第179話 空間転移ジャンクション No.1105、通称『ヒトコ』
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空間転移ジャンクション No.1105、通称『ヒトコ』。
その第一印象を一言で表すのならば、私はこう言うだろう。
『ちっちゃい』。そして、『シンプル』。
『二言で表してしまっているじゃないか……』
…………二言で表すのならば、私はこう言うだろう。
『ちっちゃい』。そして、『シンプル』。
『ナビ、ダメだよ~。わざわざツッコんじゃ~』
『そうだな』
……………………ま、まぁ、とにかく、これまで訪れた二施設と比べて、ヒトコはそんな印象の施設だった。
空間転移施設は、登山前にオズが説明していたように、かつての文明における流通の要だった。
そういった場所は大抵の場合、大きく発展する。
物と人が集まれば、快適さを求めて設備やサービスが整い、そうして整った環境を目当てにさらに人が集まる、という好循環が生まれるからだ。
現在で言えば現王都がいい例で、あそこは元々 東西南北の流通の中心にあったために大きく発展した街だ。
物資、人材、さらに情報の一極集中を狙って、たしか500年位前に遷都して、今もなお上へ上へと発展を続けている。
いや、『いい加減、横にも広がりなさいよ』とは、昨日一日の滞在だけでも思ったけども。
まぁ、私の感想は良いとして、天人の遺産である空間転移施設もこの傾向はあるらしく、流通の一通過点であるならば、設備としては中央の空間転移ホールのみで良いはずだが、その周囲に同心円状に貸店舗群が併設されているのは、まさしく施設利用者をターゲットにした商業施設が入居していた名残である。
…………まぁ、今はオズの屋内農園と化しているのだが。
この理屈で言えば、ヒトコも似たような構造をしていて然るべきなのだが、ここはまったく違っていた。
まず、周囲の貸店舗群。
ガア・ティークルでは三重円で二階建て。レイミーは二重円で、階数は同じく二階建て。
ヒトコは、まずこれが無い。全面ガラス張りで、屋外から一階内部の様子が見て取れるが、そこから見える白い壁は空間転移ホールの壁だろう。二階部分にはあるようだが……それでも、前二施設よりかは、圧倒的に少ない。
次に、その空間転移ホール。
ガア・ティークルでは、一階だけでは足りずに天を衝くような尖塔となっていた。レイミーも似たようなものだったが、尖塔の高さはぐっと短く、周囲の建物に埋もれるようになっているものの、それでも六階相当の高さは有していた。
では、ヒトコはどうなのかというと、まず、塔は無かった。ということは、空間転移ホールの容量としては二階分しかないということで、空間転移施設の転移能力としてはレイミーの半分もない、ということになる。
他、建物の材質は前二施設と同じく、目の覚めるような白の構造物っぽいのだが、正直 今の文明でも、見た目だけなら似たような建物が作れるんじゃないかと思えてしまうような、なんとも迫力に欠ける施設だった。
これをまぁ、二言で言えば、『ちっちゃい』、そして、『シンプル』である。
「ちょっと拍子抜けかな……」
「だよね~。『ちっちゃい』」
「そして、『シンプル』、と」
「…………………………………………」
ナツナツとナビが、私のセリフをまんま流用して答えるのはイジワルかな?
「そう? 十分以上に大きい気がするけど…………まぁ、私はわくわくしてるわよ? それに、小さい分『ぎゅっ』と驚きが詰まってるかもだし」
義姉さんは、私の感想とは正反対に楽しそうである。
でも、食べ物なら小さいほど味が『ぎゅっ』としてる可能性もあるけど、建物でそれはないのでは?
わざわざ水を差すようなこと言わないけど。
「えぇっと…………」
そんな両極端であるものの、予想しやすい反応をしている私たちを、オズは戸惑った様子で見て言葉を詰まらせていた。
…………いや、戸惑った様子ではないか。どう説明しようか悩んでいる様子、かな?
オズのそんな様子に気を取られていると、義姉さんたちも気付いて三つの視線が集まる。
そんなつもりはなかったが、視線に急かされるようにオズは言葉を並べ始めた。
「あ、いや…………ですね。どちらの意見も大体当たりと言いますか、小さくはないと言いますか、でも『ぎゅっ』とはしてないと言いますか…………」
「ん? どゆこと?」
「まぁ、他の空間転移施設と比べればちっちゃいけど、これ単体で見れば大きいよね~」
「だが、王都の建物と比較すると見劣りするな。テモテカールなら…………いや、あの街でも二階建てはたくさんあるな。三階建ての建物は少ないんだが」
「これから発展していけば増えるわよ、きっと」
「いや、えっと、その…………」
思い思いに自分の解釈を述べる私たちに、オズはオロオロと困った様子でしどろもどろになり……
「…………まぁ、見てもらえばいいですよね、うん」
説明するのを諦めた。
うん。これは、私たちの悪い影響な気がするな。
でも、ちょっと諦念の入った表情も可愛いからOK。
諦めた表情のまま、入口へと先導するオズに付いて進むことにする。
ヒトコの周囲には、これまでと違い四方に延びる石畳の道はなく、背の低い草を踏み分けながら近付くことになった。とはいえ、山道に比べれば、大した苦労はない。
数分で入口に到着した。
その場で建物の天辺、つまり、屋上を見上げる。…………あれ? 意外に二階って……高い?
「なんか、高くな~い~?」
「む……? 確かに。王都の建物に匹敵してないか?」
「みんな勘違いしてそうなので補足しておきますが、ガア・ティークル、レイミー、ヒトコ、それぞれの一階層当たりの高さは、結構バラバラですよ。
なので、単純に階数で比較すると、実際の大きさと齟齬が生じて混乱すると思います。
具体的に言うと、ガア・ティークルは一階層当たり5m、レイミーは7m、ヒトコは10mです。
ちなみに、現在の文明における一階層当たりの高さは、大体4mですね」
「実質 五階建て!?」
「無駄に高いな!!」
いや、無駄かどうかは、どう利用しているかによる。ここでこの判断を下すのは、早計というものだ。
…………まぁ、十中八九、『無駄』評価を付ける気がするが。10mもの空間を何に利用するというのか……
そんな疑問を解消しつつ、オズは義姉さんを連れて扉の脇に立ち、例の模様の前で認証を始めた。
「あれ? 認証って一人ずつやるんじゃないの?」
「え? そうなの? 私、離れた方がいい?」
「いえ、大丈夫です。アクセスキー所有者の認証は、お姉ちゃんが言った通り一人ずつですが、アクセスキー非所有者が内部に入るには、認証した者と同時に審査を受け、立入許可を得る必要があるのです。
お義姉さまはアクセスキー非所有者ですので、私と一緒に受けてください」
「なるほど」
「よろしくね、オ~ズ♡」
「はい」
オズにお願いする流れで、背後から抱えるように抱き着く義姉さん。
それをいつもの流れでスルーして、オズが模様に手を伸ばした。
ちなみに、ナツナツは認証の邪魔にならないように、私の肩に場所を移している。
どのくらい掛かるか分からないので、近くにあった岩場に腰掛けた。
「……………………」
「うひぇ!? なになになに!? 誰!? どこ!?」
「お義姉さま、落ち着いてください。施設からの案内音声です」
「録音ってことか。なるほど、初めて聞いた」
「録音というか、合成音声ですね」
「さらに上だった!!」
「映像も作れますよ。休止モード中は無理ですが」
「へ~、すごい!!」
…………そういえば、音や映像を記録する魔道具は、高価だけど一応あるが、ゼロから作る 又は 記録したものを加工する魔道具は聞いたことがない。
縁がないから知らないだけかもしれないけど。
ちなみに、スキルを取得した時などに脳内に流れるシステムボイスは、基本的に自分の声なので、声色も内容も人それぞれだったりする。
私は習得できないから確認した訳じゃないけど、汎用スキルでも同様の音声は流れるらしい。
…………よくよく考えると、これもすごい技術だよね?
「あ、そろそろ定型句が終わるので『し~』でお願いします」
「うわ、今の『し~』って可愛い!!」
「認証開始」
「無視!?」
……………………静かに……いや、『し~』って言ってるんだから、せめて黙ろうよ、義姉さん。可愛いけどさ。
斜め後ろから見ている私からは、オズの表情は見えないが、恐らく羞恥で赤くなっていることだろう。
そんなオズの背後から抱き着いたままの義姉さんは楽しそうにしている。私も混ざりたい。
とはいえ、認証を邪魔するわけにもいかないので、代わりにナツナツを愛でることにする。
「お? なになに~? 寂しくなったの~?」
「いや、別に」
「む」
「ごめん ごめん。ホントは寂しくなったからだから逃げないで」
「も~、ルーシアナはさみしんぼさんなんだから~♡」
拗ねたフリをしたナツナツが、腕から抜け出すのを、慌てて本音を告げることで回避する。
ナツナツは、にやにやした表情で私の腕の中に舞い戻ると、両手で私の右手を取って頬擦りした。
どっちが さみしんぼ なんだか。
オズたちの方は、案内音声がこちらに聞こえてこないので若干意味不明なところもあるが、オズの声を聞いている分には順調に手続きが進んでいるように思える。
「はい…………臨時立入許可を申請…………はい…………はい…………スキャン開始……………………いいえ…………名称修正『セレス・グランディア』…………はい…………はい…………いいえ…………監視用デバイス利用…………ドローン型…………はい…………はい…………」
「…………………………………………」
ちなみに義姉さんは、半分 硬直している。
あれは、オズが何をしているのかよく分からないから、下手に動くことが出来ないんだな。私もたまになる。
時間にして数分ほど、口頭と直接操作で入力を終えると、3m程の高さにある壁の一部が融け落ち、そこから何かが飛び出してきた。
それは緩い弧を描いてUターンしてくると、義姉さんの頭上で停止する。
見た目は、オズが魔法の補助に使用するデバイスによく似ていた。というか、多分 外身は同じものだろう。
「終わりました。お義姉さまに説明しておくので、お姉ちゃんも認証を済ませておいてください」
「了解」
場所を空けるオズたちと入れ替わるように、私も模様の前に移動する。
そして、いつもの定型句を聞き流しながら、オズと義姉さんの話に意識を向けた。
「ねぇ、オズ。これ、なに?」
「お義姉さまの監視用デバイスです。
お義姉さまはアクセスキーを所有していないので、ヒトコへの立入権限を恒久的に付与することが出来ません。なので、臨時立入許可を申請して、条件付きで立入権限を付与させている状態になります。
その条件というのが、このドローン型監視用デバイスを同行させることになります」
「ふーん……まぁ、名前の通り、お目付け役ってことね」
義姉さんはそう言って頭上のデバイスに手を伸ばすが、デバイスは高度を上げて距離を取ってしまう。
手を下ろすと、同じだけ高度を下げて、一定の高さで停止した。
「むぅ……」
「監視用デバイスは、最悪を想定して『破壊』『逃走』などされないように、常に安全圏から監視を行いますからね。
まぁ、お義姉さまが本気を出せば、それらを実行可能だとは思いますが、色々面倒なことになるので止めてくださいね」
「は~い」
「……………………止めてくださいね?」
「あれ!? お姉ちゃん信用ない!?」
「なお、お義姉さまが現状 立入可能な範囲は、管理レベル1区画のみになります。ギルドで言うところの、冒険者が自由に立ち入れる場所に当たりますかね。
レベル2は、訓練室や打合室などの、冒険者が利用するのに申請などが必要な場所。
レベル3は、ギルド飯店の厨房などの、部外者へ貸し出している場所。
レベル4は、ギルド員の仕事部屋などの、ギルド員専用の場所。
レベル5は、機密書類保管室などの、ギルド員ですらも立入に許可が必要な場所です」
「オズーーーー!! こっち見てーーーー!?」
「普通に移動する分には、立入禁止場所の近くに来たら警告してくれますので、うっかり立ち入ることはないはずです。
レベル2以上の場所に立ち入る際は、私がその都度 立入申請すれば大丈夫です。逆に言うと、申請しないと立ち入れないので、ナツナツと一緒にフードコート辺りで待っててくれると助かります」
「視線だけじゃなくて、心もこっち見て!? ねぇ!?」
「……………………真実はいつも、辛く、厳しいものですよ?」
「うわーーーーーーーーん!!!!!!!!」
……………………なにやってんだか。
でも、レイミーの中を案内するときは、そういうことしてなかったと思うんだけど…………休止モード時 限定なのかな?
『そうらしいな。稼働中はアクセスキー所有者が同伴することで、申請と監視を兼ねるとかなんとか。あぁ、権限レベルは4以上じゃないとダメらしいが。要するに、施設の職員だな』
『それにレイミーの時は、管理レベルの高い方から低い方に案内してたしね~。まぁ、大体の場所がレベル1の場所だったのもあるけど』
『なるほど』
……………………ナツナツとナビは、いつその話を聞いたんだろうか……?
それはともかく、私の方の認証はすぐに終わる。
分析魔法を掛けられる違和感をちょっと我慢して振り返ると、オズの腕を振って騒ぐ義姉さんと、それをのらりくらりと聞き流して遊ぶオズに声を掛けた。
「終わったよー」
「では、そろそろ入りましょうか」
「やーーだーー!! 私も着いて行ーーきーーたーーいーー!!」
「子供か」
「子供かな~」
まぁ、義姉さんもふざけているだけだろうから、放置でOK。
融け落ちたガラス扉からヒトコ内部に入ると、不思議なことに内部の第一印象は圧倒的な『開放感』だった。
オズの話では、一階層の高さは約10m。さらに、レイミーと同様に一階と二階が吹き抜けで繋がっているので、合計で20m。
加えて屋根も壁もガラス製で、空も屋外も自由に見渡せるので、建物内にいる感覚が全くないのだ。
屋外の風も少なかったことが、殊更に屋外と同じように感じさせるのかもしれない。
「外から見ても広そうだったけど、中に入るとより一層 そう感じるわねぇ~。こんなに天井を高くして、何かメリットでもあったのかしら?」
義姉さんも同じように感じるらしい。
額に手を当てて、仰ぎ見るように天井を見上げていた。
「メリットは『開放感がある』くらいしか無いと思いますけど、ヒトコの本体が、ともすれば圧迫感と閉塞感に押し潰されそうな環境にありますので、必要以上に広くしたのかもしれませんね。構造上、スペースは余るくらいだったでしょうし」
「ふ~ん……………………ん?」
何か違和感があった。
『ヒトコの本体』というのは、恐らく正面に見えている空間転移ホールのことだと思うのだが、ガア・ティークルもレイミーも透明な壁に仕切られた小部屋で構成されており、『圧迫感』も『閉塞感』も無縁の場所だった。
まぁ、聴覚的には圧迫感はあったが…………オズの言いたいことは、それではないような気がしたのだ。
「ねぇ、オズ?」
「はい、なんでしょう?」
「『ヒトコの本体』って、どこのこと?」
「……………………」
私の問いに、しばし顎に指を当てて首を傾げた後、
「まぁ…………そうですね。やっぱり、見てもらうのが早いですよね」
「「「「?」」」」
オズ以外の全員が疑問符を浮かべる中、『こちらです』と ひとこと言って歩き出すオズ。
私たちはそれに黙って従う。
その歩みは、真っ直ぐに空間転移ホールへと向かっていた。
そして、ふと気付く。
「あれ? 机が無いね」
「あ、言われてみれば~」
「というか、この一階のスペース意味あるのか? 円状に広い通路があるだけではないか。イスは多いが」
「どゆこと?」
空間転移施設へ訪れるのが、まだ二度目の義姉さんには、何が共通してて、何が特殊なのか分からないのだろう。
疑問符を増やして私に視線で説明を促す。
…………まぁ、私も二つしか知らないで、偉そうなことは言えないが。
「他の施設だとね、空間転移ホールに続く大扉の近くに、受付台みたいな机があったのよ」
「……………………言われてみれば、レイミーにあったかも……?」
「あったよ~」
「それで、空間転移施設を再稼働するための場所に続く通路が、その後ろにあったんだよね。だから、今回も同じなんだろうと思ってたんだけど、『机 無いなぁ』って思って」
「ふ~ん…………でも、天人の遺跡って『壁のように見えて、実は扉』みたいなの多いんでしょ? さっきオズに聞いたけど。ルーシアナの言ってるそれも、同じように適当な壁が開くんじゃないの?」
「まぁ、サンプルが二つしかないからな。あれらが特殊だった可能性もないとは言えん」
私たちが話している間も、オズは黙って歩を進める。
ただ、その間も『やっぱり説明しようか、いや見せた方が……』みたいな逡巡が、背中から滲み出ていたように感じた。
…………そんなに説明の難しい話なのだろうか?
そして、ついに辿り着いたのは…………まぁ、やっぱり空間転移ホールへ続く扉の前だった。
ここの扉は、前二施設と違って小さい。高さは2m位だから、人が通ることしか想定していないように見える。
ちなみに、前二施設の扉は、物資の搬出も行うからあんなに大きいらしいよ。
扉の前で立ち止まったオズは、それを開くことなく『くるり』と反転してこちらに向き直る。
よほど早く説明したかったのか、チェック柄のリボンに束ねられた金髪とヒトコの白さに負けない純白のロングスカートが、遠心力で綺麗に広がった。
そして、『コンコン』と背後の扉を叩いて、『見た方が早い』説明をついに始める。
「まず初めに勘違いの訂正をさせていただきますが……」
「うん?」
「勘違い~?」
なんだろう?
「この扉の向こうにあるのは、空間転移ホールではありません」
「ん?」
「え?」
「は?」
「ゆ?」
いや、なんだ義姉さん。『ゆ?』って。
……………………いやいや、それは別にどうでもいい。
中央にあるのが空間転移ホールではない? なら、この施設に空間転移してくると、どこに現れるの?
「あ、もしかして、この一階の全てが空間転移ホールだとか!?」
「いやいやいやいや。それは無いだろう。『転移先の環境を厳密に制御することで、術式調整を最小限に抑える』というのが、空間転移システムのキモだったはずだ」
「それに、不特定多数の人間が自由に動いたら、転移してきた人間と座標が重なっちゃって酷いことになるよ~?」
「ん? え~と………… ん?」
私の思い付きは、ナビゲーターコンビに瞬殺される。
そして、その辺の詳しい原理を知らない義姉さんは、付いていけずにフリーズしていた。
「そうですね。ナビたちの言う通り一階部分は、言ってみれば『待合エリア』みたいなもので、低高度飛翔デバイス利用者や屋外の景色を楽しむ人、またはそれらの人を相手にお土産や飲食物を提供する簡易店舗などが、比較的自由に利用できる大広間になります。ちなみに、二階は主に展望エリアで、屋上は庭園広場となっていてイベントなどにも利用されていました」
「そうなんだ」
オズも二人の意見が正しいことを証明する。
「なら…………空間転移ホールはどこに? いや、そもそもその扉の先には、何の部屋があるの?」
オズがここを空間転移施設と呼んでいる以上、どこかに空間転移装置や部屋があるのは確かなのだが、一階にも二階にもそれが無いでは、意味が分からない。
「この扉の先には『多重対向式高速昇降機』があります。かつての文明では『エレベーター』と言えば通じたのですが、現在の文明では対応する設備が無いので説明しづらいのですね…………」
「エレベーター…………」
初めて聞いた……はずの言葉だが、すんなりと耳に入ってきた。
さらに言えば、多重うんちゃら機という名称は聞き逃してしまったが、その機能は何故か予想することができる。
「えべれーたー?」
「エレレベーターだ、ナツナツ」
「…………そのイヌミミに指突っ込んじゃる」
「理不尽!?」
「え~と、ナツナツちゃん? 本当に嫌がることはしちゃダメだからね?
それで、オズ? その…………エレ……エベ………………エベレーターって何なのかしら?」
「……………………セレス、エレレベーター」
「……………………ナツナツちゃん。今日は、私も参加するわ」
「おっけ~♪」
「こうなる予感はしてた!!!!」
ボケっとしてたら、ナビが酷い目に…………私が止めないとダメか。
「エレベーターって言うのは、オズもちょっと補足したけど『昇降機』……つまり、階層を自動で移動する装置のことだよ。イメージしやすい例を挙げるなら、上下に移動する小部屋、かな?
『一階で中に入って、三階まで部屋ごと上昇したら外に出る』みたいな? 階段と違って、人自体は水平移動しかしないから、荷物を運ぶのも楽だよね」
「へぇ~……って、なんでルーシアナそんなこと知ってるの?」
「え……? さぁ、なんでだろ?」
なんだか、常識のようにぬるっと出てきた知識だが、私はエレベーターなるものを見るのは初めてのはずだ。
『前々世の記憶じゃないのか?』
『それとも、夢茶会での勉強の時に教わった~?』
『教えた記憶は無いですけど、絶対に無いとは言い切れませんね。雑学的な話まで覚えてないです』
『前々世の方かなぁ…………なんとなくだけど。…………って、なんで念話にしてんの?』
『『『なんとなく?』』』
さよか。
一瞬の沈黙で、また念話のやり取りがあったことを察した義姉さんに、簡単に説明しておく。
「私、何でかよく分からないんだけど、『前世の記憶』みたいなのがあるんだよね。それ由来の知識っぽい」
「え…………? それ、そんなサラリと明かす情報なの? …………え、なに、大丈夫?」
「本の知識みたいなものだから平気。…………まぁ、すでに影響を受けてるかもしれないけど、外からの情報で考え方が変わるのは普通のことだからね」
「あっさりしてるわね…………まぁ、何か不安でもあったら相談してね。何も出来ないかもしれないけど、一緒には いてあげるから」
「…………そ、そう。ありがとう」
照れる……
義姉さんは殊更に特別なことを言ったつもりは無いらしく、気恥ずかしくて視線を逸らす私を不思議そうに見た後、小さく微笑んで私の頭を撫でた。
「とりあえず、エレ……エベ…………エ¥#ーターについては分かったわ」
「ちょっと待て今何て発音した」
「ナツナツちゃんゴー」
「え~い、塵積もデリート~♪」
「あーーーーっ!!!! 調子が良くなっちゃうーーーー!!!?」
…………なら、いいか。
私たちの見えないところで、ナビが制裁を受けるのを聞きながら、義姉さん話を続ける。
「で、エ〒§ーターについては分かったけど」
「せめて発音は統一しようよ~……」
「ナツナツちゃんへゴー」
「あーーーーっ!!!! おへそぐりぐりは変な感じーーーー!!!?」
「あーーーーっ!!!! デリートが雑にーーーー!!!?」
「義姉さん、そのままで良いから次」
「そですね」
ナツナツのお腹を両手で掴んで、うにうにしてる義姉さんに催促する。
「う~ん、良い触り心地…………あ、で、そのなんとかベーターが階層を移動するためのものだって言うなら、『ヒトコの本体』、つまり、空間転移ホールは地下にあるってことなのかしら?」
「あ、なるほど」
なんとなく上に移動することしか考えていなかったけど、上に空間転移ホールがないのなら、後は下だけだよね。
「つまり、ヒトコは地下一階、地上二階の三階建ての施設ってことか」
それなら地上部分がシンプルなのも、施設の本体が『圧迫感と閉塞感に押し潰されそうな環境にある』というセリフも頷ける。
「惜しいです」
「え、まだ?」
「地下一階だけじゃないんじゃない? 今の文明だって、地下三階くらいまでなら作れるわよ? 湿気とか溜まっちゃって、あんまり環境は良くないけど」
「なるほど」
「…………惜しいです」
「「あ、あれ?」」
私と義姉さんのセリフを、申し訳なさそうに否定するオズ。
その隙に、義姉さんの手から逃れたナツナツとナビが、全然信じていない口調で自分の案を述べた。
「じゃあ、ドドーンと地下三十階でどうだ~♪」
「いっそのこと、空間転移施設がすっぽり埋まってるとかどうだ」
「いやいやいや……」
「三十階って…………それだと、高さが最低でも300mはあるよ?」
「だよね~」
「冗談だ」
「「「「あはははははははは」」」」
「……………………正解です」
「「「「え?」」」」
ナツナツとナビの望み通りに適当にツッコミを入れて笑っていると、オズからまさかの肯定が返ってきた。
「空間転移ジャンクション No.1105、通称『ヒトコ』。
全高 約400m、総延床面積 百万㎡超、地上 二階、地下 三十階の 全三十二階層の超巨大施設にして、この地域における最大規模の流通起点。
ここは、サノス山の内部に作られた、半都市型空間転移ジャンクションになります」
「「「「…………………………………………はぃ?」」」」
ちょっと…………いや、大分 頭が着いていかず、全員で間抜けな声を上げてしまった。




