』
「《スキル喰い》は、『魔石スキルを消費して、ステータスを恒常的に上げる』って効果だよね~。体力値が上がりやすいスキルとかってないの~?」
魔石は毎回、売却する前に使えるかどうかを確認している。
有用なスキルがあればキープするが、大半は私たちにとってはイマイチなものが多い。
次に入るチェックは、オズの《スキル喰い》に使えるかどうかなんだけど……
「ステータス上昇効果が高いのは、簡単に言えば『レアなスキル』『初めて消費したスキル』になりますね。お姉ちゃんたちが毎回 魔石を回してくれるので、初めの頃は結構 上がってたんですが、最近は殆ど効果が無いですね。
現状では、B……出来れば、Aランク魔獣の魔石でないと、目に見える効果は無さそうです。ただ、この辺りの魔石はスキル効果として優秀だったり、高く売れたりするので、《スキル喰い》で消費するのが憚られます。そんな劇的に上昇するわけでも無いですし」
「でも、塵も積もれば山となるって言うし?」
「積もる程 手に入らないじゃないですか。『そういう魔獣を狙わなかった』っていうのも大きいですが、国中を回ってもBランク数体にしか遭遇しなかったんですよ?」
「う~ん…………そう言われると確かに」
高ランクの魔獣は、そもそも人の生活圏から離れたところに棲んでいるから、狙って探さないと見付からない。
私が知っている範囲だと、カフォニア山脈地下空洞の深部とか。そこでもランクBらしいけど。
私たちが遭遇したのは、未発見の空間転移施設を目指して街道を大きく外れた時なので、たまたま僻地から出てきた魔獣とたまたま僻地に近付いた私たちが、運悪く鉢合わせしたに過ぎない。
キング・ゴブリン?
まぁ、あの辺が遭遇しやすいBランクなんだけど、その分レアスキル持ちである可能性は低いのよ。いや、この前の透過スキル持ちはレア中のレアなんだけど。
まぁ、僻地に近い空間転移施設から、さらに奥を目指せば遭遇するんだろうけど…………
「『体力を付けたい』って理由で突っ込むには、レベルが高いよね」
「レベルが高くなるのは、突っ込んでからですけどね」
「うまい!!」
『…………そうか?』
あ、ナツナツとオズが不機嫌になった。な~む~……
今夜のナビの運命に祈りを捧げ、次の案に移る。
「《機械仕掛けの可能性》の『あらゆる経験を糧にする』って効果は?」
「いや、まぁ、実は、その効果を期待して走り込んだんですけどね?」
「加減を誤って力尽きた~、と」
『やはり、体を動かすと体力値が上がりやすいのか?』
あぁ……なるほど。突然、『走り込みたい』とか言い出したのは、そういうことか。
「そうですね。体を動かすと体力値が上がりやすくなって、魔法を使うと魔力値が上がりやすくなる感じです。ステータスには表示されないですが、勉強すると知力が上がってるみたいですよ」
「ちなみに、どのくらい効果があるの~?」
「……………………『本当に効果があるのかな?』と思うくらい……」
それはほぼ無いと思ってるってことでは……?
『いや、待て。オズは最初から《機械仕掛けの可能性》を所持していたし、効果が実感出来ていないだけの可能性も…………』
「だとすると、私の元々の成長率がかなり悲しいことになるんですが…………」
「そもそも、情報生命体の成長率ってどんなもんなのよ~」
「そういえば、『情報生命体』って種族自体、もしかしたらオズだけの可能性もあるのか」
というか、その可能性の方が高い。
何も考えずに口に出してから、そのことに気付く。
……もしかして、この話題、地雷だったか?
血の気が引いて冷や汗が流れる…………間も無く、あっさりとオズが頷いた。
「その可能性は高いですね。
で、情報生命体の成長率ですが、魔法系のステータス、つまりMPや魔力は上がりやすいみたいですけど、物理系のステータスは上がりにくいみたいです。まぁ、MPに関しては、《地脈直結》の効果で無限なんですが。
それに、『機械類・ゴーレム類に憑依して操れる』という特性で、憑依対象のステータスを加算できるので、本体のステータスはそもそも上がりにくいのかもしれません」
『となると……』
「話が戻ったね~。義体の体力値を上げるのが近道~っと」
確かに話は、綺麗に元の位置に戻った。
私の気分はそわそわしたままだけど。
『結局、どの手段を選ぼうとも、出来ることは、
① 義体の強化 → 強い敵を探す or 新しい敵を探す
② 《スキル喰い》 → レアスキル or 新スキル保持者を探す
③ 《機械仕掛けの可能性》 → 筋トレ
で、全てを総括すると、『強い敵を探して僻地に行く』か『新しい敵を探して新天地に行く』か、のどちらかだな』
結論:闘え。
…………なんとも、グランディア家らしい結論になりましたとさ。
と、そんな結論とも言えない結論に到達したタイミングで、そろそろ日が落ちてきたことに気付く。
「今日はこの辺で野営にしようか」
「あ、りょ~か~い」
『ふむ。程々に木が視界を遮って、都合が良いんじゃないか?』
「それじゃ、元の義体に戻しましょうか」
もう、野営も慣れたもの。
ささっと通常型義体に換装すると、オズは石台を設置し、私は周囲に落とし穴を作る。…………ときに。
「えっと…………ねぇ、オズ?」
「はい?」
「……………………気にしてたら、ごめん。『情報生命体』がオズだけだったらさ、どうする?」
意を決して問い掛ける。
私は死ぬまでオズと一緒にいるつもりだし、義姉さんやお義母さんたちもいる。
冒険者仲間も増えた。
でも、種族が違うことで、疎外感や引け目を感じたりすることはあるんだろうか…………
「え? どうもしませんけど……」
……………………割とシリアスな話に展開するかと思っていたけど、そんなことは無かった。
『明日 晴れるかなぁ?』『さぁ?』くらいのノリだ。
「まぁ、お姉ちゃんの気にしていることも分かりますけどね。フィクションのお話では定番ですし。でも、私は特に気にしてないです。目立った差別や区別をされていないからかもしれませんが」
「そ、そう…………」
『じ~~~~』っと、オズの瞳を覗き込む。
『じ~~~~』っと、私の瞳を覗き返される。
……………………先に視線を逸らしたのは私だった。目が乾いて。
「ふ……勝ちました」
「勝負だったの!?」
「はい。で、特に気にしてない大きな理由ですけど……」
「え、あ、うん」
正直、さっきの一言で終わりかと思ったが、理由もあるらしい。
これ、本当に全く気にしてないな。
「…………そもそもお姉ちゃんが、世界で唯一の自我を持つレアなゴーレム種族だし、ナツナツだって妖精仲間いないですよね? ここにいるメンバー、全員似たようなものじゃないですか」
「……………………そういや、そうだね」
人の心配してる暇、無かったわ。
むしろ、自我の無い仲間がたくさんいる分、自我がある自分の仲間外れ感が酷いかもしれない。
他のゴーレム、見たこと無いけど。
「ねぇねぇ~。もし、万が一、奇跡的に、他の妖精が見付かったとしてさ~。……………………ホムンクルスの妖精って、仲間扱いされるのかな~?」
「よくあるお話だと、仲間外れにされて、苛められたりしますよね。『偽物』とか『紛い物』とか言われて」
……………………やっばい。オズより私より、ナツナツの方が、仲間がいてもいなくてもキツそうだわ。
「私にとっては、『種族』っていうのは、その人を構成する属性のひとつでしかないですから。『同じだから仲間』って言う感覚は無いですね。ほら、王都でテモテカール出身の冒険者に会った時と同じ感じです。『ちょっとした共通項があって、親しくなりやすい』くらいですね。
それよりも、『その人がどういう人間で、自分がどういう繋がりでいたいか』という方が重要です。
だから、もし他に情報生命体がいたとして、お姉ちゃんやナツナツと敵対するとしたら、私はお姉ちゃんたちを取りますよ」
「…………それもそっか」
よく考えなくても、種族が同じだけで仲良し小良しが成立するなら、世界はもっと単純だ。
人は……いや、個は、種族だけでなく、性格、クセ、常識、価値観、ありとあらゆる要素が集合して成り立っている。
その前提を無視して、一要素だけで全てを判断するのは、分かりやすいけれど、相手を知る努力を疎かにした怠慢と言わざるを得ない。
仲間であり続けるには、常に相手を知り続ける、不断の好奇心が必要なのかもしれない。
野営の準備を終えて一足先に石台に上ったオズが、床に片手を付いて手を伸ばす。
「はい、お姉ちゃん。今日のご飯も期待してますね」
「……………………そうね」
それを掴んで、私も石台に上る。
そして、オズとナツナツを撫でて、まず告げた。
「今日はいつもと違う味に挑戦してみようかな。だから、感想、お願いね。二人とも」
「えぇ、もちろん」
「楽しみ~♪」
まずは、食の好みから。
新しく好きな物を発見するのもいいし、嫌いな物を発見するのでもいい。好みが変わっていくのを知るのでもいい。
どんなことでも、絶えず続けていくことが私たちの関係を維持し続けることに繋がると信じている。
『……………………くすん』
あ、ごめん。ナビを無視したわけじゃないんだよ? ホントに。




