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ゴーレム娘は今生を全うしたい  作者: 藤色蜻蛉
10章 遭遇!! 王都の住人
241/264

第230話 ゴーレム娘、新たな飛翔

221 ~ 252話を連投中。


10/9(土) 11:00 ~ 18:30くらいまで。(前回実績:1話/13分で計算)


word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿してますので、時間が掛かります。


申し訳ありません。



ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。

『ナビ、下方 光学迷彩』


『それはナツナツがやってくれるようだぞ』


『え?』


全身で風を切りながら、ナビに《ミラージュ》による光学迷彩を指示すると、予想とは全く異なる答えが返ってきた。

ナツナツなら、さっきフォズさんに預けてきたはず……


『じゃん♪』


『……………………』


なぜ いる。


置いてきたはずのナツナツが、肩上でポーズを取っていた。


『今日は独り占めだから☆』


『聞きたいのはそこじゃな』


『そろそろ ひとつ目の紙片に手が届くぞ』


『あ~~~~!! もう!!』


まぁ、ナツナツをフォズさんに預けてから動き出すまでに、多少の時間は掛かったはずだから、その時間を使って何かをなんとかしたんでしょう、多分。

それよりも先に、紙片を集めねば。回収できずに通り過ぎては、何のために飛び出したのか訳が分からなくなる。


『ナビ、《ロング・サーチ》』


『発動中。紙片に注力…………27枚。最少転換軌道計算中……………………終了。軌道投影』


ステータス投影の要領で、ナビが計算した最少転換軌道……要するに、急激な方向転換が最も少ない軌道が宙に描かれる。

それでも数回の方向転換は必須だが、飛行ユニットを使えば追えぬ軌道ではない…………と思うじゃん?


ところがどっこい、飛行ユニットは使えないのだ。

理由は単純。噴射する圧縮空気が、乱気流を生み出して紙片を吹き飛ばしてしまうから。

ついでに言うと、吹き荒れた乱流は下方にも容赦なく降り注ぎ、通りにいる人たちを思いきり押し潰すことが容易に予想できる。

さすがにそうなったら、ナツナツの隠蔽魔法があっても気付かれないのは無理だ。超バレる。

加えて飛行ユニットは、速度が出るとその分 慣性も強く働くため、高精度の軌道を取ることは難しい。

ゆえに、飛行ユニットを使うのは無理だ。重要でもないけど、二回言った。


《クリア・プレイト》で跳躍用の足場を作ることも可能だが、十分な強度と数を用意すると、魔力消費が劣悪。

こちらは、想定外の事故が起こった際の最後の手段として残しておきたい。


よって、私が取る方法はコレだ。


『《カウンター・ウェイト》』


最初の紙片を掴むと同時にスキルを発動させる。

変化はすぐには現れない。が、数秒後には誰の目にも明らかな変化が現れ始める。

放物線を描く落下軌道を取っていた私の体が、水平軌道となり、上昇軌道へと変じていったのだ。

同時に、何かに引っ張られるように右方向への円弧も描き始める。

最終的には、右斜め上空を目指して徐々に加速していくという、物理的にあり得ない動きで高度を上げていく。


最高高度に至る途中で三枚の紙片を回収し、頂点に至ると同時にスキルを解除する。

すでに半円を描き切っていた私の体は、そのまま行けば元いた屋上を越えて、さらに向こう側へと至る軌道と速度を得ていた。


『《カウンター・ウェイト》』


再度スキルを発動。

今度は、一見 直角に近い急角度で円の内側へ切り込んでいく。

すでに、最初に飛び出した時とは、比べ物にならないほどの速度に至っている。

それがさらに高速化した。


5、6、7……


勢い余って紙片を破かないように注意しつつ回収し、スキルを解除。

円弧軌道を外れて自由落下に入る。


『ナツナツ、しっかり掴まっててね』


『私の吸着力は、お鍋の焦げ付き並みに強力だよ?』


ごめん。それ たまに剥がすんだわ。


ハーフコートの合わせ瞬時に全開し、裾を広げて風を孕ませる。

速度を消費して、軌道に微調整を掛けた。


8、9、10、11……


小刻みに揺れるように振幅し、四枚の紙片を回収すると同時に体を捻ってハーフコートから風を抜く。

頭から地面に向かって一直線。


『12。《カウンター・ウェイト》』


落下は止まらない。が、落下方向を変える。

一本の軸を中心に螺旋を描いて落ちていく。

服の抵抗を使って軌道を微調整し、五周する中で10枚を回収した。


『これで最後……』


最初に稼いだ高度は、すでに大部分を消費している。

視線の先には、オズとフォズさんと絵描きさんがいた。


《カウンター・ウェイト》を解除して描く軌跡は、最初と同じく放物線の落下軌道。ただし、方向は逆。

三枚を掴んで手摺りを越えて、ふわりと屋上へと着地した。


「で、残りの二枚、と」


ヒラヒラと揺れながら頭上に落ちてきた最後の紙片を、両手を開いて迎え入れる。


ひー、ふー、みー、よー、いー、むー、なー、やー、こー、とー……とー……とー…………

…………………………………………


11以上が思い出せなくて、最初からやり直した。

フォズさんがとても不思議そうな顔で小首を傾げている……


やめて、よして、そんな目で見ないで、消えたくなっちゃう、間違っただけなのぉぉぉぉ!!


二度手間になったけど、ちゃんと27枚あることを確認できた。私の精神は、風前の灯火だったけど。

さて……これを返す前に、中身を改めないとね。

回収してあげたんだし、見るくらいは了承してくれるだろうけど、あまり望ましくない絵だった場合、修正に応じてくれるかどうか…………


そう思って、絵描きさんを振り返ると……


「……………………」


「ん?」


愕然として表情で目を見開き固まっていた。

軽く開いたままの口と開いた瞳孔が、その驚きを物語っている気がする。


『なして?』


『いやー、アレは驚くでしょ~~』


『突然、幼女が屋上から飛び出したかと思ったら、縦横無尽に空を飛び回ったわけだからな』


『よく悲鳴を上げなかったものです』


…………ちゃうねん。違くないけどちゃうねん。

最近の特別運搬クエスト 兼 寄り道で、自重しないことの方が多かったから、空を飛ぶことに違和感がなかってん。


『それより彼女、そろそろ復帰しそうですよ?』


誰にするでもない言い訳を脳裏に流していると、オズに絵描きさんへ意識を向けるよう促された。

忠告に従い、すぐに絵描きさんの方へ意識を戻すが、彼女は先程 見た表情そのままに固まったままだ。

が、やがて口と瞳孔が徐々に閉じていくと同時に、意志が戻っていく。


そして……


「~~~~~~~~!!!!!!!!」


唐突にわちゃわちゃとした動作で走り出した。

その進む先には、彼女の下絵を持つ私がいる。


「~~~~~~~~!!!!!!!!」


が、これを華麗にスルー。

彼女は、私の持つ下絵の束に手を伸ばすどころか視線すら向けずに真っ直ぐにすぐ脇を擦り抜けると、オズやフォズさんの前も素通りして、置いたままだった絵画道具に頭から突っ込んだ。

そして、地面に座り込んだまま、薄い板状のものを取り出すと……


「――――――――っっっっ!!!!!!!!」


なんかすごい勢いで描き込み始めた。

薄い板状のものは、まごうことなきスケッチブックである。

1枚に付き1分程度のえげつない速度でページが捲られていく…………


呆気に取られている私の前に、オズとフォズさんが寄ってきた。


「どうしたんだろ」


「何か芸術家の琴線に触れたのかもしれません」


「それはあり得ますね。ルーシアちゃん、服装も相まって夢か幻のようでしたよ。一体、どんな魔法を使ったんですか?」


「あー……まぁ、現実味の薄い動きだったかもね」


原理を知れば言うほど無茶な動きはしていないというか、物理法則は逸脱していないと思うが、何も知らなければ例え歴戦の冒険者であろうとも、目で追い切るのも難しいだろう。

何しろ《カウンター・ウェイト》は、予備動作の欠片も見せることなく速度と方向を変え、それでいて角の無い滑らかな軌跡は、流れる水のように無駄な減速をせずに私の体をぶん回す。

例えるなら、風にあおられる一枚の木の葉か紙片か、といったところ。

…………まぁ、その分、そこそこ程度に使えるようになるまで、随分と手こずらされたけど。



《カウンター・ウェイト》は、本来の用途を簡単に言えば、『重心安定化魔法』だ。

魔法効果としては、『指定した対象を含む直線上に、仮想支点と仮想質量体を発生させる』というもの。


どのような場面で使用するかというと、例えば、私のように体重の軽い者が、ヘビィメイスのような重量系武器を使う場合をイメージして欲しい。

ただ武器を構えているだけでも重心が前方に寄ってしまい、そのまま振り回そうものなら武器に引っ張られて容易にバランスを崩してしまうのが想像できると思う。

これは武器と自分の重心が体の外に移動してしまっているのが大きな原因で、静止している状態でバランスを取るだけなら【重量軽減】で武器に掛かる重力を減少させるだけで問題ないが、振り回す場合は【重量軽減】ではどうにもならない。

そんな時に《カウンター・ウェイト》のような重心安定化魔法を使うことになる。

具体的には、持ち手の延長線上に仮想質量体を発生させることで、武器の重心を持ち手側に移動させるような感じ。持ち手が長くなって先端にバランサー用の錘が付くようなイメージだ。

もちろん魔法なので、延長した持ち手とバランサー用の錘が、地面やら他の生物やらにぶつかることは無い。


このように重量系武器を使う者が取得していることの多い魔法であるが、実際のところ使用者の絶対数はそれほど多くない。

理由は簡単で、直感的に使いにくいから。

バランスが崩れるのは確かだが、それならばバランスが崩れることを前提として体を動かせばいいだけなので、技術でなんとかなることが多いのも原因のひとつ。

私も一応、重量系武器に分類される重大剣をよく使うものの、これを振り回すためにこの魔法を使用することはないし。


そんなマイナー魔法をどこからか発掘してきたのは、まぁ、特に意表を突くわけでもなくオズだ。

特別運搬クエストでミドリス一周した結果、新しい杖の素材も入手でき、いくつか作成もしたものの、魔法増幅率を最優先で設計したそれらの取り回しはとてもよろしくない。まぁ、アサルトスタッフの時から分かっていたことではあるが。

そこで、杖の取り回し改善のため、この重心安定化魔法を発掘してきたというわけ。

その試みは成功して、『対象の質量分布を偏向させて、重心を変化させる』という効果の《重心移動》を取得していた。


で、それはそれとして、元の重心安定化魔法はオズからナツナツへと伝授され、ナツナツのおもちゃになった。

仮想質量体の相対距離と質量を適当に設定した重心安定化魔法を、そこそこの速度で飛翔中に自分を対象に発動させると、全く予期できない軌道と速度で吹っ飛ばされるのが楽しいとかなんとか……

現実でやったら危なくて止めるところだけど、夢茶会でやる分には危険もないからね。

……………………うん。意外と楽しかったよ。


そんな遊びをナツナツと繰り返している内に、ふと思ったわけですな。『これ、空を飛ぶのに使えるんじゃない?』と。

その後、オズのアドバイスとマスタリー系スキルの助力により、『任意の座標点に仮想支点を設定する』『対象・仮想支点・仮想質量体を同一直線上に維持する』他 細々とした効果を付与して《カウンター・ウェイト》は完成したのだった。



……………………と、いうような内容のことを、話せない部分を適当に誤魔化しつつ、フォズさんに説明した。


「分かった?」


「……………………ル、ルーシアちゃんは、空が飛べるんですね!?」


「あー、うん。それでいいよ」


分からなかったらしい。

やはり、調子に乗って開発に苦労した術式の詳細なんか話すんじゃなかった。


それはさておき、未だスケッチブックに筆を走らせ続ける絵描きさんに視線を移す。

性別は何度か『彼女』と呼んでいる通り女性。

髪は、落ち着いた色合いの赤味がかった茶髪のストレート。あまり気にしていないのか、ちょっと傷んでいるように見える。

鍔の大きな丸い帽子を被り、一見物静かな印象…………だが、昂揚して頬を紅くしている様からは、興味を引かれた対象に対する、謎のアグレッシブさを感じる。

偏見かもしれないが、芸術家らしい偏屈さの一面が顔を覗かせている気がした。

と、ここまでは、いつも私が人を見るパター『胸は見なくていいんですか?』お胸はささやか。仲間になれそう。

…………ではなく、そういった諸々を差し置いた一番の特徴は別にある。

こちらに向ける華奢な背中に、広げれば全身を覆ってしまうことができそうなほど大きな翼が二枚、ぴょこんと生えているのだ。

加えて、よくよく見てみれば、鳥の羽毛のような羽根が頭の両サイドから髪と一緒に後方に流れている。


まじまじと見るのは初めてだが…………多分、鳥系亜人だろう。

絵描きさんは未だスケッチに集中しているが、念のためちょっと声を落として、フォズさんに話し掛ける。


「えっ……と。あの人、鳥系亜人だよね? 私、関わるの初めてなんだけど、何かタブーとか知ってる?」


「すみません……わたしもあまり関わることが無くて…………鳥肉料理がダメで、芸術家が多い、くらいしか」


フォズさんが申し訳なさそうに答えてくれるが、大丈夫。本命は別にいる。


「他に有名なタブーは、『他人に翼を触られるのが嫌い』、『飛べる飛べないは、デリケートな話題』辺りですね。

鳥系亜人の羽毛は、手触りが良いらしいのですが、余程気を許した相手でないと触らせないとのことです。また、飛べるか飛べないかは、翼の有無や大きさに依らず、その人が持つスキル次第ですので、見た目では判断できません。飛べないことがコンプレックスになっている方もいるので、初めの内にやんわりと確認しておくのが良いかと」


「さっすがオズリアちゃん!! わたし、もう諦めましたよ!!」


心で泣きながら、自棄っぱち気味にオズの頭を撫でるフォズさん。

ドンマイ。

ついでに、私も撫でておく。


「加えて、先程から全く声を発しないのが気になります。単純に声が小さいだけなら問題ありませんが、もし何か事情があって声が出せないのであれば、先天的・後天的のどちらの場合でも、デリケートな話題なのは確実かと。こちらもやはり、最初に確認して距離感を見定めておく必要がありますね」


「そうだね」


「ですね」


オズさん、マジ有能。


……………………結構 時間が経ったと思うんだけど、絵描きさんの腕はまだまだ休むを知らない。


『先に、今持ってる下絵分だけでも確認してはどうだ? それを見て、まぁ、何と言うか、ユニークな画風だったら、あまり心配しなくてもいいだろう?』


『ユニークってか、前衛的っていうか、ヘタクソっていうか~?』


『ナツナツ…………頑張って言葉を選んだのだから、気にしてくれ』


『うん、知ってる♡』


『……………………』


『えと…………何かして欲しいことあるなら聞くよ? ナビ』


『楽しみにしていよう』


…………あれ? もしかして、謀られたかな?

まぁ、いいけど。


ナビのアドバイスを素直に聞くことにして、オズとフォズさんの前に下絵を差し出す。


「先にこっちの下絵を見させてもらおうか」


「そうですね」


「う~ん……何だか悪い気もしますけど、断りなくスケッチしたのは向こうですし、そのくらいはいいですかね」


「よし、共犯確保」


「では、こちらに署名を」


「えぇ!?」


もちろん冗談です。

『サッ』とオズが差し出した紙だって何も…………いや、しっかり書いてあったわ契約書だわ。


「冗談ですよ、もちろん」


「その割にはしっかり書かれてるんですけど!? こんなピンポイントな書類、前もって用意出来ないですよね!?」


「これは、光属性魔法による幻影です。ほら、こうすると……」


「あ、消えた…………って、それでも凄いですから!! 本当に文字が書いてあるかと思いましたよ!!」


……………………私もビックリ。

ちゃんと、紙面の凹凸や歪曲に沿って文字も歪んでいたから本物かと思った。


オズの意外な技能に驚きつつ、下絵に目を落とす。

ナツナツとレミィちゃんも姿を隠して覗き込んでいるのが分かったので、全員に見えるように少し位置を調整する。


「…………………………………………」


「…………………………………………」


『…………………………………………』


「…………………………………………」


「…………………………………………」


『―――――――― ( ゜Д゜)』


結論から言うと、ヘタク…………ユニークではなかった。

大まかな輪郭と特徴をざっくりと捉えた、スケッチとクロッキーの中間のような簡素なもの。現実と比べれば足りない要素は数多いにも拘らず、現実がそのまま写し取られたと錯覚してしまう精密さがある。

ここからどんな絵に仕上げるつもりなのかは知らないが、このままでもいいと言う人もいるかもしれない。


…………で、肝心の私たちの顔は、個人を特定出来るほどかと言われると、そこまでではないことは確かだ。それは安心。

ただ、全員で黙り込んだのは、まぁ、絵が素晴らしいのもあったろうけど…………


『……………………ほら、念には念を入れておいて、隠れたままで良かったでしょう?』


『そだね~……』


『―――――――― (>_<)』


ナツナツ、レミィちゃんからも、肯定の返事が返る。

そりゃ、そうだ。なにしろ…………


「バッチリ捉えられてますね…………」


「この空間…………気になると気になりますよね……?」


私とオズとフォズさんの、それぞれの手の位置が。

何も描かれていない、ただの空間が。

組み合わさることで、そこに何かがあることを暗に示していたのだから。


重量安定化魔法の説明……本当に合ってるのか自信が無いので、話半分に聞いててください。

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