第193話 フォズ視点、餌付けされて上向きスパイラル
気にしてる方は少ないでしょうけど、下記の『前回実績:1話/6.5分』は間違ってましたので、修正します。
そんなに早く投稿できるわけがないですよね……気付け、私。
168 ~ 220話を連投中。
11/1(日) 10:20 ~ 23:20くらいまで。(前回実績:1話/15分で計算)
一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。
word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿。
申し訳ありません。
ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。
到着した王都外門は、いつもより人が多いように感じられます。
多分、遅刻から連鎖して、朝の出門ピークと重なってしまったからですね。
……………………これもわたしたちのせいじゃないですか…………
列に並ぶと、わたしは早速 包み紙を開いて、中身を露にさせました。
今日の朝食は、 ― 野菜たっぷりグリルチキンサンド ― です。
薄いパンとパンの間に、同じくらいの厚さのグリルチキンとたくさんのレタス、タマネギ、トマト、アクセントにピクルスやバジルなどが詰められ、全体にハニーマスタードソースが掛けられています。
「…………………… (ごくり)」
空腹状態で一見美味しそうな料理を前にして、単純な生理現象は素直に『唾を飲み込む』という反応を返しました。
でも、わたしは知っています…………今回もわたしの期待は裏切られるということを…………
「…………………… (ぱく)」
意を決して一口かじりつきました。
すると、まず口に広がるのは、ハニーマスタードのまろやかな辛味とチキンの肉汁のハーモニー。
マスタードのピリッとした辛味が、肉汁のクドさを打ち消して、美味しさだけが残ります。
うん。正直、『ここで終わればいいのに』って、いつも思います。
一噛み、二噛みと続けていくと、至福の味わいはするすると喉へと流れていき、残るのはなんとも味気無いパンと萎びた野菜の歯応え…………
噛む度にパンから、やけに水っぽい野菜汁が湧き出るのは何でなんでしょうか……?
ハニーマスタードと肉汁の旨味が、もう少し残っててもいいと思うんですけど。
いや、分かりますよ?
お肉は美味しいなら、サリーちゃんに勧められた肉尽くしにしたり、新鮮さが命の生野菜ではなく味を整えた茹で野菜のものにしたりすれば良いというのは。
ただ、人には野菜が必要ですし、サリーちゃんみたいに『良薬は口に苦し』みたいに別口で食べるのもどうかと思います。
また、茹で野菜は青臭くなってしまった野菜の風味を消すような味付けなので、野菜を食べた気にならないんですよね。
…………いえ、理屈を並べても仕方ないですね。つまり、シンプルに一言で言えば、
『わたしは!! 美味しい野菜が!! 食べたいんですよ~!!』
となります。…………突然 失礼しました。
はぁ…………また、遠出出来るクエストが貼り出されると嬉しいんですけど。
そんな葛藤と戦いながらなんとか食事を終え、最後に口直しの飲み物を…………
あ!! …………失敗しました。飲み物を買うのを忘れていました。
いつもなら わたしがうっかりしていても、誰かが指摘してくれたんですが、みんなも なんだかんだと慌てていたのかもしれません。
いえ、そもそも自分で気付きなさいと言いたい所です……
うぅ…………今日は、とことん厄日です……
タメ息を漏らさないように注意して、包み紙を丸めていると、ふと、視線を感じました。
何の気もなく、気配の元へ目をやると……
「「「…………………………………………」」」
じっとこちらを見詰めていたルーシアちゃんたちと、無言で見つめ合うことになりました。
…………え? あれ? いつから見られてました?
……………………思い起こすと、ギルドを出てからずっと、最後尾にいたわたしの目の前にルーシアちゃんたちの背中があったような?
さらにいえば、サンドイッチを買うときも、話し掛けてきたのは、お兄ちゃんではなくルーシアちゃんでした。
それはつまり、お兄ちゃんがわたしに直接 話し掛けるのに、ひと手間掛かる状態だったということで……
「……………………あの、いつから見てました?」
「え? 多分、最初からずっと」
「具体的に言えば、外門の列に並ぶのに三:三に別れて距離を詰めたところからです。正直に言うと、コロコロ表情が変わるので、見ていて面白かったです」
「~~~~~~~~っっっっ!!!!」
咄嗟に羞恥の奇声を上げなかったのは、誉めたい気分。
代わりに、顔に熱が上がって、脳内で絶叫してしまいましたが。
小柄なわたしにはあまり経験のない、下から見上げる視線に打ち震えていると、
「ま、まぁまぁ、落ち着いて。表情を盗み見ていたお詫びに、飲み物でもいかが?」
「んえっ!? な、なんで分かったんですか!?」
「顔に書いてありま…………いえ、私たちも同じ気分になるからです。作ってくれた人には聞かせられませんけど、美味しくないですよね、王都の料理」
オズリアちゃんが、子供らしくない虚ろな瞳でタメ息を吐きました。
あぁ……やっぱり、この二人も辟易している時期だったようです。
なんと言って慰めるべきか分からず、おろおろしていると、ルーシアちゃんに手の中の包み紙を取られ、空いた場所に果実水が注がれたコップを差し込まれていました。
抵抗する間もない早技でした……
「あ、ありがとうございます……」
「どういたしまして」
包み紙もすでにどこかへ仕舞われてしまいました。
収納魔法の媒体となるアイテム袋などが見当たりませんが、空間を直接拡張する高等魔法でしょうか?
……………………考えるのは止めましょう。実力差に打ちのめされるのが目に見えてます。
もう一度、しっかりとお礼を言って、いただきます。
…………………………………………美味しい。
「…………美味しい」
思わず思ったことが口から出ていました。
果実水というと、果肉を搾ったものをそのままか、簡単に濾して味を整えたものがありますが、どちらも味が濃いものになりがちです。
ルーシアちゃんのくれたこれは後者のものに当たりますが、適度に薄められてさらっとした喉越しでありながら、数種類の果汁が複雑に絡み合い、確かな満足感を残していきました。
『次、次、もっと』と急かす自分と、『ゆっくり味わって』と宥める自分に挟まれ、結局コクコクと早目の速度で飲みきってしまいました。
「はぁ~~♪ 美味しいです!! とても!!」
「それは良かった。おかわりは いる?」
「はぃっ!! …………い、いいえ……だ、大丈夫、です……」
「ダメそうですが」
「もう一杯くらい飲んでも全然余裕だよ?」
「……………………もう一杯ください……」
「はい、どうぞ~♪」
美味しいものへの欲求は強かった…………わたしには勝ち目がありませんでした…………
再び、なみなみと注がれた果実水を、今度こそはじっくりと味わっていただきます。
うぅ~~~~…………美味しい!!
「簡単な物だけど、お菓子も食べる?」
「いた…………い、いえ……………………いただきます……」
「素直でよろしい」
咄嗟に本能が『いただきます!!』と言おうとしたのを、反射的に理性が押し止めて『いえ、大丈夫です』と言おうとして、でも欲望に負けました。
そんなわたしの葛藤を見ていたルーシアちゃんは、満足そうに頷き一口大の焼き菓子の入った小箱を差し出します。
一見すると大きい卵ボーロのようですが、食べてみるとサクッと軽やかに砕け、小麦の良い風味が広がりました。
どちらかというと、球状のビスケットと言った方が正しいかもしれません。
砂糖などは使っていないのか、甘さは大分控えめですが、果実水と合わせると丁度いいです。
先程までと打って変わって、すっかり上機嫌になったわたしに満足して二人も食べ始めました。
「うん。これはなかなか」
「ですね。ただ、これは小麦粉の質に大きく左右されてしまいますね」
「小麦粉なら王都でもいいのが手に入りますよ。劣化も少ないですから」
「でも、高そうだね、王都だと」
「輸送費は確実に上乗せされますからね」
「分かります!! それなら、クエストで遠出した際に、自分で買ってくるって手もありますよ。
でも、手間を考慮すると、王都で買うのも一考の価値ありです。お野菜と比べれば、そんなに高くないですし」
ようやく少しは、ルーシアちゃんたちにもメリットのあるお話が出来そうです。
詳しく聞けば、二人はまだ王都内の探索もしていないらしく、主に観光客が集まる通称『観光通り』くらいしか知らないとのことでした。
「お二人さえ良ければ、今度わたしが知っている範囲で、王都を案内しましょうか?」
「え? でも……」
「私たちは助かりますけど、クエストの都合とか相談しなくても大丈夫ですか?」
「そこは頼み込みますから!!」
「…………いえ、確認して問題なければお願いします」
「大丈夫だよ」
わたしが意気込んで案内役を買って出ますが、ルーシアちゃんは冷静に返されてしまいます。
い、一応、根拠はあるんですよ? クエストとクエストの間は、一日休みを入れることにしていますから。だから、このクエストが終わったら、休みのはずなんです。
でも、わたしがそれを説明する前に、話を聞いていたお兄ちゃんが助け舟を出してくれました。
「元々、クエストが終わったら一日休むことにしているからね。フォズもそれを考慮して提案したんだよ」
「なるほど」
「でも、せっかくのお休みを潰してしまっても大丈夫ですか?」
「大丈夫です!! 魔獣と闘う訳じゃないですし!!」
「まぁ、フォズも冒険者だからね。自分の余力がどのくらいかは分かっているさ」
「それじゃ、お願いしようかな」
「お義姉さまも付いてくるかもしれませんが、お願いします。あ、ココネさんたちも、お菓子食べますか?」
「ありがとう。でも、後でいただくよ。そろそろ順番だからね」
そう言ってお兄ちゃんは前に振り向きました。
その途中で、目があったので、アイコンタクトでお礼を伝えておきます。
ありがとうございます、お兄ちゃん。
それにしても、一時はどうなるかと思いましたけど、気付けば普通に話せるようになりましたし、クエスト後も会える約束も出来ました。
…………ま、まだ友だちとは言えないかもしれませんが、出だしは好調と言えるんじゃないでしょうか!!
そんな期待に胸を膨らませていると、レミィちゃんも嬉しそうに周囲をくるくる飛び回ります。
わたしの高揚を感じ取ってくれているんですね。
『―――――――― (≡^∇^≡)』
『うん。そうだね。友だちになれたら、レミィちゃんのことも紹介できるよ』
『―――――――― ヽ(*´∀`)ノ♪』
『え? 違う?』
『―――――――― ヾ(*>∇<*)ノ』
『え? え? よく分かんないよ?』
『―――――――― (o´艸`o)♪』
『秘密?』
レミィちゃんとは意思疎通出来ますが、別に言葉を話す訳じゃありません。
鮮明なイメージが伝わるといいますか、伝えたい感情が共有化されるといいますか、言葉では表現しにくい意思疎通方法なのです。
でも、あえて 今 レミィちゃんが伝えたことを言葉にするなら、『友だちの友だちは友だち!! 嬉しい!!』というような感じでしたので、『友だちの友だちは (レミィちゃんの) 友だち!! 嬉しい!!』という意味かと思ったのですが、ちょっと違うみたいです。
ただ、詳しく聞こうとしても、『友だちは友だち!! もう友だち!! これから友だち!!』とのことで、よく分かりません。
そして、『秘密!! ちょっとだけ!!』らしいですが、ルーシアちゃんたちがちょっとした隠し事でもしていると言いたいのでしょうか…………?
『ちょっとだけ~!!』と言いながら、無秩序に (小精霊なので、物理法則完全無視なんです) びゅんびゅん飛び回りました。
本当は首を振ってレミィちゃんの動きを追いたい所ですが、いきなりそんなことをするわけにはいきません。
それとなく、視界の中に収まるように首を巡らせていると……
『…………あれ?』
一瞬。
レミィちゃんがオズリアちゃんの前を通り過ぎた一瞬だけ……………………お菓子の入った小箱の風景が不自然に歪んだような…………?
まるでそこに、姿を隠した何者かがいるかのように。
でも、レミィちゃんが再び同じ場所を通り過ぎた時には、もう歪みが現れることはなく、目の錯覚だった気もしてきます。
『んん?』
飛び回ったレミィちゃんは、満足したようにわたしの肩に止まると、『ちょっとだけ!!』と胸を張りました。
『…………………………………………』
なんだったんでしょうか…………?
しかし、わたしがソレについて、深く考えようとしたタイミングで出門の順番が回ってきてしまいました。
「三人共。順番だよ」
「あ、はい」
「了解」
「準備は出来てますよ」
「おや、君たちは……」
わたしも自分のギルドカードを取り出していると、二人いる門番さんのうち、片方に声を掛けられました。
…………いえ、声を掛けられたのは、ルーシアちゃんたちのようです。
「あれ? おはようございます」
「おはようございます。今日はこちらなんですね」
「うん。今週からね」
えっと…………知らない、というとなんだか申し訳ないですが、覚えの無い門番さんです。
彼は器用に出門手続きを進めながら話を続けました。
「ところで、例の件なんだけど、また頼みたくてね」
「え? もうですか?」
「うん。効果が高い内に畳み掛けたいようだ」
「あぁ、なるほど」
「だから、ちょっと話を聞いていって欲しいんだけど、いいかい? 数分で終わると思うんだが」
と、最後のセリフはお兄ちゃんに向けたものです。
「えっと、ルーシアたちの方に問題は無いのかい?」
「問題ないですよ、ただ、私たちの前に義姉さんが出門してますから、もう終わってるかもしれませんけど」
「いや、この指示が出たのがついさっきで、彼女が出門した後なんだ。急いでいるなら、また入門の時にでも声を掛けられると思う」
「ルーシアたちに問題なければ、大丈夫だよ。僕らはあの辺りで待ってるから、行っておいで」
「分かりました」
「助かるよ。じゃ、ちょっと着いてきてくれるかい? ティルス、すぐ戻るから、頼んだ」
「了解です」
門番さんはもう一人の門番さんに出門手続きを任せると、ルーシアちゃんたちを伴って、外壁内へ入っていってしまいました。
わたしたちは、二人に伝えた辺りへ移動します。
「…………着いて行った方が良かったでしょうか?」
「いや、助けが必要そうでもなかったし、二人で判断出来なければ保留にするくらい出来るだろう」
「それに『頼みたい』とか言ってたし、ギルドを通さないクエストみたいなものじゃない~?」
「そんなのがあるんですか?」
「うん。理由は様々だけど、表立って募集するとマズイものなんだろうね」
「ココネ、その言い方はフォズちゃんの不安を煽るだけだと思うよー。
えっとね、例えば、部署内に『勤務態度が悪い者がいるらしい』とかいう情報があったとき、堂々と『警備隊内の素行調査』なんて依頼は出せないでしょ? 体裁的にも。
かといって仲間内でやっても、調査してるのがバレちゃうし。そういう時に、信頼できる冒険者なんかに直接依頼したりするのよ。終わったら、ギルドを経由して報酬を渡すから、ぼったくられることもないしね~」
「なるほど……」
この様子だと、お兄ちゃんたちもしたことがあるのでしょうか?
ひとり納得していると、
「ふふふ……15でCランクなら、実力的にも安心だものね。さすがだわ。魔法が必要なクエストでも、全属性得意なら問題ないものね……………………どうせ~私は~器用貧乏~よ~しくしくしくしく」
ずっと黙っていたマヤお姉ちゃんから、陰鬱な歌が聞こえてきました…………
え? 何があったんです? どうしたんですか??
「あぁ~…………フォズ。手が空いてるなら、マヤ姉さんのフォロー頼むよ」
「え、いや、何で、いつからこうなってるんですか?」
「ギルドでルーシーが『全属性使えます』って言ってからだね~。あたしが思ってた以上に、四属性使えることに自信があったみたいー……にゃはははははは~♪」
「笑って誤魔化すな……」
「ずっとじゃないですか!!!?」
わ、わたしも落ち込んでたから気付きませんでした!!
マヤお姉ちゃんは、暗い顔で『る~るる~……』と歌い続けています…………
……………………結局、この門番さんの出来事と、マヤお姉ちゃんを正気に戻すことに気を取られて、謎の歪みについてはすっかり忘れてしまうのでした。
不意に明かされる、この国の名前…………由来はもちろん深い意味はないですけど、火、水=海、風、地=重力、中央辺りが由来。




