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ゴーレム娘は今生を全うしたい  作者: 藤色蜻蛉
9章 進出!! 王都 冒険者ギルド
218/264

第208話 ゴーレム娘、イキる

168 ~ 220話を連投中。


11/1(日) 10:20 ~ 23:20くらいまで。(前回実績:1話/15分で計算)

一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。


word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿。


申し訳ありません。



ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。

もうもうと土煙の立ち込める洞窟内で、人ならざる者たちが歓喜に沸いていた。


戦果としては、仲間の大部分を失い、棲家の一部崩壊している…………と、損失の方が大きい結果ではあったものの、ゴブリン種は群を作る魔獣の中でも比較的仲間同士の情が薄いので、あまり気にしていないようだった。

また、崩壊した通路にしても、これを掘り起こすような単純作業ならば、彼等の得意分野である。数に任せた人海戦術で、一週間と掛からずに元通りになるだろう。


今は、予想外に手こずらされた獲物を、無事 倒すことができた喜びに、ただただ声高らかに武器をかち合わせて、勝鬨をあげ続けている。


…………………………………………


しばらく感情のままに騒ぎ続けていたが、次第に土煙が晴れてくると、数体のゴブリンが手近な土砂を退け始める。

早くも復旧に向けて動き出した…………訳ではなく、具体的な戦果を目の前に引き摺り出し、改めて騒ぎたいがための、衝動的な感情に動かされたものだった。


だが、それを咎めるものはここにはいない。

キング・ゴブリンの野太いダミ声が響くと、配下のゴブリンたちは嬉々として土砂の掻き出し作業に加わった。


…………

……………………

………………………………

…………………………………………


……………………十分程、掘り続けただろうか。

ゴブリンたちは、未だ勝利の余韻に浸りながら、一心不乱に土砂を掻き出し続けている。

…………と。


「ぎゃ!!」


「ぎゃうぎゃうぎゃうぎゃう!!」


「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」


一体のゴブリンが何かを拾い上げた。


それは、半円状の金属できた板のようなもの。……ココネが持っていたテルミ鋼の盾である。

拾い上げたゴブリンは、それをトロフィーのように高々と掲げて仲間に振り返った。


再び沸き上がる歓声と金属音。

まるで、そのゴブリンが全てを成し遂げたかのような、堂々とした態度でキング・ゴブリンの元へ歩き始める。


ぞぶっ……


「ぎう゛ぁ?」


そんな彼から不意に刀身が生えた。

それは、夜闇の漆黒と白骨の白から成る重大剣。スレイプスレイドの刀身だった。

刃を上にした刀身は、そのまま上に跳ねて、偽雄の上半身をふたつに断つ。


「オズ」


「【岩跳流下】」


噴き出す奔流が、土砂を掻き出すために集まっていたゴブリンたちを、まとめて押し流した。


「ぐぎゃうぎゃうぎゃ!!!?」


「ぎゃぎゃう!? きゃうぎゃ!!」


「ぎゃぎゃあ!! ぎゃあきゃ!!」


再び立ち込める土煙。

先程の魔法は、攻撃のためではなく、戦場を確保するためのものだったのだろう。

崩落跡を埋めていた土砂は、魔法の発動地点から真っすぐに吹き飛ばされ更地となっている。

魔法に巻き込まれたゴブリンたちも、頭を振りながらすぐに身を起こしていた。


そして、徐々に土煙が晴れていくと、そこにいたのは…………


「んじゃ、行ってくるわ」


「いってらっしゃい、お姉ちゃん」


スレイプスレイドを片手で軽々と振り回すルーシアナと、巨大なテーブルのようなものの下から顔を覗かせるオズだった。


「ゴヴアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


キング・ゴブリンが怒号をあげる。

それが、第二ラウンド開始の合図となった。





さて、時はほんの少し遡る。

ゴブリンたちが意気揚々と土砂を掻き出し始めた頃、ルーシアナたちは5m四方程度の狭い空間にいた。


上面は円形の平らな天井。その円周近くと中心からは2m程の五柱が伸びており、一部地面にめり込んでいる。

一見すると円筒型の小部屋のようにも見えるが、壁に相当するものはなく、土砂崩れに飲み込まれた建物のように、石や土が全周囲から雪崩れ込んでいた。

ただ、ルーシアナたちがいる中心付近には、十分なスペースが確保されている。


「……………………ねぇ、ルーシー」


「ん? ココネさんとフォズさんなら、命に別状は無さそうだよ。ただ、今の状態で戦闘は難しいだろうけど」


「とりあえず応急措置だけしておきます。すぐに敵が来るでしょうし」


「あ、うん。ありがとう。…………でも、そうじゃなくてね?」


「ん?」


「……………………このでっかい…………ナニコレ? まぁ、いいや。コレ、どこから出したの?」


「……………………」


目を丸くして上を指さすサリーさんに、ちょっと迷った挙句、選択肢で回答した。


「『土属性魔法で瞬時に作り出した』と『収納魔法に仕舞ってあった』だったら、どっちの方が信じられる?」


「どっちもムリだからそれーーーー!!!!」


「サリー、うるさい…………こういうもん こういうもん」


「ぅぅ……頭に響きます……」


『―――――――― ( ´_ゝ`)』


「あぁ……フォズちゃん、大丈夫? サっちゃん、しー、しー」


「うっ……………………ごめん…………」


四人の中で一番疲弊が少ないサリーさんが、全員の気持ちを代弁して絶叫し、全員に怒られた。理不尽。


『それにしても、万一を考えて、オズに強度を上げておいてもらって良かったね、ホント』


『いや、これはいくらなんでも堅過ぎでしょ……天井がまるまる落ちてきて押し潰されたのに、ビクともしないとか、何で出来てるの~?』


『まぁ、ふたつに割れた天井の隙間に入ったからな……全荷重が掛かっている訳でもない。…………それにしたって頑丈だが』


『え~と、これ、見た目も感触も石にしか見えないんですけど、分子レベルで見ると金属結合を有するセラミック素材なんです。通常、セラミックは衝撃に弱いんですけど、これは金属の性質も有するので、衝撃にも強いです。代わりに金属以上に密度が高くて重いですけど』


オズが二人を治療しながら、困ったような顔でチラリと柱…………石台の脚を見る。

もう分かってると思いますが、ココネさんたちが砕いてくれた天井に押し潰される前に、この石台を[アイテムボックス]から取り出し、その下に隠れた訳ですね。


『万一の時、遮蔽物の代わりに使えたら便利かもねー』と安易に呟いた結果、オズが頑張ってくれました。

まさか、早速使う機会が訪れようとは…………作ったからそんな機会が訪れた(フラグが立った)ってことはないですよね?


「でも、ココネさんたちが天井を砕いてくれて助かったよ。さすがに直撃には耐えられなかっただろうし」


「そう言ってもらえると……頑張った甲斐があるよ……」


「ちょっとは、頼りになる、ところを、見せられた、でしょうか…………」


「……もちろんです。というか、元々頼りにしてますよ」


息も絶え絶えに健気なことを言うフォズさんに、ちょっと意表を突かれた表情をしたオズが優しく頭を撫でた。

目を細めて嬉しそうな顔をするフォズさんを見ていると、どっちが歳上なんだか分からなくなるな……


『…………いや、この中では一応 オズは最年長だろう。見た目はアレだが』


『そだね~。でも、この場合はそういう話じゃないのよ~』


『何となくですけど、お姉ちゃん(15)(13)よりも歳下に感じるんですよね~。…………見縊(みくび)っているような印象を与えないように気を付けないといけませんね』


『う゛…………確かに』


ほぼ同年で、フォズさんの方が身長なども上なのだが、言われてみるとチコリちゃんと同じような感覚で接していたような気もする。

まぁ、一歳差なんて、気にする程のものではないと思ってるのもあるけど。


『その辺はとりあえず、後回しだ。オズ。このまま入口に向かって、掘り進んで行けるか?』


横道に逸れそうになった話を元に戻してくれたのは、ナビの一言だ。

オズは、じっと土砂の方を見た後、軽く首を振る。


『難しいですね。正確な崩落範囲は不明ですが、出口までまだまだ距離はあったはずです。

地属性魔法や[アイテムボックス]で除去は出来るでしょうが、再崩落の可能性も高いですし、通り抜けるのに10分は掛かるかと』


『微妙なところだな……』


『まさか透過魔法を罠として使うなんてね……』


今回の天井崩落の罠。

通常であれば、天井に爆弾や爆発魔法などを仕込んで崩落させるのが一般的だが、それだったらナツナツの《魔眼》や《透視》で見破ることができたはずだ。

それが出来なかったのは、洞窟内の他の場所と同じような透過魔法の術式を応用したものだったからだ。

つまり…………


『透過術式AとBの積層型か……』


透過術式Aが刻まれた対象は、透過術式Bが刻まれた対象を透過する。

崩落させたい天井に透過術式Aを刻み、それと接する面に透過術式Bを刻んでおけば、術式を同時発動させるだけで広範囲の天井を崩落させる罠となる。

爆弾や爆発魔法を使った場合だと、威力のムラや時間差などを考慮しなければならないが、透過魔法ならそういったものは考えずに済む。ただし、事前の準備が大変だが。


…………ここのリーダーは、ゴブリンとして見ると、かなり特殊な個体らしい。

普通のゴブリンなら、こんな計画立てて準備したりはしないはずだ。


『…………となると、やっぱり倒しておきたいね』


『《龍王の系譜》とは関係なく、こういうの引き当てるの、一種の才能だよね~。ルーシアナは~』


『確かにな』


『私はどうしましょうか?』


『う~ん……』


ココネさんたちを見る。

先程も言った通り、闘えるのはサリーさんとマヤさんだけで、二人とも消耗は激しい。

なら、ここはやっぱり……


「オズは、応急措置が終わったら、入口に向かって掘り進んで行って。サリーさん、マヤさん、敵が来ると思うんで、オズを任せても良いですか?」


「ルーシーはどうすんの?」


私がこう言うのが分かっていたかのように、喰い気味にサリーさんが言葉を挟む。

誤魔化すことなく、真っ直ぐに伝えた。


「私は外に出て、キング・ゴブリンを引き付けるよ。配下は流石にどうなるか分からないんで、こっちに来たら迎撃をお願いしたいかな。攻め込まれないように抑え込んで欲しい」


「「「「…………………………………………」」」」


サリーさんを始め、四人共黙り込む。

Bランク魔獣にCランク冒険者が一人で挑む無謀さ、非常識さに、それ以外に選択肢がないとしても安易に頷くとこができないのだろう。


「キング・ゴブリンがこっちに来たら、確実に乱戦になる。場合によっては、岩壁内に透過魔法を刻み直される可能性もあるし。

そうしたら、オズは作業出来ないし、ココネさんとフォズさんも巻き込まれる。

だから、誰かがキング・ゴブリンを引き付けておかなきゃならないし、この中なら私しかいないでしょう?」


「…………そう、だけど……」


「危険、です……よ」


「……………………ルーちゃん」


「……………………奥の手、信じてもいいんだな?」


ココネさんの苦み走った声に力強く頷く。


「……………………すまない。死ぬなよ」


「もちろん。それに……」


ずっと背に括り付けていたスレイプスレイドを抜き放つ。

普段であれば、両手でなければ扱えない重大剣も今は軽々と扱える。

奥の手…………スレイプスレイドの武器スキル《スティール》により、ステータスが強化されている今ならば。

このために片手剣を使っている時も重大剣を背負い、スキルも最低限に絞って《スティール》の維持に努めたのだから。


『ナビ』


『《パーマネント》正常発動中。約30分間は、キング・ゴブリンにも匹敵するだろう』


『オッケー。30分も掛けないよ』


さすがに低燃費の《パーマネント》も、《スティール》に加えて、《ストレングス(身体強化)》と《共在の友愛(美徳スキル)》の三重強化では、魔力消費量も魔力回復量を超えてしまって、MPもゴリゴリ減っていくだろう。

ここに《ゴーレムの心得》による戦闘時ステータス強化も加わるわけだし。

《パーマネント》が維持できなくなれば、ステータスも元に戻ってしまい、そしたら私たちの負けだ。

ま、そのときは空間転移で逃げさせてもらうけど…………


「全て倒してしまっても、構わないのでしょう?」


スレイプスレイドを片手で振り下ろす。

ただの斬撃でしかない一撃は、腰の高さほどの岩に易々と滑り込み、上面を斜めに斬り落とした。

…………そして、均衡を崩された土と石が『ドドド……』と流れ込んできて、ココネさんを飲み込みかけた。


「うおわっ?!」


「あ」


「あら~」


『おいおい……』


「…………お姉ちゃん……」


「……………………ホントに油断するなよ」


「そーねー」


「あの、えっと、その……」


「ルーちゃん。油断、ダメ、絶対」


「……………………肝に命じます」


背を向けてたけど、赤面していたことは、多分バレバレだった。

・注釈(造語系):偽雄について。

(いつわり)の英雄』的な意味の造語です。ググればヒットするけど、意味は違うようなので。

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