第177話 ゴーレム娘、王都の生活環境にげんなり
168 ~ 220話を連投中。
11/1(日) 10:20 ~ 23:20くらいまで。(前回実績:1話/6.5分で計算)
一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。
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申し訳ありません。
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「え~と、504……504…………ここね」
「王都は背の高い建物が多いよね。基本三階建てで、ここなんか五階建てだし」
「人口密度の高い場所は、どうしてもこうなりますね。簡単に外壁の拡張なんて出来ない以上、上か下に伸ばすしかありませんし」
『人口増加による消費量の増加と、宅地確保による農地の減少のせいで、食料は農村頼り、と。よくあるパターンだな』
『食料を地産出来てないのは、結構怖いよね~……まぁ、わたしはそれよりも、料理が不味いのが不満なんだけど!!』
「「確かに」」
「ん? 何が?」
ナツナツたちの念話にいつも通りに頷きを返すと、ふたりの念話が聞こえていなかった義姉さんが、不思議そうな顔でこちらを見た。
「あ、ごめん ごめん。ちょっと二人と会話してて。まぁ、料理が不味いのが嫌だよね~って」
「あぁ、なるほどね」
「やっぱり、お義姉さま用に意思疎通手段が欲しいですね……」
「…………そうね。会話のテンポが悪いのが、意外に苦痛だわ。特に、自分が邪魔してる感がなんとも……」
とはいえ、妙案は浮かばない。
浮かばないが、そのまま廊下で考えていても意味はないので、部屋に入るように促す。
…………ガチャ。
「わー……せまーい」
大変に申し訳ないが、私の第一声はそれだった。
広さでいえば、私たちのテントの半分くらい。
そこに二段ベッドがふたつ押し込められており、これらが部屋の狭さを際立たせている。
家具は他に小さな机のみ。その向こうには、部屋の明かりに照らされた、対面の建物の壁が見えている。
「四人部屋でコレ?」
「コレです」
「一人用とか考えたくないね~」
「まぁ、王都の、しかも短期用の宿だから。基本、寝るところさえあればいい人向けなのよ」
それにしたって、ねぇ?
私的には、初めての宿だし、少し位 夢を見ていてもいいじゃない。
先程 義姉さんから教わったのだが、宿泊施設には大雑把に言うと、1 ~ 3日程度の短期滞在者用と、ひと月以上の長期滞在者用の二種類があるらしい。
前者は、施設数が多く、一日単位で宿泊日数を決められるが、一日当たりの宿泊料金が高く、部屋も狭い。
後者は、一日当たりの宿泊料金が安く、部屋も広めで付属設備もあるが、施設数が少なく、ひと月単位であることが多い。
中期滞在者? 懐と相談してね。一応、週単位で泊めてくれる所もあるよ。
で、ここは平均的なランクの短期滞在者用の四人部屋である。
お風呂等は共有。食事料金は別。お値段そこそこ高い。
もうちょっとくらい…………ねぇ?
「物価というのは、供給と需要のバランスで変動します。『宿泊施設』という供給に対して、『宿泊者』という需要が過剰だと、同じ施設に対する宿泊料金は高くなる傾向にありますね。ちなみに、これが逆になると、供給側は施設の質と料金が極端に高くなるか、極端に低くなるかに二極化することになります。利用する身としては、『供給がちょっと過剰』くらいが一番お得かと」
「そりゃそうなんだけどさ……」
「代わりと言ってはなんだけど、クエスト報酬も高くなるし、人口に比例してクエスト数も多いわよ」
「そのせいで、また人が集まって、物価が上がるんでしょ?」
「ですね。まぁ、限度はありますけど」
まぁ、いつまでも愚痴っていても仕方無い。
イスは無いので、ベッドに腰を下ろす。
「……………………硬いね」
あれ? 私、我が儘なのかな? フリじゃなくて、ホントにお嬢様感覚になってる?
不安になって義姉さんたちの顔を見ると、全員やっぱり渋そうな表情をしていて安心する。
体調が悪かった時は、このくらいの硬さが心地よく感じたけど、やっぱり長時間休む時はもう少し柔らかい方がいい。
「今思えば、私が冒険者辞めた理由のひとつよね、コレ。田舎とか言われてる場所の方が、生活環境はいいのよね…………辺境とか開発村は、また別にキツいんだけど」
「そう考えると、ルーカスさんたちもライ村からテモテカールに出てきた当初は、同じ様に感じたのかもしれませんね」
「言われてみれば、実家だとノビノビとしてるように見えたかも」
「元気にしてるかなぁ~。別れる前に【グッドラック】は掛けてあげたけど~」
……………………それは効果がありそうだな。昼間のアレから考えるに。
「あの子らか…………まぁ、ルーカスとは同い年なんだけど。まさか、歳下組だけじゃなくて、あっちもくっつくとは思わなかったわね~、しみじみ」
「…………………………………………」
「あら? オズちゃん? 誰が行き遅れだって? んん?」
「バレた!? あ、ちょ、やめ……ちょっとしか思ってませんから!! ごめんなさい!!」
「ぎ~るてぃ~♪」
あぶねぇ…………たまたま義姉さんが隣に座ってなかったから助かった…………
『にや~~り』と意地悪な表情をした義姉さんがオズに抱き付き、じゃれあい始める。
義姉さんは囮捜査中、ずっと私たちを見守ってくれていたからね。義姉さんもオズリナミンが不足しているのだろう。うんうん。
そんな姉妹のスキンシップに巻き込まれないように、ナツナツがふらふらっと飛んできて私の膝上に乗ると、そのまま膝立ちになって私の服を掴む。
「ねぇ~、ルーシアナ~……」
「どうしたの?」
「…………なんか小腹が空いたぁ~……」
「……………………なんやかんやで、結構食べてなかった?」
「イマイチ物足りなくてさぁ~」
「その発想は太るよ?」
「妖精だから太んないも~ん」
そうでしたね。
実際にナツナツを両手で持ち、全身をぷにぷにしてやっても、体型が変わった様子は感じられない。
毎日、自分の体積以上 食べてる気がするんだけど。
「あははははははは!! くすぐったい~~!!」
「うりうり~。ここか、ここがええのんか~」
『ルーシアナ……変態臭いぞ、それ』
…………私もちょっと思った。
「でも、どうしようか?」
「な、何が~?」
「宿にキッチンくらい付いてると思ってたから、王都に着いたらオズに任せるつもりだったけど……」
『無いな。少なくとも長期宿に泊まらないと』
「まぁ、今日は私が作るか…………外食は期待できそうにないし」
「わ~い♪」
義姉さんが『難易度高い』って言ってた、真の意味が分かったわ。
調理法や味付けは好みの問題かもしれないけど、ベースの食材の品質が悪いのはどうしようもない。
チラリとオズたちを見ると、いつの間にやら義姉さんに押し倒されているので、そろそろ止めて部屋を広くすることにする。
「ほら、義姉さん。そろそろオズ離して」
「え~~~~……」
「とりあえず、もう少し部屋の中を過ごしやすくするから」
「ん?? どゆこと??」
くすぐられ過ぎて涙目になってるオズを抱っこしてもらって、ベッドから降りてもらうと、ふたつの二段ベッドを[アイテムボックス]内に収納する。
コレだけで部屋が、一気に広くなった感じがするね。
ただ、このままだと立ちっぱなしでいるしかないので、さらにテーブルとイスを取り出す。
これで、野営時と同じくらいには快適になったろう。広さは半分くらいしかないけど。
「そういえば、ルーシアナの収納魔法、このくらいあっさり入る上に、わざわざ動かさなくていいのよね。やっぱり便利だわ……」
「そ、そうですか? 別にアイテム袋だって、ベッドに【重量軽減】掛ければ、そんなに苦労しないで仕舞えますよね?」
「そうかもしれないけど、わざわざしないわね。座るところも無くなるし」
「あぁ……それはそうですね」
また、『非常識を見た』とでも言いたげな義姉さんは無視して、二人にはイスに座ってもらう。
「夕食どうする?」
「ルーシアナ、まだ食べるの? かなり食べてたわよね」
「ですね。さすがに太りますよ」
「…………………………………………」
「…………いや、ごめん。聞こえてたわよ、うん。ナツナツちゃんの希望よね。私も軽めにお願いしていい?」
「冗談です。私は、今日はもういいです」
ジト目で義姉さんたちを眺めてやると、義姉さんは気不味そうに視線を逸らして謝り、オズはお腹を擦った後、少し気持ち悪そうに答える。
まぁ、昼間のアレでは、役割的に率先して食べる役だったしね……
そんな二人には休んでおいてもらって、部屋の一角を《クリア・プレイト》で囲って、簡易キッチンにする。
もうこれ、ほとんど野営だな。
「義姉さん、ナツナツ。何か希望は?」
「何でもいいわよ。あ、でも甘くないのがいい」
「わたしも甘い気分じゃないし、ガッツリ食べたい訳でも無いんだよね~…………あ、リゾットがいいなぁ。野菜たっぷりのヤツ~♪」
「肉はいいの?」
「…………お肉は飽きたの、もぅ」
「そ、そう……」
そんな食べなきゃ良かったのに…………
力無く虚空を見つめて暗い影を落とすナツナツの頬に手を当て、顔をこちらに向けさせる。
…………ちょっと顔色悪い…………かな?
「もしかして、お昼に食べたので、胃がもたれてる? それなら、リゾットより雑炊の方がいいんじゃない?」
「う~ん、そうなのかなぁ~……任せるよ~」
「あ、雑炊なら、私も少し食べたいかも」
「ほいほい」
オズからもそんなことを言われた。
結局、全員食べることになりそうだね。
ご飯は以前炊いたのがある。野菜は葉物を中心に、キノコを入れて、と。
味付けのベースはコンソメで。肉はいらないと言われたけど、鳥肉を少し入れて、旨味を取ろうかな。
方針を決めれば、後は早い。
コンソメスープで鳥肉を茹でている間に、野菜を切って入れ一煮立ち。
最後にご飯を入れて、調味料で味を微調整。
……………………ちょっと物足りない気がする。
…………トマトでも入れようかな。
思い付きでトマトを入れて、酸味を加えた。
…………うん。結構上手くいったかも。
ひとり満足気にほくそ笑んでいると、背後から『『『くぅ~~……』』』という三重奏が聞こえた。
『ん?』と思って振り返ると、
「「「…………………………………………」」」
三人が物欲しそうな様子で、背後から覗き込んでいた。
いや、貴女たちの分もありますからね?
「できた? できた?」
「なんだか、匂いを嗅いでたら空腹が強くなることってあるわよね」
「奇遇ですね、お義姉さま。私は今 それを感じてます」
…………………………………………これ、私の分 余ると思う?
この後、結局 ストック分も含めて、追加を作った。




