第19話 ゴーレム娘、お菓子作り
13 ~ 23話を連投中。
2/11(月) 13:40 ~ 17:10くらいまで。(前回実績:12話を3時間半)
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申し訳ありません。
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テモテカールへ来てから、約一週間が経過した。
今日は、再びギルド飯店でウェイトレスの日だ。
だからというわけでもないけど、『たまには休みも大事』ということで、今日のクエストはお休みの予定。
そんな私の目の前には、大きな調理器具が鎮座していた。
…………バームクーヘン焼き機である。(おじいちゃん作)
下に生地を入れる容器、上に加熱器があり、その間にパンを伸ばす麺棒みたいな、中程が均等に膨らんだ円筒状の金属棒がセットされている。……両端が細い円筒状の金属棒、の方が正しいか。
生地さえ作ってしまえば、後は大体 自動で完成する。
まぁ、おじいちゃんは『ワシが食べたバームクーヘンはこんなものじゃなかった』と言っていたので、まだまだ改良の余地がある、らしい。
…………もう、おじいちゃんの目指していた完成形を知ることはできないので、この調理器具が完成することは、残念ながら無いのだけど。
……………………代わりに、私たちが好き勝手に魔改造していくことでしょう。おじいちゃん、ごめん。
用意する材料は、小麦粉、砂糖、卵、牛乳、バター。
まぁ、お菓子作りの定番材料である。
「ナツナツちゃん。なーに? アレ」
「バームクーヘン焼き機だよ~♪ ロール系のお菓子なんだって~」
「バームクーヘン? 聞いたことないわね。ロール系って、ロールケーキみたいなお菓子ってことでいいのかしら?」
「うん、そ~~」
「あ、いえ。作るのに回転させますけど、ロールケーキとは程遠いと思います。どちらかというと、もっさりとお腹に溜まりますね」
「そうなの~?」
「そうなの」
タチアナさんにキッチンを借りてよいか確認したら、『私も一緒していいかしら?』とのことなので、彼女も参加。
先程まで、口を挟むのが憚れるくらい、ナツナツと楽しそうにお喋りしていた。
でも、変に勘違いさせても悪いので、バームクーヘンについては、一言修正しておく。
空気を含ませてふわふわにするケーキ類と違って、これはあまりふわふわにはならない。
なぜなら、生地を泡立てて空気を含ませても、焼かれるまでに時間が掛かるので、途中で泡が潰れてしまうから…………だと、思ってるんだけど、どうだろうか?
まあ、泡立てを一切しないと、パイやクッキーのように固くなってしまうだろうから、あくまで『比較的』の話だけど。
さて、久し振りだけど、とりあえず やってみよう。体感的にも、リアル時間的にも。
特に後者をまじめに考えると、120年は確実だからな…………そもそも、料理の仕方を忘れている可能性もある。
蘇生してから、まだ一度もまともな料理を作ってないからね。練習 練習♪
ということで、二人分の視線を感じながら、調理を開始する。
まず、ボールに卵を割り入れ、よくかき混ぜる。白身を切る感覚で念入りに。
そこに、砂糖を加えて、泡立てる。しっかりと泡立てる場合は、卵黄と卵白を別々に泡立てた方がいいんだけど、泡立ては重要じゃないはずなので、これでOK。
次に少量の牛乳、溶かしバターを入れて混ぜ合わせた後、小麦粉を振るってかき混ぜる。
なお、小麦粉を振るう理由は色々あるが、今回は混ぜやすくするのが一番の目的だ。
これで生地は完成である。
…………早い。簡単。Not 練習。
「まぁ、なんていうか……普通の生地よね。あんまり膨らまなそうだけど」
「そうなの~?」
「えぇ。空気が足りない気がするわ」
ギャラリーの声は聞こえないフリをする。
生地をバームクーヘン焼き機の……長いな。バーム機の下部、生地を入れる容器に流し込み、金属棒にバターを塗り込む。
これは焼き上がったとき、剥がれやすくするため。これを怠ると、最後の最後で内側に分解していくことになる…………悲しいよ?
そして、金属棒の位置を、生地にギリギリ触れるところまで下げれば、準備OKだ。
加熱器は、自動的に適切な位置に移動している。
というわけで、スイッチオ~ン♪
金属棒が回転を始めると、接触部から生地が上へ巻き上げられ、加熱器側を通り抜ける間に焼かれて薄いスポンジが出来上がる。
それが再び生地を巻き取り、焼かれてスポンジに…………以下 ループ。
試作機段階では、スポンジが厚くなる毎に金属棒と加熱器の位置を自分で調整する必要があったけど、現在のコレはその辺も自動で調整してくれる。
ここには大賢者の知恵と工夫が詰まっているのである。…………無駄じゃないよ?
「「おぉ~~~~……」」
タチアナさんとナツナツが、バーム機の前に張り付いて、興味深そうに焼き上がるのを眺め始めた。(気持ちは分かる)
あちらは二人に任せ、こちらはこちらで別のお菓子を作ろう。材料がほぼ同じカステラでも。
こちらは、泡立てが重要なので、まず卵白と卵黄を分け、どちらにも砂糖を加えてかき混ぜる。
その後、泡立ちをよくするため、温めながら撹拌して泡立てる。
特に卵白の泡立ちが、完成度を左右するので、キメ細かい泡が出来るように念入りに。卵黄の方は白っぽくなればOKだ。
次に、この卵白に卵黄と小麦粉を混ぜるわけだが、ひとつ注意が必要。
なんと、卵黄と小麦粉は、せっかく作った泡を消してしまう効果があるらしく、混ぜ過ぎると膨らまなくなってしまうのだ。かといって、混ぜるのが足りないと小麦粉がダマになって残る可能性が高くなる。
この工程こそが、料理人の腕が試される場面なのだろうけど、私にそんなモノはない。
というわけで、三種類の材料を《どこでも錬金》を用いて[錬金室]に放り込む。
何をするのか? 当然それは、卵白の中に、卵黄と小麦粉を混ぜ込むことである。
[錬金室]は、私が本来 手で行うべき作業行程を、代行してくれる異空間だ。
この異空間の中では、現実空間と同じように、時間を掛けて順々に作業を進ませていくことも可能だが、別の方法を選択することもできる。
それは、妖精魔法と同じように、過程を飛ばして結果だけを取り出す方法だ。
今回に関して言えば、『均一に混ざった』状態に強制的に変化させられる、と考えれば大体あってる。
そして、この方法を使うと、本来その過程で副次的に起こるはずの『泡が消える』という結果は、省略されるので起こらない。
これは、かなり凄いことのはずで、やり方次第では色々出来ると思うのだが、『結果を明確に意識しないとうまくいかない』という特性もあり、私にはあまり複雑なことが出来ないでいる。
《どこでも錬金》とセットになっていることから、まぁ『錬金術に活用しろ』というおじいちゃんのメッセージは汲み取れるのだが…………私はあまり錬金術をしない、というか、そんなに詳しくないので、もっぱらお菓子作りに使われる未来しか想像できない。
つまり、宝の持ち腐れ。何か根本的に間違えている可能性も否めない。
…………まぁ、いいや。
で、[錬金室]から取り出したカステラの生地を手早く型に流し込み、2~3回机に叩きつけて型と生地の隙間を埋める。
そして、200℃くらいの温度で10分。続けて、150℃くらいの温度で30分くらい焼けば出来上がり。なお、後半の加熱は、焦げ目を付ける作業です。
蒸気をしっかり抜いて (これをしないと、冷めたとき潰れる)、薄い布巾で包み、熟成させれば完成。
「わぁ~~……こっちも美味しそう~♪」
「そうね~♪ いい匂いね~♪」
いつの間にか、興味がこちらに移っていたナツナツが、瞳をキラキラとさせながら、完成したカステラを覗き込んでいる。
ヨダレを垂らさんばかりの勢いとは、まさにこのこと。
「ね、ね、早く食べよっ」
「んー……これ、熟成させなきゃならないんだよね……」
「そうなの? どれくらい? 一時間? 二時間? ちゃんと待つよ?」
「三日」
「…………………………………………」
ナツナツの表情が笑顔のまま固まり、瞳から輝きが消えた。
そして、そのまま棒状の涙を流し始める…………
冗談だったんだけど、罪悪か
ガッシ!!
「ルーーーーシアナちゃ~~~~ん?」
いつの間にか背後に回っていたモンペに、両肩を掴まれた。
『ミシミシ……』と、嫌な音が体内に響き渡る……
あ、ヤバイ。これ、死ぬる。
冷や汗だか あぶら汗だか分からない何かが溢れる前に、急いで訂正を入れた。
「ふ、普通は三日掛かるんだけと、魔法でチョチョイとしようか!! でも、ナツナツも手伝ってくれるかな!!!?」
「うんっ!! 分かった!! 手伝うよ~!!」
「そうね~、お菓子作りは、作るのも楽しみのひとつだものね~」
一瞬で涙が消え、キラキラが溢れるナツナツに、優しい顔を向けて頭を撫でるモンペ……ではなく、タチアナさん。
…………こ、怖かった……
額の汗を拭ってホッと一息吐く。あぶない あぶない……
最近、ナツナツは、グランディア家のアイドルと化しているのだ。
そのせいもあって、私の扱いは、割と雑になってきた。
まぁ、一番雑に扱われているのはギルド長だけど。
気楽でいいけど、ナツナツは私のナビゲーターですよ? あげませんからね?
……とは、怖くて言えない。
カステラと、ついでにバームクーヘンの熟成をナツナツとタチアナさんに任せて、この機会に両方とも大量生産しておくことにする。
食べたいときに食べられるのが、幸せなんですよ。
[アイテムボックス]なんて、都合の良い物もありますからね。
…………
……………………
………………………………
…………………………………………
6時間後。
朝からせっせと作り続けていたので、結構な量が[アイテムボックス]に仕舞い込まれた。
これでいつでも食べられるね。
気付けば昼食の時間も過ぎ、おやつの時間である。
お菓子作りに限らず、料理って摘まみながらやるから、お腹が空かないよね。そう思わん?
「そろそろ、いい加減ちゃんと食べますか?」
「それもそうね。お腹空いちゃった」
「わーい♪」
二人はそうでもなかったらしい。悪いことしたかな。
せめてものお詫びに、一番良くできた物を選んで切り分ける。せっかくだから、大きめにしておいてあげよう。
私が切り分けていると、タチアナさんは『ちょっと贅沢をしましょう』といって、普段とは異なる包装の紅茶を持ってきてくれた。
なんだか金の縁取りがされてて、とっても豪華そう……
私とタチアナさんがそれぞれ作業をしている隣で、手持ち無沙汰なナツナツが所在無さ気にキョロキョロしてたので、お皿を持ってくるようお願いする。
すでに勝手知ったる他人の家。器用に棚から三枚のお皿を持ってきてくれた。
「ルーシアナちゃん、お湯出して」
「はーい」
言われるがままに[アイテムボックス]からティーポットに熱湯を注ぐ。
だんだん[アイテムボックス]の中身が混沌としてきた。そのうち、リスト化でもしなきゃな……
と、そんなことを考えている間にも、タチアナさんは、紅茶の蒸らし時間を利用してカップを温めるなど、私のやらない (というか、知らない) 前準備を進めていく。
…………今まで 私は、適当に『ガッ!!』と淹れてた感じだったけど、お茶の淹れ方って言うのも、やっぱりあるんだよね。
そのうち、教えてもらうのもいいかもしれない。
人数分の紅茶とお菓子を並べたら、随分と遅くなった昼食 兼 おやつタイムと相成った。
二人はさっそくバームクーヘンに飛び付く。
「もぐもぐ…………うま~~~~……!!!!」
「あら、ホント。しっとりもふもふで美味しいわね」
「それはよかった」
私は、まずは紅茶で喉を潤すことにして、楽しそうに食べる二人を眺めていた。
タチアナさんは、上品に一口ずつ切り分けて口に運び、その度に頬に手を当ててニコニコしている。
ナツナツは、明らかに大きすぎるサイズを切りだし、両手で抱えるようにして大口を開けて頬張っている。
やっぱり喜んでもらえると、作った甲斐があるね。
密かな満足感に浸りながら、私もバームクーヘンをいただくことにする。
…………うん。懐かしい味だ。いや、作ってる最中に、何度も摘まんだけどね。あと、思わず年輪毎にバラしたくなるのも懐かしい。
まぁ、悪い食べ方を見せる必要もないので自重する。
バームクーヘンは、概ね二人に好評のようだ。
今度は、外側をシュガーコーティングしたり、アレンジを加えてみようかな?
次はカステラ。
しっとりふわふわ。いい感じではなかろうか。
「ふぁ~~~~……これも美味しい~~♪」
「なかなかイケるわね。お店を出してもいいんじゃない?」
「さすがにそれは言い過ぎでは……あぁ、でも、大分うまくできたかも」
この焦げの部分が美味しいんですよ。一面にしか作れないのが残念だ。
しかし、実は、今回が初挑戦だったんだけど、[錬金室]を活用した『錬金混合』とも言うべき調理法は、上手くいったようだ。
今後も[錬金室]もとい《どこでも錬金》は、主に料理を中心に大活躍しそうだ。申し訳ない。
女三人 姦しいティータイムは、二人が食べ過ぎで気持ち悪くなるまで続いた。
「た、食べ過ぎたわね……」
「もぅ入んない……」
「…………次からは提供する量を決めさせていただきます」
「「そんな!?」」
おやつは、一人一切れとさせていただきましょう。
▽風魔法マスタリーのレベルが上がりました!!
▽風魔法:ヒート・ウェブを取得しました!!
▽風魔法:デミ・サイクロンを取得しました!!
▽時空魔法マスタリーのレベルが上がりました!!
▽時空魔法:クリア・プレイトを取得しました!!
▽ステータスを確認してください。
特殊スキル
・風魔法マスタリー Lv.2 → 4
・時空魔法マスタリー Lv.5 → 6
取得スキル
・ヒート・ウェブ:指定範囲の大気の温度を上げる。範囲、最高温度、内部気流等は込める魔力、イメージに依る。
・デミ・サイクロン:指定範囲の大気に乱流を巻き起こす。範囲、流速、風形等は込める魔力、イメージに依る。
・クリア・プレイト:極薄の平面力場を生み出す。数、形状、強度等は込める魔力、イメージに依る。
……………………料理してたら魔法覚えた!!!!
料理中の考察・作り方等は、軽くググった程度の情報ですので、鵜呑みにしませんよう……
見当違いの事が書いてあってもスルーしてください。




