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ゴーレム娘は今生を全うしたい  作者: 藤色蜻蛉
9章 進出!! 王都 冒険者ギルド
210/264

第200話 ココネ視点、危機と安堵の波状攻撃

168 ~ 220話を連投中。


11/1(日) 10:20 ~ 23:20くらいまで。(前回実績:1話/15分で計算)

一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。


word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿。


申し訳ありません。



ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。

「ルーちゃん!! 早く早く!!」


ルーシアが危うげなく魔獣を倒しホッとしたのも束の間、マヤ姉さんは未だ慌てた様子でルーシアを手招きしている。

いや……慌てているのは、マヤ姉さんだけでなく、サリーを治癒中のフォズや先程マヤ姉さんを止めたオズリアもだ。


…………自分だけが状況を把握出来ていない。


「どうしたんだ……? 魔獣は全部倒した、だろ?」


状況が分かっていない者が口を挟むのも悪いかと思ったが、こちらが分かってると思われていても危ない。

恐る恐る聞いてみた。


「まだ、終わってないんですよ」


僕の問いに答えてくれたのは、治癒中のフォズだ。

気付けばサリーの出血は止まり、後は傷跡が消えるのを待つだけだろう。


「まだ終わってない?」


「詳細はルーシアちゃんが戻ったらしますけど、後方からも魔獣が現れたんです。わたしたちがオズリアちゃんの警告で気付いた時には五体程。その後、ぞろぞろとたくさん……」


「後方から!?」


ということは、ルーシアたちの予感は正しかったことになる。

この土地で冒険者をしてきて早数年……土地勘なんてほとんどない二人に、目利きで負けるとは情けない。

でも、突き当たりの壁に抜け穴は見当たらなかった。


いったいどうやって――――?


「ルーちゃん!! 後ろ!!」


それについて詳しく聞こうと思ったが、マヤ姉さんの鋭い声に現実に引き戻された。

ルーシアの方を見ると、彼女はこちらへ向かって走り出している所で、特に危険は…………


「【風矢巻徹】」


マヤ姉さんの声に間髪入れず、オズリアが魔法を放つ。

風を収束させた風矢だ。

それらは周囲に風を巻き散らしながら、ルーシアの頭上を飛んでいく。

頭上から吹き付ける強風に些かバランスを崩しながらも、姿勢を低くして速度を殺さないよう走り続けるルーシア。


…………おかしいな。オズリアなら、もっと収束を強くして、ルーシアの走りの邪魔にならないように出来そうなものだけど。

いや、そもそもあの位置に撃ち込んで何が目的だ?


その答えは、ルーシアの背後。光苔の光が不自然な影に遮られたことで判明する。

無数の短い直線の数々…………それは、簡素な木矢の大群だった。

それらは、走るルーシアの背を狙って降り注ぐも、吹き荒れる強風に四方へ散っていく。


甘い収束はこのためか!! でも、一体どこから……!?


今、ルーシアの背後に敵はいない。

彼女の背後では、岩柱が不規則に乱立して壁のようになっていて、例えその向こうから矢を射たとしても、岩柱を抜けて飛んでくることは不可能に思える。


その答えが判明する前に、次の増援が現れた。

再びのハイ・ゴブリンウォリアー。斧や剣はもちろん、槍や槌などの長物も見られる。


「ルーちゃん!! 急いで、こっち!!」


マヤ姉さんが両腕を広げて、ルーシアを呼ぶ。

なるべく速度を殺さず飛び込ませ、抱き止めるつもりなのだろう。


「【岩壁覆積】」


オズリアが再び地魔法を発動させると、マヤ姉さんの前方で生成が止まっていた岩壁が動き出し、徐々に塞がっていく…………って、ちょっと早くないか!?


「オズリア、ちょ、早いぞ!? 大丈夫か!?」


「でも後方からの増援も来てますから」


「それは大丈夫な理由じゃない!!」


「冗談です」


真顔で冗談やめて。状況が分かっているのか?

…………いや、逆に考えれば、冗談を言える程度には余裕の状況、なのか?


「あ、やば」


ぼそっとオズリアから漏れた声が、本気っぽくて不穏。

慌ててオズリアの視線を追うと、


「ゴブリンメイジ!!」


いや、ここまでの流れならハイ・ゴブリンメイジか?


いや、通常種にしろ進化種にしろ、矢よりも魔法の方が、速い攻撃が多いのには変わりがない。

背後から狙われる不安に違いはないが、矢より魔法の方が危険なのは確かだ。

最速は光と闇、次に風、火と言ったところだが…………奴等が発動させた魔法は、火魔法。

【ファイアー・ボール】系の火球が、ハイ・ゴブリンメイジたちの背後に出現した。


速度重視の魔法で無いのが救いだけど、こんな閉鎖空間内で火魔法なんて、奴らは何を考えてるんだ!?


と考えて、あの火球をオズリアが作ったここに放り込む または 周囲を熱して炙るつもりなのだと悟る。

ルーシアが無事に辿り着き、入口を塞げたとして、あまり時間は稼げないかもしれない。


「え~と…………岩壁の積層を増やして、真空断熱層を…………」


オズリアは焦ることなく、何か細工を施している。

僕にはよく分からないが、熱に対する妙案があるのか?

なら、ルーシアさえ間に合えばなんとかなる…………かも?


ルーシアは、背後を全く気にすること無く、速度を落とさずに駆け続ける。

火球は産み出された端から次々と撃ち出された。


後 数m。


火球はすぐに、ルーシアを追うハイ・ゴブリンたちの頭上を追い抜く。

ルーシアが最後の加速と共に、マヤ姉さんの方へ頭から飛び込んだ。


「っっっっきゃああああぁぁぁぁ!!!?!!!?」


一切の躊躇のなく胸元に飛び込んできたルーシアを抱えて、マヤ姉さんは後ろに吹っ飛んでいった。


「閉鎖!!」


直後、ルーシアを待ってわずかに開いていた入口が瞬時に塞がれると、僕らの周囲は暗黒に閉ざされた。

ワンテンポ遅れて、火球の連打が岩壁を打ち鳴らし、続いて鈍器で殴打する音が鼓膜を揺らすが、しばらくするとそれらは徐々に小さくなり、やがて無音になるのだった。





…………

……………………

………………………………

…………………………………………


淡い光に満たされた閉空間に、仲間たちの微かな呼吸音が響く。

しばらく、息を潜めるように固まっていたが、誰かの『……はあっ』というタメ息でようやく動くことを思い出した。


「ぁいっ、たたたたた…………」


「あ、ごめん、マヤさん。頭 大丈夫?」


「その表現、誤解が生まれそうなんだけど…………まぁ、大丈夫。頭は打ってないわ。背中を打っただけ」


「ほっ…………よかった」


「うんうん。ところで、どさくさに紛れて、胸を揉むのは止めてくれない?」


「そそそそそそんなことしてないよ!! 気のせいだよ!!」


「お・ね・え・ちゃ・ん?」


「ひぃぃ!!」


……は、ははは…………


「呑気だな、まったく……」


「『そうですね』と言いたい所ですけど、お兄ちゃんもこのままだと、あちらの仲間入りですよ?」


「ん? どういうことだい?」


フォズの言葉にのんびりと疑問を返す。

最初にオズリアが言った通り、今はまだ『仕切り直し』の段階でしかなく、窮地は未だ続いている。

にも拘わらず、全てが終わったかのようにふざけ始める三人に、本来なら怒るべきところだ。

とはいえ、緊張すればいいというものでもない。ひとつの山場を越えたことは確かなのだから、程よく脱力するもの良いだろう。

そういう意味での『呑気だな』発言で、『そうですね』とか『まだ気が早いですよ』とかの返答を予想してたんだけど、フォズからは予想とちょっと違う答えが返ってきたわけだ。


その真意を聞く前に、オズリアに笑顔で詰め寄られていたルーシアが、大袈裟にこちらを指差した。

ちなみにその時、ルーシアの左手が思いっきりマヤ姉さんの胸を鷲掴みしているのが見えたけど、それで『そんなことしてない』は無理があるんじゃないかな?


「そ、そうだ!! 私よりもココネさんでしょ!! 私、最初から見てたんだからね!!」


「私も、まぁ、それなりに気付いてましたけど、それとこれとは話が別です。何ですか、お姉ちゃんはおっきいお胸が好きですか思春期の男の子ですか(けだもの)ですか」


「あらあら、やっぱりおっきいのが好きなの? フォズちゃんはダメ?」


「ちょ、マヤお姉ちゃん!! わたしを巻き込まないでください!!」


「え~と…………つまり、どういうこと?」


訳が分からず、ここで会話を絶ち切る発言をしたのは、後々考えれば悪手だったと言える。

後悔 先に立たずとは、まさにこのことだ。


僕の発言にピタリと会話を止めて、こちらを見る女性たち四人。

その視線からは、『よっしゃ、囮が引っ掛かった』とか『本気で気付いてないんですか』とか『あらあら』とか『お兄ちゃん…………さすがに鈍過ぎます』とかが込められていたと思われるけど、この時の僕に通じようがなく……


疑問符を浮かべる僕を、心底 愉快そうな顔をしたルーシアが指差した。


「左手左手」


「左手?」


いや、指を指していたのは、正確には僕の左手だったらしい。

なんだか離すタイミングが無くて、治癒の間もサリーを抱えていた。そのため、左手もそのままだ。

急所である心臓を盾で隠すように腕を回したため、当然 左手はサリーの右胸の上…………に…………


……………………………………………………………………………………


え~と…………


「待て。話せば分かる」


「話さなくても分かるけど、触った感想が聞きたいな」


「大丈夫です。血縁だとしても、責任は取れます」


「あらあら♪」


「治癒しながら見てましたけど、たまに思いっきり握り締めてましたよ、お兄ちゃん。……………………本当に気付いてなかったんですよね?」


「気付いてません!! 断じて!!」


「それより感想は~?」


「無いよ!! 記憶にも残って無いから!!」


「責任は取らないんですか?」


「何の責任ーーーー!?」


「ところで、サっちゃん。……………………意識、戻ってるわよね?」


「え゛?」


「(ビクッ!!)」


マヤ姉さんの一言に、サリーが明らかな反応を示した。


……………………落ち着こう。


僕の左手は、愚かしくも未だサリーの胸の上にある。

『無駄な反論をしているくらいなら すぐに手をどかせ』と数秒前の僕に言いたい。

つまり、サリーに怒られるのは確定してしまった。

あとは、何時から目覚めていたかによって、サリーに蓄積された怒りの絶対量が変わる。

うん、OK。殴られる覚悟だけはしておこう。


先程から体温が上がったり下がったり変な汗が吹き出たり、今までに経験したこと無い精神的負荷が掛かって体調が悲鳴をあげているけど、頑張れ自分このクエストが終わったらしばらく休むから。


…………………………………………悪夢なら覚めてくんないかな。


「え~と…………サリー、さん?」


「…………………………………………」


思わずさん付けで呼んでしまったが、サリーに反応はない。


「…………………………………………」


「…………………………………………」


「……………………いつから起きていたのでしょうか…………?」


「…………………………………………」


やはり無反応。これはもしかして、『意識無いフリしてるから話し掛けるな』という意思表示かな。

でも、もうみんなに起きてるのはバレてるから意味無いよ気持ちは分かるけど。


「…………ルーシアに指摘されてからですか」


「…………………………………………」


「…………オズリアがここを閉鎖してからですか」


「…………………………………………」


「…………フォズが治癒を開始したところですか」


「(ぴくっ)」


「…………………………………………」


ほとんど全部最初からじゃないか…………


え~と僕は何をしたんだっけいやだから覚えてないんだよあぁでもフォズは握りしめてたってそう言えばルーシアの戦闘見ながら力が入ってたかもそれかそれだろうなぁ~…………


「…………………………………………」


僕が自分のやったことに当たりを付けて内心頭を抱えていると、サリーが動きを見せる。

静かに両手を持ち上げ、まだ額を押さえていた僕の右手ごと顔を覆うように押さえた。


そして…………


「……………………お兄ちゃんの、ばか」


…………………………………………


不覚にも、『ちょっと可愛い』と思ってしまった僕は、余程 精神がやられていたんじゃなかろうか。

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