第207話 ゴーレム娘、三十なんちゃら逃げるに如かず
168 ~ 220話を連投中。
11/1(日) 10:20 ~ 23:20くらいまで。(前回実績:1話/15分で計算)
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ミドリス・アドミートの王都北東部に位置する、管理番号153の魔獣隔離窟。
その入口に程近い天然広場にて、一聞すると危険とは無縁な音色が鳴り響く。
それは、洞窟の奥へと続く通路から広場に集う獣人たちの中へ均等に投げ込まれ、これまで通りに彼らの興味を引いた。
次の瞬間、使用者にとっては慣れつつある閃光が一際強く輝き、獣人たちの視覚を一時的に奪い取る。
しかし、すでに逃亡者が強烈な光を闘いに用いていることは、獣人たちにとっても周知の事実。
身構えていた以上に強い光に、視覚は奪われたものの、動けなくなる者も慌てふためく者もいなかった。
静かに両目を押さえて、くぐもった呻き声を漏らすのみである。
ただ、それでも盲目の時間は等しく降り掛かる。
その隙を突いて六人の人間 (+α) が、ゴブリンの群を回り込むような軌道で一気に駆け抜けた。
オズの《偽音唱音》で足音などを限りなく消しているので、視覚を奪われたそのゴブリンたちにルーシアナたちの位置がバレることは無い。…………『その』ゴブリンたちには。
「ぐぎゃうぎゃうきゃう!!!!」
「ぎげぇぇぇぇ!!!!」
不自然な程 静かだったゴブリンの群から、ひとつの意味が込められた奇声が、複数上がる。
それは『警告』、もしくは『指令』の声。
その声の持ち主は…………ゴブリンの群の至る所にあった。無数のゴブリンたちの影に隠れて地面に生える生首たちからだ。
「なんだあれ!?」
「生首がなんで喋ってんのーーーー!?」
ココネとサリーが、さすが兄妹の呼吸で驚愕の声をあげた。
「違う!! 透過魔法で地面に潜って、閃光玉をやり過ごしたんだよ!!」
「うわ、ごめーーーーん!! さすがに、アレは予想外!! 見逃した!!」
「【石針面刺】」
如何に強力な閃光でも地面の中には届かないし、他に未知の技を使われても無効化できる可能性は高い。
透過魔法を使える者ゆえの、効果的な対応であったと言える。
すかさずオズが無数の石針を作り出すと、それにジャミング術式を忍ばせてゴブリンの群に斉射する。
その大半は、立ったままのゴブリンの防具に弾かれて、ダメージを与えることも出来なかったが、僅かにすり抜けた石針は地面に刺さり、地中に向けてジャミング術式を展開した。
「ぎひっ!?」
「げへぇ!?」
次の瞬間、奇声をあげていたゴブリンたちは、『ビクン!!』と一度だけ大きく痙攣し、そのまま動かなくなる。
透過魔法を無効化され、地面と一体化・即死したのだ。
「「「「容赦ない……!!」」」」
「簡単に倒せる方法があるなら、選択しない理由はないです」
同意。
狙いは恐らく、仲間の目の代わりとして、ルーシアナたちの位置を仲間に報せることだろう。
多くのゴブリンたちが、目を瞑ったまま向きを変え、狙いも定めずに矢と魔法を放った。
その攻撃は、狙いが曖昧ゆえに、一種の壁となってルーシアナたちの進行上に降り注ぐ。
「【エア・プレス】、からの《アクア・ストリーム》!!」
「レミィちゃん!!」
『―――――――― ( ゜Д゜)』
ルーシアナが、[アイテムボックス]から飛行ユニット用の圧縮空気を擬似風魔法として放出し、矢と火・風属性魔法を吹き散らす。
風で押し切れなかった水・地属性魔法は、地属性に次いで重い魔法である水属性魔法で軌道を逸らした。
物理的な影響の少ない光・闇属性魔法は、レミィが無効化する。
「ゴブリンの動きが鈍い!! このまま通路に突っ込むよ!!」
「うん!!」
「分かったわ!!」
ゴブリンとて、目の見えない状態で敵に近付くほど愚かではない。
ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジからの遠距離攻撃はあるが、近距離を得意とするゴブリンウォリアーが近付く様子はない。
なら、このまま進行方向上のゴブリンたちだけ、速攻で倒して駆け抜けるべきだと考えたのだろう。
「マヤ姉さん!!」
「【ヴォイド・エフェクト】!!」
「《ワイドブロッキング》!!」
マヤが闇属性魔法を発動させると、ココネの盾をうっすらとした黒い靄が覆う。
【ヴォイド・エフェクト】は、対象に加えられた攻撃エネルギーと相殺して、ダメージを軽減させる魔法である。
これは今使って見せたように、人ではなく盾や壁などに施して壊れにくくするような使われ方をする。
そして、ココネが楯術スキル《ワイドブロッキング》を使用すると、手に持つ盾と比べて、数倍の大きさの魔法盾が出現した。
《ワイドブロッキング》は、自分の持つ盾を魔法盾で拡大化するようなスキルだ。
これを使用することで、重さや取り回しは変わらずに広範囲を守れるようになるが、代わりに魔法盾に加えられたダメージは元の大きさの盾に集中する欠点がある。
つまり、盾に加わるダメージは、普通に攻撃を受けるよりも一点に集中することになり、盾の強度を著しく低下させる諸刃の剣なのである。
そのための【ヴォイド・エフェクト】で、可能な限り盾の消耗を抑えているのだ。
「どっっっっけぇぇぇぇいい!!!!」
「ふっ……!!」
目の見えないまま武器を構えるゴブリンたちに、サリーとルーシアナが左右から襲い掛かる。
サリーの双剣は素早く瞬き、武器を握る腕と急所を的確に切り裂いていく。
ルーシアナの重大剣は、真っ直ぐな軌道を描いて、武器も防具も関係なく叩き潰す。
そして、空いた隙間を抉じ開けるように、ココネが魔法盾を展開して突き進む。
「――――っし!! このまま抜ける、ぞ!!」
入口へと続く通路まで、後 数歩。
順調過ぎる程 順調で、ここにいる誰もがこのまま脱出できると考える状況に、しかし、違和感を覚えていたのは…………ルーシアナとココネだった。
『…………なんか、目眩ましの時間、長くない?』
『いや…………すでに大半の視力は回復しているようだ。長いわけでは…………ない、よな?』
『ん? なら、なんで押し寄せてこないの~?』
『元々、体裁として立ち塞がったものの、無理して倒すつもりはない、とかですか?』
ルーシアナたちの間では、このような会話がなされたものの、確信には至らず、そのまま状況が進むに任せた。
そして、ココネの方では、
『なんだ…………? なにか…………嫌な予感が?』
ココネにして、初めての感覚に戸惑いを覚えていた。
実は、本人もどさくさに紛れていたためすっかり忘れているが、みなさんは最初に彼らがハイ・ゴブリンに襲われた際に、ココネが取得したスキルを覚えているだろうか?
《最適動作》のスキルである。
これは、通常『使用者が複数の動作選択に迷った際、過去の経験などに基づき、最も適している動作を無意識に選びやすくなる』という、常時発動スキルである。
例えばそれは敵の攻撃を受けそうになったとき。『防御を固めて受ける』か、『飛び退いて衝撃を逃がす』か。
はたまた、攻撃を盾で受けているとき。『右に逸らす』か、『左に逸らす』か。
人は、意識的 無意識的問わず、常に何かしらの選択をしているものだが、これはそういった『あらゆる選択の成功率を上げる』というスキルなのだ。
そして、ある道に精通した者の中には、『初めての状況にも拘わらず、その次に起こることがなんとなく分かる』という、予知能力めいた感覚を会得する者もいる。
それは、本来 莫大な選択とその結果の蓄積による経験が、これから自身が取るべき最適な動作と、そこから導きだされる結果を予測する、言わば『予想』でしかないのだが、多くの場合、この『予想』は確かに未来を予知する。
つまり、《最適動作》がいつか『最適な動作を自動選択する』というところにまで極まれば、これは《未来予知》に近似していくのだ。
……今、ココネの中にそこまでの経験は蓄積されていない。
故に、普段なら《最適動作》が、選択の先を見せることは有り得ない。
しかし、ことこの場においては。
『閃光玉による目眩ましと、その後のゴブリンの反応』という極々限定的なこの状況においては。
《最適動作》は《未来予知》に匹敵した。
それ故、ゴブリンたちが逃走を見逃すようなこの状況に、誰よりも危機感を抱いていたのだ。
…………惜しむらくは、ココネがこのスキルの存在を知り、落ち着いて向き合うだけの機会を逃してしまったことだ。
それせいで、己の危機感を信頼し切ることが出来ないでいた。
そんな不安を抱えたまま、一同はついに通路へと至る。
通路の先には数体のゴブリンが控えているのが見えるが、広場のゴブリンたちが追い縋るまでには、問題なく突破することができるだろう。
……………………やはり、気のせいだったのだろうか?
そんな常識的な考えが、ココネとルーシアナたちの頭に浮かぶ。
「お兄ちゃん。ここはわたしが……!!」
『―――――――― (`皿´)!!』
常識と直感に揺れるココネに、フォズが声を上げた。
このまま《ワイドブロッキング》を展開したまま突っ込んでも、十分に突破できるだろうが、盾へのダメージを考えれば、先行して敵の数を減らすのが常道である。
また、レミィには未だ閃光玉での強化が残っているものの、咄嗟の反応速度で言えば魔法よりも武器の方が速いのだから、ここで強化分を攻撃に使ってしまった方が、無駄にもならないだろう。
ココネもそう考え、根拠の無い直感を押し退けて、指示を口にした。
「いや、盾を強化してくれ。みんな、念のため奥の手を準備」
「はぃ…………え!? あ、はい!!」
「え!?」
「ちょっと、ココちゃん!?」
ココネの意思とは裏腹な言葉が、迷い無く口から滑り出していた。
予想外の指示に、フォズも反射的に了承してから疑問を挟み、二度目の了承をするという、珍しい反応をしていた。
サリーとマヤも思わず振り返って、説明を求める声を上げる。
ルーシアナたちは、ココネの言う『奥の手』が何か知らないので何も言わないが、それでも彼らにとって予想外の反応をしたのだろうということは分かり、黙って警戒を強化した。
何しろ、明確な悪手である。
現在、ココネの盾には、闇属性の【ヴォイド・エフェクト】が掛けられており、これからフォズが掛けるのは光属性の【シャイン・シフト】。
ココネの魔法盾に光属性を付与し、強度を上げる魔法だが、すでに効果を発揮している【ヴォイド・エフェクト】と競合して打ち消してしまう。
レミィの強化が上乗せされている分、【シャイン・シフト】の効果が不足することは無いが…………それでも多少は減殺されるし、【ヴォイド・エフェクト】に使った魔力も無駄になるしで、普通は選ばない選択だ。
ただ、ここで口論するのは、それ以上に悪手であるし、フォズも術式を組み立て直し始めてしまっている。
サリーとマヤも黙って従った。
広場のゴブリンたちは、もう視力は回復したはずだが、やはり目立った行動を起こさないでいる。
逃がすつもりでいる…………とも考えられるが、不気味な違和感があるのは否めない。
懸念も疑惑も、全て杞憂であることを期待して、ココネを先頭に通路を邁進していく。
通路の先にいるゴブリンアーチャーが放つ矢は全てココネの光盾に弾かれ、ゴブリンメイジの魔法はまだ詠唱中…………ごごごっ!!
「!!!?!!!?」×9
異変はココネたちの頭上、つまり天井側で発生した。
慌てて仰ぎ見たココネたちの視界に飛び込んできたのは、支えを失った吊り天井のように落下する、一枚の大岩。
ここから入口まで続く長大な通路の天井が、左右の壁にぶつかりながらも確実に落下している!!
「くっ……!! 走れ!!」
「フォズちゃん!! マヤ姉!!」
「――――っ!!」
「先に、行って!!」
ココネ、サリーはともかく、フォズとマヤはどう見ても間に合わない。すでに、全速に近いのだ。
「お姉ちゃん!?」
「ルーシアナ!! これはさすがに……!!」
「くっ……!!」
まだ、なんとかする手があるのか。
ルーシアナが背の重大剣に手を掛け、何かをしようとする…………直前。
「フォズーーーー!!!! 最大、強化ああぁぁぁぁーーーー!!!!」
「っっ!!!! レミィちゃん!!!!」
『―――――――― \(>_<)/!!!!』
ココネの決死の声に、同じように全力で応えるフォズとレミィ。
ココネの構える光盾がより一層強く輝くと、俄に厚みを増した。
そして、足を止め、頭上を睨み付けると
「おおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!! 《シールドバニッシャー》ああああぁぁぁぁ!!!!!!!!」
しっかりと腰を落とし、打ち上げるように盾を振り上げる。
その動きに合わせて、弾かれるように光盾が発射され、落下する天井にぶち当たると、耳障りな音を立てながらも拮抗した!!!!
…………が、それも一瞬だ。
落ちてくる天井の面積、重量に比して、その打撃面も威力もささやかなもの。
さらに《ワイドブロッキング》の効果で、過剰過ぎる負荷が盾にのし掛かり、みしみしと嫌な悲鳴をあげた。
「っっっっ!! フォ、ズ!!」
「《コウフュージョン》……!!」
盾を通して届く過重なプレッシャーに、奇跡的に耐えるココネに応え、フォズが次の魔法を発動させる。
その効果は、光盾の厚みが瞬間的に半減することで現れた。
光盾が薄くなったわけではない。光盾を形成していた魔法盾が、光粒子となって天井内部に広く浸透し、溶け込んだのだ。
《コウフュージョン》…………これは、『光融合』と言われる、物質内部に自身の制御する光属性魔法を溶け込ませ、本来 干渉できない対象を操る補助魔法である。
だが、すでに強化を使い果たしたレミィとフォズに、天井の落下を直接 停止させるだけの余力はない。
しかし、今、落下しつつあった天井は、光盾の一部として取り込まれており、光盾は《ワイドブロッキング》の効果でココネの持つ盾とリンクしているのだ。
光盾に加えられた負荷がココネの持つ盾にまで届くのであれば、その逆もまた然り。
ならば…………
「サリー!! マヤ姉さん!! 頼む!!」
「《ツイン・グレイブ》!!」
「――――っ!! ぃぃぃぃぁぁぁぁああああああああ!!!!」
ココネの指示よりも早く、二人は行動を始めていた。
まず、ココネの足元から、一対の石柱が伸び上がる。
それは、正確にココネの持つ盾を下から打撃し、掬い上げるように奪い取った。
そこに、グリズリソードを一刀の両手持ちに構えたサリーが、気合の掛け声と共に唐竹割りに振り下ろす。
その一閃には、《意合抜き》というスキル効果が付与されていた。
《意合抜き》は『特定の条件下において、対象の防御力を0にする』という、一見とてつもないチートスキルなのだが、その『特定の条件』がまともに使用できるような条件ではないため、一種のネタ技、ロマン技として認識されているスキルである。
攻撃する対象と攻撃される対象に、事前に念入りな仕込みが必要なのだ。
かといって、薪を割ったり岩を砕いたりといった事業作業するには手順が煩雑で、魔力効率も悪過ぎる。
しかし、それだけ使用に制限があるせいか、その効果は絶大であった。
本来であれば、表面を滑るか 弾かれるかするはずの一閃は、紙を斬るように滑らかに盾の表面に喰い込み、いとも容易くすり抜けた。
なお、ココネの腕は、石柱に盾を持っていかれたタイミングで抜いているのでご安心を。
テルミ鋼製という、強度を重視した金属盾が真っ二つになる。
瞬時に、盾とリンクした光盾も二つに裂かれた。
それは当然、《コウフュージョン》で一体化した天井にも及ぶ。
故に……
ガボオゴォォォォ……!!!!
どこか開放感のある不思議な音を立てて、落下する天井に大きな切れ込みが刻まれた。
……………………だが。
『それだけ』といえば、それだけだった。
天井に大きな傷を付けることには成功したものの、長大な天井を真っ二つにして左右に押し退けることは出来ず、落下した後に左右の壁に押されてココネたちを押し潰す可能性が高かった。
しかも、開いた隙間から、天井に比べれば小さな、しかし、殺傷能力としては十分過ぎる程に大きな岩塊が無数に落ちてくる。
それが分かっていても、ココネたちにこれ以上 被害を軽減させる術はなかった。
後はただ、幸運を信じて耐えるしかないのだ。
「オズ!!」
「はい!!」
それを知ってか 知らずか。
僅かでも安全な隙間に全員を押し込めるように、ルーシアナとオズがココネ一行を前後から挟み込む。
そして……
ずずずずううぅぅぅぅんんんん……………………!!!!
天井と岩塊、土塊が、ルーシアナたちを覆い尽くすように雪崩落ちたのは、数瞬後のことだった。
・注釈(語意系):『一聞』について
一応、『一聞』という言葉は、実在するようです。
意味は『一度耳にすること』。
『一見』の耳版として使用できるようですので、ここでもそういう使用です。
・注釈(語意系):『唐竹割り』について
『からたけ』を変換したら、『唐竹』と『幹竹』が出てきて、ちょっと調べた結果が下記の通り。
唐竹:中国渡来の竹。または真竹の別名。
幹竹:真竹、淡竹の別名。(原産はどちらも中国)
…………う、うーん?
いや、『からたけ割り』という単語の意味から考えれば、
唐竹割り:中国から輸入した竹を真っ二つにするような一撃。
幹竹割り:真竹 (日本ではポピュラーな竹) を真っ二つにするような一撃。
となってしまうわけだから、『幹竹割り』が正しいのか?
でも、プロレス技やゲームなんかだと、『唐竹割り』が主流っぽい?
と、悩んだ結果、『幹竹割りってパッと見読めない』という結論に至り『唐竹割り』を採用しました。
・注釈(造語系):『居合抜き』について。
なんか色々細かい違いがあるようですが、居合抜きは『居合を見せる大道芸』らしいですね。
武術としては、『居合』とか『抜刀術』とかが正しいようです。ちなみに、このふたつも厳密には違うらしい……
ちなみに、ここではどちらでもないので、『意合抜き』になってます。
「『意』思を『合』わせて『抜』く」みたいな。要するに、手品のイメージなんですけどね。




