第21話 ゴーレム娘、勧誘される
13 ~ 23話を連投中。
2/11(月) 13:40 ~ 17:10くらいまで。(前回実績:12話を3時間半)
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「まずいなぁ……昇格ポイントが貯まらん……」
Fランクの掲示板の前でぼやく。
例の『狩りまくりイベント』とやらまで残り一週間。
このペースだと、イベントまでにEランクに上がれない……
このイベント。
セレス的には積極的に推奨する気はなかったらしいが、『別に止めはしないけど、参加するなら、気を付けなさいよ。あんまり目立たないように』と言って許可してくれた。
『狩った魔獣を[アイテムボックス]に仕舞ったりしなければ大丈夫でしょ』とのこと。
…………身の安全は?
……………………ま、まぁ、まだガアンの森に入ったことは無いけど、追い立てるのは草食魔獣ばかりらしいし、そんなに危険は無いんでしょう、多分。
今は、そのイベントまでにランクを上げるべく昇格ポイントを稼いでいるのだけど、Gランクの時と異なり、なかなか苦戦している。
…………いや、あのときはグレイス君が、昇格に必要なポイントの半分以上を貢いでくれたから簡単に終わったのであって、実際はこのくらい苦労するはずだったのかもしれない。
セレスも『半月は掛かると思った』と言っていたし、普通なら二週間くらい掛かるのが、妥当ということなのだろう。
Fランクのクエストは、例えば『フェルル草の納品』では、最低ノルマが10束。そこから2束増える毎に、昇格ポイントが1加算される仕組みである。
つまり、一日がかりで20束納品しても、得られる昇格ポイントは5である。
ちなみに、高品質品だったとしても、報酬は上がるが昇格ポイントに影響はない。
これだけだと、単純計算で20日掛かり、イベントに間に合わない。
もちろん、すでに昇格ポイントはいくつか稼いでいるし、複数クエストの同時完了も狙ってはいるものの、それを考慮したとしても間に合わないっぽいのだ。
え? グレイス君のクエストを受けたらいいって?
残念ながら自分のランク未満のクエストをこなしても、昇格ポイントは入らないのだよ……
他の手としては、高ランクの依頼を受けるという方法もある。
ランクが高い分、昇格ポイントも多目に入るが、基本的には自分のランク以上のクエストは受注できない。
唯一の例外は、クエストランク以上のランクの冒険者と受注すること。要するに、高ランクの冒険者パーティに入って、一緒にクエストを受注すること。
ただし、この場合、パーティ内で最も高い冒険者ランクとの差に応じて、得られる昇格ポイントも減る。
具体的には、ランク差が一だと10%減、二だと30%減、三だと50%減、四以上で一律100%減である。
まぁ、尤も…………臨時でも『パーティを組みませんか?』と持ち掛けられる相手に、心当たりはないんだけど。
……………………諦めるしかないかなぁ……別に、Fランクだから受注できないって訳でもないし。
そんな結論に達しつつあると、
「いたーーーー!!!! 狙い目ローーーール!!!!」
ビックーーーー!!!?
突然 大きな声が響いたので、冗談のように飛び上がってしまった。
『こんな朝っぱらから騒ぐバカはどいつだ』と視線を巡らすと、最近 存在を認識した冒険者の一人がこちらを指差している。
ルーカスだ。(もう、敬称はつけてやらん)
背後にいた三人と共に、ルーカスたちがゾロゾロとこちらへやって来た。
「おはようございます。ルーカスさん 改め ルーカスとその仲間達」
「なんで呼び捨てに!?」
「いきなり人のことを指差して、大声を上げる人に敬称は不要でしょう。他の三人にはちゃんと『さん』を付けますよ」
「くっ……反論できねぇ」
ルーカスが大袈裟に落ち込むのを横目に、三人に聞く。
「それで何か用ですか?」
「うちのリーダーがごめんね。バカなのよ」
「戦闘では頼りになるんだけど」
「リーダーとしての能はある。ただただ デリカシーが無いだけなんだ」
「お前ら酷くね!?」
仲間にズタボロに言われるリーダーの明日はどっちだ。
「大丈夫です。私の中のヒエラルキーが、ガツガツ下がっていくだけですから」
「それ大丈夫じゃなくね!?」
「いいからルーカスは黙ってて。あのね、私たちとパーティを組んでくれない?」
ルーカスをバッサリと切って捨て、リリアナさんがそんなことを切り出した。
「? なんでです?」
「キミの収納魔法を見込んでの頼みだ。この前、『あとちょっとでCランクに上がれそう』と言っていたのを覚えているか?」
「えぇ。まぁ。それを聞いて、私もEランクに上げようと頑張ってるところですから」
キリウスさんの言葉に、当然の如く頷く。
あの会話が無ければ、『フェルル草納品20日コース』でも、特に気にしなかったろう。
そもそも、イベントを知らぬまま過ごしていたかもしれない。
「ちょっと想定外。昇格ポイントが足りない」
「あなた達もですか……」
「うん。それで堅実に収集クエストでポイントを稼ぎたいんだが、収納量に不安がある」
「それで私ですか……」
猪が二体入る収納魔法・アイテム袋は、実は低ランク冒険者では珍しいことが判明している。
Cランク以上なら それくらいのアイテム袋は必須になってくるが、Dランクでは もうワンランク下のアイテム袋で十分だ。
収納可能量に比例して、値段もそれ相応に高くなるし。
その結果、時々勧誘されることもあるのだけど、当初の予定通り全て断っていた。
「お前が勧誘を尽く断ってソロでやっているのは知っているが、一回だけ手伝ってくんね?」
「一回で済みます?」
「ベターはお互いのランクが上がるまで。ベストはその後も」
「ベストは無いかな……」
「さよか。なら、ベターの方だけでも検討してくれると助かる」
「うーん……ちょっと保護者に相談します」
「保護者?」
首を傾げられたので、『ちょいちょい』と指をさす。
四人が釣られるように その先に視線を向けると、そこには笑顔でこちらを手招きしているセレスがいた。
『ピシリッ』と擬音を響かせて固まる四人。特に、騒がしくしたルーカス。
「お、おぅ……あの人か……」
「元最年少Aランク冒険者にして、現ギルド長の娘」
「噂通りとんでもない人に囲われているな」
……………………知らんかったよ。
四人を引き連れてゾロゾロと向かう。
「まず、ルーカス。アンタ うるさい」
「す、すいません……」
笑顔の裏から怒りを覗かせる高等テクニックで、ルーカスを威圧するセレス。
気付かない振りをして、先程の件を相談する。
「セレス~……この人たちのパーティに誘われたんだけど……」
「ホームパーティ?」
「違うわ!! 臨時の仲間に誘われたんだけど」
私か? 私が悪いのか?
「冗談 冗談。見てたわよ。で? 貴女はどうしたいの?」
あっさりと怒りを引っ込めて、愉快そうな顔でそう切り返される。
「私もイベントまでにランクアップが間に合わないから、渡りに舟なんだけど、別に絶対ランクアップしなきゃならない訳じゃないからどうしようかな、と」
「ふむ……貴方達、二ランク差でしょう? 減点されたとしても、この子がソロで頑張るより昇格ポイントを稼げる当てはあるの?」
「はい。あります」
と、ルーカス。
なんだ、真面目な会話も出来るんじゃん。
「ガアンの森の奥地に、薫茸が群生している場所があります。同時に食用のベイルシメジやそれを狙う魔獣を狩れば、自分達だけでも20は稼げる予定です。彼女が何もしなくとも14は得られるので、Fランクをソロでやるよりは稼げるはずです」
20!! 羨ましいね。こちとら、頑張っても5とかなんだけど。
「その子、まだFなんだけど、戦闘になったらどうするの?」
「自分が専属で護ります。槍士ですが、貴女と同じで楯付きですので、楯士と同様の働きは出来ると思います」
「攻撃は普段、援護に回っている自分が出る。身体強化すれば、そこそこの働きは出来るはずだ」
キリウスさん、生命魔道士なんですね。
タチアナさんと同様、接近戦も出来るんだろう。
「ふ~ん……」
ルーカスたちの話を聞き、腕を組んで考え込むセレス。
多分、最悪の状況…………『私がゴーレムであること』と『ナツナツがいること』がバレた場合の、様々な可能性を考えてくれているんだろう。感謝しかない。
「…………その子、私にとって妹みたいに大切な子なのよ。だから、貴方たちが誠実で堅実なパーティなのは知ってるけど、釘も刺さずに『はいどうぞ』とは言いたくないわけ」
「それは…………そうですね」
「セレス……」
過保護とも言えるセリフに、ルーカスたちには悪いけど、ちょっと嬉しくなってしまった。
「とはいえ、全ての人付き合いを制限していては、その子のためにならないわ。だから、ひとつ条件を設けます」
「…………なんでしょうか?」
堅い顔をしたルーカスに答えず、セレスは机の下からひとつの木箱を取り出すと、こちらに向けて蓋を開ける。
そこには、紫色の魔石がひとつ入っていた。
「ルーシア。腕出して」
「あ、はい」
「逆」
「先に言ってよ……」
セレスに言われるがままに、左腕を突き出した。
そこには、以前ギルド長から貰ったブレスレット型の非常時連絡用魔道具がある。
セレスは、それの空いたスロットに魔石を固定した。
「詳細は秘密だけど、これはこの子が危険に陥った際に私に連絡がくる魔道具。もちろん場所も分かるし、絶対に外せない。言いたいこと分かるわよね?」
「はい。もし、自分たちが手を出したり護りきれなかったりしたら、貴女が速攻で救出にくる。そういうことですね」
「えぇ。ついでに、ギルド長も来るから」
「万全ですね」
『にっごり』という擬音が見える笑顔で、ルーカスを威圧するセレス。
引き攣った笑いを返すしかないルーカスだが、なんとなく呆れているようにも見える。
過保護でごめんね?
でも、『危険に陥ったら連絡がいく』機能は、元々ブレスレットに付いていた機能のはずだ。
あの魔石は多分、他の機能を追加するものだと思うんだけど、私にその説明をしなくていいのかな……?
『一度 ルーカスたちと別れて、セレスに話を聞いた方がいいのか?』と考えていると、
『ルーシアナ~』
『!?』
ひょっこりセレスの肩からナツナツが現れた。
ビックリして思わず声を上げるところだったよ……
『セレスから伝言? メモ? まぁ、そんなとこ~。『その魔石は、周囲1mを強力な結界で囲う魔法。万一の時は、それで耐えて』だって』
『なるほど。なら、使う前にナツナツを呼ぶから、急いで近くに来てね』
『今日はずっと肩に乗ってるよ~』
そういうと、ナツナツは私の肩上に移動する。あ、セレスも気付いたね。
「その条件でこの子の同行を許可するわ」
「分かりました。全力で護らせていただきます」
仰々しく頭を下げる四人に、とてつもなく申し訳ない気持ちになりました。
出来る限りたくさん収納するのはもちろんだけど、素材探しもしっかり頑張ろう……
ギルドから出ると、まずはルーカスが大きく息を吐いた。
「っっっっは~~~~~~~~…………やばやば。ホントにあれで『元』かよ」
「いやー……威圧感 凄かったわね~……」
「言葉を間違えていたら、ルーカス 死んでた」
「下手な貴族に会うより緊張したな…………いや、そんな経験ないが」
「え~~と。なんかごめんなさい」
私はとりあえず謝る。謝るくらいしか思い付かない。
その苦労に見合った働きはしますから許してね。
「いや、いいさ。頼んだのはこっちだからな。代わりにしっかり働いてもらうぞ」
「任せて。今は、収納魔法の中身は ほぼ空っぽ (ウソ) だから、猪三頭分くらい入るよ」
「マジかよ……なんだその才能。あんまり、他のヤツに言い触らすなよ?」
「そうだぞ、キミ。そんなペラペラと自分の能力を話すべきではない」
「私たちは約束があるから、大丈夫だけどね」
「誰かに聞かれる危険もある」
「あ、すみません」
大丈夫。実は《ジャミング》が掛かっている。
でも、想像よりも容量が大きいと分かっても、眼の色を変えたりする雰囲気も無かったし、この四人もそこそこ信用してもいいと思う。
「それより、ルーシア。その格好で森に行く気?」
「あ、そうね。この前も言ったけど、もう少し森歩きに適した格好じゃないと危ないわよ?」
「あー……」
フェリスさん、リリアナさんの女性両名に、最初に会った時と同じことを指摘される。
忘れてた訳じゃないけど、なんと答えれば良いものか。
…………とりあえず、さっくり四つ程、言い訳を考えてみたんだけど……
① この服装が好き → 森を舐めるな
② この服しか持ってない → 買え
③ 実はレア素材で出来た防具 → さらに目立つ
④ 普段からこの格好で彷徨いてる → これかな?
「大丈夫です。私、元々 森深い山奥で暮らしてたんですけど、そこでもこの服装でしたから。逆に、この格好じゃないと、調子が出ないです。多分」
無意識に、末尾に『多分』と保険を掛けてしまった。『全部ウソじゃないですよ』的なね?
四人がその説明を信じてくれたのかは、分からない。
『信じ難い……』というよりも、『どこにツッコミを入れるべき?』と悩んでいる表情だったので。
「……………………まぁ、いいか」
「……………………そうね。ルーカス。最悪 背負ってあげて」
「……………………不可解」
「……………………限界がくる前にギブアップしろよ」
うん。信じてはいないね。コレ。




