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ゴーレム娘は今生を全うしたい  作者: 藤色蜻蛉
9章 進出!! 王都 冒険者ギルド
226/264

第216話 オズの交渉術

168 ~ 220話を連投中。


11/1(日) 10:20 ~ 23:20くらいまで。(前回実績:1話/15分で計算)

一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。


word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿。


申し訳ありません。



ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。

「ふぅ。なんとかギリギリ間に合ったな」


「そう? まだ、余裕あったんじゃない?」


「別に、混雑してる時間帯に滑り込まなくても良かったんじゃないの? 一回野営して、明日にでも入門すれば」


「ルーシアちゃん。普通は、無理して間に合うなら、入門しちゃうものなんですよ」


「まぁ、ルーちゃんたちにとっては、野営するのも宿に泊まるのも、同じようなものなんでしょうね」


『それは言い過ぎ』…………と言おうと思ったけど、王都に来た初日、宿の中で野営したのを思い出したので、心の内に仕舞っておいた。

空を見上げれば、そろそろ日も暮れようかといった頃。

ただ、王都の中に入ってしまえば、そこら中に灯りが灯っているため、歩くのに苦労はしない。


「それより、早くクエストの完了報告に行こう」


「そだねー…………あぁ~~!! 報酬が出ないのは分かってるのに、わざわざあの人混みの中に入るのか~~!! めんどいなぁ~~!!」


「あぁ~~…………確かにこの時間帯は、報告に戻った冒険者で混雑している時間帯ですね……」


「ルーちゃんじゃないけど、一泊してからにしたくなってくるわね…………」


「気持ちは分かるけど、一報くらい入れないとマズイから我慢して」


「「「は~~い……」」」


重い足取りで動き出すココネさん一行。

私たちも手招きされたので、同じようについていく。


「しっかし、一昨日ここを歩いていた時は、こんな状況になるとは全く思わなかったなぁ……」


「そだねー……」


「なんだか、一気に現実に引き戻された感じはありますね」


「そうね。時間的には街の外にいる方が長いはずなんだけど、やっぱり日常はこっちなのよね」


そんなものだろうか?

私は…………どっちも等しく日常で、そんな感覚の切り替わりみたいなのは感じたこと無いけど。


そんなことを考えながら、ココネさんたちの後ろを歩いていると、フォズさんが不安そうにこちらを振り返り、


「なんだか、ここ数日のことが全て夢だった気がします。夢が覚めたような…………ルーシアちゃん、オズリアちゃん、ナ………… けふん。ちゃんといますよね?」


「いるよー。手でも繋いじゃう?」


「じゃ、私は逆側で」


『わたしはレミィちゃんと一緒に頭に乗っちゃお~』


『―――――――― ヽ(*´∀`)ノ♪』


「あ、あわわわわ……」


さっとマヤさんを追い抜いて、オズと二人でフォズさんを挟み込む。

当のフォズさんは、いきなりそう来られるとは思っていなかったのか、赤くなってアワアワしていた。


「安心しなって、フォズ。全部 現実だから」


「そうよー。美味しいご飯、たくさん食べたでしょー?」


「二人とも。これからも、フォズちゃんの友達としてよろしくね。あ、もちろん、私たちとも」


「もちろん」


「えぇ」


「ルーシアちゃん、オズリアちゃん……」


感動したのか、目を潤ませて、ギュッと繋いだ手を握るフォズさん。

レミィちゃんとナツナツも、『私もいるぞー』とでも言いたそうに、頭の上で跳ねる。


でも、そんなに友だち出来ないもんかね?

フォズさんなら、ちょっと話せば、友だちなんかすぐに出来そうなもんだけど…………


「まぁでも、ルーシアたちがフォズを安心して任せられるような子たちでホント良かったよ。あとはまぁ、貸し借りの無い対等な関係を目指して、早いところ武器を返さないとなぁ~……」


「あれ? ココネも一応、警戒はしてたんだ。意外」


「あのね、サっちゃん。フォズちゃんに悪影響を与えるかもしれないんだから、友だち候補はしっかりと見定めないと。まぁ、ルーちゃんたちは、満点以上の合格だったと同時に、頭を抱えるような非常識の塊だったけど」


…………もしかして、フォズさんに友だちが出来なかったのって、この人たちの審査が厳しかったとかってオチじゃ無いだろうね?


そんなことを考えつつ、ココネさんの後を付いて行く。

《マッピング》に記録した地図を参照すると、大通りと裏道の中間みたいな通りを選んで進んでいることが分かる。

王都民がよく使う通りなのだろう。

十字路から大通りの方を見ると、『お祭りでもやってるの?』と言いたくなるほどの人混みで、確かにあの道を通ったら、冒険者ギルドに到着するのに倍以上は時間が掛かりそうだ。


足早にしばらく進むと、冒険者ギルドの入口が見えてきた。

入る人の量も、出ていく人の量も、テモテカールの比ではない。

そこに入るのに、若干怖じ気付くが…………フォズさんに優しく手を引かれて黙って付いていく。

冒険者ギルドに入ると、そのまま7階に移動して、空いていそうな完了受付を探すが…………


「多いな……」


「それはそうですよ。クエストの多くは、朝に受注して、今頃終わるものばかりですから」


「あ、いや、人もそうだけど、受付の数も多いね、と思って。いや、一回見たことはあるんだけど……」


「あぁ。でも、それも同じ理由ですよ。朝はクエスト受注が多いから受注受付が多く、日が暮れ始めると完了報告が多くなるから完了受付が多くなるんです」


「まぁ…………それはそうか……」


『ぽつり』と無意識に溢した言葉を、律儀に拾ってフォズさんが説明してくれた。

なるほど。確かに、時間帯で仕事内容が偏るのだから、それに合わせて受付の数も変えた方が合理的だろう。


「でも、受付を多くして処理速度を上げていても、冒険者の絶対数が多いから、順番が回ってくるのは、それなりに時間が掛かりそうだね」


「それは仕方無いさ。とりあえず、どこでもいいから並んで」


「ルーシア!! オズ!!」


ココネさんが適当な列に並ぼうとしたところで、周囲の喧騒をものともしない声が響き渡る。

声のした方を見ると、


「良かった!! 無事だったのね!!」


義姉さんが駆け寄ってくるところだった。


「ただいむぎゅ!!」


「え!? え!? えぇぇ!?」


「お、お義姉さま……ちょ、苦し……」


そして、何故かフォズさん諸共、そのままギュッとまとめて抱き締められた。

姉妹のスキンシップにナチュラルに巻き込まれたフォズさんは、面白いように困惑している。

ココネさんたちも同様だ。


「怪我とかしてないわよね? それとも、見えないところに大怪我してる?」


「だ、大丈夫だから……というか、大怪我してるかもしれない相手に、そんな思いっきり抱き付くのはどうかと思うよ」


「肉体的、精神的に異常はありません。五体満足の健康体です」


「そっか。良かった……」


最後にもう一度『ぎゅ~~っ』として離れ……離れ…………え~と、離れることはせず、緩く抱き締めたまま、赤子をあやすように撫で続けている。

ちなみに、フォズさんも一緒に撫でられているよ。


「セレス。安心したのは分かったから、とりあえず、場所を移しましょう。超絶に目立ってるから」


誰も止めることの出来ない義姉さんに、呆れた口調の苦言が投げられる。

義姉さんに続いて、奥からやってきたギルド員さんだ。

でもやめない。


「え? 別に私と妹たちが超絶に仲が良いことを知らしめられるなら、目立っても構わないわよ」


「…………前言撤回。そこでいちゃつかれると、とっても迷惑だから、別室に来なさい」


「しょ~がないなぁ~。…………まぁ、人の多いところで話せないこともあるし、ねぇ?」


「うぐっ……」


後からやって来た受付嬢さんに、義姉さんはにっこりと笑顔を向け、含みのある答えを返した。


…………う~む。これはやっぱり……


「お義姉さま、ちょっと相談が……」


「ん? 何々?」


「ごにょごにょごにょごにょ……」


私が気付くなら、オズも気付いて当然か。

皆が動き出す前に、義姉さんの耳元に口を寄せて、何やら相談している。


……………………あ、義姉さんが、すっごい悪い顔をして、フォズさんが青くなった。


「ナタリィさん。僕らが受注したクエストの件なんですが……」


「分かってるわ。その件の話がしたいから、貴方たちも一緒に来てくれる?」


「…………分かりました」


フォズさんの様子に気付かなかったココネさんが。小さく挙手してギルド員…………ナタリィさんに話し掛けるも、詳細を話す前に中断させられ、別室へと促される。

……やはり『そこ』が問題だったらしい。


そして、私たちは多くの冒険者、ギルド員その他の好奇の視線を浴びながら、その場を後にするのだった。


…………

……………………

………………………………

…………………………………………


そして、王都冒険者ギルド 南支部長は追い詰められていた。


「200テト/kg……」


「そうですか。では、さようなら」


「いや、待て!! 220……250は!?」


「お義姉さま。キング・ゴブリンの素材が痛むのも勿体無いので、明日の早朝にでも王都を発ちませんか」


「それもいいわねー」


「うぐぐぐぐ……」


ここは、南支部の最上階に位置する支部長室。

長の威厳を示すかのように、見晴らしのよい展望と広い部屋、高そうな調度品で彩られた豪奢な部屋である。


その部屋の中央。大きな机に座る私たちやココネさんたちに向かい合う形で、支部長と先程のギルド員さんが対面している。

オズと義姉さんの言葉に、赤くなったり青くなったりと忙しなく表情を変えているのは、私たち三人を除く全員だ。なお、ココネさんたちも含む。


とはいえ、実際に交渉の場に着いているのは、オズと支部長の二人だけなので、慌てたところで無意味なのだが。


「……な、なら、幾らなら売ってくれると言うんだ?」


「おや、それを聞いてしまいますか。550です」


「んな……!?」


明らかに吹っ掛けた金額…………とはいえ、払えないことは無い金額だろう。ギルドとしては。

どうして、このような状態になっているのか…………順番に話すならば、まずは私たちのクエストについて話す必要があるだろう。


ナタリィさんに連れられて入った支部長室。

そこで説明されたのは、『BランクのクエストとDランクのクエストの依頼先が入れ違っていた』という、ある意味予想通りの内容だった。

要するに、義姉さんが受注した『キング・ゴブリン + 配下500体の群の討伐』と、私たちが受注した『ゴブリンの群 約100体の討伐』のことである。

なぜそんな入れ違いが起きたのかと言えば、それは、あの洞窟の中でざっくりと考察したパターンのひとつ、『資料が入れ替わっていた』という、ただただ単純なミスが原因だった。


これがギルド内で判明したのは、つい数時間前のこと。

私たちよりも半日ほど早く戻ってきた義姉さんたちは、すぐに『自分たちのクエスト内容が間違っていたようだ』とギルドに報告した。

その報告を受けたギルドが、急いで義姉さんたちが本来行くはずだったクエスト先、そこに間違って向かってしまった冒険者を調べたところ、『BランククエストにCランク冒険者(私たち)が向かった』ということが判明。

『とにかく、急いで出発を……』と、Aランクの義姉さんを筆頭に、協力者を募っているところで私たちが帰ってきた、とのこと。

…………外門の混雑を避けて野営したり、報告を明日に回したりしなくて、ほんっっとに良かった。ココネさん、マジ良い判断。


そして、原因説明なんだか言い訳なんだか、よく分からない話を聞かされ、謝罪されると共に補填金として、間違えて受注する羽目になったBランククエストの成功報酬に近い金額を手渡されたが…………『ギルドのミスで死に掛けた賠償』と考えると、安過ぎる感は否めない。

まぁ、そういう意図の補填金ではないし、ここのギルドだけが不当に安い訳でもないのだが、ココネさんたちの壊れた武具の代金にも足らず。

とはいえ、補填金のさらなる上乗せを要求する交渉材料も道理もない以上、引き下がるしかない。…………交渉材料も道理もある本命は残っているのだし。


こうして、割とあっさり今回のクエスト(不祥事)に関する事後処理が終わり、内心『ホッ』と一息吐いたかもしれない支部長たちが、完全にノーマークのゴブリン素材(本命)の話に無警戒で移ったのは仕方のないことだろう。

当初ギルド側は、私たちがBランククエストを完了させているとは思っていなかったので、『次にクエストを受注する者のために、少しでも詳しい情報が欲しい』という風に、話を切り出した。

まぁ、一般的に考えれば、Cランク冒険者がBランクの魔獣の群と真っ向から遭遇して、全員無事に帰ってくる可能性は限りなく低い。

『洞窟突入前に遠目からキング・ゴブリンを確認するなどして、遭遇前にクエスト内容に間違いがあることに気が付き、魔獣に気付かれることなく逃走することができた』と考えるのは妥当なところである。


これには当然、『洞窟内にいた魔獣の群は討伐済みです』と答えたわけだが、素直に『そうなのか』と信じてはくれない。

なので、一度キング・ゴブリンを[アイテムボックス]から取り出して見せて、『この他、ハイ・ゴブリン種 約200体、ゴブリン種 約300体を回収してあり、例の洞窟にはゴブリンどころか短剣の一本も落ちてませんよ』と説明してなんとか納得してくれた。

…………まぁ、正確に言えば、洞窟の壁や床と同一化したゴブリンや武具なんかは残ってるから、『何も残ってない』はウソなんだけど。誰も回収できないだろうし、まぁ、いいか。


ここで本格的にゴブリン素材の話になるのだが、支部長は『せっかくクエストを完了してくれたのに申し訳ないが、あのクエストは無効となるのでクエスト報酬を支払うことは出来ない。代わりに、素材の買取価格を通常より高くしよう』と提案してきた。

杓子定規な考えだが、冒険者ランクより上のクエストを完了させても、素材以外の報酬は得られない決まりである。

ベーシック・ドラゴンの時もそうだったし、スレイプニル・ワークゴクの時もそうだった。

これは、より高額な報酬を求めて無謀な挑戦をする冒険者を出さないための措置で、どこの冒険者ギルドでも同じである。

けれど、素材の買取価格に関しては別で、魔獣を討伐するに至った経緯やその他状況から、ギルド側の裁量で増減させることは可能だ。

無論、故意にやらかした冒険者が、奇跡的に素材を入手出来ていたとしても、その場合の買取価格はかなり減額される。


今回の提案は、別の思惑(・・・・)もあるだろうが、明確にギルドの不手際の結果なので、こうなることは予想できた。

それに、ギルド側からしてみれば、支払う金額は元々想定していた『クエスト成功報酬 + 素材買取金額 + α』で収まっているので、それほど大きな痛手ではないし、『ギルドのミスに対し、適正な補填金を支払った上で、買取価格も優遇した』という結果も残るので、こちらが提案を受けようが受けまいが、対外的な責任は果たしたということが出来る。

あとはギルド内だけで、ゆっくり再発防止策を考えていけばよい。


通常の冒険者ならこれ以上関わることはせず、素材も適度に売却して終了…………と、なるところだが、オズは違った。

『素材の売却先には、他に当てがあるので、ギルドでは売却しません』と返したのだ。


支部長はこれに対し、険しい表情をして、『どこの商人に売却するつもりかは分からないが、王都内での流通価格はある程度決まっているから、これ以上良い価格は提示できないはずだぞ? それともまさか…………非合法な手段で処分するつもりではなかろうな……?』と、態度を豹変させて、威圧感と共に身を乗り出してきた。

ココネさんたちから、小さな悲鳴にも似た息を飲む音が聞こえたのは、気のせいではないだろう。


『ギルドに犯罪の捜査権限は無いが、明らかに犯罪を匂わせる相手に対しては、それなりの強権を振るうことも可能だ。誰に素材を売却するつもりなのか…………納得のいく説明をしてもらおうか』と、完全に態度が容疑者に対するソレに変わり、立場の強弱が明確になったところで…………全てがこの返答で反転する。


「ご安心ください。合法も合法ですよ。…………では、お義姉さま。先程 約束した通り、素材は全てテモテカール冒険者ギルドで売却しますので、調整を付けて頂けますか?」


「いいわよー。ゴブリン素材は滅多に出回らないから、高く買い取れるわ。王都よりもね♪」


「ちょっと待て!?」



さて、ここで支部長が口にしなかった裏事情、『別の思惑』について説明しよう。


ゴブリン素材。ここで話題に上がるのは、ゴブリン種の生体素材である皮やら牙ではなく、彼らが鍛えた武具である金属素材の方である。

鉄に良く似ているため『ゴブリン鉄』などと安直な名称で呼ばれるこの金属は、『鉄と同程度に安価』に出回り、『鉄と同程度に加工性に優れ』、しかし『鉄以上の強度を持つ』という、とても重宝される素材だ。

故に、それが大量に入手出来そうなクエストがあると、事前にその供給量を見込んで様々な計画が立てられる。

元々のクエスト内容に『素材の納品を含む』とあったのは、冒険者ギルドが流通量を正確に把握するのと、商業ギルドに卸す際にその中間マージンを得るためだ。


で、今回の話。

冒険者ギルドのミスにより、冒険者ギルド経由で素材を流せなくなった。

その場合の損害は、冒険者ギルドが得るはずだった中間マージンのみであり、言ってしまえば自業自得で、自己責任の範疇だ。

冒険者が素材を売却するルートは、冒険者ギルドを経由するか、商人に直接売却するかのどちらかでしかなく、王都の流通経路に乗ってしまえば、『流通量の把握』については問題ない。

商人に売却した場合、その売買結果が商業ギルドに報告されるからだ。


『問題になるのは、非合法の商人に回る場合だけ』と考えていた支部長であるが、ゴブリン鉄が王都外に出てしまうとなれば、話は全く次元の異なる問題に発展する。

『ゴブリン鉄の予想供給量』を元にした、あらゆる計画を見直さなければならなくなるのだ。

具体的にしなければならないことは、私にはよく分からないが、とてつもなく面倒そう…………いや、面倒なだけではなく、冒険者ギルドの信用問題に関わってくる。


それを防ぐ機会はこの場をおいて他なく、不利と分かっていても支部長は場に出続けるしかない。

損益分岐点は、テモテカールからゴブリン鉄を買い戻す場合に掛かる輸送費などの費用分。

そこに諸々の理屈に合わない感情で上下した支部長の中での妥協点を攻めるのが、オズの目指すところである。



「…………280」


「520」


「300だ!! これ以上は公平性の面でも譲歩はできん!!」


「500。では、別の面で。ゴブリン、ハイ・ゴブリンの生体素材。これの買取価格を上げてください」


「ぐっ…………それはキング・ゴブリンも含むのか?」


「それは別口です」


「……………………いいだろう。二割増しだ。だが、素材の状態で、元の買取価格は変わるぞ」


「構いませんよ。価格に納得出来なかったら、売却しないだけです。そちらとて、素材が入ってこなければ、売却できず利益は得られない。それが分かっていて、不当に低い評価は付けないでしょうからね。470」


「ちっ…………評価は正しく行うと、ギルドの信念に誓って言っておこう。次はキング・ゴブリンか?」


「キング・ゴブリンに関しては、今回のクエストで剣 三振り、盾 一枚が破損しており、それらの素材として利用を考えています。売却するならその後となりますので、素材としては恐らく半分以下となってしまいますが、よろしいですか? ちなみに、魔石は売りません」


「なら、それでも構わない。同じく二割…………いや、三割増しでどうだ?」


「それでよければ。420」


これで、ゴブリン素材は全て場に上がった。

しかし、それでも交渉が纏まるには、120テトの差がある。


「後はそうですね…………もしあれば、ですけど、長距離・大量物資の運搬クエストがあるなら、受注してあげてもいいですよ」


「なんだと?」


「王都ですから、連日 大量の物資が運び込まれ、また運び出されていますね。それに伴い、民間の運輸業者も豊富に存在し、冒険者ギルドでも運搬クエストを多く扱っていることでしょう。

それでも、緊急性の低い物資は後回しにされ、ある程度溜まったら纏めて輸送しているでしょう?」


「そうだな。だが、それがどうした?」


共に疑問の体を取っているが、本当に分からない訳ではないのは、口調と表情から分かる。

オズは淡々と話を続けた。


「その際の手段は、報酬を上乗せしてランクを上げた依頼とするか、割増料金を払って民間の運輸業者に依頼するか。

しかし、運搬に掛かる依頼料は、他のクエストに比べて安価です。

これは、ギルドの運搬クエストが、民間の運輸業者の試金石となっているためですね。

公営の飲食施設や購買施設が、対応する業種の試金石となり、一定以上の水準を維持しているのと同じです。

でも、結果としてギルドの利益は大きく減少、または赤字になることも少なくないはずです」


「…………なぜ、そんなことを知っている」


「決算書を見たからですね。ここの資料室にも収蔵されてましたよ」


…………そういえば、そんなデータも私の記憶領域に保存されてたな。私には、どう見ればいいかもよく分からないが。


「冒険者の癖に、あんなもんわざわざ見るヤツは初めて見たな…………」


「そのセリフは、苦労して作成しているギルド員さんが不憫ですね。苦労が正しく評価されなくて」


「失言だったな。忘れてくれ」


「構いませんよ。おかしな数字がいくつかありましたけど、忘れました」


「ちょっと待て!?」


「忘れてしまったので、待てませんねぇ……

で、話を戻しますが、そういったクエストを受注しますので、報酬に色を付ください。

行き先によって、複数のクエストに分かれるのは当然として、行き先が同じでも冒険者の運搬容量によっては、さらに分かれてしまうでしょう。

それらをひとつのクエストに纏めてしまえば、多少 報酬に色を付けたとしても、ギルド側が赤字になることはないはずです」


「いや、それはそうだが、数字……」


「鮮やかな景色が見られたら、思い出すかもしれませんねぇ……」


オズは、敢えてのらりくらりとした口調で支部長を煽る。


「こっ……の!! ナタリィ!!」


「うひぇはぁい!!!?」


完全にオズ VS. 支部長の構図となっていたため、油断していたナタリィさんが素っ頓狂な返事を上げた。

ちなみに、私と義姉さんは、余裕のある風を取り繕い泰然と腰を据えて支部長へのプレッシャーとし、ココネさんたちは胃が痛そうに青くなって縮こまっている。ゴメンね。


「……………………ふぅ。ナタリィ。特別運搬クエストの依頼書を持って来い。それと、通常の運搬クエストの中から、特別に回りそうなクエストもだ」


「は、はい!! 直ちに!!」


ナタリィさんの反応に毒気を抜かれた支部長は、小さく息を吐き、指示を出す。

場を和ませた本人は、和ませた分だけ動揺して、転がるように支部長室から出て行った。

当初のイメージだと、ここまで大袈裟にせず、『オズとセレスが受付でナタリィ相手に、ギルドのミスを盾にあの手この手で報酬を追加させるのを、ルーシアナが『オズはすごいなー』とか思いながら眺めつつ、ココネたちと雑談しながら終了』って流れだったのですが、


① 報酬の上乗せを受付嬢の判断で決めるのはおかしい

② ある意味、ギルドの信用問題になるクエスト内容の入れ違いを、他人の目のある受付で話すのはおかしい


と思い、支部長が出てくることに……


そして、長が出てくる以上、ルーシアナやココネたちが同席させられないものおかしな話だし、それなりの理屈を通した交渉の結果でないと追加報酬は出せないだろうということで、このような形に発展してしまいました……


作者は、値切り交渉も含め、交渉の類を一度もしたことが無く、完全無欠の脳内イメージだけで書き上げましたので、『この流れはおかしい』という部分があっても、鼻で笑ってスルーしていただけると助かります。

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