第225話 ゴーレム娘、土産話はたっぷり、土産物もたっぷり
221 ~ 252話を連投中。
10/9(土) 11:00 ~ 18:30くらいまで。(前回実績:1話/13分で計算)
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「あ~、やぁぁっと来た~」
「いらっしゃい。随分と熱烈に歓迎されたみたいだね」
「ははは……そうですね」
「お、お兄ちゃん!!」
フォズさんに連れられてこの家……部屋? …………家でいいか。とにかく家で最も広いリビングへとやって来ると、パーティリーダーであるココネさんと、その妹のサリーさんがいた。
ココネさんはゆったりとイスに腰掛けて新聞らしき雑誌を読んでいて、サリーさんは特に何もせずソファに身を投げ出してだらけている。
イメージ通りの情景だった。
「ほら、狭いけど座ってくれ。イスは用意しておいたからね」
「オズリー、あたしのここ、空いてるよ?」
「遠慮します」
ぺちぺちと自分の膝を叩くサリーさんの誘いをバッサリ断るオズ。
『振られちったー』と、大仰に落胆するサリーさん。
「あらあら、私の妹がごめんなさいね。膝の上はアレだけど、隣に失礼するわ」
「……………………あれ? どうしてかな、寒気がするよ…………?」
「勘の良い子は好きよ。…………行動が読みやすいから、煮るなり焼くなり好きにできるからね」
「ノオオォォォォォォォォ!!!!」
「サリー、うるさい」
『ポン』とにっこり笑顔で肩を叩かれたサリーさんが絶叫した。
今は夜だよー。静かにねー。
「レミィちゃんはいない…………訳はないよね?」
「そうですね。というか、そこに……」
「そこ?」
フォズさんが指差す先は、テーブルの中央。
先程は何も無いように見えたが、今は陽光のように淡く輝く毛玉があった。
大きさは、子犬よりも小さいくらい。
「久し振り、レミィちゃん」
ツンツン。
さわさわさわさわ。
『寝ているのかも?』と思って軽くつつく程度で済ませるが、声と刺激に反応して頭と手足が生えた。
眠いのか そういう造形なのかは分からないが、なんとなくのっそりしている。
そして、挨拶代わりなのか、手の甲に頬擦りされた。
ふっさふさである。
「おぉ……すごく良い手触り…………癖になりそう」
『―――――――― (*^^*)♪』
「ふふっ。『それほどでもある』だって」
眠そうな顔に得意気な雰囲気を乗せるレミィちゃんの言葉を、フォズさんが通訳してくれた。
しばらく撫でさせて貰っていると、不意に起き上がってナツナツに突っ込んでいく。
「ごふぅ!?」
『―――――――― (*^▽^*)』
「ちょ、やめ、こそば、こそばゆ!!!!」
「二人とも、テーブルから落ちないようにね」
まぁ、落ちたところでケガはしないだろう。
邪魔するのも悪いので、好きにさせておくことにする。
「みなさん、もう食事はお済みですか?」
声を掛けるタイミングを見計らっていたのか、オズがそんなことを聞いた。
「ん? まだだけど、もしかしてご馳走してくれるの?」
「えぇ。泊めて貰うお礼に」
「『君らを泊めるのはこっちのお礼だから、宿泊の礼は不要だ』と言うところだけど…………まぁ、どうせなら美味しい食事の方がいいよな。君らにとっても。マヤ姉さん、フォズ、お言葉に甘えてはどうだろう?」
「そうね。お願いしようかしら」
「やたっ。そろそろ お夕飯にしようかと思ってたところだったんです。オズリアちゃん、手伝わせてもらってもいいですか?」
「もちろんです。よろしくお願いします」
『ルーシアちゃんとセレスさんは、こちらで休んでてください』と告げると、フォズさんは嬉しそうにオズの手を引いてリビングから出て行った。
その二人の後ろを、マヤさんが楽しそうに付いていく。
「お茶でも飲むかい?」
「うん、ちょうだい。あ、でも、先に御手洗い貸してくれない? うがいと手洗いしたい」
「あ、私も。ココ君、私の分もお願いね」
「あぁ、いいよ。場所は分かるよね?」
「うん、ありがとう」
「じゃ、ちょっと失礼~」
「ココネ~、あたしにもちょ~だ~い」
「はいはい」
………… 御手洗い中 (隠語ではなく) …………
「ふぅ、すっきり。ありがとう」
「どういたしまして」
「…………ルーシー、その流れで『すっきり』は色々想像しちゃう。きゃっ」
ハンカチで手をふきふきしながら戻ってきたら、サリーさんがアホなことを言ってきた。
「あら、そうなの。ちょっとお姉さんとお話ししましょうか」
「口は災いの元ーーーー!!!!」
「懲りないな」
にっこり笑った義姉さんがサリーさんの隣へ座る。
私はココネさんの正面のイスに腰を落とした。
「はい、お茶」
「ありがとー」
「ちょ、待、ルーシーへるぷへるぷ!!」
「あらあら、助けが欲しいの? あの子には休んでて欲しいから、私が助けてあげるわよ?」
「ミドリス一周はどうだった? 僕らは、国境近くに行ったことがなくてさ。興味あるんだけど」
「そだねー」
「聞いて~~~~!!!! むぐぅっ!?」
「そんなに大きな声を出したら近所迷惑でしょ? 静かにしなさい」
義姉さんは、器用にイスに座ったままサリーさんの身体と口の拘束を両立させている…………
熟練の誘拐犯みたいな動きだ。いや、ギルド員としての技能なんだろうけど。
ココネさんが特に気にしないようなので、私も気にしないことにする。
「ほとんど行って帰って来ただけだから大したものが見れた訳じゃないけど、東の『ナユタル湖』、南の『飽饒の樹海』、西の『荒涼の砂海』、北の『寂寥の奈落』は見てきたよ。何て言うか、『世界すげぇ』って思った」
「四大絶境か。いいなぁ、僕もいつか見てみたいよ」
「そうそう、それそれ。
例えばナユタル湖はねえ、対岸が見えないくらい広いのは知ってるかもだけど、水平線に沿って南から北までずぅぅぅぅっと雲の群が漂ってるの。綺麗な白い綿雲で、その下はずぅっと土砂降りの天気雨なんだってさ。だから、ナユタル湖から戻ってくる船は全部びしょ濡れなの」
「へぇ、それはすごいな。そういえば、ナユタル湖は雨水が溜まった大淡水湖って聞いたことあるけど、その辺のところどう?」
「否定する要素はないかなぁ。周りに高い山脈とか流れ込む川とかもないし、雨は確かに凄いし。あ、ちゃんと淡水ではあった。山脈とか川は、全部見た訳じゃないけど。
ちなみに、ナユタル湖は貿易以外に漁業も盛んで、魚料理が多かったよ。シンプルに焼き魚が美味しい」
「お、いいね~。この辺でも川魚は売ってるけど、高いからね」
「干物でよければあげようか? 『炙れば、お酒の当てに最適』だってさ」
「ぜひ」
ココネさんの調子の良い相槌に気が良くなって、[アイテムボックス]から干物を数枚取り出す。
「ナユタルサーモン、飛びナマズ、瑠璃色ホタテ、キャンサーロブスター……」
「多い 多い。しかも、ひとつひとつが大きいし」
「大きさは私の責任じゃないよ。このサイズで売ってたんだもん」
ココネさんは、机に並べた干物の内、ナユタルサーモンを手に取って持ち上げる。
「うっわ、思った以上にでかっ。これ、切身なのに僕の顔以上あるじゃないか」
「漁網のサイズが、子魚が潜り抜けられるようなサイズばっかりだったからね。そのサイズは標準だよ。
ウソかホントかは分からないけど、『見覚えの無い陸地があったから上陸したら魚だった』っていう逸話があるくらいには、大物が溢れてるね。さすがに『上陸』は眉唾物だと思うけど、そのくらい大きな魚がいても不思議じゃなかったな、ナユタル湖は」
何しろ、市場なのに切身しか売ってなかった。
分かるだろうか? つまり、切身にしないとまともに並べられないのである。
最低1mの魚しか水揚げしてないんじゃないかな?
「どれいる? 全部いる?」
「あー…………じゃあ、一切れずつ貰おうかな」
「じゃあ、ここの全部あげるね」
「確かにこれも一切れだ!?」
はっはっはー。驚いたか。
あ、そうだそうだ。
「ココネさんたちは、お酒好き?」
「好きだけど、ちょっと待って。さすがに貰い過ぎだよ」
「ふっふっふー。そう言うと思ってたけど、ちょっと違う」
「うん?」
疑問符を浮かべるココネさんの前に、やはり[アイテムボックス]から酒瓶を取り出す。
それは、酒屋とかで見かける大きなものではなく、500mlくらいの小さな酒瓶だ。
ただし、中身の異なる30種の詰め合わせ。
「…………なにコレ」
「オズが造ったお酒」
「あの子はどこを目指してるんだ!?」
あー……神? オズ母次第だけど。
まぁ、それは置いておいて。
「いや、ホントはお酢を作るつもりだったんだけど」
「『そうか、なら納得だな』とはならないぞ?」
「いや、そうではなくてね? お酢を作る前に、一回お酒を作る必要があるんだけど、義姉さんが『じゃ、お酒も美味しいの作ってよ』とかって言うからさぁ~」
「子供になに作らせてんだあの人は…………」
「あれ? 飲酒に年齢制限なんてあったっけ?」
「無いが限度というものがあるだろう。そもそもオズリアは酒が飲めるのか?」
「飲めるけど、好きじゃないね。私も」
「なら味見も出来ないだろう。どうやって『美味しい』酒を作るつも…………そういうこと?」
「半分くらい?」
酒瓶の詰め合わせ、もとい試飲セットにアンケート用紙を付けてココネさんに差し出す。
「ちょっと、意見を集めたのがお金持ちばっかりだったんで、ラインナップが高級酒に偏ってるんだよね。安酒……っていうとアレだけど、庶民が気軽に飲めるレベルの意見が欲しいんで、よろしく。主観で良いんで」
「了解。こんなお願いなら大歓迎だよ。もしあるなら、知り合いの冒険者にも頼もうか?」
「販売ルートが確立してないから、私たちから直接 購入するしかないけど、それでいいなら」
「あー……他のヤツら欲しい場合は、僕経由でルーシアたちに頼む必要があるのか」
「面倒だよね」
「まぁ、なんとかなるだろ」
「そう? なら、数セット分は置いておくよ。知り合いに配ってもいいし、自分たちで飲んでもいいから。飲む順番とか飲んだ時の体調とかで、感想も変わるだろうしね~」
「了解。その辺も出来るだけ詳しく書いておくよ」
残りの試飲セットをここに出すのはさすがに邪魔なので、夕食後にでも適当な場所を聞いて出しておこう。
良い感じに話が一区切りついたところで、オズたちが料理を持ってやってきた。
「おまちどおさまです。今日のお夕飯は、なんとなくお姉ちゃんが魚気分っぽかったので、魚尽くしです」
「き、緊張しました……」
「この辺じゃ高級食材なのよ、魚は。なのに、次から次へと出てくるってどういうことなの……?」
ニッコリ笑顔のオズに比べて、憔悴してる感が半端ないフォズさんとマヤさん。
いや、産地で購入したから、王都で売ってるお肉と同程度のお値段なんですよ?
というか、王都周辺で狩ったオークが、向こうでは逆に高く売れたから、これだけ買っても収支はプラスなのよ?
オズたちが作ってきた料理は、三種類。
魚介のトマトスープ、サーモンムニエル、鯛のカルパッチョ、である。
ナユタル湖周辺の街ではメジャーだった料理だ。
「ありがとう、オズ。フォズさんにマヤさんも」
「いえ、最近はお姉ちゃんが作る機会が多かったですし」
「魚料理は不慣れすぎて、ほとんど雑用しか手伝えませんでした……」
「同じく」
「う~ん、相変わらずの非常識っぷり。フォズ、マヤ姉さん。細かいことは気にしないことにしよう。疲れるだけだよ」
「…………なんとなく、失礼なことを言われてる気がする」
「多分当たってると思います。ところで、サリーさんとお義姉さまは、何があったんですか?」
「「「「ん?」」」」
言われてみれば、サリーさんが義姉さんに絡まれてからここまで、二人からの反応がなかった。
サリーさんが義姉さんをどうこうできるとは思えないから、どうせ義姉さんがサリーさんを弄り倒してるんだろうと思ってたけど…………
わざわざオズが話題にするとは、如何に?
ココネさんと揃って視線を向けると…………
「…………………………………………」
「お姉~さま~♡」
「……………………どうしてこうなった?」
私たちが聞きたい。
そこには、遠い目をした義姉さんと猫のように甘えるサリーさんがいた。
「何したの、義姉さん」
「分かんにゃい…………あらゆる抵抗を無慈悲に押さえ付けて、揉みまくっただけ…………のつもりなんだけど、なんでこうなるの?」
「それが原因じゃね?」
ポッキリ心をへし折られて、現状を受け入れちゃったのでは?
「おい、サリー?」
「えへへ~……お兄ちゃん。あたし、この人のお嫁さんになるね」
「サリーちゃん? サリーさん? 私、女。結婚、出来ない? オーケー?」
「…………………………………………」
「オーケー、お姉さま。結婚できなくても、お嫁さんにはなれる。オーケー、理解した」
「私が理解できないんだけど!?!!」
分かる。分からんけど。
そんな二人の様子を見て、額を軽く押さえていたココネさんは……
「……………………セレスさん」
「なによ? というか、アンタも自分の妹どうにかしなさ」
「僕の妹をよろしくお願いします。サリー、幸せになれよ」
「えへへ~、ありがと、お兄ちゃん♡」
「おいこら兄ぃぃーーーー!!!!」
そっと自分の目元を拭って、うちの義姉に頭を下げた。
そっかー、サリーさんが義姉かぁ。この場合、ココネさんは私の義兄になるの? …………まぁ、いいか。
「…………そろそろ夕食にしようか」
「そうですね」
「スープだけ先に取り分けちゃいますね」
「あっと、器忘れたわ。取ってくるわね」
「あ、マヤ姉さん。僕も行くよ。あと、これ。ルーシアたちにもらったお土産」
「ちょ……!! こら、アンタたち!? ここで話終わりにするの!?」
「えへへ~♡」
「『えへへ~♡』じゃない!!!!」
……………………念のため説明しておくと、サリーさんは次の日には元に戻ってた。
若干、目が妖しかったけど。
ちなみに…………
「今回は、見逃してあげるね~♪」
「ごく普通の会話しかしてなかったと思うんだけど、ありがとうとは言っておく……」
ナツナツがココネさんの肩の上で、言動を監視していたのに気付いたのは、割と後になってのことだった。
鯛は海水魚? きっと、この世界には淡水に適応した種がいるんですよ……




