第223話 ゴーレム娘、特別運搬クエスト完了報告③
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一度ハーブティを飲んで一息吐いたナタリィさんが、金平糖を口の中でころころさせながら話を続けた。
「後は…………契約外のアレコレかしら」
『かりっ』と噛み砕いた音が、微かに届く。
「あぁ、そうですね。私は、どちらかというとキング・ゴブリンの双剣よりも、そっちの方が気になるかも?」
「『複合武器の啓蒙』と『武器貸与制度の導入』ですね」
「あ、それ、私も気になる。テモテカールでは、結構すんなり行ってるみたいよ?」
「あら、羨ましい。こっちは難航してるわ。まぁ、予想通りね……」
『はふぅ……』と、あからさまにタメ息を吐いて、テーブルに頬杖を突いた。
…………それは、契約を締結した次の日のこと。
素材の引き渡しなどのためにギルドに行った際、話題に上がったあることを端に発している。
前日はココネさん…………というか、フォズさん家にお泊まりしたので、そのまま7人でギルドにまで出向いた。
そこで支部長も交えて素材の査定などをしていた時に、ナタリィさんとココネさんたちの間で、私たちが貸した武器の話になってしまった。
ナタリィさん的には、『え゛、キメラ武器なの? 大丈夫? ソレ……』と、よくある反応だったのだが、支部長は違った。
『ほぅ…………興味深いな。ちょっと見せてくれないか?』と、ココネさんとサリーさんの了承を得た上でフォースソードとグリズリソードを手に取った。
そして、矯めつ眇めつ あらゆる角度から眺めたり、二人に使い勝手や好悪を聞いたり、素振りをしてみたり、果てには試し斬りをしたりした結果…………何かのお眼鏡に叶った。
その『何か』というのが、つまるところ『複合武器の啓蒙』と『武器貸与制度』である。
冒険者というのは、無資本でも始められる、とても間口の広い職業である。
なにしろ、それなりのステータスとやる気さえあれば、基本的には冒険者として登録出来る。
仕事も、子供でも出来るような簡単なものから始まって、徐々に難しくなっていくため、難易度が理由で『ここで多くの者がふるい落とされる』といった壁が無い。
壁があるのは、ぶっちゃけお金だ。
『無資本で始められるって言わなかった?』と思うかもしれないが、ここで言うお金は、冒険者を始めるのに必要な『初期費用』ではなく、冒険者としての成長していく『発展費用』である。
具体的に言うと、武具の買い替え費用。
Gランクなら、武器は必要ない。ゆえに、誰でもなれる。
E・Fランクになると、店売りの一番安い武器が必要。
Dランクになると、店売りの高めの武器と防具が欲しい。
Cランクになると、自分で狩った魔獣素材+αを使ったCランク武具に買い替え。
B・A・Sも同様に、その都度買い替えていく。
この『武具の更新』は、二段階の問題を発生させた。
まず、Dランク昇格時の問題。
どの程度の武具を選ぶかにもよるが、Dランククエストをこなすのに適したレベルの物を購入するとなると、それまでの武具とは一桁二桁違う費用が掛かる。
プロの道具とアマチュアの道具の差なのかもしれないが、突如跳ね上がる金額に二の足を踏んでしまうことは、想像に難くない。
加えて、Eランクのクエスト報酬では、なかなか必要金額が貯まらないことも拍車を掛ける。
結果、Dランクに上がったものの、装備更新はしないでEランククエストのみをこなす兼業冒険者が誕生する。
次に、武具の維持の問題。
昔、偉い人は言いました。『武器は消耗品。いずれ壊れる』と。
まぁ、それ言ったのおじいちゃんなんですけど。
私は何の奇跡なのか『素材を喰らって自己修復する武器』なんてモノを手に入れたり、回避主体の立ち回りをしたりするので実感しづらいが、普通 武具は徐々に劣化していく。
特に、武器は顕著だ。メンテナンスをしなければ、早ければ半年程度で使用に堪えなくなる。
魔導士用の杖でさえ、発動した魔法の余波を受けて、近接武器と同程度の早さで劣化する。
そして、しっかりとメンテナンスをしていたとしても、いずれ限界は訪れる。
メンテナンスは、武具の寿命を延ばす行為でしかないということだ。
冒険者というものは、武具の寿命に追われながら生き続ける仕事、と言えるのかもしれない。
このメンテナンス費用というのが、結構バカにならないのだ。
加えて、さらに上位ランクを目指すなら、より上位の魔獣との戦闘は避けられず、武具の消耗は加速する。
その結果、武具の寿命に追いつかれて、冒険者を続けられなくなる者も少なくない数 存在するのだ。
『それを見越して予備を造っておけよ……』と言われればその通りなのだが、分かりやすく『武器耐久度』みたいなのが表示されるでもなく、うまくいけば一度も使用することなく廃棄することとなる予備品をわざわざ用意するのは、『勿体無い』と言って渋る冒険者は割と多い。
統計がある訳じゃないが、過半数はそうなんじゃなかろうか。現にココネさんたちもそうだったし。
以上。
冒険者というものは『始めるは易し、継続は難し』の、意外と大変なお仕事なのです。
冒険者ギルドとしてもこのことは重大な問題として認識していて、あの手この手の対策を実施しているが、現状 上手く行っていない。
例えば、武具購入代金の貸付制度。要するに、低金利の借金で利用者数は多い。
だが、低金利であるため、この制度は基本的にギルドの利益にならない。どころか、たまに赤字になる。
返済する前に再起不能になる場合もそうだが、持ち逃げする不届き者もまた存在するのだ。
『冒険者を辞める前に借りて地元に戻り、ギルドに二度と顔を出さない』とかされると、消息を掴みようがない、とのこと。
例えば、中古の武具の買取 及び 販売。要するに、予備品 売買の仲介だが、こちらはあまり利用者がいない。
高ランク冒険者にとっては、万一の保険として予備品を置いておけるし、不要となっても掛けた費用が一部だが返ってくる。
低ランク冒険者にとっては、多少の調整は必要だが、トータルで考えれば安く武具が手に入る。
どちらにとっても良い事尽くめに思えるのだが、そもそも最初に高ランク冒険者が懐を痛めて予備品を用意するところから始めないとならないため、冒険者側の意識が変わらずなかなか浸透しない。
どの問題も結局のところ、問題は『武具が高い』に帰結するのだが、ギルド・素材屋・鍛冶屋等々で不当に利益を上げている所が無い以上、なかなか改善するのは難しい。
そこで複合武器ですよ、奥さん。…………奥さんって誰だよ。ナタリィさんか?
まぁそれはさておき、複合武器は複数種の魔獣素材を組み合わせて作成された武器のことだ。
例えば剣を造る場合、『Aの魔獣素材は、刀身の母材に向いているが刃には向かない』、逆に『Bの魔獣素材は、母材に向かないが刃には向く』といったように、武器の各パーツに適した使用先がある。
当然 単一武器だと、使用に適さないパーツにも同一の魔獣から取れる素材を選ばなければならないため、どうしても強度的に脆い部分が生じてしまう。
それを解決するのが複合武器で、要は各パーツの適性ごとに異なる魔獣素材を使用した武器ということ。
至極 真っ当な理屈だと思うのだが、この国の人たちはこれを嫌がるのだ。むぅ……
まぁ、武具は信用第一だからね。根拠のない迷信でも、使用者が気になるのであれば、その武器は信用できない欠陥品でしかないのだから仕方がない。
で、話を戻すけど、魔獣素材には『使用に適したパーツがある』ということ。
それはつまり、低ランクの魔獣素材で造った複合武器であっても、高ランクの魔獣素材で造った単一武器に匹敵する……可能性もある、ということ。
さすがに、ひとつ上のランクくらいまでだろうけど。
これは単純に、同一ランク帯の冒険者の攻撃力を全体的に底上げできるだけでなく、ランクが上がった際にもメリットがある。
例えば、冒険者にとっては『上位の武器を一から丸ごと造るよりは費用が安い』という点。
例えば、鍛冶師にとっては『作業が短時間で終わり、別の仕事を引き受けることが出来る』という点。
例えば、素材屋にとっては『本来、破棄していた端材が利用できる』という点。
例えば、ギルドにとっては『武器単価が安くなるので、貸付制度の損失が少なくて済む』という点。
このように、冒険者・鍛冶屋・素材屋・ギルドのどこも損をしない、理想的な解決策に思えるが…………ここで複合武器の悪印象が立ち塞がる。
先程も言ったが、武具は信用第一。
どんなに金銭的メリットがあるとしても、自分の命を預ける相棒に僅かでも不信が混入することは、排除したいのが人情。
根拠の無い迷信でも…………いや、迷信だからこそ、道理を除けて優先する者は多い。
そして、冒険者がこんな傾向なのでは、鍛冶師も堂々と『複合武器 取り扱います』とは言いづらい。
ギルドとしても、選択肢を提示できても、強要はできない。
このような背景があるために、複合武器の使用はアイディアとして上がっても、形にはならなかった。
支部長としても、あまり良い印象は持っていなかった、らしい。
どちらかというと支部長の方は、迷信云々ではなく強度的・技術的な信用が無かったようだが。
そこに、複合武器を持った私たちが現れた。
しかも、私たちは元より、ココネさんたちも殊更に嫌悪感は抱いた様子は見られない。
まぁ、ココネさんたちにしてみれば、絶体絶命の闘いを乗り越えた相棒でもある。貸した当初よりも、印象は良くなっていたのだろう。
迷信なんてその程度だ。
支部長も試し斬りまでしてみて、予想外にしっかりとした手応えに、強度や技術的な疑念は薄くなった。
そして、ココネさんの例がある通り、心理的な嫌悪感、つまりネガティブイメージは、ポジティブイメージで覆される。
ココネさんたちは、支部長が以前告げた通り、将来を期待する有望株だ。
そんな人達が複合武器を使用して輝かしい成果を上げていくのなら、『もしかして、複合武器が凄いのか?』『俺も使ってみるか?』と思う人も出てくるはずだ。
そう考えた支部長が、ココネさんたちに『王都における複合武器の先駆者』になることを依頼したのだった。
一応、支部長本人は、ココネさんたちが断ったら別の人に話を持っていくつもりでいたようだが、私と違って一般常識があるココネさんたちが、支部長に面と向かって『嫌です』と言えるわけもなく…………
『お任せください!!』と、一見 快諾したかのように返答してしまった。
私たちは、彼らが帰宅後に頭を抱えていたのを知っている。
で、当然、そんなことを依頼する立場になった支部長が、フォースソード等を正式にココネさんたちの所有とするために、購入費を立て替えてくれた。
さらに、『複合武器を普及させるには、それを扱える鍛冶師も必要』ということで、製作者 = チコリちゃんを紹介させられた。
事前に、お義父さんやチコリちゃん (正確にはチコリ父) と書面でやり取りしてもらって、後日ギルド所属の鍛冶師数人を引き連れてテモテカールまで護衛した。
私が知ってるのはそこまで。
チコリ父と鍛冶師たちを引き合わせたら、私たちはそのまま特別運搬クエストに出発したので、王都側がどうなったのかは不明だが……まぁ、あまり芳しくないのだろう。
複合武器についてはそんなような流れがあり、王都とテモテカールの冒険者ギルドでは、その啓蒙に力を入れているというわけ。
あ、ちなみに、売っちゃったグリズリソードとフォースソードは、特別運搬クエスト中に素材が入手できたので補充済みです。
ついでに、武器貸与制度は、ココネさんたちのように、『武器を失い、予算も残っていない』という冒険者のために、冒険者ギルドに予備を確保しておこう、というもの。
単一武器は今まで説明してきた通り、比較的高価だし持ち逃げする不届き者もいるしで、数を確保できない問題があったのだが、複合武器ならそれらは解消できる。
だから、こっちの成功も結局は、『複合武器を如何に普及させるか?』に掛かっているのだ。
……………………ちなみに、最初にチコリちゃんたちに書状を持っていったら、中を一読してフリーズ。
その後、深~~~~く永~~~~いタメ息を吐くと、反応を待っていた私の両頬を慈しむように両手で挟み、ゆっっっっくりと時間を掛けて抓り上げられて、じっとりねっとりこってり怒られた。
『こういうのはさ…………紹介する前に…………普通……相談……す・る・も・の・だ・よ・ね・ぇ・ぇ・ぇ・ぇ・ぇ・ぇ・ぇ・ぇ!!!!!!!!??????』
『ひょめんふぉんふぉふるひてほんほほめひにゃああああああああ!!!?!!!?!!!?!!!?』
『チコリ。次、俺な』
…………てな感じで。
ちょーいたかった。
テモテカール側の状況は、この前戻った時にちょっと確認したが、フィンメル・アルバを中心として、複合武器は広く受け入れられつつあった。
『複合武器 取り扱い始めました!!』と堂々と宣言してる鍛冶工房も少なくなく、結構繁盛している模様。
お義父さん曰く『大体半々くらいだな』程度には普及したみたい。
心的嫌悪から、既存客が離れてしまうんじゃないかと心配していたけど、そこはどうやら杞憂だったらしい。
『よくよく考えたら、ルーシーちゃんたちが堂々と使ってるもんね。尋常じゃない成果も上げてるし。みんな、気にはなってたみたいだよ』
『というか、チコリとおめぇらで、専属契約しただろ? 当然、複合武器について聞かれたら、その辺も話題になってたんだよ。ただ、そのせいで『複合武器の生産・管理は、人形遣い専用』って誤解も広まってたらしくてなぁ…………高ランクの武器作成は断ってたのも一因だとは思うんだが。そのせいで、潜在的に関心は高まってたみたいなんだよ』
低ランク冒険者には造ってたはずなのに、なんでだろうね?
でも、そんな状況下で、『複合武器 取り扱います』宣言したら…………そりゃあ、殺到しますよね?
『仕事に殺されるかと思った……』とは、チコリちゃんの先輩鍛冶師たちの弁。
ただそのお陰もあって、高々二ヶ月程度で彼らも単一武器とそう変わらないくらいの技術力を身に付けられた、とのこと。
また、他の鍛冶工房から技術指南の依頼もあったらしいが、仕事に殺され掛けていたチコリちゃんたちに応える余裕は無く。
鍛冶師ギルドと協力して、まずギルドの職人に伝授。その後、伝授された職人さんが、技術指南役となって対応したそうだ。
技術の普及状況は、チコリ母情報によると、
『製作まで請け負ってる工房は、まだ半分くらいね。人形遣いさん!! でも、メンテナンスだけなら、もうどこの工房でも請け負ってるみたいよ。人形遣いさんと妹ちゃん!! いやぁ~、チコリが貴女たちと知り合ってほんっとうに幸運だったわ。これからも、フィンメル・アルバ!! をよろしくね。複合武器の先駆者にして、数々の成果を上げてきた人形遣いの姉妹ちゃん!!』
『いちいち宣伝を挟まないで貰えます!?』
とのこと。
ちなみに、この時工房にいた冒険者全員に、恐ろしいくらいに揃った動きの祈りを捧げられた。
私たちの知らないところで、密かに広まっているらしい…………誰だ、考えて広めたヤツ。
『(お義母さまです……)』
今では、チコリ母の堂々とした陰ながらの努力の賜物で、フィンメル・アルバは複合武器の老舗工房みたいな目で見られているらしい。
『いやいやいや…………そんな熟練の職人技みたいなの…………ちょっとしかないから』とは、チコリちゃんの弁。
『一鍛冶師として『職人技なんて持ってない』とは言えない…………でも、そのせいで期待が高過ぎて……うっ、お腹が……』
……………………マジでごめん。キング・ゴブリン素材は《下剋上》で消えちゃったけど、別のBランク素材を渡したから、それで許して。
まぁ、こんな感じで、テモテカールの方では、結構普及が進んでいたりする。
「やっぱり昔っから『キメラ武器は縁起が悪い』『キメラ武器は呪われる』とか言われてきたから、貴女たちみたいなぶっ飛んだ成果でも上げなければ、簡単には心変わりしないわよね。
鍛冶師ギルドの方も、冒険者がそんなだから、あんまり乗り気じゃないし…………
あぁ、でも、国外から来た冒険者は歓喜してるみたいで、わざわざテモテカールまで行って造ってもらって来てる人もいるみたいね。メンテナンスなら、こっちのギルドでもできるようにはなったから。
ココネたちがとりあえずの本命だけど、うちの冒険者の誰かが複合武器使ってドドンと一発、でかい成果を上げてくれれば、もしかしたら一気に普及するかもね」
「消極的ねぇ…………ギルドとしては、何かしないの? 『複合武器 使って、得しようキャンペーン!!』とかどうよ」
「ダッッッッサ!!」
「よし、○す」
ガシッ!!
ナタリィさんが回避の初動すら見せられない神速のアイアンクローだった。
そのまま、小脇に抱え込むように頭を引き込み、器用に両手ごと拘束する。
「助けて、ルーシアちゃん!! オズリアちゃん!! 汚されるぅぅぅぅ~~~~!!」
「仲が良いねぇ」
「そですね」
「そうデスよ?」
「いーーーーやーーーー!!!!」
…………大人の女性が本気でお尻ぺんぺんするとエグいですね。
ちなみに、
『ギルっ、ギルドがぁ……強く勧めてぇっ……な、何か悪い結果に、なったらさぁっ…………キメラ武器が悪いってなる、じゃん!! ねぇ!? (泣)』
『そうよね。知ってた』
『わーーーーん!!!!』
とかなんとかもありました。




