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ゴーレム娘は今生を全うしたい  作者: 藤色蜻蛉
1章 活動開始!!まずは地道に下積み
24/264

第22話 ゴーレム娘と冒険者パーティ

13 ~ 23話を連投中。


2/11(月) 13:40 ~ 17:10くらいまで。(前回実績:12話を3時間半)


word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿してますので、時間が掛かります。


申し訳ありません。



ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。

苔むした木々が視界の全てを遮り、ザワザワと風に揺れ立つ葉擦れの音が絶えず耳に響く。

足裏から返る反力はふわふわとクッションのように頼りなく。

吸った空気は鼻腔に森の薫りを満たし、森の味を舌に感じる錯覚を引き起こした。


五感の全てが森に塗り潰される。そんな世界に私たちはいた。


『ん~~……ここに来るの初めてなんだけど、な~んかリラ~~ックス出来る気がするよ~♪』


『そう? それは、良かったね。ランクが上がればここに来ることも増えるだろうけど、今はなかなか来れないから、今の内に堪能しておいて』


『うん、そうする~~。ありがと~』


『……気を抜きすぎて落ちないでよ?』


妖精は通常、このような自然の中で生活する生き物だ。

ここのような森深い場所は、ナツナツの体に合っているのかもしれない。

…………そうだとしても、心配になるくらいゆるっゆるだけど。


ガアンの森は外から見た通り、背の高い木々が多いため、日差しが少なく下草が育ちにくくなっており、とても歩きやすい。

そして、大量の苔や落ち葉が雨水を溜め込んでいるので湿度が高く、採取に向いたキノコなどの菌類がたくさん生えている。

目的地のガアンの森奥地まであと少し。そこまで行く道すがら、私たちはキノコを採取していた。


『あ、あっちにもあったよ』


私の肩の上で脱力するナツナツが、一本の木の根元を指さした。

言われるままに道を逸れ、木の根を隠す草を除けると、草の根に埋もれるように生えるキノコを見つけた。

これは食用できるキノコだ。


「うまうま……」


「またキノコ? よく見つけるわね……」


ホクホクしながらキノコを採取していると、上からリリアナさんが覗き込み、呆れたように呟いた。


採取に来ているのに、採取して呆れられるとは、何故(なにゆえ)に……


「そういう様子を見ると、山奥で暮らしてたって話、本当みたいね」


「あと服装。そんな格好でよく普通に歩ける」


「なら、別の服装だと調子が出ないというのも、もしかしたら本当なのかもしれないな」


…………ごめんなさい。最後のはウソです。


森の入口からここまで、草原を移動するのと同程度のペースでヒョイヒョイと進んできた。

ガアンの森に慣れているこの四人よりも、ともすれば速いペースで、だ。


確かにここは歩きやすい森ではあるが、それでもフェルー草原と比べれば歩きにくい。

だから、普通なら歩くペースが落ちるのは当然だし、その落ちるペースは、小柄な私の方が大きくなるのも当然だった。

そうなれば、いくら慣れた環境とはいえ、彼らが遅れを取ることは無かっただろう。


そうなっていないのは、ひとえに私の種族特性に依るところが大きい。

覚えているだろうか。

ゴーレムの種族特性には、『単純作業、反復作業等を無意識に行え、疲労を軽減する』という効果があったことを。

『森歩き』が『単純作業、反復作業』に該当するかどうかは、人によるだろうけど、私は該当した。

該当する程度には慣れている、といった方が正確か。


野生児を舐めてはいけない。うふふふふ……


「ルーシアちゃんが、予想以上に森歩きに慣れてたのは良い誤算だったけど、代わりにこっちが足を引っ張ってて申し訳ないわね……」


「足手まとい」


「え~と……フォローいるか?」


「はっ……はっ……は……い、いらねぇ……」


私たちに遅れること、数十秒後。ルーカスが、息を切らせながら追い付いてきた。

この人が遅れているから、気にせず横道に逸れていられる。

とはいえ、あまりに疲弊している様子に、何度目かの提案をしてみる。


「やっぱり、防具預かろうか? 武器でもいいけど」


「だ、大丈夫だ。それに、武具が、無いんじゃ、いざと、いう時に、お前を、護れん……」


「疲労困憊でも難しいんじゃないでしょうか……?」


「……………………ちょっと休憩頼む……」


「じゃ、この先に開けた場所があったはずだから、そこで一休みしましょ」


息も絶え絶えなルーカスは、しばし逡巡した後、諦めたように休憩を申し出た。

リリアナさんは、特にそれに構うことなく先を指さすと、広場のようなスペースに私たちを先導してくれる。

そして、各々ざっと周囲を確認すると、思い思いの場所に腰を下ろした。


「ぐあ~~……あっちー……」


一人だけごっついハーフプレートを着けているルーカスは、汗だくになりながら鎧を外す。

楯士を兼任しているから、一人だけ重装備なのだ。


「うわー……キモチワルイ……」


「し、失礼なヤツだな!! お前がとっとこ進むからこんなになってんだぞ!?」


「え~……『お前の速度に合わせるから、疲れない程度に自由に行け』って言ったのルーカスじゃん」


「そうね」


「自分の言葉には責任を持つべき」


「装備が重いのは分かるが、もっと早く動けるようになるべきだな」


「くそ~……味方はどこだ~……」


いないんじゃないかな。


ルーカスがこれだけ疲労困憊しているのは、普段は三人がルーカスのペースに合わせて移動しているのが大きいと思う。

私のペースは、普段の彼等のより少し速い程度でしかないらしいが、自分のペースで自由に進むのと他人のペースに合わせて進むのとでは、疲労の差は大きい。

とりあえず、ルーカスの息が整うのを待ってから、その場に立たせる。


「何すんだよ……休ませろって」


「すぐ終わるから。呼吸は出来るから動かないでよ?」


「あん?」


しぶしぶとはいえ、それでも素直に立ち上がるルーカスに、軽く注意事項を伝える。

そして、新たな質問が出る前に、さっさと《アクア・バルーン》にルーカスを取り込んだ。


ルーカスに伝えた通り、口・鼻 周りは空けてあるので、物理的に呼吸を妨げられることはない。

…………人間、慌てると出来るはずのことが出来なくなるが。


「うおおお!?!!」


「ちょ、ルーシアちゃん!?」


咄嗟のことに反応できたのは、リリアナさんだけだった。

フェリスさんとキリウスさんは、ポカンとこちらを見ている。


「ざっくり汗を流すだけだから、大丈夫だよ」


「えぇ~……? そんなことに魔力を使わなくても……」


「そんなに消費しないから大丈夫」


「マジですか……」


会話をしながら、水流を操って服の隙間からルーカスの全身を洗い尽くす。

途中で水を代えてもう一度。


「ぐ、ぐはっ……な、なにすんだ、いきなり……」


「もうちょいお待ち」


「は? ぐおおおお? あつさむ!!」


どっちだ。いや、言いたいことは分かるけど。


やっていることは、服の乾燥。

風魔法で服を浮かせ、火魔法で乾燥させる。

熱いくらいの乾いた温風が、急速に水分を蒸発させるので、風自体は熱いが、気化熱を奪われた部分だけは瞬間的に冷えるのだ。


文句のありそうな雰囲気だが、言われた通り動かないようにしてくれているから やりやすい。

…………数分ほどで終わった。


「はい、終わり。汗だくで休むより気持ちいいでしょ」


「……………………ありがとよ。でも、靴は濡れたままなんだが……」


「分かってる。その辺に座って靴脱いで。鎧と一緒に洗って乾かすから」


「お? おお、そうか」


適当な倒木に座ったルーカスから、鎧と靴を受け取り、一緒に《アクア・バルーン》の中に放り込む。

リピート。…………してる間に、ルーカスが話し掛けてきた。


「お前、とんでもないことするなぁ……」


「そう?」


「そうだよ。ウチの魔道士二人組が唖然(あぜん)としてるじゃねぇか」


ルーカスの指さす方に視線を向けると、リリアナさんは苦笑していて、キリウスさんは頭を抱えていた。


「ルーシアちゃん、非常識過ぎ」


「そんな繊細な魔法、普通は魔道具を使って行うものだぞ……」


「繊細?」


そうかな? 割と適当なんだけど。


「その乾燥魔法は、【ドライ・キリング】の劣化版だろう。確かにそれを応用した乾燥魔道具というものはあるが、威力が強過ぎれば人が死ぬし、弱過ぎれば乾かない。だから、普通はその辺の微調整が済んでいる魔道具を使うんだ」


「…………………………………………」


「おいこら」


「だ、大丈夫。お風呂上がりとかに、自分に対してよく使ってるから」


「マジか……というか、キリウス。そんな危ない魔法と思ってるなら止めろよ」


「それで制御を間違えられたら、今頃ミイラだぞ?」


「笑える」


「フェリス……ならせめて笑え……」


おじいちゃん……そんな危ない魔法だったんですね……?


多分、乾燥に特化させた術式に改良済みなんだろうけど、そういうことは教えておいて欲しかった。

私がうっかり術式に手を加えてたらどうすんだ。


乾燥が終わった鎧と靴をルーカスに返し、手を洗ってお茶の準備をする。

お茶請けは……


『バームクーヘン』


『はいはい』


バームクーヘンにした。

一時期……というか、一時夜に、全てのストックが()けてしまったけど、タチアナさんが狂ったように作ってくれるので、そこそこ補充されている。

もちろん、四人にもお裾分けした。


「はいどぞー」


「おお、サンキュー」


「ルーシアちゃん、容量大丈夫よね? ……ありがと」


「感謝」


「ははは……ありがとう。いただくよ」


私も適当な石の上に座って一休みする。


もぐもぐもぐ……うまし……


タチアナさんの料理の腕は、正直 私なんかじゃ足元にも及ばない。

すでに、当初教えたプレーンのレシピはマスターしていて、最近は色々とアレンジレシピを開発している様子。

これはそのうちのひとつだけど、ほんのり柑橘系の薫りがしてて、さっぱりおいしい。


『もいっこ~。プレーンタイプで♪』


『はいはい』


ナツナツの要望に、影に隠れるように取り出すと、すぐに二つ目に噛り付くナツナツ。よく食べますね。


「ふぅ……しかし、冗談抜きにパーティに勧誘したくなってくるな……」


「そうね~……今のところ非常識に疲れるけど、メリットしかないもん」


「まだ戦闘力を見てない」


「だが、魔道士として優秀なのは間違いないだろう。それに、完全に補助役でも十分過ぎる」


「あははは……実はランクが上がったらセレスとパーティを組むことになってるんです。だからパーティを組んでもその内 離脱することになるので、それまでは一人でやろうかと」


「そうかー…………って、普通ソロでランクAとかあり得ないからな!?」


「え゛……それ、セレスさんの試練ってこと? スパルタね……」


「でも、無茶振りでないなら、それは期待の裏返しということ。妬ける、かも……」


「出来ないと思っているとしたら過保護の可能性もあるが……まずは、戦闘力を見てから判断だな」


キリウスさん、見て、何を判断するんですか……


「あ~…………一応、目標はランクBで、そこまで上がれば『昇格ポイントの軽減も少ないからいいかなー』って話なんで、別に試練という訳では……」


「いや、ランクBでも大して変わらんから」


「『ランクD以上をソロで』っていう時点で、十分試練だよ……」


「やはり期待か……むむむ……」


「そろそろ、魔獣が出てきてもいい頃合いだが……」


キリウスさん、やめて。フラグ立てないで。


一頻(ひとしき)り雑談すると、ルーカスが立ち上がる。


「さて、そろそろ行くか。せっかく時間が短縮できたのに、休憩で消費し切る訳にはいかん」


「はい」


「でも、ここからは俺のペースに合わせてくれ……」


「あはは……分かり」


情けない顔で言うルーカスに、苦笑と共に了承す


「いえ、ここまで通り、ルーシアちゃんペースで行きましょう」


「ちょっと甘やかしてた。修行」


「またさっきの洗浄出来るか? 出来る? なら、ルーシアさんがいるときの方が、快適に訓練出来るな。頑張れ」


「鬼か!!」


…………私のペースで行くことになりました。


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