第202話 ココネ視点、仕切り直しと状況整理②
168 ~ 220話を連投中。
11/1(日) 10:20 ~ 23:20くらいまで。(前回実績:1話/15分で計算)
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然程 時間も掛からずに、消音魔法は解除された。
ただ、ルーシアたちはフォズを解放せず、両側からぴったりとくっついたまま、ストンと座り込む。
「おかえり。話は付いた?」
「付きました。バッチリです」
「あの、一応……」
「今日からフォズさんとは、秘密を共有したマブダチ。返して欲しくば、契約魔法を結んで貰おーかー」
「契約魔法って……」
内容によっては、なかなか物騒なものが出てきた。
「もちろん、ここでは出来ませんので、『王都に戻ったら契約する』と約束をしましょう」
「えと…………ごめんなさい。でも、万一を考えると、結んでおいた方が無難だと思います」
「内容は『互いの秘密を漏らさない』で、方法は『伝えられなくなる』ね。言葉はもちろん、文字やジェスチャー、関係ない言葉による誘導なんかも含むよ。まぁ、無難でしょ」
「確かにね…………でも、契約魔法は、それ相応の手順と技術があれば解除できる。それは、承知の上?」
契約魔法は通常、契約を結んだ二者の双方が、同時に契約破棄の手順を踏まないと解除できない。
ただ、一方的に解除する方法というのが、絶対にないかと言われるとそうでもなくて、例えば『犯罪者から情報を聞き出すために、施されている契約魔法を解除する』などは、よく言われている合法的な一方的解除の例だ。
だが、解除方法があれば、非合法な方にも流れてしまうのは世の常で、コネと金次第にはなるが、一般人でも一方的に解除することは可能だ。…………そこまでする価値が、あるかどうかは不明だけど。
なお、契約魔法の術式は、双方に施した『二つの術式で一つ術式』という特殊なものなので、片方がどんな方法ででも解除すれば、もう一方には即行バレてしまうため、ますます一般人には解除する価値が無かったりする。
「もちろん、承知の上だよ。でも、合法だろうと非合法だろうと、解除されたのには気付けるから。そしたら私たちは即逃げる。超逃げる」
「です。私たちが最も懸念しているのは、気付かない内に狙われることですから。私たちの秘密を知ることで、貴方たちに被害が及ぶことは無いと思います。多分」
「『狙われる』か……」
随分物騒だな…………でも、ふたりの異常さを考えると、そのくらいの秘密を抱えていても不思議ではないのかもしれない。
「もちろん、秘密を聞かずに契約しないって選択肢もあるよ。その場合、私たちとフォズさんだけで こそこそと何かすることがあると思うけど、適当に無視してて」
「一応、互いに秘密を知った方法について、精査した方がいいですから。今後は、魔眼所有者がいても、レミィさんの存在に感付かれることは無くなるかと思います」
「なるほど……」
ふたりの説明に、嘘は無いように感じた。
また、『契約したら秘密を明かす』ではなく、『契約する約束をすれば秘密を明かす』と言っているところからも、こちらをある程度信用してくれていることが分かる。
問題は、想定外にヤバ気な秘密に首を突っ込み掛けている点だけど、すでにフォズが突っ込んでしまった以上、見捨てる選択肢はない。
「僕は契約するつもりだけど、ふたりはどうする?」
「いや~、そこで『あたしはやらない』とはならないと思うよ?」
「そうね。何かあったとき、半端に契約に引っ掛かって、上手く意思疎通出来なくても困るし、全員で契約しちゃってもいいんじゃないかしら?」
「ごめんなさい……」
「気にしないで」
申し訳無さそうに謝るフォズに、安心させるように笑い掛ける。
そして、ルーシアの方を向き、こっくりと頷いた。
「聞いていた通りだよ。僕らも王都に戻ったら契約させてもらおう」
「末長いお付き合いをよろしく~♪ あ、差し入れも期待してるね♡」
「こらこら…………でも、私も期待してる♡」
「まぁ、そのくらいならいいよ。さて……そんじゃ、出てきていいよ~」
ルーシアは、僕らの答えに安心したように肩の力を抜くと、そのままの流れで『誰か』に声を掛ける。
スキルか何かかと思っていたんだけど…………もしかして、フォズと同じように精霊かな? だとしたら、フォズが気付いたのも頷ける。
そう思ってしばらく待つ……………………が、これといって目立つ何かは出てこな
「ん?」
いや、よくよく見れば、座るフォズの上、レミィの陰に隠れて何かいる。
僕の視線に気付いて、サリーとマヤ姉さんもそこに注目したのが気配で分かった。
それは小さな人型。
綺麗な銀髪と真っ赤な瞳、ルーシアたちと似た印象のドレスを身に纏い、不安そうな表情でこちらを見上げている、ガラスのような羽を持つ少女。
「えっと……」
「人形、かな?」
「……………………え、うそ、もしかして……?」
僕とサリーにはさっぱり分からなかったけれど、マヤ姉さんには心当たりがあるらしい。
『思わず』といった様子で、声を漏らした。
その声は、相手に刺激を与えないような小声であったものの、当の本人は過敏に反応して、レミィを抱えたままフワリと浮かび上がり、素早くルーシアの背後に隠れてしまった。
「…………浮いた」
「浮いたね」
「それは…………まぁ、浮くでしょ…………羽があるし…………」
僕らには、まだ正体が分からないままだったけど、マヤ姉さんの予想だと、浮いて当然な存在らしい。
説明を求める僕らの視線を受けて、ルーシアの髪に隠れるように肩に乗ったソレを撫でながら、彼女は苦笑して言った。
「この子は私の友達みたいなもので、名前はナツナツ。普段は姿を消してるから、基本的には見えないと思うよ。で、ここからが重要なんだけど……」
と、ひとつ呼吸を置いた。
「この子は約50年前に姿を消したと言われるレア種族、妖精。噂だと、一部の外道共が物のように高値で取り引きしてるらしいから、絶対 秘密厳守でよろしく。もし、この子が攫われたら私たち…………世界、滅ぼすかもね?」
…………………………………………
……………………最後の一言が本気過ぎる…………オズリアも当然のように頷かないで?
ひとつ深呼吸して、サリーを見る。マヤ姉さんを見る。フォズを見る。
…………みんな似たような表情をしていた。
「想像の数倍厄介事だコレーーーー!!!!」
「言わないでココネ実感しちゃうからああぁぁぁぁーーーー!!!!」
「そのためのAランク冒険者なのね離れてどうするのよおおおおぉぉぉぉーーーー!!!!」
「ごめんなさいレミィちゃんと同じで精霊だと思ったんですぅぅぅぅーーーー!!!!」
同時に僕らは絶叫する羽目になったのだった。
「なるほど。良く分かったよ。
つまり、その妖精 ナツナツは、この世界に残った最後の生き残り。
ルーシアとオズリア、さらにキミらの義姉の三人は、幼少期にある遺跡で眠るその妖精に出会い、共に成長した。
しかし、やがて『何故自分以外の妖精はいなくなったのか?』、『自分だけがここに残ったのは何故か?』を知りたくなったナツナツは、旅に出る決意をする。
でも、外の世界は危険だ。魔獣だけでなく、人間も危険な存在となっている。
それを知るキミら三人は同行を決意。
ナツナツは、キミらに『妖精の祝福』を授けて、超人的な能力を与え、妖精と共に旅をしている、と。
そういうことだね?」
「いや、違うけど……」
「というか、この短時間でソレ考えたんですか? 凄いですね……」
「…………………………………………言わないでくれ。僕はもう、ハイ・ゴブリンが出てきた辺りで いっぱいいっぱい なんだ……」
「その割には良いリアクションが多くて、見てる分には面白かったけどなぁ~♪ つんつん♪」
「……………………」
タメ息と共に項垂れる僕を、先程のしおらしさなんて秒で消し飛んだナツナツが、にやにやしながら見上げてきた。
『じとっ……』と、無言で睨み付ける。
「えーん、フォズちゃん助けて~~!! ココちゃんがいじめるぅ~~!!!!」
「こら、ココちゃん、め!!」
「そうだよ、ココネ!! こんなに可愛い子を苛めるなんて!!」
「えっと……あんまり、お兄ちゃんをからかわないでくださいね」
「は~い♪」
「……………………やってられん」
そして、やはり秒で味方になったマヤ姉さん、サリーに責められる僕。
本当に、やってられん。
それをフォローするように、今度はルーシア姉妹がやってきた。
「ごめんね、ココネさん」
「どちらか言えば、気に入られてる方だと思うので、安心してください」
「……………………はぁ。まぁ、いいよ。こういうタイプは、サリーで慣れてる」
「「なによ~~、ぶぅぶう!!」」
ダブルで騒がない。
「とりあえず、色々聞きたいこともあるけど、全部後回し。新しく戦力として、レミィとナツナツが堂々と加わることができるようになった。それだけ分かればいいだろ。そろそろ話を進めよう……………………どこまで話したんだっけ?」
「何をボケてんの、ココネは……………………ねぇ、マヤ姉?」
「そうね。リラックスも大切だけど、その辺はしっかりしてくれないと。ねぇ、フォズちゃん?」
「え? あ、そうですね。えーと、『どこからともなくゴブリンが現れたので、体制を立て直すため、合流しました』って話をして、えっと……わたしが自分の行動に凹んでたら、オズリアちゃんが励ましてくれて、その流れで精霊師であることを指摘されて今に至ります」
「そうそう。良くできました。良い子良い子♪ 分かった? サっちゃん、ココちゃん」
「うんうん。さすがね、フォズちゃんは。良い子良い子♪ 分かった? ココネ」
「…………………………………………とりあえず、フォズは素晴らしい。それだけは間違いないね、うん」
「え~と…………ココちゃん、さっきはからかってごめんね。良い子良い子」
一部始終を見ていたナツナツに同情されてしまった…………
悪気は一切無く、本気で慰めてるつもりなんだろうけど、いい歳した男の頭を撫でないで欲しい。
こら、ルーシアにオズリア。笑いを堪えてないで、ナツナツを連れていきなさい、ほら。
「あ、でも、うちのふたりに手を出したら許さないから~♪」
「ナツナツ、お前もか。出さないから、睨まないで」
にこやかな笑みを浮かべるちっこい体から、えげつない殺気が放たれた。
こえぇ……
これで、一切知覚に引っ掛からずに彷徨けるんだから、万一にも機嫌を損ねるわけにはいかないな…………いや、それがなければ手を出すって意味じゃないぞ?
『ははは……』と乾いた笑みを返し、撫でられたお礼を言ってからナツナツ抱き上げ、ルーシアに返す。
「それで、まだ説明してもらってない『ゴブリンたちはどうやって現れたのか?』について説明してくれないか?」
「そうそう。それがホント不可解。マヤ姉の見たのが確かなら、壁でも抜けてきたとか? まさかねぇ~?」
「う~ん……穴を掘ってその中に埋もれてた、とか?」
「とてもそうには見えなかったですけど……壁だって、普通に硬かったですし」
一部始終を見て、合流の指示を出したオズリアならば、何かヒントを掴んでいるかもしれない。
僕らの四つの視線を受けて、オズリアが口を開く。
「今、出てましたけどね、答え。話は単純です。『透過魔法』。全てはこれだけで説明が付きます」
「トウカ魔法?」
聞き慣れない言葉が出てきた。
マヤ姉さん、フォズと順に反応を窺うが、どちらも『初耳』といった様子だ。サリーは省略。
視線を戻すと、オズリアは説明を続ける。
「これは名前の通り、『ある物質をすり抜ける』魔法です。サリーさんの言ったとおり、ゴブリンたちはこの魔法を使って洞窟内の壁をすり抜けてきたんです」
「なんだって!?」
「ぅぇええええ!?」
まさかの正解に、サリーが素っ頓狂な声を上げた。
僕も似たような気持ちだ。そんな魔法、聞いたこともない。
同時に、安全と油断しきっていた この簡易シェルターに背筋を震わせる。
思わず、背後を振り返って確認してしまったのは、僕だけではなかった。
「大丈夫です。この魔法には、正しい発動に条件があるんです。だから、この簡易シェルター内に入ってくることは出来ません」
「そ、そうか……」
「言われてみれば、もう長いことここにいるもんね……」
「焦っちゃいました」
「それで、その条件って何? 簡単に崩すことが出来ると嬉しいんだけど……」
同じように胸を撫で下ろすマヤ姉さんが、落ち着いて先を促す。
「そうですね。まず、この魔法は、透過魔法Aと透過魔法Bの術式が刻まれた二物質の間でのみ透過させ合う魔法です。ゴブリンや武器側にA、洞窟内の壁や天井などにBの術式が予め刻まれていると思われます」
「なるほど……」
「ゴブリンと武器には同じタイプの術式が刻まれてるから、持ったまま壁をすり抜けて来られるのかぁ」
「あ、もしかして、最後ルーシアちゃん目掛けて射掛けられた矢もですか?」
「それが確かなら、物陰に隠れれば安全とも言えないわね…………洞窟全体がひとつの魔道具みたいなもの、と考えたほうが良さそうね」
戦場では地の利を味方に付けた者が勝利すると言われるが、まるでそれを突き詰めたようなとんでもない魔法だ。
ざわつく僕らを余所に、オズリアは三本指を立てて話を進める。
「欠点は本質的にはひとつ、現象的にはみっつあります。
それは、透過魔法が高度な魔法ゆえ、外部からの術式への影響をモロに受けるということです。
まず ひとつめの欠点として、透過中は他の魔法が使えないこと。当然、スキルも含みます。
次に ふたつめの欠点として、透過中に透過魔法を妨害されると死ぬこと。
最後に みっつめの欠点として、術式を刻んだ対象の形状を変化されると、透過できなくなること、です」
「えーと、ちょっと待ってくれ。ひとつめは『魔法の併用が出来ない』ってことか?」
「身体強化も? …………そう言われてみれば、あたしを襲ったヤツ、攻撃してくるのに一呼吸あったような……?」
「ということは、岩の中に隠れて、無差別に攻撃魔法を使われることは無さそうですね」
「閉所でそれが出来たら、かなり危なかったわね」
あまり使い勝手は良くないのか…………一安心だな。
特に身体強化が使えないのは痛いだろう。
素のステータスが高い獣人だからこそ、利用価値のある戦法と言える。
「で、えーと、ふたつめが『透過中に妨害されると死ぬ』…………え? それだけで死ぬのか?」
「即死だと思います。もし、岩壁透過中に透過魔法が解除されたら、その瞬間 肉体と岩が融合してしまうでしょう。岩壁の外に弾き出してくれたり、元々あった岩が消えたりするようなことは無いと思います」
「えっっっっぐい……」
「ひ、ひえぇぇ~……」
「うわぁ~……背筋がぞくっとするわね……」
淡々と説明するオズリアに、自分を抱くようにして震えるマヤ姉さん。
いや、反応は異なれど、四人共 方向性は一緒だ。
でも、考えてみれば、その結果は当たり前だよな…………
「最も簡単な妨害は、ジャミング術式を使うことですね。実際、行き止まりの壁の中には、今も十数体のゴブ」
「わああああ!! ストップ!! ストップ!!」
「うえぇ…………想像したら気持ち悪く…………」
「サ、サリーちゃんはまだいいですよ!!」
「そうよ!! 私たちは、岩から生えてるの見ちゃったんだから!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛~~~~!!!! やめてやめて、フォズちゃん!! マヤ姉!! イメージが鮮明になっちゃうじゃん!!!!」
フォズとマヤ姉さんが抱き合ってぶるぶる震え、サリーが僕を盾にするように後ろに回った。
意味無いだろ、それ。
オズリアは『失言だった』とでも言うように、軽く口を押さえてあらぬ方へ視線を逸らしていた。
「え~と、次に行こう。
で、みっつめはつまり『壁を壊すとその部分は透過できない』ってこと?」
「そ、そうですね。先程、マヤさんが『洞窟全体がひとつの魔道具みたいなもの』と言いましたが、まさしくその通りで、壁の内部に刻まれた術式を寸断するように形状変化をさせると、その部分は透過できなくなります。まぁ、術式が正確に発動しなくなるのですから、当然ですが。
地魔法で変化させるのが手っ取り早いかと思います。
ただ、『洞窟全体でひとつの透過術式』ではなく、『複数の透過術式を組み合わせている』ので、影響は限定的でしょうけど」
「それじゃ、あたしたちの中で使えるのは、ココネとマヤ姉だけだね。でも、地面から土壁とか杭とかズゴーンと出してるのはたまに見るけど、中の方にはどのくらい影響してるの? あれって。表面だけちょっと変化させても効果あるの?」
「……………………考えたこともない」
「う、う~ん…………壁も杭も、硬くすることは考えてるけど、地中の方がどうなってるのかはあまり気にしないわね…………」
「薄いと物理的に破壊して出てこられる可能性がありますので、それなりに深くまで変化させたいですね。
ちなみに、そういう風に曖昧にしている部分もしっかりと制御すると、魔法の威力や効率も上がりますよ? 魔法特有の『良く分からないところは、いい感じに誤魔化す』っていう特徴は、時として足を引っ張りますから」
「オズリアちゃんの魔法の実力は、そういうところから来てるんですね~…………」
フォズが感心したようにタメ息と共に言葉を漏らすが、僕の半分くらいしか生きてないのに、何故ここまで差が付くのか…………
「あと他にも、ゴブリンがスキルとして透過魔法を使用している場合、何かしらの限定条件が付与されている可能性が高いですけど、こればかりは倒して魔石を調べてみないことには分かりません」
「まぁ、それは仕方ないよ」
オズリアの言葉に、苦笑と共に同意する。
そんなことまで分かったら、それはもう未来予知のようなものたろう。
オズリアは『話せることは大体話しました』とばかりに頷くと、ルーシアの膝上でレミィとじゃれ合うナツナツを受け取った。
代わりに、ルーシアが口を開く。
「じゃ、後はどうやってクエストを完了させるかだけど」
「いやちょっと待て!?」
予想外の言葉が出てきて、思わず遮ってしまう。
だって……
「まだクエストを続けるつもりなの!?」
「そ、そうですよ!! 元々のクエスト内容は、『ゴブリン 約100体の討伐』でホブゴブリンの情報はありましたが、ハイ・ゴブリンの情報はありませんでした!!」
「しかも、ボスやそれに準じた支配層ではなく、真っ先に接敵する一般層によ!! それは、逆に考えれば、この群の主要構成種が、ハイ・ゴブリンであることを示しているわ!! 下手したらBランク下位の可能性もあるのよ!?」
僕が反論する前に、サリーたち三人が口早に否定の言葉を口にする。
それに少々出遅れつつも、最大の懸念事項を告げた。
「それに最悪の可能性として、キング・ゴブリンの発生が考えられる…………もし そうなら、この群れの討伐は、最低でもBランク中位。僕らで何とかできるレベルじゃない」
それに、僕とサリーは武器を破損している。
僕は、ハイ・ゴブリンウォリアーに刺さった剣をムリヤリ押し込んだ際に、サリーは僕を護るためにハイ・ゴブリンウォリアーの攻撃を受けた際に。
僕のは刀身が大きく歪んでしまい、サリーのは木っ端微塵だ。どちらも、まともに使用はできない。
「ここは、なんとか逃げ延びることを優先すべきだよ。確かにハイ・ゴブリンを圧倒したルーシアの実力には目を見張る物があったけど、さすがに主力が一人では多勢に無勢だ。僕もサリーも武器が無いし、あったとしても実力不足は否めない。
それとも、クエスト履歴にキズが付くのが嫌なのかい? 確かにクエストをリタイアした場合、通常なら失敗の記録が残ってしまうけど、ここまで事前情報と違うとなれば、話は別だ。貼り出されていた依頼書がそもそも間違っていたことになるんだから、その場合は失敗ではなく無効となる。
それに、そんな記録なんかより命の方が大事だ。そうだろう?」
なんとか思い留まってもらえるよう、思い付く限りの理由を述べる。
話した内容を思い返すと、随分情けないことも言ってしまっているが、ここは下手に出たとしてもなんとか考えを改めてもらわなければならない。
僕らの必死の反論に、ルーシアは引き攣った笑みを浮かべつつ、『落ち着け』と言いたげに両掌をこちらに見せた。
「わ、分かったから落ち着いて。いや、そもそもクエスト履歴なんて知らないから、失敗しようがどうでもいいし、私も基本的には安全第一だから、『逃げよう』っていう意見には賛成してもいいんだけど……」
「なら、なんでクエストを完了させるなんて…………」
あれ? 何か勘違いしただろうか? 『完了=クエスト成功』というのが普通だけど、もしかしてテモテカールでは違うのか?
困惑した僕らはじっと黙り込み、ルーシアの言葉の続きを待つ。
「…………ここって、ほぼ一本道の最奥じゃん? しかも、入口に近付くに連れて、多分敵の数も増えるよね? 倒さずに進んだら、挟撃でジリ貧の運命しか感じないんだけど、大丈夫?」
「「「「…………………………………………」」」」
「こうやって簡易シェルターを作れば、休み休みでも前に進めるし、挟撃されないように敵を殲滅しながら安全を確保して進んだ方がよくない? でも、それが完了すれば、結局の所 クエスト成功じゃない? ちなみに、食糧関係なら、数日掛かったとしても余裕だよ」
「「「「……………………その通りですね……」」」」
いや、待て。確かに理論上はその通りだけど……
「この強度の簡易シェルターを、また作れるのか?」
「作れますよ。あ、でも、『なら、救援が来るまで待機』って言うのは無しでお願いします。さすがに、いつ救援が来るのか予想も付きませんし、それまでこんな所で野営したくないですし」
「えっと…………あたしもココネも武器無いんだけど……」
「私のを貸すけど。あ、所謂キメラ武器だけど、こんな時に選り好みしないよね?」
「あの…………でも、キング・ゴブリンがいたら…………」
「それはそうですが、闘わず逃げるにしても、いるならどうにかしなきゃならないですよね? しかも、配下同伴のキング・ゴブリンと。余裕があるうちに敵戦力を削っておいた方が、躱して行くのも容易だと思いますけど」
「……………………その、え~と…………あ、ダメだわ。もう出てこない」
「なら、いいじゃん」
僕らはぐぅの音も出ない。
だが、ちょっと待て。本当に大丈夫か? うまく丸め込まれていないか?
「今なら各種ステータスアップ薬も付けるよ。効果時間は短いけど、副作用もないから連続使用可能。ただし、併用禁止。それでも、副作用はダルくなるくらいだけど」
「それと、レミィさんの強化と敵の無力化を同時に行う秘策もあります。使い道もこういう状況以外にありませんし、気にせず使っていきましょう」
「えっとね、レミィちゃん。ごにょごにょごにょごにょ」
『―――――――― (≧∇≦)b』
どこぞの怪しい露店商の如く、次々とオマケを追加するルーシアとオズリア。
そして、ナツナツがレミィの耳 (?) に耳打ちすると、レミィは楽しそうに光鱗を撒き散らした。
…………………………………………
「コ、ココネ……ど、どうする?」
「どうするって…………どうしよう…………」
「レ、レミィちゃんが、いつになく やる気です。ほ、本当に大丈夫なの?」
「…………常識的に考えれば、岩陰なんかを利用して、隠れながら脱出を目指すべきなんでしょうけど…………出口はひとつしかないし、そうなれば敵の主力をどうにかしなきゃならないわよね。
その案があればいいけど、現状なし。しかも、失敗したらそれこそ多勢に無勢。
なら、ルーちゃんたちの言う通り、挟撃されないようにじわじわ敵戦力を削っていくのは、必ずしも無茶じゃない…………のかしら?
普通は、削り切る前にこっちが疲弊するのが先だけど、安全も食糧も確保できるなら、それも心配ない…………」
おかしいな…………常識的な作戦が非常識で、非常識な作戦が常識に見えてきた…………
じっとルーシアたちを見る。
彼女らは、『話すことは話したよ。後は、そっち次第』とでも言うかのように、ナツナツとレミィと遊び始めている。
その様はまさしく、おままごと……
常識的に考えれば、今は命の危機に瀕した非常に危険な状態で、非常識な行動のはずなのに、とてもそんな風には見えない…………
さらに、昨日 ふたりに出会ってから、今に至るまでに見た数々を思い出す。
…………………………………………そうか。そうだな。
「常識 (+) に非常識 (-) を掛けたら、非常識 (-) なのは当たり前か」
「「どういう意味!?」」
おまけに、非常識 (-) と非常識 (-) は、乗算ではなく加算される始末。
膨れっ面でむくれるルーシアたちに、色んな感情を込めてタメ息を吐いた。




