第190話 サリー視点、割と本気で地雷だと思ってました
168 ~ 220話を連投中。
11/1(日) 10:20 ~ 23:20くらいまで。(前回実績:1話/6.5分で計算)
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あたしは、サリー・バーミキュラ。
小言が煩い兄のココネ・バーミキュラと、頼りになるお姉ちゃんにして幼馴染みのマヤ・フォンディーネ、素直で可愛くて料理が上手な妹のフォズ・アスラエルの四人で冒険者をやってる。ぴっちぴちの19歳よん♪
あ、ぴっちぴちっていうのは『若い』って意味だからね!! マヤ姉みたいに、見栄張ってワンサイズ小さい服を無理して…………あれ、なんか寒気が……か、風邪引いた、かな?
さてさて。
あたしたちは、つい先日、お世話になってる冒険者ギルド受付嬢のナタ姉に勧められて、再評価クエストの協力者として参加することが決まったの。
てか、今気付いたけど、『ナタ姉』と『菜種』って、音がほぼ一緒……!! ちょ、ツボった……!! ふひひひっ!! こ、今度、鉈と菜種油プレゼントしてみよっと。ふふふ!!
(後日、鉈で殴られた後、油を掛けられて燃やされた。あの人、マジで容赦ない。ヤバス)
はぁ~、笑った笑った。
いや、心の中で笑っただけで、表には出してないけどね。
思い出し笑いですらなく、いきなり妄想で笑い出すなんておかしな人じゃん。ねぇ?
まぁ、それはともかく、あたしはこの再評価クエストの相手…………聞くところによると、随分優秀らしい二人の女の子について、ちょっとみんなとは違った考えを持っていた。
冒険者ギルド側から明確に期待していることを伝えていないのは普通のことだけど、そういうのは雰囲気で伝わるものだし、お仲間はAランク冒険者だと言う。
…………ひねくれた考え方だとは思うけど、強い仲間に護られながら、ぬくぬくと育てられ、周りからは称賛を浴びている子供…………とも取れるのだ。
だとすると、真っ先にイメージに浮かぶのは、『自尊心ばかり高くて自惚れが過ぎ、自分の意見が通って当たり前』と言ったような、我が儘を極めたような人物像だ。
当然、自分を護ってくれる大人には、良い子ちゃんぶって猫を被るのも得意なんじゃないかな?
ウチのパーティは、フォズちゃんは当然として、ココネとマヤ姉も、どちらかと言うと性善説側に立ってる人間で、初対面の人でも まず相手を信用することから始めるきらいがある。
…………おっと、『きらいがある』なんて言葉を自然に使うなんて、あたし知的じゃね? まぁ、ココネがたまに使うから覚えてるだけなんだけどさ。
っとと、危ない危ない。話が逸れるところだった。
あたしってほら、戦闘でもバリバリ前に出て素早く体を動かすタイプだから、じっくり腰を据えて難しいこと考えるのは苦手なんだけど、色んなことを同時に考えるのは得意なんだよね~~。
だから、すぐに話が逸れちゃうの。お話をしている最中にあたしが黙った時は、うっかり他のことを考え始めちゃって、今の話題に乗り遅れてる時なんだよー。スルーして~。
……………………すごいや。話が逸れてることに気が付いて修正したのに、修正した話がすでに明後日の方向に向いてたよ。さすがのあたしもびっくり仰天。
ココネに話しても『アホか』と言われるのが目に見えてるから、フォズちゃんに話して誉めてもらおう、そうしよう。
…………いや、そうじゃない。さすがに話を戻せ、あたし。
とにかく、ココネは呑気に『フォズの友達になってくれると嬉しいんだけど』とか言ってるし、フォズちゃんも可愛らしく『どんな子ですかねぇ……楽しみです』ってぽやってるし、マヤ姉は『用意するものはこれで全部。一応、相手の子達の分も用意しておこうかしら?』とお胸に比例したオカン力を遺憾無く発揮していた。
…………『オカン力』と『遺憾無く』…………意外とハマんなかった。あたしの不思議。
いや、だから話を逸らすな、あたし。
つまり、何が言いたいかと言うとだね? 人を疑うのは、あたしの役目だってことですよ。
だから、当日ってか今日の朝はちょっと小細工してみた。
ココネは集合時間に遅れないようにと考えて、30分は早くギルドに着くように目覚ましをセットし、前日は早めに全員が就寝した。
で、こういう時に限り、狙った時間で起きられるあたしが真っ先に覚醒して、すべての目覚まし時計の設定を解除してしまったのだ。
狙いとしては単純で、約束の時間ギリギリに到着したらどう反応するのか、それを見たいわけね。
そもそもとして向こうも来てないのは論外だけど、遅刻した訳でもないのに『遅い!!』と文句を付けてグチグチ引き摺るようであれば、地雷確定。
フォズちゃんには悪いけど、今後の付き合いはありません。
……………………それがまさか、そのまま二度寝して、ギリギリどころか超絶遅刻するとは思わなかったわー。
「フォズ!! マヤ姉さん!! 大丈夫!?」
「はひっ!! らいっ……じょうび、でふ!!」
「む……胸が、千切れ、る……」
「分かるわー。すごく分かるわー。見て分かるわー。…………ココネ押さえてあげたら?」
「こういうこと言いたくないけど、お前、ホント殴るよ!?」
あ、マズイ。これはココネの堪忍袋の緒が切れる寸前だわ。
しょっちゅう切ってるから、だんだん切れやすくなってるのかしらね~……
え? あたしのせいだろって? やだなぁ~。原因はあたしだろうけど、切ってるのはココネ自身なんだから、ココネのせいだよ♪
それにしても、盛大に寝過ごしたことを悟ったココネの反応は素早かった。
自分のベッドに戻るのが面倒になって、ココネの隣で完璧に寝入っていたあたしの頭に一発入れて叩き起こすと、すぐにあたしたちの部屋に移動。ちょっと乱暴にマヤ姉とフォズちゃんを揺り起こし、着替えさせた。
その間に荷物を纏めると、着替え終わったあたしたちの身嗜みを必要最低限 整えさせて飛び出す。
その間、約10分。
これ手腕には、あたしも感心せざるを得ない。
なお、そのせいでマヤ姉がブラを着け忘れたのが千切れかけている原因なんだけど、あたしとフォズちゃんはちゃんと着けているのだから、非はマヤ姉にある。うん。あたしのせいじゃない。
まぁ、フォズちゃんなら無くてもだいじょ…………あれ、おかしいな。また寒気が……か、風邪、だよね?
あたしたちが王都で借りている集合住宅から冒険者ギルドまで、普段通りに行けば約一時間。最短ルートで約50分。そこを走っていけば約30分。
その代償は、フォズちゃんとマヤ姉の体力だけど、もちっと体力を付けて欲しいから頑張ってもらおう。
…………違う。体力云々も確かにそうだけど、今言いたいのは、冒険者ギルドまで後ちょっと、ということだよ。
この最短ルートは、普段使用する大通りルートと違い、どちらかと言うと裏道を多用するルートだ。
狭くて曲がり角が多くて汚くて、若干治安が悪いので、なるべくなら使用したくない。特にフォズちゃんがいるときは。
くれぐれも一人の時には使用しないように言い聞かせておかないと。
…………いや、まぁ、走るのに必死すぎて、どこ走ってるかなんて分かってなさそうだけど。
そんな悪道を抜けると、冒険者ギルド近くの大通りに出る。
この辺は、冒険者ギルドの他にも重要な施設が並んでいるらしく、人通りが特に多い。
その中を縫うように先導していくのは、あたしの役目だ。
普段なら最速ルートで、他の三人のことを気にせず進んでいくところだけど、今それをしたらひとりふたり置き去りにしそうなので自重する。
無事にひとりも欠けること無く冒険者ギルドに駆け込み、真っ先に総合受付に向かうと、ぎょっとした様子のナタ姉が身を乗り出して声を掛けてきた。
「ちょ……!! アンタたち今来たの!? 6時でしょ、集合時間!!」
「分かってます!! 場所はどこですか!?」
「ま、待ちなさい!! ちょっと待って!!」
すでに長蛇となっている列を全抜きして対応してもらっているので、周りからの圧がヒドイ。
が、ココネはやきもきしているため気付いておらず、フォズちゃんとマヤ姉も、滝のような汗を流して床に直接座り込み、息を整えているので、こちらも気付いていない。
…………あたしも気付いていない振りをしておいた。
「あった!! 114!! 114だから、急ぎなさい!!」
「ありがとうございます!!」
「ほら行くよ、二人ともー」
「は、はひぃぃ……!!」
「……………………」
礼を行って駆け出すココネに続く前に、床に崩れていたふたりを立たせて、再び駆け出す。
大声でやり取りしていたせいもあって、暴走する馬車でも現れたかのように、人波は左右に割れて待合室へ続く一本道が出来ていた。
うん。『巻き込まれたくない』というのが主要因とはいえ、この連携はすごいよね。
そして、人の邪魔が入らなければ、多少先行していたとしても、ココネに追い付くのは容易いこと。
すぐに追い付いた。
「114、114~!!」
「あ、あそこだあそこ!!」
「は、ひ、は、ひ~~……」
「……………………」
あたしもみんなに合わせて慌てた風な声を上げつつ、『さてどう来るか』と冷静に相手の反応を見るため、意識を尖らせる。
そして……
「ごっめ~~ん!! 遅れちっいたああああぁぁーーーー!!!?」
「バカ野郎!! まずはちゃんと謝れ!!」
「も……!! 申し訳、はぁ!! ありま、ひぅ!! せん、ですた!!!! 」
「…………………………………………」
開扉と同時に、かっる~~いノリで謝罪すると、ついに例の袋の緒が切れたココネに思い切り後頭部を叩かれた。
『ぱこーーん!!』と良い音が鳴ったよ。ココネのヤツ、全く手加減しなかったな。
まぁ、いいや。それよりもお相手さんだよ。いったい、どんな子達なのやら…………
…………………………………………
まず、視界に飛び込んできたのは、大きさこそ違うが、まるで鏡に写ったかのようにそっくりなふたつの顔。
でも、そこに現れている表情は全く異なっていて、大きい方は目を真ん丸にして驚き100%といった感じ。小さい方は感情を見せない無表情。でも、なんとなくだけど、その無表情の下には、不機嫌が隠されていることが透けて見える。
でも、どちらも綺麗な金髪に透き通るような白い肌、深みのある黒瞳の、息を飲むような美しい女の子たちだった。
そして、次に気付くのは、その美しさに負けず劣らずのきらびやかなドレスのような衣装だった。
『私、これから舞踏会ですの』とか言われても納得しちゃいそう…………
とてもではないが、まるで冒険者には見えなかった。
『……………………これダウトだわ』
まだしっかりと話もしていないので、変わる可能性は十分にあるが…………あたしの第一印象は割と悪かった。
少なくとも、『周りにちやほやされてる我が儘小娘』の印象を裏付けるものしか無かったのだから。というか、そのイメージはむしろ悪化した。貴族のお嬢様だったりしないよね?
てゆーか、この子達、CランクはCランクでも、本当に魔獣と闘ったことあんの? お仲間のAランクに全部任せて、昇格ポイントだけ掠め取ってきた、なんちゃってCランクだったりしない? ナタ姉、ちゃんと経歴調べた?
こっそり二人の手を見てみるが、どちらも武器を振り回すような手には到底思えない。
まぁ、魔法メインの可能性もあるけど…………それでも、綺麗過ぎない? ねぇ?
と、観察すればするほど印象が悪くなる悪循環に陥っていると、
「…………………………………………」
ふらふらっとマヤ姉が部屋の中央の方へ足を進めた。
……………………??
なんだろ? この動きには、マヤ姉らしくない違和感があった。
『声を掛けるべきか、腕を掴んで引き寄せるべきか……』と、後から考えると、割とどうでもいいことに逡巡していると、
「……………………もう、ダメ」
小さく呟いて、顔面から床に倒れ伏した。
ギャグのような転倒だ。
「うわーーーー!!!? マヤ姉ぇ~~~~!!!!」
「うわ、ちょ、顔面から行ったぞ!!!? フォズ回復!! 回復!!」
思わずこちらも、ギャグのような悲鳴を上げてしまった。
ココネも、見たことないような表情でマヤ姉に手を伸ばすと、フォズちゃんに回復を指示する。
「…………………………………………」
しかし、こちらも珍しく反応がない。
つと、フォズちゃんに視線を向けると……………………扉の枠に体を寄り掛からせて、白眼を剥いていた。
口の端から魂が抜けている幻影すら見える…………
「フォズちゃんも逝ったーーーー!!!?」
「言うてる場合かーーーー!!!!」
「……………………オズ」
「仕方無いですね」
ウチの回復担当のメインとサブの両方が潰れるという事態に、とりあえず兄妹で抱き起こすものの、騒ぐしか出来ないでいると、例の二人が『やれやれ』といった雰囲気で近付いてくる。
そして、
「単純に全力で走ってきて、疲れているだけですよね? 回復させてもらっても良いですか?」
「え、あ、いや……」
「方法としては、基礎代謝を上げて自己回復力を上げる生命魔法になります。副作用は無いと思いますが、一応、分析魔法で状態を確認後、魔法を施しますので、危険は少ないです。後で治療代を請求したりもしません。
これで問題なければ、許可をお願いします」
大きい方がココネに話し掛けて、ココネが即答出来ないでいると小さい方が補足するように説明を追加した。
体力を使いきって倒れたような者に対しての治療法は、それこそ休むしかない。
自己回復力強化はそれを補助するのに適した魔法だけど、冒険者にとっては必須の魔法ではないので、回復を専門とする冒険者の中でも使えるのはほんの一部しかいない、マイナー魔法だ。
どちらかと言うと、疲労回復施設、マッサージ店や公衆浴場などで働く人が取得していることが多いと思う。
…………それを使えるの? この子たち? やっぱり、なんちゃって冒険者? あ、でも、貴族の線は大分薄れたかも。
「…………すまない。お願いしてもいいか?」
ココネは遅刻した負い目がある上で、さらに厄介になることに迷っていたけど、断ってこの状態が長く続くことの方が相手に迷惑になると考えたっぽい。
ちょっと悩むと、すぐに頷いた。
「任せてください」
「(こくっ)」
二人はココネが答えるまで、勝手に行動したりはしなかった。
怪我の類なら『状況が分かっていない』と言えるしゃく……しゃく……しゃくちぎょーぎ (※ 杓子定規です) な対応だけど、今は疲労しているだけ。
意識の無い相手に分析魔法を掛けると、普段なら無意識に見せないようにしている情報も簡単に読み取れてしまうので、こちらに配慮した対応と言える、かな。
そして、その後の行動は素早かった。
大きい方がマヤ姉、小さい方がフォズちゃんに分析魔法を発動し、瞬時に状態を読み取る。
「やっぱり疲労かな」
「ですね。どちらも、体質的な魔法への過剰反応も許否反応も無さそうです」
…………?
今の会話に違和感を覚えた。
一般的に分析魔法の精度は、対象に対する理解度の深さによって上がる。
例えば、前情報も無く初めてゴブリン種に会ったときは、種族も分からずステータスのみ。
何度か闘っていると種族の大分類 (ゴブリン種とか) が分かって、さらに闘っていると中分類 (ハイ・ゴブリンとか) や小分類 (ハイ・ゴブリンウォリアーとか) が分かってくる。
ここでさらに、分析魔法を特定の情報分析に特化した術式に改良し、そちら方面への理解を深めると、例えば思考パターンや癖なども分かったりもするらしい。
で、話を戻すけど、今 二人が軽く確認しあった『昏倒の原因は疲労で、特異な体質は無い』みたいな情報は、医者や治癒療法師などの治療の専門家が、高度な知識と特殊な分析魔法を使って初めて分かるもの…………のような気がするんだけど。
少なくとも、あたしは今のようなセリフを、医者以外から聞いたことがない。しょっちゅう怪我をしたりさせたりしてたあたしが言うんだから、間違いないね。
……………………何か覚え違いをしてるかな? マヤ姉が起きたら聞いてみよう。それまで覚えてたらだけど。
そして、大きい方がマヤ姉の胸元に、小さい方がフォズちゃんの額に手を当てると、ふんわりとした優しい光がそこから広がり、全身を覆ったと思うと体内に吸い込まれるように消えていく。
そこからは劇的だ。
血の気が引いて蒼白だった顔色が、みるみる血色を取り戻し、不安定だった呼吸も安定した深いものになる。なにより、苦しそうだった表情が安らかなものになったのが、印象的だった。
それが終わると、大きい方はついでとばかりにマヤ姉の額の傷を治癒し、どこからか取り出した柔らかなタオルで二人の汗を拭いてくれる。
その所作には、二人に対する気遣い以外の何物も感じられない。
…………………………………………えと。だ、第一印象が全てじゃないよね、うん。
…………………………………………そ、それでも完全に信用した訳じゃないんだからね!! 勘違いしないでよね!! でも、治療してくれてありがと!!
思わず、心の中でセルフツンデレしてると、まずマヤ姉が目を覚ました。
「う、う~ん……」
「マヤ姉さん、大丈夫か?」
「マヤ姉、ごめんね~。無理させちゃった」
「大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫……………………? フォズちゃん、声変わりでもした?」
「…………あんまり大丈夫そうじゃないですね」
「いや、冗談だよ…………多分」
そうかな? 意外に本気でフォズちゃんだと思ってるかもよ?
大きい方は…………そろそろいい加減、名前を聞きたいな。でも、聞くタイミングが無い…………まぁ、ともかく、大きい方が、マヤ姉の前に両手を突き出し、右で2本指を、左で3本指を立てると、
「では、体調確認です。コレ幾つ?」
……………………唐突にボケてきたな、この子。嫌いじゃないよ。
「それ、意味あるのか……?」
「え? え?」
「ほらほら。い~くつ?」
「……………………5」
まぁ、当然のこた
「残念、外れ~。答えは32」
「…………………………………………」
「…………………………………………そういうのは、普通足すものなんじゃないかしら?」
「私は『足すと幾つ?』とも『全部で幾つ?』とも聞いてませんよ?」
「そうだけど!! 確かにそうは言ってなかったけど!!」
…………………………………………目から鱗が落ちた。あたしもその内、絶対に使おう。
そんなことをしているうちにフォズちゃんも目覚める。
介抱しているのがあたしだけだと思っていたのか、見知らぬ女の子が目の前にいてビックリしていた。気持ちは分かる。
こちらも全員持ち直すことが出来たので、改めて挨拶とお礼、そして、ようやく自己紹介を始めた。
「えっと…………まずは、ありがとう。そして、遅れて申し訳ない。元凶は後でしっかり叱っておく」
「いえ。失敗は誰にだってありますし、遅れたからといって特に問題にもなってませんから、気にしてま……………………いや、ちょっとだけ我が儘に付き合ってくれたら許しますよ」
「あ、あぁ……お手柔らかに頼むよ……」
?? なんだろ。
「その前に、自己紹介をしておきませんか? 実は、先程から話し掛けづらくて、微妙に困ってたんです」
「そ、そうだな。申し訳ない。僕はココネ・バーミキュラ。こっちの赤毛でバカっぽくて、真実バカなのが妹のサリー。今回の遅刻の原因で問題児だ。迷惑を掛けたら言って欲しい」
「おいこら」
「それと、マヤ・フォンディーネ、フォズ・アスラエル。今回は見苦しいところを見せてしまったが、体力面以外はとても頼りになる。その内、汚名を返上してくれるだろう」
「うぅ……」
「ホントにそれ。なんとかしたいわね」
ココネのあんまりな紹介に文句を言いたいところだけど、それ以上にフォズちゃんたちが凹んでいるので我慢我慢。でも、後で覚えてろ。
次は 向こう。
「私は、ルーシア・ケイプ。で、こっちは妹のオズリア。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
大きい方…………ルーシアの紹介が終わると、『ぺこっ』とお辞儀する小さい方のオズリア。
……………………ルーシーとオズィかな。
で、気になることは早めに終わらせたいお年頃。あたしから、我が儘について詳細を聞くことにする。
「で、ルーシーにオズィ。ちょっとした我がま」
「却下です」
「ん?」
なんだかよく分からないタイミングで、オズィにセリフを止められた。
「今なんて?」
「『却下です』と言いました」
「んん?? なにが?」
「いや、こら、サリー…………初対面の相手に、了承なしで愛称を使うなよ」
「えぇ~~? そんなことぉ……?」
いや、確かに定着してから修正させるのは面倒なのは分かるけど、そんな取り付く島もないくらいバッサリ否定しなくてもいいじゃん。
…………やっぱり、我が儘……は言い過ぎだけど、気難しい子なのかね~…………
「む~……」
「えっと、オズ? 愛称くらいいいんじゃない?」
「いえ。愛称も略称も、基本的には好きに呼んでもらって構いません。ただ、その愛称は却下して欲しいだけです」
「その愛称って、『オズィ』?」
「はい」
ルーシーが『オズィ』の名で呼ぶと、目に見えて不機嫌そうになった。意味分かんない。
「なぁに~? じゃあ、ちゃん付けしてあげようか? 『オズィちゃ」
「な・お・わ・る・い・で・す!!!!」
「うわ!!」
今度はしっかり怒られた。なんだなんだ?
周りを見てみると、分かってないのはあたしだけじゃなさそうなのは一安心。でも、それのせいで、怒ってる原因を教えてくれる人がいない。
『どうしたもんか』と思っていると、ルーシーがオズィの頭を撫で、
「オズ? 理由を言わないと、素直に納得はしてくれないよ?」
「…………まぁ、そうです、よね……」
と、渋々と言った様子で話し始める。
「「「「「……………………」」」」」
思わず、全員で黙って続きを待ってしまった。
「こ、こほん……」
オズィは、注目を集めてしまっていることに気付いて、ほんのり頬を赤く染め、軽く咳払いする。
「…………だって、『オズィ』なんて、音だけ聞くと、まんま『男性のお年寄り』みたいじゃないですか……『ちゃん』なんて付けたら、さらに…………」
「「「「「……………………」」」」」
『オズィちゃん』…………『オジィちゃん』…………『おじいちゃん』……………………その発想はなかった。
周りを見ると、『言われてみれば確かに……』といった心情がありありと現れている。
オズィは『逆に意識させてしまった』と、さらに赤くなっていた。
オズィ……オズィ…………オズィ~~ちゃ~~ん♡
「ふひっ」
やべ。ツボッた。
「ふひっ!! ひはっ!! あっははははははははははははははははは!!!!」
『最近のあたし、沸点低過ぎるなぁ』と関係ないこと考えながらも、込み上げる衝動は口から溢れて止まらない。
ついでに、思いっきりオズィの方を指差してた。
「ちょ、おま……!!!!」
「サ、サリーちゃん!? ダメだってば!!」
「コ、ココちゃん!? どうする!? どうしよう!?」
「…………………………………………お姉ちゃん」
「何が言いたいか分かるけど、抑えてねぇ~」
オズィが、視線だけで人を殺せそうな表情で棍棒を取り出すのを、ルーシーが手首を掴んで止めていた。
その間も……
「あっはははははははは!!!! ひっ……ふひはははははははははは!!」
爆笑が止まらないあたしでした。
全力疾走して倒れた場合、顔面って蒼白になるんですかね?
いや、原因によるんでしょうけど、『蒼白になるけど、特に問題ない』っていう原因はあるのだろうか……?
まぁ、調べても分からなかったから、アニメとかの表現をイメージして蒼白にしちゃいましたけど。




