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ゴーレム娘は今生を全うしたい  作者: 藤色蜻蛉
9章 進出!! 王都 冒険者ギルド
221/264

第211話 ゴーレム娘 VS. キング・ゴブリン②

168 ~ 220話を連投中。


11/1(日) 10:20 ~ 23:20くらいまで。(前回実績:1話/15分で計算)

一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。


word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿。


申し訳ありません。



ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。

さて。

自分の背後で、ナツナツとココネたちがそんなやり取りをしているなどとは露知らず、キング・ゴブリンと剣戟の応酬を続けるルーシアナは、しかし、終わらせる切っ掛けを掴み切れずにいた。


『サリーさんたちは戻って来ない、よね?』


『あぁ。改めて、通路の維持に専念することとしたようだ』


良かった 良かった。

最悪を想定すれば、キング・ゴブリンが無差別の範囲攻撃をしてくる可能性も零ではない。

その際、サリーさんたちが広場の方に来ていると、巻き込まれる危険が非常に高いのだ。

これは、壁役のココネさんが万全でも、カバーしきれるかどうか不安な攻撃である可能性が高いので、あそこにいてくれると とても安心できる。


キング・ゴブリンの振るう斬撃の下を通り、背後に回り込む。

間髪入れずに放ったスレイプスレイドは、瞬時に振り返ったキング・ゴブリンの持つ、もう片方の大豪剣に阻まれてしまった。

そして、防御からそのまま攻撃へと転じる大豪剣を回避し、再び放った攻撃も、最初に攻撃として振るわれた大豪剣がいつの間にか防御に回っている。

こちらも私の攻撃を容易く防ぎ、瞬時に攻撃に転じた。


私が攻めあぐねている原因のひとつがコレだ。

攻防一体というか、攻防流転? 防御に回った剣が攻撃に転じ、攻撃に転じた剣が防御に戻る、一連の流れ。

盾を持たず、剣一本で闘う者であれば、自然とそうせざるを得ない動きであるが、このキング・ゴブリンはそれを剣二本で行う。

手数が増えた分だけ攻撃にも防御にも余裕が生まれ、剣一本の私ではこれを突破できず、同じような応酬を延々と繰り返す羽目になっているのだ。


…………え? 私も双剣にすればいい?

いや、ステータス的に重大剣を片手で持つことは可能だけど、さすがにそれで闘えるかと言われると微妙なところなのよ、コレ。

キング・ゴブリンは普通に扱ってるけど、通常であれば片手で持つ分だけ攻撃力は下がるし、扱いにくくなる。

コイツは獣人の膂力と体格で両手持ちと遜色ない威力でぶん回してるけど、私はそうはいかない。

ステータス上の力は十分でも、それを振り回す体格が不足しているのだよ。


「ごがああああぁぁぁぁ!!!!!!!!」


「!!!!」


少し、距離を離してしまった私に、咆哮と共に大振りの斬撃が振り下ろされる。

それは、最速と最大の威力が込められた、致命の一撃。このキング・ゴブリンでなければ、放つことの出来ない一撃だ。

《ショート・ジャンプ》を使って、強引に回避する。

私に当たらなかった攻撃は、そのまま円弧を描き大地に叩き付けられ、轟音と共に石礫を撒き散らす…………はずだった。コイツでなければ。


真っ直ぐに振り下ろされた斬撃は、一切の抵抗なく大地に吸い込まれ、滑らかに大地の中を泳ぎ切ると、何事もなかったかのようにキング・ゴブリンの脇に舞い戻った。

言わずもがな、キング・ゴブリンの透過魔法の効果だ。


実は、これが原因その二。

透過魔法は想定内だったけど、武器を自由な軌道で振るうために使われるのは想定外だった。

いや、私もここまでやり辛いとは思わなかったんだけど、武器を持った相手と対峙したとき、私は無意識に『武器が飛んでこない軌道』というものを選択から外すことで、思考を簡略化させていたらしい。

簡単に言えば、何も考えずに剣を振った場合、『剣先が地面にぶつかる軌道』と、『自分の体に当たる軌道』の全てだ。


キング・ゴブリンは、これら無意識に除外している剣筋も平気で使用してくるせいで、それが予想外の動きとなって、私の判断を遅らせているのだ。


…………ジャミング術式?

私もそれで無効化できるかと思ったんだけど、配下のゴブリンが使用するものと違って、本人のスキルを使用した本物は、ジャミング術式で無効化されても瞬時に新しい術式を作り直すことができるせいか、うまく機能しなかったのよ。



サリーさんたちの方に近付かれては困るので、状況を変える妙案も浮かばないが、武器を構え直したキング・ゴブリンに再度接近する。


真正面から打ち合うのは分が悪い。周囲を回って攻撃を誘うが、キング・ゴブリンもなかなか動かない。

あちらとしてみれば、私が先に攻撃した方が、隙を突ける可能性が高いのだ。

動く理由がな――――


『ルーシアナ!!』


『分かってる』


高速の矢の一閃が、狙い澄ましたかのように踏み出した右足へと走った。

ゴブリンアーチャーの射る矢の多くは、狙いも適当に飛んできているのだが、たまにこういうスナイパーのようなものも飛んでくる。

そんなものでも、基本的には《ロング・サーチ》で捉えられるので、躱すことに特に問題はない。

問題は、これが切っ掛けになるかどうかということで…………


「ゴァッ――――!!」


矢を回避するために前へ加速した一瞬を見逃さず、キング・ゴブリンが攻撃を仕掛けた。

私の背後から前へと抜ける、水平に近い横薙ぎの一閃だ。

前へ進むことで矢を回避しようとしていたため、キング・ゴブリンから離れることで斬撃を躱すことは難しい。

なら方法は、下か 上か 受けるか はたまた別の何か。


「くっ……!!」


選んだのは下。わざとバランスを崩し、地面を転がって矢もまとめて回避する。

『ブオォン!!』と低い音がして、頭上を大豪剣が通り過ぎた。


上を選ばなかったのは、空中では細かい動きが取れないから。

受けなかったのは、そのまま抑え付けられて、逆の剣が飛んできそうだったから。

別の何かは思い付かなかった。


とはいえ、下もそう安全とは言い難い。

何しろ、倒れているのに等しいので、速度は出ていないし、武器を振るうことも出来ない。

なにより、一番の危険は……


「があぁ!! ぐおぁ!! ぎぁ!! がおぁ!!」


地面を這う虫に対するような、踏み付けの連打が襲う。いや、本人にしてみれば、虫みたいなもんだろうけど。

腕や足は言うに及ばず、肩や肘、膝など、全身を使って転がる軌道を変えて踏み付けを回避し、離れたところで起き上がる。


「ごああああ!!!!」


「っ!!」


キング・ゴブリンと距離が空けて安心してしまったのか。

無防備に膝立ちのまま一呼吸吐き、動きを止めていると、キング・ゴブリンは両の大豪剣を地面に刺して体を支え、砲弾のような直蹴りを撃ち出す。

それは、全力斬りに匹敵する速度で、真っ直ぐに飛んできた。


「っくの!!」


せめて、立ち上がってから一呼吸おいていれば、どうとでもなっていたものを……

膝立ちという状態では、選択できる動作はそう多くはなかった。

直蹴りの斜め下を抜けるように前転。足が戻る前に、股下を抜けて後方へ抜けた。


私がキング・ゴブリンに向き直るのと、キング・ゴブリンが私に振り返るのは、ほぼ同時だった。


「ぉああ!!」


「がああ!!」


でも、僅かに私の方が速い。

キング・ゴブリンが大豪剣を構える前にスレイプスレイドで斬り掛かると、キング・ゴブリンは二刀を十字に交差して私の一撃を防ぐ。


好機!!


その瞬間、[アイテムボックス]から取り出したのは、本日のMVP『閃光玉』。

自由落下で私の頭上に放出。丁度、キング・ゴブリンの正面で炸裂するタイミングだ。

この位置だと、サリーさんたちの方へも閃光が届いてしまうが、防ぐだけならナツナツでも出来る。

これで視界を潰せれば――――


『ルーシアナ!!』


『!!!?』


二刀ごと、キング・ゴブリンを抑え付けるように掛けていた力が、『フッ』と抜ける。

直後に腹部に衝撃が走った。


「ぐっ!?…………っっふ!!」


一瞬だけ視界が砂嵐に塗り潰され、音が消える。

直後に戻った世界は、妙に高くて浮遊感に包まれていた。


『…………蹴られた、の』


『そうだ。【衝撃緩和】、《クリア・プレイト》は発動したが、大丈夫か』


『ぐ……』


事態を認識した途端、ズシンときた。

鈍痛が重くお腹に圧し掛かり、冷や汗が吹き出て、視界が涙に歪む。

でも……


『大丈夫……この痛みなら、動ける。《鈍感》発動』


『くそっ…………早く終わらせて、回復するぞ』


でも、マジで被撃訓練しといて良かった。

これが初めてだったら、自分のダメージを客観視できずに混乱しているところだ。


ベーシック・ドラゴンの魔石スキル《鈍感》の効果でゆっくりと鈍化し消えていく痛みに、何とも言えない気持ち悪さを感じていると、背後で閃光が弾けた。

そうだった。

コレを防ぐために、蹴り上げられたんだった、私は。


幸いにも閃光玉は、起動時に光以外の影響を及ぼさないので背が焼ける心配はないが、最初は閃光と同時に轟音、爆炎、衝撃波を撒き散らす効果も付与する予定だった。

『万一、他人を巻き込んでも被害が少なそうな光だけにしよう』と、思った私。グッジョブ。


『もし、そんな効果があったら、そもそも頭上には出さんだろう……』


…………聞かなかったことにする。


今、私の体は、上昇する力を失って、自由落下を始めるところだ。

高さは、キング・ゴブリンの身長の倍くらい。

しかも、閃光玉の壁にするつもりで、真上に蹴り上げられたものだから、水平方向にはほとんど移動していない。

このままだと、キング・ゴブリンにとって、都合の良い間合いに落下しそう。


…………と。


ボゴオォォォ…………


小さな崩落の音が広場に響き渡った。

薄暗かった広場が(にわか)に明るさを増し、動きにくそうに場を満たしていた音たちが、一斉に活力を取り戻し、そこ(・・)に殺到する気配を感じる。

サリーさんたちのさらに向こう…………オズが開通させた通路の先へと。


「ルーシー!! 開通したよ!! 戻って!!」


サリーさんの焦燥に満ちた声が響く。

それはそうだろう。

彼女がどこまで見ていたかは分からないが、今の私の状態だけ見たとしても攻撃を受けた直後だというのは、容易に想像できるのだから。

…………ナツナツが無事を伝えてくれていることを祈る。


展開したままだった飛行ユニットを操作し、キング・ゴブリンから離れる軌道で圧縮空気を噴射する。

私に加えられたダメージなど無関係な飛行ユニットは、いつものように私の体をかっ飛ばしてくれた。


「ぐぉおおごがああああああああ!!!!!!!!」


宣言のような咆哮が、私を捉えて、追い抜いて行く。


何が起こっているのかは、ゴブリンたちにも分かっているだろう。

出口は通じて、呼ばれたのだ。合流されたら、逃げられる。

『逃がさん!!』という決意が乗っていた。


キング・ゴブリンの咆哮に押され、配下のゴブリンたちが、作戦も何もかなぐり捨てて、サリーさんたちのいる通路に殺到する。

そして……


ご……ごごごごごごご…………!!!!


洞窟までもが、ゴブリンたちに追従するように、重低音を響かせて振動する。

それは、すぐに明確な現象となって、変化を始めた。


がこっ!! ぼこ!! ばがぉ!!


通路の天井を透過魔法で崩落させた時と同じ、無差別の範囲攻撃だろう。

ただし、通路の時とは違い、天井全体が一気に落ちてくることは無く、大小様々な岩が、不規則に落下してきている。

これは、通路と違い広場の天井が高いため、全体に均一に透過魔法を施せなかった。若しくは、透過術式が壊れないサイズの岩を落とすことで、ゴブリン側は自由に動けるようにしていることが考えられる。

が、どちらにしても、ゴブリンたちの棲み家にも多大なダメージを与える、奥の手 中の 奥の手だったはずだ。

『逃がすつもりはない』という決意の現れだ。


『ナビ!!』


『さすがに透過の有無は分からん!! 危険なサイズの落下物のみマーキングする!!』


さすがにこの岩と土砂の雨の中を、飛行ユニットでムリヤリ突き進むのは危険が過ぎる。

地面に突き刺さる軌道で高度を下げた。


「ぐぅぅるぅううおおおあああああ!!!!」


そこに、無秩序に落下してくる岩雨を破って、防御を捨てたキング・ゴブリンが襲い掛かる。


大岩をすり抜けて、キング・ゴブリンが踏み込み、大豪剣を縦横に振って攻撃を連射した。

『急所を狙うなど小賢しい』とばかりに、体の中心、どう避けるもの難しい軌道の二連撃だ。

縱に近い右の剣閃を半身となって躱し、胸部を狙った左の横薙ぎを、腰を落として回避する。

姿勢の低くなった顔面目掛けて、強引な蹴り上げが放たれた。


『ナビ!!』


『《クリア・プレイト》』


二度も同じ手は喰らわない。

《ショート・ジャンプ》も併用した蛇行軌道で回避し、背後に落下した大岩の陰に隠れる。

その途中でナビの展開してくれた魔法障壁が、甲高い音を連発して砕け散った。

ゴブリンアーチャーの斉射だ。


『ありがと』


『先に配下の数を減らしておくべきだったか……』


それをすると、キング・ゴブリンの注意がサリーさんに向くんじゃないかと思ったから、できなかったんだよね。

でも、邪魔だ。


即座にバックステップ。

直後、一切の予兆なく、大岩の表面から大豪剣が突き出されると、そのまま斜めに斬り下ろされた。

いくら透過魔法でも大岩を透視して私の姿を捉えることは出来ないので、当てずっぽうの攻撃だろう。

その証拠に、突きも斬りも、私の不意を突く以上の効果は無く、キング・ゴブリン本人も大岩を回って姿を現したのだから。


…………まぁ、今は私、キング・ゴブリンからは大きく距離を取っているんですがね。


「ぎぎゃ!?」×4


背後から上がる驚愕色の強い鳴き声は、『安全圏にいる』と思い込んでいたゴブリンアーチャーたちのものだ。

《ショート・ジャンプ》を用いた大跳躍の勢いのまま、後方へ大回転斬り。

咄嗟のことに動けずにいたゴブリンアーチャー 4体を一刀の元に斬り伏せた。

そのまま回転斬りの遠心力に引かれて軽く跳躍。

そこに、大跳躍で稼いだ距離を一瞬で詰めたキング・ゴブリンの一撃が、真っ直ぐに振り下ろされた。


「うっ――!!」


その攻撃は、これまでのように床を素通りしなかった。

術式が破損していたのか、発動が間に合わなかったのか、そもそもわざとか。

原因は分からずとも、変わらない結果が訪れる。


すなわち…………無数の石礫となって。


咄嗟に右腕を掲げて、砂塵のような石礫を防ぐ。


『――――――――』


ナビは私に、念話の呼び掛けすら省略した。

それだけ、集中すべきだと判断したからだ。


視覚情報が、全て《ロング・サーチ》による、魔法知覚情報へと切り替わる。

…………いや、『切り替わる』訳ではないか。元より併用していたのだ。ただ、《ロング・サーチ》に頼る分が増しただけだ。

これまで視覚の補助として利用する程度だったため、ナビがフィルタリングして私に回してこなかったような、ノイズに等しい仔細な情報が脳内に流れ込む。


イメージとしては、雲。

それが広間全体に広がり、優先度に応じて密度を増している。

それはさながら雲を形作る水滴のようでいて、その実態は各座標における観測点だ。

地水火風光闇生命時空。各座標点の属性値を観測し、送ってくる。

ひとつひとつのデータは、ただの属性値情報でしかないが、全体を俯瞰して見れば、世界を感じることができる。

そして、最も優先度の高いキング・ゴブリンは…………それこそ腕や脚の位置どころか、髪の毛の一本一本に至るまで、視覚以上に精細なデータで構成されていた。


故に。見て、動くことができる。



キング・ゴブリンは顔を腕で塞ぎ、視覚を潰した私を見て『勝った』と思ったのか、嫌らしく笑う。

そして、床に叩き付けた大豪剣を、()じるように捻りながら、こちらへと振り上げた。

剣身に抉られた大小様々な石片が、第二波となって飛来する。


だが…………それらは全て見えている。

細かい破片は、無視してOK。他、中・大と分類し、中は真正面から当たらないようにだけ気を付けて、大は回避するか刀身で弾く。


その結果が出る前に、キング・ゴブリンが来た。

振り上げの勢いを利用して、踊るように双剣が舞う。

今度は、しっかりと剣を床に透過させ、一瞬たりとも速度を低下させない滑らかな連撃だ。

それに対する私の対応は、冷静に一歩ずつ下がること。

《ショート・ジャンプ》を駆使して、キング・ゴブリンの間合いの外を、ギリギリキープして下がり続ける。

双剣だけでなく、落下してくる岩石と思い付きのように飛んでくる矢と魔法も気を付けないといけない。


一閃、二閃、一石、一矢、二矢、三矢、三閃、四閃、二石、三石、一炎、一風、二炎、四矢、五矢、五閃、六閃…………


途中でゴブリンウォリアーに挟撃を狙われたが、ハイ・ゴブリンだったとしても、今更 手子摺(てこず)る相手でもない。

回避運動に巻き込んで、遅滞無く斬り抜けた。


そして、変わらぬ戦況に、ついにキング・ゴブリンが動きを変える。

私の回避軌道上……つまり、私の背後に狙ったかのように一際大きな岩が落下してきた。

それに合わせて、双剣で挟み切るような斬撃を放ったのだ。


大岩を越えて下がるには、気付くのが少し遅かった。

大岩を避けて斜めに下がると、左右の双剣が当たる。

前に出て、キング・ゴブリンの股下を抜けて裏に回るのが最も安全だが、後ろへ下がる慣性が働いていて前には行けない。


絶体絶命…………ではなかったり。

キング・ゴブリンが、完全な攻撃一辺倒になるのを狙っていた。


下がる速度を調整して先に大岩を落下させると、背中から大岩にぶつかって、完全に速度を殺した。

キング・ゴブリンの双剣は、右剣が上半身を、左剣が下半身を狙った軌道で来る。

一歩 踏み出し、右剣の方へ身を寄せると、ずっと顔を守るように掲げていた右腕を背中側に回した。

その先には、右手に握られたスレイプスレイドが、天を向いて直立している。

そのまま左手で柄を握れば、大上段斬りの構えだ。


キング・ゴブリンが何か反応を示す前に…………全力の斬撃を放つ。

【重量軽減】を反転発動させた超重のスレイプスレイドは、キング・ゴブリンの大豪剣と真正面から交差。

全力を込めた一撃は、大豪剣を握るキング・ゴブリンの腕ごと後方へ弾き飛ばした!!


驚愕に目を見開くキング・ゴブリン。

流れるような円の動きで、左剣も同様に弾き飛ばす。

驚愕に支配されたキング・ゴブリンの左剣は、右剣以上に容易く後方へと弾かれていった。


…………実は、キング・ゴブリンとの戦闘が始まってから、武器と武器をぶつけて力比べするような状況を、可能な限り避けてきたのだ。

キング・ゴブリンにしてみれば、『真正面から力で当たっては敵わない』と思っているように見えただろう。

だからこそ、力で押し負けた今の状況に驚き、動きを止めてしまった。

今、キング・ゴブリンは両腕を広げて、急所である頭・胸・腹を大きく開いた無防備な状態を晒していて、私のスレイプスレイドは円を描き切って頭上にある。


狙い通り……!!


飛行ユニットを噴射し、跳躍。

即座に逆噴射。さらに、体に掛けた【重量軽減】を反転発動。


視線だけで殺されそうな眼差しのキング・ゴブリンの頭部へと、真っ直ぐにスレイプスレイドを叩き落とした。





ずずぅぅぅぅんん…………


キング・ゴブリンの巨体が、力無く大地へ沈んだ。

生きてはいない、とは思うが、念のため距離を取る。


『ナビ』


『《フル・スキャン》……………………心拍の停止 及び 血圧の急激な低下を確認。死んだと見ていいだろう。…………まぁ、真っ二つだからな、頭……』


『まぁ、そうなんだけど…………』


狙い通りだったけど、狙ったわけではないですはい。

キング・ゴブリンが倒されたことで、落石も急激に収まりつつあった。

周囲からの攻撃を警戒しつつ、スレイプスレイドを確認する。


『…………思いっきりぶつかったけど、破損は無さそうね。良かった』


『気にしてはいるんだな……』


そりゃ、そうだ。

予備もあるけど、多分 同じものは二度と手に入らない類のものになってしまったからね。

だからといって、後生大事に奉るつもりはないけど、多少はね。


『一応、峰の方で打ったから、刃が欠けるようなことにはならなかっただろうけど』


『それでも、強度は落ちているだろう。それは念のため背に担いで、別のを使え』


『了解』


[アイテムボックス]に仕舞ってしまうと、《スティール》の強化分が消えちゃうからね。

スレイプスレイドを背に担ぎ、改めてキング・ゴブリンを見る。

そこに横たわるキング・ゴブリンからは、先程まで溢れていた生命力は微塵も感じられない。


『……………………』


『ルーシアナ。礼を尽くすのは後にしてくれ。まだ、戦闘中だ』


『…………そだね』


言うが早いか、私が返事をする頃には、すでにキング・ゴブリンの体は[アイテムボックス]へと収納された。

ついでに、キング・ゴブリンの持っていた大豪剣 二振りも。


まぁ、ナビの言う通りだ。

まだ、ゴブリンたちは残っていて、サリーさんの方へ押し寄せている。

ここでのんびりとしていて、怪我でもさせてしまっては、申し訳ない。


『先にゴブリンアーチャーを始末していくよ』


『御意』


まずはキング・ゴブリンが倒され、動揺に固まっているゴブリンアーチャーたちに襲い掛かった。

・被撃訓練の『被撃』について

最初は、『被弾訓練』にしようと思ったんですよ。

でも、『被弾』の意味は、『銃砲撃で弾丸を受けること』で、つまり、銃弾以外が当たった場合は、『被弾』とは言わないんですね。

じゃあ、何て言うのか調べたけど分からなかったので、もう『被撃』にするしか…………

結論。『被撃』なんて単語はありませんので、ご注意を。

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