第22話 ゴーレム娘と冒険者パーティ
13 ~ 23話を連投中。
2/11(月) 13:40 ~ 17:10くらいまで。(前回実績:12話を3時間半)
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苔むした木々が視界の全てを遮り、ザワザワと風に揺れ立つ葉擦れの音が絶えず耳に響く。
足裏から返る反力はふわふわとクッションのように頼りなく。
吸った空気は鼻腔に森の薫りを満たし、森の味を舌に感じる錯覚を引き起こした。
五感の全てが森に塗り潰される。そんな世界に私たちはいた。
『ん~~……ここに来るの初めてなんだけど、な~んかリラ~~ックス出来る気がするよ~♪』
『そう? それは、良かったね。ランクが上がればここに来ることも増えるだろうけど、今はなかなか来れないから、今の内に堪能しておいて』
『うん、そうする~~。ありがと~』
『……気を抜きすぎて落ちないでよ?』
妖精は通常、このような自然の中で生活する生き物だ。
ここのような森深い場所は、ナツナツの体に合っているのかもしれない。
…………そうだとしても、心配になるくらいゆるっゆるだけど。
ガアンの森は外から見た通り、背の高い木々が多いため、日差しが少なく下草が育ちにくくなっており、とても歩きやすい。
そして、大量の苔や落ち葉が雨水を溜め込んでいるので湿度が高く、採取に向いたキノコなどの菌類がたくさん生えている。
目的地のガアンの森奥地まであと少し。そこまで行く道すがら、私たちはキノコを採取していた。
『あ、あっちにもあったよ』
私の肩の上で脱力するナツナツが、一本の木の根元を指さした。
言われるままに道を逸れ、木の根を隠す草を除けると、草の根に埋もれるように生えるキノコを見つけた。
これは食用できるキノコだ。
「うまうま……」
「またキノコ? よく見つけるわね……」
ホクホクしながらキノコを採取していると、上からリリアナさんが覗き込み、呆れたように呟いた。
採取に来ているのに、採取して呆れられるとは、何故に……
「そういう様子を見ると、山奥で暮らしてたって話、本当みたいね」
「あと服装。そんな格好でよく普通に歩ける」
「なら、別の服装だと調子が出ないというのも、もしかしたら本当なのかもしれないな」
…………ごめんなさい。最後のはウソです。
森の入口からここまで、草原を移動するのと同程度のペースでヒョイヒョイと進んできた。
ガアンの森に慣れているこの四人よりも、ともすれば速いペースで、だ。
確かにここは歩きやすい森ではあるが、それでもフェルー草原と比べれば歩きにくい。
だから、普通なら歩くペースが落ちるのは当然だし、その落ちるペースは、小柄な私の方が大きくなるのも当然だった。
そうなれば、いくら慣れた環境とはいえ、彼らが遅れを取ることは無かっただろう。
そうなっていないのは、ひとえに私の種族特性に依るところが大きい。
覚えているだろうか。
ゴーレムの種族特性には、『単純作業、反復作業等を無意識に行え、疲労を軽減する』という効果があったことを。
『森歩き』が『単純作業、反復作業』に該当するかどうかは、人によるだろうけど、私は該当した。
該当する程度には慣れている、といった方が正確か。
野生児を舐めてはいけない。うふふふふ……
「ルーシアちゃんが、予想以上に森歩きに慣れてたのは良い誤算だったけど、代わりにこっちが足を引っ張ってて申し訳ないわね……」
「足手まとい」
「え~と……フォローいるか?」
「はっ……はっ……は……い、いらねぇ……」
私たちに遅れること、数十秒後。ルーカスが、息を切らせながら追い付いてきた。
この人が遅れているから、気にせず横道に逸れていられる。
とはいえ、あまりに疲弊している様子に、何度目かの提案をしてみる。
「やっぱり、防具預かろうか? 武器でもいいけど」
「だ、大丈夫だ。それに、武具が、無いんじゃ、いざと、いう時に、お前を、護れん……」
「疲労困憊でも難しいんじゃないでしょうか……?」
「……………………ちょっと休憩頼む……」
「じゃ、この先に開けた場所があったはずだから、そこで一休みしましょ」
息も絶え絶えなルーカスは、しばし逡巡した後、諦めたように休憩を申し出た。
リリアナさんは、特にそれに構うことなく先を指さすと、広場のようなスペースに私たちを先導してくれる。
そして、各々ざっと周囲を確認すると、思い思いの場所に腰を下ろした。
「ぐあ~~……あっちー……」
一人だけごっついハーフプレートを着けているルーカスは、汗だくになりながら鎧を外す。
楯士を兼任しているから、一人だけ重装備なのだ。
「うわー……キモチワルイ……」
「し、失礼なヤツだな!! お前がとっとこ進むからこんなになってんだぞ!?」
「え~……『お前の速度に合わせるから、疲れない程度に自由に行け』って言ったのルーカスじゃん」
「そうね」
「自分の言葉には責任を持つべき」
「装備が重いのは分かるが、もっと早く動けるようになるべきだな」
「くそ~……味方はどこだ~……」
いないんじゃないかな。
ルーカスがこれだけ疲労困憊しているのは、普段は三人がルーカスのペースに合わせて移動しているのが大きいと思う。
私のペースは、普段の彼等のより少し速い程度でしかないらしいが、自分のペースで自由に進むのと他人のペースに合わせて進むのとでは、疲労の差は大きい。
とりあえず、ルーカスの息が整うのを待ってから、その場に立たせる。
「何すんだよ……休ませろって」
「すぐ終わるから。呼吸は出来るから動かないでよ?」
「あん?」
しぶしぶとはいえ、それでも素直に立ち上がるルーカスに、軽く注意事項を伝える。
そして、新たな質問が出る前に、さっさと《アクア・バルーン》にルーカスを取り込んだ。
ルーカスに伝えた通り、口・鼻 周りは空けてあるので、物理的に呼吸を妨げられることはない。
…………人間、慌てると出来るはずのことが出来なくなるが。
「うおおお!?!!」
「ちょ、ルーシアちゃん!?」
咄嗟のことに反応できたのは、リリアナさんだけだった。
フェリスさんとキリウスさんは、ポカンとこちらを見ている。
「ざっくり汗を流すだけだから、大丈夫だよ」
「えぇ~……? そんなことに魔力を使わなくても……」
「そんなに消費しないから大丈夫」
「マジですか……」
会話をしながら、水流を操って服の隙間からルーカスの全身を洗い尽くす。
途中で水を代えてもう一度。
「ぐ、ぐはっ……な、なにすんだ、いきなり……」
「もうちょいお待ち」
「は? ぐおおおお? あつさむ!!」
どっちだ。いや、言いたいことは分かるけど。
やっていることは、服の乾燥。
風魔法で服を浮かせ、火魔法で乾燥させる。
熱いくらいの乾いた温風が、急速に水分を蒸発させるので、風自体は熱いが、気化熱を奪われた部分だけは瞬間的に冷えるのだ。
文句のありそうな雰囲気だが、言われた通り動かないようにしてくれているから やりやすい。
…………数分ほどで終わった。
「はい、終わり。汗だくで休むより気持ちいいでしょ」
「……………………ありがとよ。でも、靴は濡れたままなんだが……」
「分かってる。その辺に座って靴脱いで。鎧と一緒に洗って乾かすから」
「お? おお、そうか」
適当な倒木に座ったルーカスから、鎧と靴を受け取り、一緒に《アクア・バルーン》の中に放り込む。
リピート。…………してる間に、ルーカスが話し掛けてきた。
「お前、とんでもないことするなぁ……」
「そう?」
「そうだよ。ウチの魔道士二人組が唖然としてるじゃねぇか」
ルーカスの指さす方に視線を向けると、リリアナさんは苦笑していて、キリウスさんは頭を抱えていた。
「ルーシアちゃん、非常識過ぎ」
「そんな繊細な魔法、普通は魔道具を使って行うものだぞ……」
「繊細?」
そうかな? 割と適当なんだけど。
「その乾燥魔法は、【ドライ・キリング】の劣化版だろう。確かにそれを応用した乾燥魔道具というものはあるが、威力が強過ぎれば人が死ぬし、弱過ぎれば乾かない。だから、普通はその辺の微調整が済んでいる魔道具を使うんだ」
「…………………………………………」
「おいこら」
「だ、大丈夫。お風呂上がりとかに、自分に対してよく使ってるから」
「マジか……というか、キリウス。そんな危ない魔法と思ってるなら止めろよ」
「それで制御を間違えられたら、今頃ミイラだぞ?」
「笑える」
「フェリス……ならせめて笑え……」
おじいちゃん……そんな危ない魔法だったんですね……?
多分、乾燥に特化させた術式に改良済みなんだろうけど、そういうことは教えておいて欲しかった。
私がうっかり術式に手を加えてたらどうすんだ。
乾燥が終わった鎧と靴をルーカスに返し、手を洗ってお茶の準備をする。
お茶請けは……
『バームクーヘン』
『はいはい』
バームクーヘンにした。
一時期……というか、一時夜に、全てのストックが捌けてしまったけど、タチアナさんが狂ったように作ってくれるので、そこそこ補充されている。
もちろん、四人にもお裾分けした。
「はいどぞー」
「おお、サンキュー」
「ルーシアちゃん、容量大丈夫よね? ……ありがと」
「感謝」
「ははは……ありがとう。いただくよ」
私も適当な石の上に座って一休みする。
もぐもぐもぐ……うまし……
タチアナさんの料理の腕は、正直 私なんかじゃ足元にも及ばない。
すでに、当初教えたプレーンのレシピはマスターしていて、最近は色々とアレンジレシピを開発している様子。
これはそのうちのひとつだけど、ほんのり柑橘系の薫りがしてて、さっぱりおいしい。
『もいっこ~。プレーンタイプで♪』
『はいはい』
ナツナツの要望に、影に隠れるように取り出すと、すぐに二つ目に噛り付くナツナツ。よく食べますね。
「ふぅ……しかし、冗談抜きにパーティに勧誘したくなってくるな……」
「そうね~……今のところ非常識に疲れるけど、メリットしかないもん」
「まだ戦闘力を見てない」
「だが、魔道士として優秀なのは間違いないだろう。それに、完全に補助役でも十分過ぎる」
「あははは……実はランクが上がったらセレスとパーティを組むことになってるんです。だからパーティを組んでもその内 離脱することになるので、それまでは一人でやろうかと」
「そうかー…………って、普通ソロでランクAとかあり得ないからな!?」
「え゛……それ、セレスさんの試練ってこと? スパルタね……」
「でも、無茶振りでないなら、それは期待の裏返しということ。妬ける、かも……」
「出来ないと思っているとしたら過保護の可能性もあるが……まずは、戦闘力を見てから判断だな」
キリウスさん、見て、何を判断するんですか……
「あ~…………一応、目標はランクBで、そこまで上がれば『昇格ポイントの軽減も少ないからいいかなー』って話なんで、別に試練という訳では……」
「いや、ランクBでも大して変わらんから」
「『ランクD以上をソロで』っていう時点で、十分試練だよ……」
「やはり期待か……むむむ……」
「そろそろ、魔獣が出てきてもいい頃合いだが……」
キリウスさん、やめて。フラグ立てないで。
一頻り雑談すると、ルーカスが立ち上がる。
「さて、そろそろ行くか。せっかく時間が短縮できたのに、休憩で消費し切る訳にはいかん」
「はい」
「でも、ここからは俺のペースに合わせてくれ……」
「あはは……分かり」
情けない顔で言うルーカスに、苦笑と共に了承す
「いえ、ここまで通り、ルーシアちゃんペースで行きましょう」
「ちょっと甘やかしてた。修行」
「またさっきの洗浄出来るか? 出来る? なら、ルーシアさんがいるときの方が、快適に訓練出来るな。頑張れ」
「鬼か!!」
…………私のペースで行くことになりました。




