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ゴーレム娘は今生を全うしたい  作者: 藤色蜻蛉
9章 進出!! 王都 冒険者ギルド
228/264

第218話 交渉終了とティータイム

168 ~ 220話を連投中。


11/1(日) 10:20 ~ 23:20くらいまで。(前回実績:1話/15分で計算)

一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。


word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿。


申し訳ありません。



ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。

ふぅ~~~~~~~~…………


誰からかともなく、深い深いタメ息のような、安堵の息のような、深呼吸のような音が支部長室に響き渡った。

同時に、『ぎしっ』と音を立てて支部長が背もたれに体を預け、襟元を緩める。


「あぁ~~~~~~~~……疲れた。まさか、こんな展開になるとは思わなかった…………」


「えぇ。そう思ったので、準備を整えられる前に畳み掛けました」


「だろうと思ったわ…………ふぅ、キミらも気を抜いて構わんぞ」


「は、はい……」


と、支部長の最後のセリフは、私たちではなくココネさんたちに向けたものだ。

ぎこちなく返事をして身動(みじろ)ぎしているものの、ずっと慣れない緊張状態を強いられたせいか、なかなか手間取っている様子。


まぁ、無理もない。

普段、顔も見ることの無いような上の相手と、直接では無いにしろ真っ向から対立する立場に立たされていたのだ。

支部長からオズに向けられた言葉に、オズ以上のダメージを喰らっていたに違いない。


場の空気を改めて作り変えるつもりで、『ぱんぱん』と手を叩く。


「…………お茶にしましょう。交渉は終わったんだし、もういいですよね?」


「そうだな。悪いが、そこに簡易キッチンがあるから、全員分頼んでいいか? 茶葉と菓子は、適当に選んでいい」


「ありがとうございます。あと、ココネさんたちはお手洗いでも借りてきたら? さっきからそわそわしてるし」


「む。それは気が利かんで済まなかったな。扉を出て、左の突き当たりだ。この時間は、他のギルド員もいないだろうし、ゆっくりしてきてくれ」


「は、はい。それじゃ、失礼して……」


「すみません、私たちも…………ほら、サっちゃん、フォズちゃん。行くわよ」


「……………………」


「は、はぃぃ……」


一応、『お手洗いに行く体で席を外していいから、気持ちを切り替えてきて』という意図だったんだけど、ちゃんと通じたかな?

ココネさんに続いて、マヤさん、サリーさん、フォズさんが、よろよろと部屋を出て行った。


「あ、お姉ちゃん。私も手伝いますよ」


「そう? じゃあ、お願い」


「なら、私も~」


「いや、義姉さんはいい」


「がーーーーん!!」


いや、支部長だけここに残していったら、気不味いでしょうが。

もし、万一、不幸にも、支部長がこちらの意図を察してなくて、『俺もちょっと済ませておくか』とかってなってしまったら、ココネさんの心労がマッハでヤバス。


わざとらしく、ショックを受けた風に机に突っ伏す義姉さんを置いて、オズと一緒に支部長が示した扉から簡易キッチンに入った。


「…………ふぅ。疲れました」


「お疲れ様。ありがとうね」


「いえ。…………」


「ふふっ。おいで~」


閉めると同時に扉に寄り掛かり、あまりに小さな息を吐くオズに労いの言葉を投げかける。

一言、『大したことありません』とでも言いたげな、謙遜の言葉を漏らすも、こちらを見上げる瞳は如実に心の内を語っている。

思わず笑みを零してオズを誘うと、ふらっと扉から離れて、倒れ込むように私の腕の中に納まった。


「…………はぁぁぁぁ……頑張った甲斐がありました」


「相変わらず安上がりだなぁ~。普段から我が儘言わないんだから、特別 頑張った時くらい、言ってもいいんだよ?」


「うん…………でも、今はこのまま。これくらいがいぃ…………」


「そっか そっか」


そのまま眠り込んでしまいそうな、淡い抱擁で抱き着くオズを、代わりに強く抱き締め頭や背を撫でる。

いつの間にか姿を現していたナツナツが、苦笑しながら近くに浮いていた。


少しの間、本当に眠ってしまったかのように脱力していたオズだったが、思ったよりも早く力を取り戻して身を離す。


「ふぅ……ありがとうございます」


「あれ? もう終わり?」


「なんで、お姉ちゃんの方が残念そうなんですか。…………あんまり長く時間を掛けると、ココネさんたちも戻ってきちゃうかもしれませんからね」


「…………そうかな?」


私は、呼びに行かないと戻って来ない可能性も考慮してるんですけど。


「いや、ココネさんは戻ってきますよ。きっと、お腹を押さえながら」


「…………容易に想像出来過ぎる」


ちなみに、サリーさんは仮病を使ってトンズラし、フォズさんは本気で体調を崩してリタイアし、マヤさんは体調崩して戻ってくるも途中で気絶しそう。

私の勝手なイメージだけど。


「さて、何がありますかね」


「あ、オズ」


「はい?」


私の横をすり抜けるオズの腕を反射的に掴んで呼び止めると、オズは何の警戒もなくこちらを振り返った。

自然とこちらを向いて上を向く頬に空いた手を添え、


「んぅ?」


「……………………」


…………………………………………何をしたのかは察してください。


「……………………ぷは」


「ご褒美♡ さて、お茶を用意しますか」


赤くなった顔を見られないように背を向け、物色を


「…………お姉ちゃん」


「なん…………」


…………………………………………何をされたのかは察してください。


「……………………はふ。仕返しです♡」


「むぅ」


オズは、そう言っていたずらっぽく笑い、掴んだ襟首を直して離れていく。

まぁ、喜んでくれたなら、こちらがされる側で終わっても、別に気にしな…………あれ?


ご褒美のつもりでアレをしたら、オズに仕返しと言われてアレをされた。お返しではなく。

これってつまり……


「あら? 私、かなり痛いナルシストじゃない?」


「そうなんじゃないですか?」


「なんだと~!! いつも、オズの方から『して欲しい』って言うから、してあげたのに~!!」


「それはそれ。これはこれです」


「むき~~~~!!」


そっけない態度を取るオズに、笑いながら文句を言いつつ、物色を始めたのでした。





「お待たせしました」


「いや、構わんよ。湯が沸くのに、それなりに時間も掛かるだろうしな」


「お~~そ~~い~~!!」


…………私は、どっちに反応すればいいんだ。


たっぷりイチャコラしながら作業していたので、すでにココネさんたちも戻っていた。

ちょっと表情を窺うと、まだ緊張はしているものの、先程までの過剰な分は解けているように見える。

ちゃんと、切り替えられたようで何より。


キッチンには、なんだかたくさんの種類の茶葉があったが、まぁ無難な種類のものにしておいた。

初めて見る茶葉とか、ちゃんと淹れられる自信ないし。

あと お茶菓子も、王都らしい豪華で彩り鮮やかなものがたくさんあったが、遠慮なく高そうなパイとクッキーの詰め合わせを選ばせてもらった。

『適当に選んでいい』って言ったし、いいよね?


一応、この部屋の主である支部長から配膳を始め様子を窺うも、特に悪い感情を抱いた様子はない。

むしろ……


「ほう……あの中からこれを選ぶとは、見る目があるな」


ニヤリと笑って見せたあたり、正解を引いたっぽい。


「『適当に選んでいい』と言われましたんでね。遠慮なく、食べたいのを選ばせていただきました」


「二言はないから、気にするな。それに、紅茶も淹れられるんだな」


「知ってる茶葉を選びましたので。お茶菓子と合ってるかは分からないんですけど」


「それは大丈夫だ。俺もそれはよく飲むからな」


それは微妙にプレッシャー。

まぁ、支部長の期待を外したとしても、私の評価が下がるだけなので気にしない。

いつも通りにカップに注いで差し出すと、残りの人の分も配膳していく。


支部長、義姉さん、オズ、私の分を配膳し終わったところで、ココネさんたちの分を配膳し終わったオズと合流し、席に着いた。


「まぁ、好きに飲んでくれ。俺も元冒険者だし、余程でなければマナーは気にしないからな」


「「「いただきます」」」


「「「「…………い、いただきます」」」」


支部長の言葉にすぐに応えて手を付けたのは私たちで、一呼吸遅れたのはココネさんたちだ。

私たちの動きを見てから、恐る恐るカップに手を伸ばす。


「うむ、うまいな」


「ありがとうございます」


「このお茶菓子もおいしいですね」


オズが今 口に入れたのは、クッキーの中央にいちごジャムが乗せられた、タルトのようなお菓子だ。

他にも、種々様々な果実ジャムのクッキーがある。


「だろう? 話を聞くと、スタッフを現地に常駐させ、収穫したばかりの果実をすぐにジャムに加工して王都に送っているらしい。専用のジャムだからクッキーに合うし、輸送業者と専属契約を結んで保存状態なども管理しながら、最速で届くのだと言っていたな。貴族はもとより、高ランクの冒険者にも好まれている逸品だ」


「なるほど~…………高そうですね?」


「うむ。高い。だがな、たまに無性に食べたくなるんだ。特に、王都外出身者は」


「もしかして、支部長も王都外からやってきた上京者ですか」


「あぁ。ゆえに、今のキミらの辛さも分かるつもりだ。…………不味いよな。王都の飯」


「同意しかない」


これには緊張状態のココネさんも深く頷いた。

ていうか、王都の冒険者ギルドにいるのに、この場に王都出身者が一人もいねぇ。


「そんな不満があるって分かってるなら、王都の食料事情なんとかしてくださいよ」


「無茶言うな。冒険者ギルドは確かに流通も担っているが、主体はやはり商業ギルドだ。それに少量ならともかく、大量の食糧を新鮮な状態で運んで来るには、ただただ技術力が足りない」


「そこはほら、王都の近くに農村を作るとか」


「分かってて言ってるだろう。支部長レベルの人間がどうこうできる話じゃないぞ」


「まぁ、そうなんですけど」


『はぁ』とタメ息を吐いて、互いにどうしようもないことが分かり切ってる話を打ち切る。

…………いや、無駄な話じゃないですよ? こうやって互いの共通項を認識し合うことで、親近感がね?


『ホントか?』


ごめん、ウソ。そこまで考えて喋ってない。


オズの膝上でクッキーを頬張るナツナツに、私の分のクッキーを横流していると、支部長が思い出したように口を開く。


「しかし…………冒険者であることは確かだし、『交渉権は自分にある』と言って矢面に立ったのだしと、気にしないことにしていたが、オズリア君…………歳はいくつだ?」


「女性に年齢を聞くのはどうかと思いますよ?」


「ということは、話題に出されたくない年齢か。童顔なんだな」


…………これは、支部長なりの冗談なのだろうか?


「えっと……13歳です」


「すまん。今のは冗談だ。…………いや、実年齢を聞いても、若く見えるのは変わらんな。

しかし……………………俄かには信じられんな。本当に。…………あ、いや、見た目云々ではなく、先程までのやり取りがな。大人顔負けだったぞ」


「まぁ、色々ありまして」


「ふむ……………………まぁ、深くは聞くまい。だが、優秀な人材は、ギルドとしても大歓迎だ。もし、何か助けが必要なら、何でも相談してくれ。いつでも力になろう」


「ありがとうございます」


『色々』に何を読み取ったのかは分からないが、難しそうな顔をして頷くと、そんなことを言ってくれた。

何を想像したんだろうね?


「オズリア君のパーティは、セレス君と……確かルーシア君と言ったか」


「えぇ」


「はい」


と、今度はこっちに関心が移った。

当たり障り無い返事をしておく。


「この子もすごいのか? いや、目利きと茶を淹れる腕は、一級品だったが」


「とう!! ぜん!! ぶっちゃけ、戦闘力ならBランクは確実にあるわね。自慢の妹たちだもの」


「ふっ…………伝説の秘蔵っ子、といったところか。余程 厳しく鍛えたと見える」


「それは光栄の至り…………なんてね。でも、残念。私は過保護にくっついてきただけで、この子たちの実力は、この子たち自身で築き上げてきたものよ」


「それはそれで凄まじいものだな。なら、伝説の再来、と言った方が正しいかな」


「それはやめて。別に狙ってやった訳でもないしね」


「だからこその『伝説』なのだろう」


「ぶぅ~……」


……………………妙に気安いな。いや、私が言えることじゃないけど。

王都の支部長と田舎のギルド員。繋がりがよく分からない。


「義姉さんと支部長さんって、知り合い?」


「あら? ルーシアだって知り合いじゃない。もう、互いに名前を知り合って、お話ししたんだし♡」


「……………………」


「そんな目で見ないで。おねーちゃん、嬉しくなっちゃう」


「オズ」


「じゅびし」


「げはぁ!?」


すっとぼけた回答をする義姉さんの横っ腹に、オズの人差指がめり込んだ。

わざとらしく机に突っ伏す。


「ナイス、オズ。義姉さんのお茶菓子も食べていいよ」


「ありがとうございます?」


「お、おぉほおぅぅ…………よ、予想外にめり込んだ…………」


「ふむ。秘蔵っ子、師弟という関係が主でないことは確かか」


「そういう関係は、むしろ薄いですね」


「お義姉さま。これ貰いますね」


「おごご……」


呻き声で返事すな。


義姉(あね)が使えないので、支部長に視線で説明を求めると、小さく笑って説明してくれた。


「まぁ、大した知り合いでもないんだがな。

ルーシア君、王都の支部長というのは、地方のギルド長と立場としては対等なんだ。そして、ギルド長たちは年に一度 集まる機会があるのだが、その際、補佐役として同行していた彼女とは、ジットを通じて面識ができたのだよ」


「なるほど、お義父さん繋がりですか」


ただのギルド員ではなく、補佐役でギルド長の娘。

それなら、先程の気安い感じも頷ける。


「それに、彼女自身のネームバリューも……」


「やーめーてっ!!」


支部長の言葉を、子供のように机を叩いて止める義姉さん。


「あれは!! 私の!! 黒歴史なの!! 誰が何と言おうとね!!」


「ふむ。なら、仕方無いか」


「ルーシアもオズも、詮索しないように!! ね!!」


「イ、イエッサー……」


「『イエスマム』ですよ、お姉ちゃん……」


しもた。でも、咄嗟に出るとね?


「『マム』も違う。『ミス』にして」


「そこはもう、定型句なのでは?」


「敬称なんだから、相手の要望に合わせるべきだと思うのよ」


「はぁ……」


ちなみに、『マム』は『マダム』の略称です。でも、『イエスミス』って言い辛いよね? 言い辛くない?

どうでもいいけど、『イエ、スミス』で区切ると、建築士になったりするんだろうか。


『ならんぞ』


ナイスツッコミです、ナビさん。


と、アホなことを考えている内に、支部長が話題を変える。

次の標的は、気配を消すことに全力を注いでいたココネさんたちだった。どんまい。


「キミらは、ココネ君、マヤ君、サリー君にフォズ君だったな」


「は、はい!!」


代表として、リーダーのココネさんが答えた。

ギリギリ声が裏返る寸前、といったところだ。

『そんなに緊張しなくても……』とは思うが、私がテモテカールの領主たちに会った時も、最初だけは似たような感じだったしな。

……………………あの頃の私は、まだ心の中にいるのだろうか……?


「改めて、今回の件はすまなかった。彼女らが無事に帰ってこれたのも、キミらの尽力によるものが大きいだろう。よくやってくれた」


「いや、それは…………いえ、ありがとうございます……」


「うむ」


ココネさんは、一度否定しようとしたのか、ごにょごにょと口籠った後、力無い口調で礼を述べた。


どうしたのかな?

緊張はまだしているだろうけど、それとはまた違う口籠り方のように感じたけど。


その予感は正しかったのか、ココネさんは少し迷った後、吐き出すように言葉を続けた。


「…………ただ、今回のクエスト…………悔しいですが、僕らが無事に帰ってこれたのは、この二人のお陰です。僕らだけだったら、逃げる選択しかできなかった。それだって成功できた自信はありません。とてもじゃないですけど、キング・ゴブリンをやり過ごすことは出来なかったと思います」


「む」


ココネさんはそこまで言うと、堪えるように全身に力を入れた後、『はぁっ』とタメ息と共に脱力した。


「この二人は凄いですよ、本当に。才能も確かにあるんでしょうが、それだけじゃない。才能に驕らず、自分のものとして築き上げてきた、確固たる力がある。

……………………僕らも、僕らなりにやってきたつもりでしたけど、格が違いましたね…………」


「そんなことは…………えーと、ほら。落盤の罠を防いでくれたり、下っ端を引き付けてくれたりしてくれたじゃん。私たちも助けられたよ」


なんだかココネさんの様子がおかしいと感じ、柄にもなく迷うような口調でフォローしてしまった。

ココネさんは、それに力無い笑みを返すと、やんわりとした口調ではっきりと否定する。


「ルーシア…………ありがとう。気持ちは嬉しいよ。…………でも、キミら二人だけだったら、そもそも罠に掛からなかっただろうし、下っ端だって各個撃破で減らしていくか、狭い通路に引き込むことで有利に立ち回れただろう。

…………そのくらい、僕にも分かるよ」


「えっ……と……」


理由付きで否定したココネさんの言葉に、思わず口をつぐむ。

なぜならその理由は、一部では正しかったからだ。

例えば、逃げるにしても空間転移で逃げていただろうから、あの落盤の罠には掛からなかっただろうし、私とオズだけだったなら、先に配下のゴブリンを倒すことから始めただろうから。


とはいえ、ココネさんが言いたいことは、そういう細かいところではないのだろう。

ココネさん越しに見える三人も、同じような顔をしていた。


「参ったなぁ……同年代の仲間に比べれば、そこそこ優秀なんじゃないかと内心自惚れたことを思うこともあったけど、まさしく驕りだったわけだ。

……………………まぁ、パーティメンバーを喪うような、致命的な失敗をしでかす前にソレに気付けたことは、僥倖だったと思う。ありがとな」


と、礼を口にするも、ココネさんの表情は晴れない。


これは…………あれですか。

ココネさんたちにはお世話になったし、なるべく早く新しい武具を作れるように、少しでも多く報酬を得られるようにオズに頑張ってもらったけど、逆にそれがココネさんの自信を喪わせる原因となってしまっている、とそういうことですか。


『そんなことはない』と、声を大にして否定したい。

私はおじいちゃんの遺してくれた技術(スキル)が、実力以上に自分を押し上げてもらってるだけだし、オズはそもそも5,000年に渡る経験とかつての文明の知識がある、言ってみれば一番の年長者だ。

ココネさんたちが自分たちを卑下する必要は全く無い。


…………とはいえ、そんなことを話すことは出来ない…………し、今の彼らに私やオズから何を言っても、悪い方向にしか取ってくれないだろう。

途方に暮れて義姉さんを見るが、静かに首を横に振られる。

まぁ、義姉さんはさっき会ったばかりだし、何か出来るとしたら、それはそれで凄い。

他に当てになりそうなのは支部長だけど、一冒険者でしかないココネさんたちと面識があるとは思えないので、立場としては義姉さんとそう変わらないだろう。


『どう誤解を解くべきか……いや、誤解は解きようが無いのだから、どう説得するべきか……』と、内心頭を悩ませてオロオロしていると、


「…………普通はこんなことは伝えないようにしているんだがな……」


と、ちょっと嬉しそうな色を滲ませた口調で支部長が口を開いた。


「公にはしていないが、各冒険者ギルドでは所属する冒険者に対し、独自に評価を付けている。冒険者ランクを決めるための昇格ポイントとはまた別に、だ。

それは簡単に言えば、将来 冒険者ギルドの看板を背負って立つ有望株、ということだ。

ルーシア君たちも、当然ながらそれだな」


「え? はぁ……ありがとうございます…………でも、私、基本的にはテモテカールを主要な活動拠点にするつもりなんですけど……」


……何故、こっちに話を振った…………?


『空気が読めないのか』と非難めいた視線を送ると同時に、思わず断るような返答をしてしまった。

支部長は、それに気付いたのか気付かなかったのか、そのまま話を続けていく。


「それは構わない。どこで活動するかを決めるのは、冒険者だからな。

こちらとしては、自分の管轄にどのくらい有望株がいて、健全に成長出来ているかどうかが重要なのだ」


「そですか」


「ただ、こういう情報は基本的には伏せられている。何故なら、人は『自分が特別だ』と感じると、慢心したり油断したりと、とかく折角の才能をふいにしてしまうことが多いからだ」


話しながら、視線は私から外れてココネさんへ。


…………え。その動きは、ココネさんに『お前がそうだ』と言ってるような動きなんですが……


そんな私の不安通りに、ココネさんが肯定してしまう。


「ですね…………まさしく、僕らがそ」


「ココネ君」


支部長は、しかし、ココネさんのその肯定を、ばっさりと断ち切るように口を挟む。

その明確な意志の籠った言葉に、ココネさんは思わず口をつぐむ。


「キミらが抱えていた程度の驕りなど、大したものではないさ。先程は、『知らせること』のデメリットしか告げなかったが、もちろんメリットにもなりうる。自分たちの実力を信じる根拠となり、より上を目指そうとする原動力にもなりうるものだからな。

私たちギルド員は、驕りではなく自信となるよう注意しながら、冒険者を導いているのだ」


「……………………」


「ここまで言えば、私が言いたいことも伝わっているだろう。

……そう、ココネ君、マヤ君、サリー君、フォズ君。キミらも正しく、有望株だ。

確かに、ルーシア君たちは、キミらの上を行くかもしれん。それも、遥か彼方に上だ。

それゆえ、自分たちの実力、築き上げてきた基礎に自信が持てなくなっているかもしれん。

ならば、私はキミらを導く一ギルド員として言わせてもらおう。

…………『負けて悔しいなら、超えてくれるよな?』と」


「「「「!!!!」」」」


支部長の言葉に、『ハッ』としたように目を見開くココネさんたち。


「力の差を痛感し、妬むでもなく僻むでもなく、悔しいと感じてくれて、私はとても嬉しい。

なぜなら、悔しさとは更なる成長をするための、重要な原動力となるからだ。当ギルドは、そして、俺は。キミらの成長を期待し、援助を惜しまない。

……………………期待に、応えてくれるだろう?」


「は、はい!!」


支部長の言葉に返事を返したのはココネさんだけだった。

でも、それは他の三人が納得していないからでは、もちろんなかった。

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