第183話 ゴーレム娘、再評価クエストを受ける
168 ~ 220話を連投中。
11/1(日) 10:20 ~ 23:20くらいまで。(前回実績:1話/6.5分で計算)
一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。
word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿。
申し訳ありません。
ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。
さて、ヒトコを再稼働してから三日後。
義姉さんのアクセスキー作成や、テモテカールに戻ったついでにギルド飯店でバイトしたりしてから、王都へ戻ってきた。
今、私たちの正面には『王都冒険者ギルド 南支部』の建物がデデーンと高くそびえ立っている。
王都は土地面積も広く、それに比例して人口も多いため、ギルドも数箇所に分かれているのだ。
そして、その支部ですらテモテカールの冒険者ギルドと比べて、遥かに大きい。
『王都の建築物は三 ~ 五階建てが主流』という話を以前したが、冒険者ギルドの周辺は王都の中でも やはり一等地に当たるのか、それよりも背の高い立派な建物が多く並んでいた。
だが、それら建物群の中にあっても冒険者ギルドは頭ひとつ飛び抜けているのだ。
その階数は、驚異の八階建て。そんな高さが必要なのかと疑問せずにはいられない。
登るだけで一苦労やないけ……
一応、各階層の面積は、テモテカール冒険者ギルドとほぼ同等か少し広いくらいなのだが、それでも単純計算で約四倍の広さがあるのだ。
その巨大さによるインパクトは、推して知るべし、である。
当然、内部にいる人間の数も圧倒的で、ピーク時にはバカみたいに大きな出入口から冗談のような人波が、寄せては返してを繰り返す状態になる。…………そんな時間帯に近付きたくないな。
一応 フォローしておくと、中に入ってしまえば上下に人数は分散するので、各階層の人口密度は出入口ほどではない。出入口が狭いせいで、そこだけ混雑しているとも言える。
ちなみに、それぞれの階における主な役割は、こんな感じである。
1階:依頼受付、総合受付。
2階:雑貨屋、食事処。
3階:Gランク受付。
4階:Fランク受付。
5階:Eランク受付。
6階:Dランク受付。
7階:B、Cランク受付。
8階:S、Aランク受付。
1階は、主に依頼人からクエストの依頼を受ける依頼受付と、冒険者登録や初めて訪れた人の案内などをまとめて行っている総合受付がある。
2階は、テモテカール冒険者ギルドにもあった雑貨屋と、ギルド飯店に相当する食事処。
3 ~ 8階は、各ランクのクエストが貼られた掲示板と、受注受付や完了受付など。高ランクのクエストは絶対数が少ないため、SとAランク、BとCランクは一階層にまとまっているらしい。
その他、ギルド員の作業室や訓練室、資料室などは、各階に適当に割り当てられている。
で、だ。
Cランク 及び Aランクの私たちなので、向かうのは7階と8階か、というとそうではない。
覚えているだろうか?
初めて または 期間が空いた地域でクエストを受ける際は、『再評価クエスト』を受けなければならない、ということを……
そして、再評価クエストの受注は、各階の受付ではなく、1階の総合受付で事前に申し込みをする形になる。
テモテカールでは、再評価クエストに該当する依頼には専用の印が付いていて、その中から自分で選んで受注する形式になっていた、らしい。
王都でも同じかと思っていたのだが、ここでは申し込みするとギルド側で適切なクエストを見繕ってくれる、とのこと。
実は、初日に門番さんに直接依頼された『スリの囮クエスト』が終わった後、手続きをするために冒険者ギルドに訪れた際に、再評価クエストの申し込みだけ済ませておいたのだ。
そして、その時に『え……? パーティメンバー三人だけですか? しかも、AとCってことは、実質一人と二人じゃないですか!!』と、人数が少ないことを理由に、協力者も募ることになってしまった。
…………いや、ごめん、嘘。協力者は大体の場合、募ります。
ただ、人数が少ないせいで、『ちょっと厳選しますので、三日後に来てください』と言われてしまっただけで。
ヒトコやテモテカールでのんびりとしていたのは、主にこれのためである。
そして、現在。
時間帯としては比較的早い時間であるはずだが、すでに総合受付の前には数人の列が出来てしまっていた。
これは『さすが、王都』と言うべきか…………いや、私たちにとっては面倒なだけなんだけど。
オズを挟んで三人で列に並ぶ。いつのも人見知り発動中である。
「こんな朝早くだっていうのに、たくさんいるよね、人」
「ですねぇ……」
「ルーシア、知ってる? 私たちもその『たくさんの人』の一部なのよ?」
「知ってる」
適当な会話で時間を潰しながら順番待ちをしていると、思ったよりも早く順番が回ってくる。
義姉さんが代表して話し掛けた。
「おはようございます。先日、再評価クエストを申し込んだ者です。こちら、申込番号になります」
「おはようございます。再評価クエストですね。……………………はい、確認しました。協力者の方へ伝えられた集合時間はそろそろですので、待合室114と115でお待ちください」
「分かりました。ありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
「どういたしまして」
雑ではなく簡潔に、相手が不快に思わない程度の愛想と素早い並列作業。
『優秀なギルド員のようだ……』と、上から目線で思ってみる。
実際にどうなのかは不明。
次の人の迷惑にならないように、私たちも早速移動する。
待合室114と115は、一階の奥まったところにある多目的室のことだ。
今回のような冒険者同士の待ち合わせの他に、打ち合わせやギルド員との相談など、様々な目的で利用される。
…………当然だけど、『114』の意味は『1階の14番目』という意味なので勘違いしないように。
私ですか? 勘違いしてましたよこの話題は終わりにしましょう。
人混みを抜けて待合室が並ぶフロアに来たので、義姉さんとは待合室前で別れる…………ことにはならず、私たちの114室に着いてきた。
『一人だと寂しいじゃない』とのこと。
まぁ、扉を開けておけば、115室へ行く協力者さんを見落とす心配も無いし、構わないだろう。
待合室は、中央に小さな机とイスが四脚置かれている小さな部屋だった。
部屋の端には予備のイスが数脚 重ねられている。足りなければ、ここから追加すればいいのだろう。
「さってと、じゃぁ、協力者さんたちが来るまで、ゆっくりしてましょうか」
「そうですね」
「私はちょっとお腹空いた……ご飯ご飯」
と言って、[アイテムボックス]から料理を取り出す。
色々な炊き込みご飯で作った四種おにぎりである。
この前のタケノコご飯で、私の中に炊き込みご飯ブームが来ているのです。
水魔法で手を洗って、早速一口頬張った。
「うん、美味しい」
「それは良かったです」
「ゆっくり食べなさいね。…………それにしても、日の出前までテモテカールにいたとは思えないわよね、やっぱり」
義姉さんは信じられないように窓から外を見るが、その向こうには王都の景色が広がっているだけである。
実は、ギルド飯店のバイトが昨夜にあったため、テモテカールで一泊してから急いで王都まで走ってきたのだ。
具体的には、テモテカールの開門と同時に街を出てヒトコに空間転移し、そこでケンタウルス型に換装して、全力疾走で王都まで駆け抜けた。
さすがに息が上がったので、隠れて汗を流して休憩し、何食わぬ顔をして王都外門を潜ったのは、テモテカールを出発してから、約二時間後のことだ。
一般的にテモテカール ~ 王都間を馬で移動する際に掛かる日数は、五日間である…………義姉さんの感想は尤もだった。
『慣れて』としか言い様はないが。
この中では最も朝が遅い義姉さんが、眠たそうにしているのを横目に、二つ目のおにぎりに手を伸ばす。
二つ目は、きのこと鳥肉おにぎりだ。
「おにぎり…………美味しいけど、手がベタつくのが難点だよね」
「それは……ふぁぁ~…………仕方ないんじゃない?」
「レシピ通りに作れるなら、海苔という海産物を乾燥させたものを巻くことで、ベタつかずに食べられるのですが……」
「海産物か…………入手が難しそうだよね」
「この国、内陸国よ。他に代用品は無いの?」
「一応、『胡麻をまぶす』という方法もあるんですけど…………売ってる所を見たこと無いので、錬金術師ギルドで種を注文中です」
「ただ、成功率はあんまり高くないんだよね……錬金術師ギルドの共同購入。前に頼んだ、チョコもカカオも見付けられなくてギブアップされたし」
「マイナー過ぎるんでしょ……というか、錬金術師ギルドは農業ギルドじゃないのよ?」
それは知ってるけど、農業ギルドに共同購入みたいなシステム無いんだもん。
その後、テモテカール錬金術師ギルドの受付嬢、モニトロさんと義姉さんが友達だったことを思い出し、彼女をネタにして盛り上がっていると、然程 時間を置かずに義姉さんの協力者が現れ、簡単に打合せをして、義姉さんはクエストに出発した。
義姉さんのクエストは『キング・ゴブリンの群の討伐』らしい。
私たちのクエストも『ゴブリンの群の討伐』らしいので、王都の再評価クエストはゴブリンの群が対象となることが多いのかもしれない。
ちなみに、協力者はBランクの五人パーティで、義姉さん相手に終始 緊張気味だった。
義姉さんがAランクだからか?
まぁ、本人はそんなことよりも、私たちの協力者を確認できなかったことの方が気掛かりだったようだけど、最後まで現れなかったので仕方ない。
『何かあったら、コレ使うのよ!!』と、そういえば着けていたことを忘れかけていた非常時連絡用魔道具であるブレスレットを叩いていったが、果たして義姉さんに連絡が行ったところで、間に合うんだろうか……?
まぁ、それは義姉さんがギルド員やってた時も思ったことではあるが。
そして、義姉さんたちが出発してから、早30分。未だに私たちの協力者は、姿を現していなかった。
約束の時間は、とうに過ぎている。
「……………………遅い」
「ですね」
『…………………………………………』
『ナツナツ、落ち着け。【バッドラック】を掛けるなら、クエストが終わってからだ』
遅刻したくらいで、そんなことしなくても良いのよ~?
なお、義姉さんがいるときにナツナツとナビが口を挟んでこなかったのは、念話が義姉さんに通じないからだ。
オズが未だ方法を模索中だけど、果たして都合の良い意思疎通手段はあるのだろうか?
ちなみに、義姉さんに念話ができるようになる方法もあるらしいが、『人体改造が必要ですけど…………ホントにやります?』とのことで、故に悩んでいるところである。
……………………いや、『人体改造をする or しない』ではなく、『念話以外の意思疎通手段を』ね。
と、そろそろ私たちが冒険者ギルドに着いてから一時間になろうかというところで、廊下の方からドタバタとやかましい足音と『114、114~!!』『あ、あそこあそこ!!』『は、ひ、は、ひ~~……』『……………………』という大声が聞こえてきた。
目的の場所がここのようだから、まぁ、ようやく到着した協力者なのだろう。
オズと軽く視線を合わせると、一応、席を立って出迎える。私たちが向こうにお願いしている形になるのだし。
時間を確認すれば、約30分の遅刻。まぁ、許容範囲か。
ナツナツは『ムスッ』とした表情で、オズの元へ。
彼らが姿を現す前に、ナツナツを落ち着かせるように一撫でしてやり、開きっぱなしの扉へ視線を戻す。
そして…………
「ごっめ~~ん!! 遅れちっいたああああぁぁーーーー!!!?」
「バカ野郎!! まずはちゃんと謝れ!!」
「も……!! 申し訳、はぁ!! ありま、ひぅ!! せん、ですた!!!! 」
「…………………………………………」
まず、赤毛のポニーテールで胸の大きな元気っ娘が、右手を高々と掲げながら、まっっっったく悪びれた様子もなく謝罪すると、すぐに現れたやはり赤毛で短髪の、恐らく普段は落ち着いた雰囲気を纏う好青年と思われる男性が、力一杯 元気っ娘のドタマ叩き落とし、少し遅れてやって来た薄桃色のショートヘアで小柄な女の子が、息も絶え絶えに謝罪しながら、何度も頭を下げた。
そして、最後に翡翠色のロングヘアで巨乳の女性が黙って部屋の中へやって来ると……
「……………………もう、ダメ」
蒼い顔のまま、顔面から倒れ込んだのだった。
「うわーーーー!!!? マヤ姉ぇ~~~~!!!!」
「うわ、ちょ、顔面から行ったぞ!!!? フォズ回復!! 回復!!」
「…………………………………………」
「フォズちゃんも逝ったーーーー!!!?」
「言うてる場合かーーーー!!!!」
気付いたら、桃髪の子も扉の枠に体を寄り掛からせて、白目を剥いている。
とても辛そうだ。
「……………………オズ」
「仕方無いですね」
協力者との最初の邂逅は、とりあえず治療から始まった。




