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ゴーレム娘は今生を全うしたい  作者: 藤色蜻蛉
9章 進出!! 王都 冒険者ギルド
181/264

第171話 ゴーレム娘の人に見せられない御休憩

168 ~ 220話を連投中。


11/1(日) 10:20 ~ 23:20くらいまで。(前回実績:1話/6.5分で計算)

一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。


word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿。


申し訳ありません。



ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。

レイミーを出発してから、約5時間。

魔獣にも何回か襲われたけど、オズの魔法で牽制して、すれ違い様にベースブレイドで真っ二つにする戦法が嵌まりすぎて、ほとんど速度を落とさずに移動できた。


あ、いや、倒した魔獣は回収したけどね。

だから、というわけでもないが、そろそろお腹が空いてきたところ。


「ねぇ、そろそろお昼にしない?」


というわけで、背に乗る三人に声を掛けた。


「あ、さんせ~♪」


「そうですね」


「周囲に魔獣の気配はないが、警戒は続けておく」


ナツナツ、オズ、ナビは慣れたもので、すぐに賛成の声が上がる。


「え? こんなところで休憩?」


反対というか、戸惑った声を上げたのは、義姉さんだけだった。


「『こんなところ』って?」


周囲は人の手の入っていない草原、といったところ。

森からも遠く、山はさらに遠い。

ただ、草原を埋め尽くす草花たちの多くは、腰の高さくらいまで伸びていて、確かに腰を落ち着けて寛ぐのには適していないかもしれない。


「あぁ、草が邪魔ってことか」


「それは大丈夫だよ~♪」


「いや、それもあるけど……」


「調理スペース……要するに、『火を使うと危ないんじゃ?』という意味ですか?」


「まぁ、それも大丈夫だ」


「そうなの? というか、ちょっと進路を変えれば街道よね? そこなら、公共の休憩所とかあるだろうし、そこまで行かない?」


「え~と……」


義姉さんの言う通り、よく使用される街道は国で管理されており、適度な間隔でキャンプベースのような休憩所が設置されている。

井戸もあるため、普通はそこで休むことが多いらしい。

ただ、私たちの場合は……


「義姉さん、忘れてない? 私たちは[アイテムボックス]を遠慮容赦なく使うから、基本的には街道の近くに沿って移動するけど、街道には近寄らないつもりだよ?」


「え…………そうなの?」


「それに、ルーシアナに乗ってる今の状態を見られる分には、『三人で馬に乗っている』ように錯覚させられるけど、降りるところというか通常型に戻るところは、上手に誤魔化せられるか自信ないなぁ~…………馬の幻影も作って、違和感なく維持しなきゃならないし~」


「あ、あぁ~…………なるほど」


ナツナツの《エラー・オール》でかなり強力な幻覚や幻影を作り出せるようにはなったけど、戦闘中など他に集中しなきゃならないときはともかく、休憩中などにじっくり見られると流石に違和感が出てしまう。

それに、食事を作るにしろ、作ったものを出すにしろ、周りの目を気にして適当に食事を済ますくらいなら、人のいないところでちゃんとしたものを用意したい。


そんなわけで、一応の説明はしたので脚を止めた。


「それじゃ、場所を準備するからちょっと待ってね」


「場所を準備?」


「うん。オズ?」


「はい」


私に声を掛けられたオズは、アサルトスタッフの先端だけを袖口から覗かせ、地魔法を発動させる。


「【石柱整立】」


オズの魔法名は、発音しにくいが、とことん分りやすい。

『対象』、『変化内容』、『操作内容』を四つの文字で表しているだけだ。

今回の場合は、『『石』を『柱』状に変化させ、『整』然と直『立』させる』という魔法である。

私のスキルで言えば、形状と出現位置が整った《ロック・スパイク》といったところ。

魔法の結果として、5m程度の四方四隅と中心に、先端が円錐状になった石柱が姿を現した。


次に私が[アイテムボックス]から取り出したのは、端的に言えば巨大な石のテーブルだった。

脚は五脚。それらはテーブル下の、5m程度の四方四隅と中心から伸びていて、ここからは見えないが底面は平らではなく、それぞれの脚の中心に向けて円錐状にくり貫かれている。


つまり、先程出現させた石柱に、ぴったりと合致して乗せることができるというわけだ。

そうして完成するのは、背の高い草原の上に浮くように突き出した、円形の広い石台である。


「いっちば~ん♪」


「はい。降りて降りて」


「お義姉さま、降りましょう。土足で大丈夫です」


「…………え? あ、うん……」


「やはり驚くよなぁ……」


ナツナツが誰よりも真っ先に石台に飛び乗り、オズが戸惑う様子を見せる義姉さんに声を掛けて降ろし、ナビがちょっと満足気に呟いた。

私もケンタウルス型から通常型に換装して、石台に登る。


うん。いい景色だ。


なんとなく周囲を一望していると、唖然とした表情で石台に座り込んでいた義姉さんがこちらに顔を向け、


「……………………ねぇ、ルーシアナ」


「ん?」


「…………なにこれ?」


そう聞いてきた。

まぁ、説明などしなくても分かってるだろうけど、聞かないと気が済まないのだろう。


「う~ん…………『どこでもキャンプベース』?」


「うん?」


「どんなに草がボーボーでも、どんなに地面がぬかるんでいても、快適な休憩所を提供致します?」


「……………………」


「ちなみに、石柱の長さを調整することで、どんな傾斜面でも平らな地面を用意することもできるし、強風が心配なら周囲を囲むこともできるよ」


「それは…………うん、まぁ、いいわよね。そういうところじゃ、休んでも休んだ気にならないし」


私の説明に、なんとか納得しようと試みる義姉さんに、オズが補足を加える。


「本当はこの上に、小さな家を乗せて完成のつもりだったんですが、さすがに家としては小さくても、[アイテムボックス]から取り出すには大き過ぎるので、台だけで妥協しました。

一応、テントを固定するフックもあるので、この上にテントを張ることはできます」


「頑張れば出せないことも無い大きさなんだけどね~」


「オズは完璧にしようとし過ぎるんだ。もうちょっと機能を絞れば、ダウンサイズ出来るだろう?」


「だって、仮住いとはいえ、お姉ちゃんと住むんですよ?

リビングに拘るのは当然として、キッチンもしっかりしたのが欲しいし、寝室やお風呂だって必要ですよね?

そうなると、どうしても費用とサイズが……」


「妥協する気Nothing」


「うん。『仮住いだからもっと妥協して、簡略化したらどうだ?』という話なんだが、まぁ、オズが納得いかないなら仕方無いな」


テントだけでも十分快適過ぎるので、私としてはこれだけで十分なのだが。


「それよりお腹空いた~。ごっ飯ご飯~♪」


理解は出来ても、納得するのに苦労している義姉さんを置いて、ナツナツが空腹を主張する。


「そうだね。何が食べたい?」


「肉!!」


「なんでもいいです」


うん。出来れば料理名で答えて欲しかったな。


「義姉さんは?」


「え? あー、うん。お任せで」


だから、料理名を…………いや、まぁ、仕方ない。


とりあえず、[アイテムボックス]内の保存料理一覧を投影し、ランダムに並び替えてループスクロールさせ、適当なところで停止させる。


「それじゃ、メインはラザニアで。確かベーコンをいっぱい入れてたから、ナツナツの要望は入ってるよ」


「やた~♪」


「味が濃いのでスープはあっさり系ですね。あとサラダ、と」


「パンはいる?」


「いる~♪」


「私はいいです」


「義姉さんは?」


「…………………………………………」


「義姉さん?」


石台の上にはいつの間にかテーブルとイスが設置され、その上にはラザニア、パン、キノコスープ、サラダ。お茶もオズが淹れているところである。

どこからどう見ても、普通の昼食の風景だ。…………ここが屋外でなければ。


大き過ぎる上、形状が特殊過ぎた事情を飲み込むのを諦めた義姉さんは……


「……………………これは休憩所に立ち寄れないわよね」


疲れた顔をして呟いた。





――――サアアアアァァァァ…………


冷たく、乾いた風が、撫でるように草原を走り抜けていった。

背の高い草花が、その生命をこれでもかと謳歌している草原の只中に、違和感バリバリの昼食風景が嵌め込まれている。

それはまるで、毛足の長い深緑色の絨毯の上にあるかのように存在していた。


季節は冬。

この辺りは四季の影響は少ないせいで極端に寒くなることはないが、冷たい風が吹き抜けることが多くなる時期である。

にも拘らず、その違和感たちは、まるで屋内で寛いでいるかのように、平然と食後のデザートを満喫していた。


「はい、お姉ちゃん。あ~ん」


「あ~ん。じゃあ、オズも、あ~ん」


「あ~ん」


「ルーシアナ~、私も~♪」


「はいはい」


「じゃあ、私はオズにあげちゃう。はい、あ~ん」


「あ~ん。じゃあ、お義姉さま、あ~ん」


「あ~ん♪」


……………………驚くことなかれ。これがこの四姉妹 (?) の割とよくある食事風景である。


普段はここに母親も加わる。ちなみに、父親は加わらない。

頻度としては、5回に1回くらいなので、それほど多くな…………十分 多いか。


自分が食べるよりも相手に食べさせることが目的となっているため、なかなか皿の上が空にならない。

それでも、四人の中で最も年長の女性――セレスが、ケーキの最後の一口を自分の口に放り込んで、ようやく食事が終了したようだ。


「ごちそうさま。美味しかった~♪」


「それは良かった」


「モンブラン、だっけ? 栗の風味もいいし、なによりこの天辺のが美味しい!!」


「マロングラッセだね」


義姉さんは、甘味の強い甘露煮タイプの黄色いモンブランよりも、風味の強いマロングラッセタイプの茶色いモンブランの方がお気に入りっぽい。

まぁ、全員で食べさせ合っているのだから、結局どちらも食べることになるのだが。

ちなみに、ナツナツは両方 自分で食べた。


食後のデザートも終わり、移動を再開する前に一時(ひととき)の休息を取る。

カップから立ち上る紅茶の湯気と薫りが、緩やかに場を満たした。


「それにしても、今日はびっくりする覚悟を決めてたつもりだったけど、この石台とか暖房とかは予想外だったわ」


「そうなの? レイミーの水田とかは予想できてたの?」


「うん、ごめん。それも予想外」


「ですよねー」


義姉さんの言う『暖房』とは、石台を覆うように展開した《クリア・プレイト》の内部を、簡単な風魔法で暖めた簡易暖房を指す。

《クリア・プレイト》のお陰で風も入ってこないので、すこぶる快適である。


「夜営時ならともかく、昼休憩でこんなサロンみたいな休憩所を用意するなんて、王侯貴族や大商人の道楽でもなきゃ、見ないわよね~……」


「そうなの? …………なんで、みんなやらないんだろ?」


私が『何かの温度を上げる・下げる』、『適当に動かす』などで使用する『簡単な○魔法』とは、術式の詳細を詰めずに感覚だけで発動させた魔法を指す。

術式の細部が適当なため魔力効率は最悪だが、汎用スキル《○魔法》の効果に含まれる『術式構成補助』任せでもそれなりに目的にあった現象を顕すことができる。

そして、四大属性汎用スキルは、『どんなに魔法の才能が無くとも、一種類は習得できる』と言われているので、概算でも4人に1人は《風魔法》を習得していることになる。


故に、周囲の空気を暖めることは大抵の人が出来ることであり、最悪《風魔法》を習得していなくとも、自力で術式を構成すればよいだけのことである。面倒だけど。

魔法障壁の展開も、一般的な防御魔法として広まっているのだから、やれないこともないと思う。


……………………あ、義姉さんが言ってるのは、食事のことか?


そんなことを考えていると、本日何度目か分からない呆れた系の表情をした義姉さんが説明してくれた。


「あのね、ルーシアナ。貴女は自分の才能に無頓着過ぎるんじゃないかしら?」


「?」


説明違った。お叱りだった。


「いえ、お義姉さま。他にヤバ過ぎる才能が多過ぎて、相対的に印象が薄くて見落としてるだけかと思います」


「あぁ、なるほど。そういう可能性の方が高いか……」


「??」


義姉さんの説明に、横から口を挟むのはオズである。

この口調だと、オズは前々から分かっていたようだ。


「あのね、ルーシアナ。貴女のその体、義体だっけ? それはね、魔道士として理想的な基礎能力を有しているのよ」


「理想的な基礎能力?」


なんだろう? 単純に考えれば、各種マスタリー系スキルの事ではないかと思うが、それについては知ってるし……


「優秀な魔道士に必要な能力。強力な魔法を使えるとか、効率的な術式を構成できるとか、普通はそういうところに目が行きがちだけど、それらは後天的に伸ばしていくことが可能よ。

でも、真に重要なのは先天的な能力、つまり『魔力に対する親和力』よ」


「『魔力に対する親和力』?」


なんだろう? 初耳な単語なのだが。


「具体的に言うと、『魔力を生み出す能力』『魔力を溜める能力』『魔力を放出する能力』のことね」


「ほら、以前私がこの体をもらった時に、説明したじゃないですか。『魔法を使うには三つの段階を経る必要がある』って」


「あぁ、言ってた言ってた。入る魔力、溜める魔力、出る魔力ね」


「それ、私が初耳」


「奇遇ですね、お義姉さま。私も初耳でしたよ」


この流れ、デジャ・ビュ。

義姉さんは気を取り直して話を続ける。


「正式名はそれぞれ、『魔力回復量』『魔力貯蔵量 (MP)』『魔力放出量』と呼ばれていて、全部まとめて『魔力親和力』とか『魔力適正』とかって言われるの。まぁ、細かく言うと、長時間の魔力放出に耐えられる『魔力馴応力』とかもあるけど、大きなところだと、この三つ」


「つまり、その三つの能力が高いってこと?」


そういえば、オズも私の義体の魔力放出量は常人の10倍とか言ってたな。

どの程度すごいのか、良く分からなかったけど。

そんなことを思い出していると、オズが説明を引き継いだ。


「『魔力回復量』が高ければ、魔力消費量の少ない代わりに継続して発動しなければならない魔法を複数 又は 強化して使用できます。

『魔力放出量』が高ければ、魔力消費量の多い代わりに威力の高い魔法を使用できます。

『魔力貯蔵量』が高ければ、それらを長時間 又は 連続で使用できます。

当然、これらが高いことに驕って努力を怠れば、優秀な魔道士とは言えませんが、これらが高い者は低い者に対して、圧倒的なアドバンテージを持つことになります」


「へ~。…………でも、そんな重要な能力なのに、《フル・スキャン》で分析されないのはなんで? ギルドの分析魔道具でも、表示されないよね~?」


「あ、確かに」


お腹を膨らませたナツナツが、机上で仰向けになりながら告げたセリフに、私も思わず同意する。

そんなに重要な能力なら、ステータスに表示されれば便利なのに。

その疑問に答えるのは義姉さんだ。


「それは一言で言えば、『定量的な分析が難しい』からかな? 分析する時の体調や他のステータスの影響で上下するし、分析方法でも変わっちゃうのよね。

一応、HPMPを全快にして、状態異常や体調を万全にして、周囲環境を一定にする部屋なんかで分析すれば、可能なんだけど…………」


「それは実用的ではないな」


「でしょう?」


「ちなみに、私が以前『義体の魔力放出量は常人の10倍』と言っていた根拠は、かつての文明で平均とされていたデータとの比較です。なお、当時も学術的なデータとして収集していたようですが、やはり実用的な分析方法はありませんでした」


「そうなんだ……」


かつての文明ですら無理なら、今ではさらに無理だろう…………というのは、見くびり過ぎか。

途中で断絶したとはいえ、人の文明は常に成長を続けているのだ。

かつてよりも上回る部分だってあってもおかしくない。…………今のところ、見当たらないけど。


そして、義姉さんが逸れた話を戻す。


「で、ルーシアナの話に戻すけど、今言った魔力親和力に加えて、それらの成長率も高そうだし、ナビ君っていうサポートもいるじゃない。分かっていると思うけど、複数の魔法を同時に制御するのは、とても難しいことなのよ?

『状態固定魔法』って知ってるわよね? 身体強化を掛けた後に、その強化状態を維持させる魔法だけど、わざわざそんな魔法があるのは、少しでも魔法の制御を簡略化するのが目的だからね。

それを索敵系、身体強化系、防御系諸々、全部まとめて管理してくれてるって言うんだから、もう敵無しよね」


「な、なるほど」


「ふふん♪ 私の素晴らしさが分かったか。

まぁ、誉めてもらって嬉しいが、多くの魔法が尽くスキル化されているのと、なによりルーシアナがほぼ全権を預けてくれているのも大きい。当然の働きだな」


「うん。ありがと、ナビ」


今度の夢茶会では、たっぷりと労ってあげよう。


「それって、丸投げって言うんじゃ」


「ナツナツ!! しっ!!」


……………………ナビ()たっぷり労おう。


「まぁ、そんな訳でね。貴女は……いえ、貴女たちは魔法を使うことに、とてつもなく長けているってことよ。そりゃあ、こんな豪勢な使い方もできるわよね。

貴女のお祖父さん……大賢者マイアナ・ゼロスケイプは、きっと貴女を自分以上の魔道士にするつもりでその体を設計したのでしょうね。

……………………それが、なんで近接でバリバリ殴り合う戦法を選択することになるのかしらね、ホント」


「それ わたしも謎な~」


「ナビゲーターとしては、ルーシアナの闘い方を尊重せざるを得ない」


「本人の資質と性格は必ずしも一致しませんから、その……」


「あ、あれ?」


なんか雲行きが怪しいぞ??

義姉さん、ナツナツ、ナビ、オズが、溜め込んだ不満を吐露するように、順に問題を挙げていく。


「そもそも、最初に会ったときに言ってた『武器は防御として使用して、攻撃は魔法が主体』って話はなんだったのかしらね?

その時の父さんとの手合わせも、結局近付いて殴ってたみたいだし」


「い、いや、アレはほら、距離を空けるとお義父さんの間合いで闘う羽目になるかと思って……」


「実はアレ、わたしも驚いてたんだよね~。『詠唱に時間が掛かるから、一人だと魔法は難しい』とかって言ってたけど、だからってアレはどうかと~」


「それなら言ってくれても良かったんだよ!?」


「私はベーシック・ドラゴン戦辺りから参戦した訳だが、距離あって仲間もいるのに、重大剣担いで速攻仕掛けるとは思わなかったな」


「その仲間ってギルドの人でしょ!! 思いっきり餌認識されてたじゃん!!」


「私はガア・ティークルからですけど、お姉ちゃんって基本、遠距離攻撃しませんよね。魔法より、スキルより、殴った方が早いとか考えてませんか?」


「ごめんなさい!! それはちょっと考えてます!!」


「他にも……」


決壊したダムのように、次々に挙がる指摘事項。

でも、もう一度言いたい。そう思ってたなら、言って?


…………

……………………

………………………………

…………………………………………十数分後。


「うぅぅぅぅ……」


「ふぅ。ちょっと満足」


言葉通りに、満足気に一息吐く義姉さん。

私は当然、撃沈している。これからまた走るのに、なんで疲弊せねばならんのか……


「まぁ、お姉ちゃんが前線に突っ込むのも、間違っている訳でもないんですけどね」


「…………そ~なの~?」


「結局、スキルも魔法の一種なので、優秀な魔道士は優秀な戦士でもあるんです。その逆は必ずしもイコールでは無いんですけど」


「……………………なら、なんで私はこんなに苛められたんや……」


「ははは……」


誤魔化すようにオズが差し出したスティッククッキーを口で受け取る。


もぐもぐもぐもぐ…………


「まぁ、確かにそうなんだよね~。それで、結局セレスは何が言いたかったの~? ルーシアナを弄りたかっただけ~?」


ナツナツさん…………


「それもあるけどね」


「あるんかい」


「当然。で、それもあるんだけどね、ルーシアナが、ちゃんと自分の出来ることと出来ないことを吟味した上で、その戦法を選んでいるのか、ちょっと確認しておこうと思って」


「というと?」


「これから私もパーティに加わる訳だし、前線は私に任せて、貴女たちは後衛に専念してもいいのよってこと。冒険者の基本戦法は、壁役が魔獣を引き付けて、後方から遠距離攻撃が鉄板だし」


「そうなの? なら、剣士とか格闘士とかってロールの役割は?」


楯士ひとりいれば他は後衛で良いようにも聞こえるぞ?


「壁役が防御しかしないなら、私なら放置して後衛を狙うわね。それに、ひとりだけなら、複数で襲えば何人かは後衛を狙えるでしょう。

基本をベースにして色々な状況を想定すると、壁役の補助みたいな役目も必要なのよ」


「なるほど……」


言われてみれば確かにその通り。ただの壁に、壁としての能はないな。

でも、それならそれで矛盾が生じる。


「それなら、義姉さんは? 私が後衛に下がったら、義姉さんもひとりで壁役をすることになっちゃうけど」


まぁ、同じことは、これまでの私にも言えるから、なんとか出来ない訳ではないのだろう。

そんな私の指摘に、義姉さんは『フッ』とニヒルに笑うと、


「なら一度、私の実戦を見せておこうかしらね。元Aランク冒険者の実力に震え上がりなさい」


と言った。

それを額面通りに受け取れば、『互いの実力を確認して、パーティとしての方針を立てよう』という話なんだけど…………


「……………………もしかして それ、移動中 戦闘に参加できなくて暇だったとかが本音だったりしない?」


「ぎくっ」


……………………良い子のみなさん。もう一度言います。

言いたいことがあるなら、ちゃんと言いましょう。ね!!

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