第195話 マヤ視点、なにこの子よわい
168 ~ 220話を連投中。
11/1(日) 10:20 ~ 23:20くらいまで。(前回実績:1話/15分で計算)
一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。
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申し訳ありません。
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― 回想終了 ―
あの後、オズちゃんが、
『結果的に、入浴簡略化のためのものとは、ほぼ別物になってますから大丈夫です』
って言ってたけど、安心できる要素は何一つ無かったわよ、あの説明に。
安全を証明するためにルーちゃんたちが使ってみせたり、『虫歯になりにくくなる』という文言に釣られたりして、結局みんな使ってみたけど、驚くほど歯がツルツルピカピカになってて軽く引いたわ。
『無くなっている分は歯石といって、歯の本体ではなく付着した汚れなので、大丈夫です』
って言ってたけど、だから安心できる要素がないのよ?
その後、定期的に使用しないと『虫歯になりにくくなる』という効果は当然だけど無くなるので、一応、念の為、万一に備えて、どこで購入出来るのか確認したら、なんと現在はルーちゃんが創っていることが判明。
詳しく聞けば、お祖父さんだけでなく本人もDランクの錬金術師で、冒険者で疲れた時は錬金術師としてクエストをこなしているらしい。
それ、ちゃんと休めてるのかしらね?
聞けば聞くほど、驚くような情報が出てくる。
後は肝心の冒険者としての戦闘能力だけど、こちらは結局 魔獣と遭遇することが無くて確認できなかった。
ここまでの情報から、素質が高いのは確実だろうけど、命と命のやり取りをするとなると、素質とはまた違った面で適正不適正が出てくる。
特に、王都周辺は人型魔獣である獣人。獣型は倒せても、人型は無理って人もいるからね。
まぁ、でも…………冒険者じゃなくても、十分 活躍出来る実力はあると思うけど。
そんな私は、現在 夕食も終わり、ルーちゃんと夜番中。
周囲に鳴子を使った簡易警報装置と一定範囲内限定の索敵魔道具があるから、本来の夜番は一人で十分。
十分なんだけど、夜番の仕方を教えるのも再評価クエストの目的のひとつだからね。
…………まぁ、そんなに教えることもないんだけど。
ちなみに、設営に当たり、ルーちゃんたちが六人用のテントを取り出したのは、想定外だけど予想内。もう驚かないわよいや驚いたけど。
普段、私たちは二人用のテントを二つ使用していて、ココちゃんとサっちゃん、フォズちゃんと私で使っている。
今日は、ルーちゃんたちのテントに女の子全員がお呼ばれしているから、ココちゃんもノビノビしているかしらね?
それにしても、この休憩所は本道から外れているせいで、私たち以外に使用者がいない。
まぁ、いたらいたで、夜番の負担を分散できる代わりに、人にも注意を払わなきゃならなくなるから、メリットばかりじゃ無いんだけど。
どこの世にも悪人はいるからね。
ただ、一人の夜番は、魔獣の警戒と焚き火の維持くらいしかやることが無いから、正直 苦手。
この静寂に包まれた広大な夜の世界にあって、安らぎを覚えるか恐怖を感じるかは人それぞれ。
私たちのパーティ内で前者なのは、ココちゃんくらいかしら。
『黙々と思索に更けられるのが良い』とかなんとか。
……………………やっぱり男一人だと、気苦労が多いかしら? もっと頼ってくれてもいいのだけれど。
でも、今日の夜番は、ルーちゃんがいるから比較的楽しいわ。
昼間のように、話し続ける訳にはいかないけど、隣に誰かがいるだけでずいぶん違う。
私が近くの森で採取してきた食用の木の実を火で炒り、ルーちゃんはお湯を沸かして飲み物を淹れてくれる。
それらを摘まみながら、何をしているかと言えば……
「はい、私の勝ち」
「また、負け、た……」
カードゲームをしています。
旅には不要なものだけど、大して嵩張る物でもないし、一組あると便利なのよね。
ちなみに、現在 50連勝中。
ここまで来ると、もう強いとか弱いとか、そういうレベルじゃなさそうね。
「ルーちゃん、弱過ぎ」
「イ、イカサマだぁ~……確率的に、一回も勝てないとか、あ、あり得ない……」
「失礼ね。確かに確率的には、勝率は半々だろうけど、智略を駆使して勝率を引き上げるのがゲームでしょうに」
「ぐぬぬぬぬ……」
ルーちゃんの負け惜しみに半眼になって答えると、悔しそうに唸ってカードを切り始めた。
というか、ルーちゃん。感情が表情に出過ぎ。
あれじゃあ、相手に『心を読んでくれ』と言っているようなものよ。
「念のために言っておくけど、将来 賭け事なんかに手を出しちゃダメだからね」
「言われなくても。…………こんな紙切れに人生預けられないわ、頼り無くて」
「金属製の道具を使った賭け事もあるから、紙じゃなくても手を出しちゃダメよ」
「そゆ意味じゃないよ」
分かってる。分かっててからかいました。
どうも、この子と話してると、からかいたくなってくるのよね。
「次は何をする~?」
「流石に私のレパートリーも無くなってきたわね。…………の、前に10勝の御褒美♡」
「…………もう10回負けたのか…………早いわぁ~……」
「えぇ。50敗目」
「……………………マジで?」
「マジで」
さすがに信じられなかったのか、目を剥いて聞き返してくるので、地面に並べてある小石 (勝敗の記録) を指差す。
そこには、十の桁に4つ、一の桁に9つの小石が並んでいた。
そして、先程の結果を記録するため、十の桁に1つ追加して、一の桁を空にする。
「……………………さすがに私もドン引き」
「ここまで来ると才能ね」
「負けることの?」
「相手を勝たせることの才能よ」
「意味は同じだよね、それ」
そうとも言うわね。
『はぁ』と、ルーちゃんがタメ息を吐いて立ち上がり、遠慮がちに私の膝の上に座る。
「ホントに重くない?」
「余裕 余裕。フォズちゃんと同じくらいだもの」
サっちゃんレベルだと、ちょっとキツイ…………というのは、心の内に留めておきましょう。
「う~~~~ん…………やっぱり思った通り。良い抱き心地♡」
「さいですか」
いつもフォズちゃんにしているように、背後から『ぎゅ~~~~』っと抱き締める。
サラサラした髪が頬に当たって心地よい。
「でも、ホントに小さいわね。フォズちゃんも小さいと思ってたけど、それ以上とは…………年齢偽ってないわよね?」
「そうだったら、どんなに良かったものか……」
声のトーンに本気の悲哀を感じるわ……
「身長もそうだけど、こっちももっと欲しい…………マヤさん、一割でいいからくんない?」
「あげられるものならあげたい…………せめて、走り回るのに支障が無いくらいに縮まらないかしら……」
「「はぁ」」
お互いに何とは口に出さずとも通じている。
ただし、望む方向性は真逆だけど。
「でも、そんなに欲しいもの? 重いし視界を塞ぐし、いいこと無いけど」
「……………………人は自分に無いものを求めるんよ…………」
「それは分かるけど、だからって今日会ったばかりの人に『触らせて』なんて言うものじゃないと思うなぁ」
「…………どうしても我慢出来なかってん」
「何その言葉使い…………どこの言葉?」
「気にせんといて」
たまに変な言葉使いするわね、この子は。通じるからいいけど。
実は、カードゲームを始めるに当たって、互いに10勝毎に『相手にして欲しいこと』を決めたのね。
もちろん、相手が『嫌だ』と言うものは無し。
そしたらこの子は、即行で『胸を触らせて』となかなかに踏み込んだことを挙げてきたので、こちらも遠慮しないことにした。
具体的には、今してることとか、髪型を変えさせたりとか。
今、ルーちゃんは、髪をふたつに括って前に垂らした髪型をしている。
こういうスキンシップは、嫌がる人も多いと思うけど、ルーちゃんは気にしないタイプのようね。互いの新密度にも依るだろうけど。
まぁ、自分から『胸を触らせて』とか言ってくる辺り当然か。というか、抱き着かれ慣れているような気配を感じるわ…………例のもう一人に抱き着かれてるのかしらね?
たっぷりとルーちゃんの抱き心地を堪能した後 解放するが、ルーちゃんは元の位置に戻らず、私の隣へ腰を落とす。
「もーカードで勝てないから、勝てそうなジャンルで勝負する」
「安心して。そのジャンルは、確実にルーちゃんの勝ちだから」
ルーちゃんはそう言って、レンガを組んで作った簡易かまどからフライパンを取り外す。
そして、やはりレンガを組んで作った簡易机の上に乗せ、徐に蓋を開けると…………ぶわっと蒸気と共に甘い薫りが周囲に広がった。
「ドライフルーツのバウンドケーキ。思いの外、上手に焼けたっぽい?」
「野営でこれだけ出来れば十分すぎるでしょう。というか、家のキッチンで作ったみたい」
こちら、私が30勝したときにダメ元で頼んでみたスイーツさんです。
いやね、食材を丸ごと持ち運んでいるのなら、スイーツ系の材料も入ってるんじゃないかと思ってね。
もちろん、材料費も技術料も払うつもりだったんだけど、『成功するか分からないし、毒味してくれればいいよ』と言ってくれましたホント良い子。
「……お礼に胸 触らせてあげよっか?」
「…………………………………………いや、そういうのは、ダメ。これを作るのは、負けた対価だし」
凄い悩んだわね……律儀な子…………
自分の選択を後悔するかのように固まったルーちゃんだったけど、すぐに気を取り直してケーキをフライパンから取り出そうとし始める。
「む…………やっぱり、下の方が焦げ付いてるっぽい。剥がれない…………」
「まぁ、それは仕方無いわよ。というか、お皿も無いし、そのままで良いんじゃない?」
「いや、蓋に出して切れば、他の人の分も取り分けておけると思って……」
「あぁ、確かに。でも、貴女たちが気にしないなら、私たちの方には気にする人いないわよ? 冒険者だし」
「…………それもそうか」
私の説明に納得するように頷いて、フライパンからケーキを取り出すのを止め、そのまま六等分に切り分けた。
そして、二本の短い棒を取り出すと片手だけで持ち、ちょこちょこちょこっとケーキを弄って、器用にひとピースだけ取り出す。
「よし OK。とりあえず、ひとピース分だけ隙間を空けたから、適当に食べちゃって。残りは蓋して火の近くに置いておけばいいでしょ」
「分かったわ、ありがとう。…………ところで、お昼の時も気になったけど、その棒なに?」
ルーちゃんから、ひとピース分減ったケーキをフライパンごと受け取りながらも、蟹のように天を向く二本の棒が気になった。
お昼の時は、それどころじゃなかったからね。
「ん? コレ?」
「そうそれ」
「食器だよ。箸っていうの。フォークとかスプーンとかの仲間」
「まぁ、それは使ってる所を見れば分かるけど……初めて見たわ」
「だろうね。テモテカール……私がこの前までいた街でも見たこと無いし」
「え? それどういう…………」
続けて話を聞こうとして、ふと思い留まる。
この流れはなんとなく危険な薫りがするわ。
「……………………この話って深く聞いても大丈夫な話?」
「昼間の身の上話が尾を引いてるね…………そこまで気にしなくても大丈夫だけど……………………うん。簡単に言うと、私とオズは東国の出身でね。家出してテモテカールに流れ着いた感じなの」
「東国って…………どこ?」
「それは秘密。ただ、こういう箸とかから分かる通り、かなり離れてるね」
「…………そんなところから、姉妹で?」
「あぁ~……………………正確に言うと、私がまず飛び出して、その後をオズが追ってきた感じ。嘘臭い話だなとは思うよ」
「…………………………………………」
確かに嘘臭い。
高々家出…………と言っていいのかは、理由を聞いてないからなんとも言えないけど、まだ成人もしていない子供が、文化が違う程遠い国からここまで移動してきたの?
『なんでこの国に?』とか、『どうやって移動して来たの?』とか、突けば突くほど怪しいところが出てきそうだけど、実際に本人に『嘘臭い話』と言われてしまうと、本当のような気もしてくる。
それに、先程カードゲームで50連敗するほど、感情が表情に現れやすいルーちゃんの性格は、ここでも遺憾無く発揮されているわけだけど、カードゲームの時と違い『秘密を抱えている』ことは公言されているから、何の追加情報にもなっていない。
何度か聞いた変な言葉使いから出身地を類推…………は、出来るかも知れないけど、一般人には無理ね。移動途中に立ち寄った際に移った可能性もあるし。
……………………意外に、賭け事にも才能があるのかもしれないわ。『情報を読み取らせない』ではなく、『誤情報を読み取らせる』といった方向で。
それはともかく。
「まぁ、深くは聞かないし、そのまんま信じておくけど、何か困ったら言ってね。折角 知り合ったんだし」
「…………うん。ありがとう。……………………ここ最近、ずっと出会いに恵まれてるや。マヤさんたちこそ、何か困ったことがあったら言ってね。出来るだけ手助けするから」
「うん、ありがとう。…………でも、今日のアレコレを思い返すと、私たちが助けられることの方が多くなりそうね。すでに色々助かってるわ」
「その時はツケといて」
ちゃんと返せる機会がくればいいけど。
重たげな話はここまでにして、ルーちゃんのケーキをいただきながら、またカードゲームでもすることにした。
夜番の交替まで、まだまだ時間がある。ルーちゃんとの夜は、ゆっくりと過ぎていった。
……………………ちなみにこの後、100連勝した。
・注釈(語意系):『徐に』について
意味は『ゆっくり』という意味だけで、『突然に』『不意に』という意味は無いらしい。
自分はてっきり、『予想外過ぎて、ゆっくりとした動作にも拘らず反応できなかった』的なイメージがあったけど、違ったのか……
例えば、『ヤツは、徐に銃を取り出すと、反応できずにいた私に発砲した』とか。
…………後半で『反応できずに~』って加えてるんだから、『徐に』にその意味が無いのは当然か。
ちなみに、『やおらに』も同様とのこと。




