第221話 ゴーレム娘、特別運搬クエスト完了報告①
221 ~ 252話を連投中。
10/9(土) 11:00 ~ 18:30くらいまで。(前回実績:1話/13分で計算)
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「はい、クエスト完了受付ました。お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
キング・ゴブリンのクエストから約二ヶ月後……
私たちは、王都の冒険者ギルド 南支部で特別運搬クエストの完了報告をしていた。
場所は通常の完了受付ではなく別室で、処理してくれたのはあの時 貧乏くじを引いていたナタリィさんだった。
私たち担当になってしまっている気がしないでもない。
「では、こちら報酬となります♪」
『ドン!!』という効果音を纏って、なかなかに大きな報酬袋を渡される。
最近 感覚がマヒしてきたが、割と尋常じゃない大金だったりする。
いや、もうこれで八回目だしね。
「金貨なら数えるのも楽なんですけどね…………」
「あら? なら、次から金貨にする? こっちはその方が楽だから助かるけど」
「そうすると、高級店以外で使いにくいから、ノーセンキュー」
「でしょう?」
まぁ、《フル・スキャン》を使えば、硬貨の枚数は一発で分かる。
貨幣の枚数や真贋を見分けるスキル・魔道具は、大きな商店やギルドを中心に広く使われているが、冒険者が取得していることは少ない。
そのため普段であればこういった使い方は控えるのだが、ナタリィさんにはすでに色々と知られているので、気にせず楽をしてしまうことにする。
…………10,000テト銀貨の中に1,000テト銀貨が数枚紛れていた……そう、精度が悪いのか ちょろまかしているのかは不明だが、こういうことが割とあるのだ。困ったことに。
紛れ込んだ銀貨を正しいものに変えてもらって、袋ごと[アイテムボックス]に収納した。
「それにしても、本当に二ヶ月ちょっとで全て終わるとは思わなかったわ。やるわね、貴女の妹たち」
「当☆然♪」
ナタリィさんが (多分) 間を繋ぐために言ったセリフに、でっかい胸を張って得意気になる義姉さん。
それには特に触れずに、ナタリィさんは何度か繰り返した疑問を告げた。
「でも、本当にいいの? 貴女が同行したせいで、昇格ポイントは随分と損をしたわよ? 街道を行けば危険は少ないんだし、任せても良かったんじゃない?」
「いいの いいの。この子たち、ただでさえ一足飛びに昇格してるんだから。今後のことも考えれば、じっくり経験を積ませた方が、後々のためになるわ」
「はー、一足飛びに伝説になった人は、言うことも一味違うわね~」
「あは? 空を不自由に飛びたいなら、遠慮なく言ってくれて良いのよ?」
「ごめん ごめん。私が最近 気に入ってるハーブティでも淹れてくるから、勘弁して」
「あら、良いわね。お茶請けはこちらが用意してあげるわ。東西南北どれがいい?」
「なにそれ超豪華!!」
ミドリスを大体一周しましたからね。どこのお菓子でもより取り見取りでございます。
『戻ったら決めるから!!』と言って、席を外したナタリィさんを見送り、各地方で購入した名産品をリストアップ。
さすがに、生ものは不味いだろうから、日持ちが良さそうなのを…………この辺がいいかな。
「それにしても、大体二ヶ月…………よりちょっと多目か。私的には『誤差範囲かな』ってところだけど、実際のところどう?」
「正確には74日ですね、最初のクエストを受注してから。私は、短くなる方にズレると思ってましたから、『ちょっと想定外』って感じですね」
「それは仕方無いんじゃない? オズが参考にしてた地図情報が古かったんだから。寄り道もたくさんしたし」
「まぁ…………二百年前だし、ねぇ?」
「面目無いです。街の中ならともかく、外はそんなに変わらないと思ってたんですけど……」
約二ヶ月半を掛けて、この国の八方位端まで行った結果…………いくつかのことが確認できた。
まず、ひとつめ。
この国は南北よりも東西に長い偏平型をしている、ということ。
大体、南北:東西 = 1:2 くらい。…………言うほど偏平でもないかな。
南部は、鬱蒼とした木々が生い茂る『飽饒の樹海』と呼ばれる森林地帯が広がり、木々を伐採しながら開拓を進めている地域。
いずれ、火の国と国境を巡って対立する可能性があるが、それはまだまだ先の話である。
とりあえず、火の国と交易を持てる程度には開拓を進めたいと考えているようだが、簡単にはいかないようで、一進一退を繰り返している。
原因は多々あるが、主因はやはり魔獣。『単純に強い』『生息数が多い』『すぐに増える』と三拍子揃っている。
半面、魔獣素材や植物素材が豊富で、ここでしか採れない貴重なものも多い。
北部は、地の国に近いためか鉱山が多く、鉱床を求めて北へ北へと開拓している地域。
いずれ、地の国と鉱山の所有権を巡って対立する…………かと思いきや、こちらは最北端に『寂寥の奈落』と呼ばれる東西に長い断崖絶壁があるため、それ以上は進めず、その心配はない。
代わりに、このまま開拓を進めても、絶対に地の国とは交易できないともいえる。
名産は鉱物資源のみ……と思いきや、塩も採れる。しかも、岩塩ではなく海塩が。
『寂寥の奈落』が遠く海まで繋がっているため、底に海水が流れており、これをくみ上げて食塩化していた。
海面に高低差があるのか、常に一方向の流れがあるらしく、少量だが魚も獲っていた。
東部は、広大な草原地帯が広がる温暖な地域のため、農業が盛ん。
最東端には、水の国との国境に当たる『ナユタル湖』があり、大型船を用いて交易を行っている。
ナユタル湖上では常に雨が降り続けており、その雨水が湖水の主要な供給源と言われている。
こう聞くと常に曇天で、薄暗く陰気な雰囲気の風景を想像してしまうが、綿雲状の雨雲が無数に かつ 疎らに広がっているので、常に天気雨状態。日毎に形を変える虹の絵画は幻想的で、観光を目的として訪れる人も多い。
ナユタル湖があまりに巨大過ぎて、両国合わせても二割程度しか水産資源を活用できていないため、やはり国境争いとは無縁そう。
西部は、王都に近い内は、東部と同様に温暖な草原地帯が広がっているが、離れるにつれて徐々に草木は姿を消し、やがてゴツゴツとした礫砂漠へと変化していく。
さらに進めば、細かい砂塵の吹き荒れる『荒涼の砂海』に突き当たり、生きていくのも厳しい灼熱と極寒の渇いた世界となる。
点在するオアシスに肩を寄せ合うように街があり、砂海を通じて風の国と細々とした交易をしている。
開拓としては、主に緑地化事業であるが、なかなか難航している模様。
なお、そんなだから風の国とも国境争いは無縁。むしろ、砂海を渡るのがキツ過ぎて、交易も断絶しそうな勢いだった。
他三地域と違って得られるものは少ないが、砂漠を構成する砂がガラスや陶器を作るのに適しているとかで、砂材や石材が産出される。
…………さて。
私が『この国の立地は、四方を四大国に囲まれているんだよ』と聞いて、特に疑問にも思わずイメージしたのは、水の国と風の国、火の国と地の国という、東西と南北の二国間貿易の間に入り、円滑な物流経路を維持することで外貨を稼ぐ『貿易国』という立ち位置だった。
ところがどっこい、実際は東側にしか貿易路が開いていない『陸の孤島』とも言える立地に、ちょっと唖然。
守りに堅いと言えば聞こえは良いけど、周囲の国の発展に取り残されていないか、かなーり心配。
まぁ、私のような一般人が気にするようなことでもないけど。
ちなみに、オズ曰く『断崖と砂海はかつての時代には無かったので、文明が滅んだ一因かもしれません』とのこと。
あ、ちなみに、この国と四大国をまとめて『五大国』と呼び、この五国で大陸をおおよそ五分しているらしい。
もちろん、他にも小国はたくさんあるが、この五国のいずれかと同盟を結んでいるので、まぁ、大体あってると言われている。
次、ふたつめ。
空間転移施設をたくさん稼働させた。
その数、実に200余り。多過ぎじゃね?
もう、この国の中ならば、どの街・村へでも数日で訪れることができると言っても過言ではない。
空間転移施設以外の遺跡は見付からなかったけど、いくつか怪しいポイントは発見できたので、そのうち行く予定。
ただ、元々オズが記録していた空間転移施設のある地点に行っても、施設は元より異相空間の存在も確認できなかった場所がいくつかあった。
代わりにあったのは、不自然な空隙やその痕跡だ。
オズが詳しく調べたところ、異相空間構築システムが老朽化した結果、内部にあった施設諸共 異相空間が崩壊して消滅した可能性が高いことが判明。
要は、私が最初にガア・ティークルに入る際にやってしまった『異相空間と《異空間干渉》の不正干渉』。
あれが、施設側の対応無しに続いた場合に引き起こされる災害がコレ、とのこと。
……………………そら、怒られますわな。中身はどこに行くんですか、いったい。
一応、見て回った範囲内では、『誰かが不正に侵入しようとした形跡は見られなかった』とのことだったので一安心。
消滅した遺跡の方は分からないけどね。
次、みっつめ。
妖精 発見できず。
まぁこれは、空間転移施設を稼働させるための寄り道はしたけど、基本的には、ほぼほぼ街道付近をうろちょろしてたせいもある。
その程度の探索で発見できるならシャルドさんも苦労してないだろうし、予想できる結果ではあった。
『ナツナツの痕跡を目印にする』とは言っても、移動した範囲内に妖精の生活圏が無ければ話にならないし。
一応、残念な結果ではあるものの、シャルドさんには報告しておいた。
『気にするな』と言いつつ、シャルドさんが独自に持ってた魔獣や素材の情報をくれたので…………なんとか成果を上げたいところ。
借りばかりが溜まっていく……
あぁ、でも、シャルドさん的には意味はないけど、初めて知った情報はある。
それは『妖精は大精霊の近くに多くいた』ということ。
その理由は不明だし、大精霊周りの妖精たちも姿を消しているらしいし、大精霊に話を聞きに行ける訳もないし…………で、ホントに意味は無いのだが。
シャルドさんが捜している妖精が、そんな遠くから来てた訳でも無いだろうし。
でも、レミィちゃんのような意思を持つ精霊に会えたら、聞いてみるのは良いかもしれない。
問題は、そういう精霊とそうそう会えるものではないというところだけど。
と、そんなことを漫然と思い返していると、ナタリィさんがカップを三つ持って戻ってきた。
「お待っちどおさま。お茶請けは東がいいかなぁ~♪」
「よし、干物にしましょう」
「甘味!! 甘味をぷりーず!!」
「仕方ない……ひとつ、10,000テトね♡」
「たっか!! あと、お金取るとか聞いてない!!」
「輸送に手間が掛かってんのよ、手間が。そう……ポケットに入れるという手間がね!!」
「予想の100倍手間が掛かってないんだけど!?」
ズケズケと遠慮容赦なく、互いに楽しそうに軽口を叩き合うふたり。
話によると、この二人は義姉さんが冒険者だった頃からの知り合いらしい。
パーティメンバーだったという訳ではないらしいけど。
じゃれ合う二人は放置して、取り出した小皿に小分けして配膳する。
「あら、キラキラしてて可愛らしい。なんてお菓子なの?」
「金米糖という水の国からの輸入品です。砂糖を固めたお菓子ですけど、甘過ぎなくておいしいですよ」
「へー」
小皿に広げた金米糖をひとつ摘まみ上げて、ひょいと口に放り込むナタリィさん。
ころころと口の中で転がすと、みるみる笑顔になった。
「美味しいわね、甘さ控え目で。キャンディとは違うのね」
「お土産に一瓶差し上げますよ」
「ホント? ありがとう。今度、仲間内で分けるわね」
人数が不明なので、購入した中で一番大きい瓶を渡しておく。
そこそこの重さがあるはずだが、灯りに透かすように軽々と掲げてうっとりしている。
綺麗ですよね、金平糖がうっすらと光を透過してキラキラしてて。
ちなみに、全くの偶然だけど、10,000テトくらいした。




