第169話 ゴーレム娘、王都に行く
168 ~ 220話を連投中。
11/1(日) 10:20 ~ 23:20くらいまで。(前回実績:1話/6.5分で計算)
一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。
word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿。
申し訳ありません。
ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。
数日後。
「「「「じゃ、いってきま~す」」」」
私、ナツナツ、オズ、そして 義姉さんの四人でグランディア家を出た。
「いってらっしゃい。気を付けてね」
「うむ。セレス、よろしく頼むぞ」
「まっかせなさいな♪」
「……………………不安だな」
「なんでよー!!」
お義父さんの言葉に力こぶを作って見せた義姉さんだったが、逆効果だった模様。
両手を振り上げて『ムキー』と、不服そうな声をあげた。
義姉さんに嘘をついているのがバレ、お説教を受けた後に、何があったのか。
早速ですが、回想スタート。
― 回想開始 ―
私が義姉さんから頬の耐久試験を受けている間に、ナツナツとオズは天人の遺産に関する秘密のほとんどを話してしまっていた。
もちろん、言葉だけでは俄かには信じがたい内容だ。
本当はガア・ティークルにでも連れて行くのが確実だったろうけど、時間も遅かったので、代わりに鈍人形などを見せることでその証拠としたらしい。
それを聞いたお義父さんは、しばらく難しい顔で考え込んだ後、まずこう言った。
「…………ルーシアナ。とりあえず、お前たちと私たちとで、認識を共通化したい」
「ふぇい?」
この時は、ようやく義姉さんのお説教から解放されたばかりで、涙目になりながら頬を擦っているところだった。
まぁ、そうでなかったとしても、いきなり『認識を共通化したい』とか言われても、よく分からなかっただろうけど。
「天人の遺産……俺も確かに危険だと、そう思う。
だが、その主機能は『空間転移』。これ単体では、必ずしも危険とは言えない。お前は、その施設を見て、『何が』『どう』危険だと判断した?」
「『何が』『どう』、ですか?」
「あぁ」
『なかなか難しいことを聞かれた』と思う。
なぜなら、『空間転移システム』、『異相空間構築システム』、『自立駆動デバイス』、その他諸々も、別に『戦いや破壊のための機能』ではなく、あくまでも『人々が快適に暮らすための機能』なのだから。
使う目的によって危険が生じるのは、今の文明の道具だって同じだ。武器なんてその最たるものだろう。
それならば、使用する者を厳格に規制すればいいだけだし、なんなら、危険な使い方が出来ないように制限を掛けてしまえばいい。
オズならそれも可能だろう。
…………それでも、やっぱり、私は天人の遺産の情報が広まるのは危険だと思う。
その曖昧な印象を、曖昧なまま言葉にしていく。
「えぇと……うまく言えないんですけど、例えば、そこの人型のデバイス。現在、800体ほどのストックがあります」
確か、ガア・ティークルに500体、レイミーに300体あったはずだ。
壁際で甲冑の置物よろしく直立姿勢を取る鈍人形に視線をやりながら、口を開く。
「生産能力は、施設の稼働状況にも依りますけど、1基当たり大体10体/日程度。
攻撃力はそんなに高くはないですが、防御力が桁違いに高く、また複数で連携しますので、相対にはBランク上位の実力が必要だと思います」
私がなんとかできたのは、防御力を無効化する手段があったからに過ぎない。
雷魔法や《斬鉄剣》などの特殊過ぎる手段を、普通の冒険者は持ってはいないだろう。
「今は2基しか稼働させていないからこの程度ですけど、10基稼働したとしたら4,000体のBランク冒険者相当のデバイスと、それが100体/日のペースで補充されるトンデモ部隊となります。
この戦力は、国レベルで考えれば然程脅威となる戦力ではありませんが、問題はコレを空間転移で様々な場所に瞬時に送り込むことができる点です。
通常 軍という戦力は、前線で戦う直接的な武力と、それを支える兵站などの後方支援で成り立ちますが、兵站は戦況が長期化すれば備蓄では足りなくなり、戦場から離れた地域で生産し補充することになります。
この部隊は『そこ』に奇襲をかけることができるんです」
『国レベルなら脅威でない』のは、正面からかち合った場合だけだ。
防護の薄い都市や街から潰していけば、徐々に相手の戦力は削れていくこととなる。
「これだけの攻撃を受けて対抗できる国は、果たしてどれだけありますかね? しかも、時間経過とともに、戦力はどんどん膨らんでいきます。楽観的な想像とは思いますけど、世界を征服することも可能なんじゃないでしょうか?」
「…………ふむ。つまり、『天人の遺産は、それを得た国に強大な戦力を与える』。
これが、お前の考える『危険』か?」
『はい』…………とは、ならなかった。自分で『楽観的』と言っている通り、この想定は色々と無理がある机上の空論でしかない。
でも、空論とはいえ『出来る可能性がある』ということを念頭に置けば、ひとつの懸念が頭をもたげてくるのだ。
「いいえ。
私が『危険』だと考えるのは、これだけのことが空間転移施設、つまりただの移動手段で可能なことです。
今はたまたま空間転移施設しか見つけていませんが、果たして本当に、天人の遺産は空間転移施設『だけ』でしょうか?
…………オズの話では、かつて様々な重要施設が同様の異相空間に作られていたそうです。そこには当然、軍事施設も含まれるでしょう。
…………万一、そんなものが遺っていた場合、そこに眠る兵器の破壊力は、果たしてどれ程のものでしょうか?」
思い付くままに話している内に、意外とまともな結論に達したことに内心驚いた。
でも、存外 的外れでもない気がするので、このまま行くことにする。
「オズが言うには、セキュリティが活きている間は異相空間内に入るのがそもそも難しいようですが、千年単位で放置されている施設です。セキュリティが壊れている施設は必ず『ある』と考える方が自然でしょう。
それが軍事施設だった場合、危険な兵器ほど施設の奥深くで厳重に保管されていると考えられます。しかし、それを知らない今の人たちの目には、それこそ秘宝が安置されているように見えるのではないでしょうか?
冷静に危険なものでないか調べれば大丈夫かもしれないですけど、果たしてそんな状況で落ち着いて行動できる人が何人いますかね?」
答えは、『否』だろう。
そもそも冷静に調べたからと言って、危険かどうかが分かるとも思えない。
「可能性は低いと思いますけど、そんな兵器が暴発でもしたら ひとつの街が、場合によってはひとつの国が、一瞬で消滅する可能性がある。どんなに可能性が低くとも、無視するには危険すぎる可能性だと思います」
「…………そういった兵器は、実在するのか?」
『それは考え過ぎだ』と一蹴されるかと思いきや、お義父さんは険しい表情を崩さず、オズに意見を求めた。
「確実なことは言えませんけど、戦略級の大量破壊兵器を保有していると積極的に発信して、抑止力としている国はいくつかありましたね。本当かどうかは分かりませんけど。
それらの公開情報から破壊力を試算している人もいて、一番妥当なところだと、この国くらいは滅ぼすことが可能なようでしたよ。ちなみに、一番破壊力が大きい場合の試算は、この世界の消滅です」
「そんなにか!?」
「あ、いえ、すみません。その説は、陰謀論や未確立の技術をふんだんに取り入れた、与太話の類ですので聞き流してください。現実味のある範囲だと、この大陸くらい、ですかね?」
「なんだ、驚かす……いや、十分 強過ぎる破壊力だろ、それ」
場を和ませようとしたのか、はたまた場の雰囲気に流されて大きな事を言ってしまったのか、慌てて訂正するオズの様子に、緊張感の高い空気は『ぷしゅ~~』と音を立てて抜けていった。
まぁ、その訂正内容も十分に大事だったが。
お義父さんは、気を取り直すように一度頭を振ると、
「ちょっと自分が想像していた以上の危険性が出てきて、内心焦っているところだが、その辺りを共通認識としよう。確かに天人の遺産についての情報は、むやみに広めるべきものではないな。ルーシアナの考えている通り、万一の危険が大き過ぎる。お前たちも分かったな?」
「えぇ」
「そりゃまぁ、『国が滅ぶかも』とか言われちゃあ、ねぇ」
お義母さんと義姉さんにも、念を押すように言った。
「それと、オズリア」
「え? あ、はい」
先ほどの自分の発言に、若干の後悔をしていたオズに話を振る。
「お前は、空間転移施設以外の遺跡も探し出すことは可能か? また、その施設を掌握ことは?」
「明言はできませんが、どちらも可能だと思っています。
異相空間を構築できる場所は地脈の流れからある程度の位置を類推できますし、そこから時空間パラメーターの特異変動を追っていけば、正確な位置を絞り込めると思います。前者は特に、空間転移施設の稼働数を増やせば、広域化・精密化できると思いますので、探索はさらに容易になるかと。
それと、空間転移施設は『統合世界推進機構』……つまり、全ての国の垣根を越えて設置された、超公的機関が運営していた施設のひとつです。
私たちは、ここの最高権限を有していて、これは各国の独自施設に対してもある程度高い権限を持っていることにもなります。
場所さえ分かれば、侵入も掌握もやりようはあるかと。人のチェックもありませんから」
「よろしい。では、お前たちに命じる。未発見の天人の遺産を可能な限り発見・掌握し、危険な遺産に関しては速やかに破壊すること。そして、その経過や情報については、俺たちに報告しないこと」
「「「え?」」」
報告『しないこと』? 報告『すること』ではなく?
聞き間違いかと思ってしまうことを言われ、オズと二人で首を傾げる。
その反応は予想していたのか、お義父さんはひとつ頷くと、同じ言葉から始めた。
「しないこと、だ。なぜなら俺はギルド長で、何かあった際、真っ先に疑われる立場にある。『重要な情報を持っている』とな。
とっ捕まって、尋問されたり記憶を覗かれたりする可能性がある。あまり詳しい情報を知っているべきではないだろう」
「当然、私もね。奥さんだから」
「…………はい」
その『何か』は具体的にどんな可能性があるのか?
テモテカールが、他国と接していないことを考慮すれば、結果は容易だ。
…………私と関わらなければ、お義父さんたちの平穏が危険に晒されるようなことは無かったのに……
今までも、幾度となく沸き上がってきた思いに引き摺られて、どんよりと気持ちが落ち込んでしまう。
そして、その度に……
「ふんっ」
ジュビシシィィィィ!!!!
「あいたーーーー!!!!」
お義父さんたちの愛の鞭を喰らってる訳です。えぇ。
こういう展開は幾度となく繰り返した過去の経験から予想が付くし、そもそも気を逸らしているのは ほぼ一瞬なのだが、その僅かな間隙を縫って一撃を入れてくるのだから、さすが元Sランクなのか単純に私がまだまだなのか。
「さて。毎回毎回繰り返していることは省略させてもらうというか、そろそろいい加減 わざとやってる疑惑が浮上しかねないが、まぁ、お前がどんな性癖に目覚めても受け入れるつもりだから安心しろ。
あと、セレス。お前、ギルド員 クビな」
「せ、性癖って酷いごか……ぇええ!? 義姉さん なにしたの!? サボり過ぎた!?」
「おっとぉ? ルーシアナったら、まだ抓られ足りないのかしらね?」
「ふねっへる!! ふへってるよ、へへはん!!」
思わず本音が漏れたら、すかさず頬を抓り上げられた。
両手でタップして降参を伝えると、最後にぐるぐるされて解放される。
「いひゃい…………いひゃひよほぉぉぉぉ…………」
「ふん。自業自得でしょ」
「え~~ん……オ~~ズ~~…………」
「はいはい。大丈夫ですか?」
義姉さんに『これはオマケよ』と、追加でデコピンを貰ってオズに泣き付く。
オズが優しく添えてくれた手の平は、ひんやりと冷たくて心地よかった。
「それで、父さん。要するに、ギルド員辞めて、ルーシアナたちに付き合えってことでOK?」
「いんや、お前のギルド長への態度の悪さが累積しての懲戒免職だ」
「ほらああああぁぁぁぁーーーー!!!!」
「『ほら』じゃない!! アンタのはサボりでしょ!?
じゃなくて、冗談でしょ!? 内心はともかく、外面はしっかりしてたわよ!! そこそこ それなりに ほんのりと!!」
『…………それは果たして、しっかりしていると言えるのか?』
ナビが思わず漏らした呟きが真理過ぎる……
慌てて取り繕うように言葉を重ねる義姉さんに、黙ってみていたナツナツが小首を傾げてツッコミを入れる。
「でも、セレス~。最初に会ったとき、『能力と権力はあるけど、すぐサボるから敬意は払わなくていい』とか言ってなかった~?」
「え……? そんなこと言ってたんですか? お義姉さま……」
「言ってた!! でも、それはルーシアナたちの緊張を解すためっていうか~……!!」
「あらあら」
「累積だって言っただろ。それだけじゃないわ」
「ぐふぅ……」
言い訳の出来ない自分の行いに、義姉さんはノックアウトされた。
それを見て満足そうに頷いているお義父さんに、ホントのところを聞く。
「それじゃ、何か判断に迷ったら義姉さんを頼ればいいんですね」
「あぁ。セレスは現役の時、周辺国まで足を延ばしていたようだし、道案内としても頼りになるだろう。初めて訪れる地域では、こちらの常識が通じないことはよくある。そういったものの、見分け方や対処法なども学ぶといい。戦力も、申し分無いしな」
「Aランクですしね」
「『元』な」
「やっぱり私の予想通りだったんじゃないのよーーーー!!!!」
― 回想終了 ―
……という義姉さんの絶叫で、今に戻ります。
そんな訳で、この数日間を使って、義姉さんは仕事の引き継ぎ等を行い、ようやく今日 出発できるようになったわけです。
私も、チコリちゃんから軍馬由来の武器を受け取ったり、シャルドさんにライ村周辺に妖精はいなかった報告をしたり、ギルド飯店のシフト調整をしたりしました。
「四日で帰ってくるのよね?」
「その予定です。何かあっても、五日目に入ったら必ず戻るようにします」
「王都まで二日、アレの再稼働に二日、の計算です。別に最後まで見ている必要はないんですが、不測の事態があったら怖いので」
「う~ん……寂しいけど、仕方ないわね。気を付けてね」
私たちの答えにお義母さんは残念そうに微笑むと、私、オズ、ナツナツと順に抱き締める。
「魔獣にもだけど、人間にも気を付けるのよ? 人通りの少ない所には近寄らない、知らない人には話し掛けない、何か不審に思ったらセレスちゃんを呼ぶ。いいわね?」
「分かりました…………けど お義母さん、なんか心配し過ぎじゃないです?」
「そうですよ。魔獣はともかく、人なんて、ここと王都でそんなに違いがありますか、ね……?」
「ライ村は同じ感じだったし、そんなこと無いと思うんだけど~…………経験不足で何とも言えな~い」
抱き締められながらも、ちょっと困惑気味に反論とも付かない反論を返す。
そんな私たちを、『ぎゅぎゅっ』と力を込めて抱きしめ直した後、そのまま頭を撫でながら諭すように続ける。
「それは心配するわよ。ライ村と違って、王都は人も多いからね。悪人も変人も、必然的に多くなるんだから、警戒心は高めにしておくのがいいわ」
「そうですか…………変人?」
「変人。変態でもいいけど。二人とも、可愛いんだから気を付けなさい? 夜は出歩かないようにして、でも、もし そういうのに出会っちゃったら、遠慮せず殲滅しなさい。許可します。任せたわよ、ナツナツちゃん」
「らじゃー」
セリフの軽さとは裏腹に、本気の色が読み取れる……
特に意味はないけど、脳裏にシャルドさんの姿が過った。
…………夜は出歩かないようにしよう。運の無い変態さんのために。
そんなことをしていると、義姉さんとお義父さんの寸劇も終わり、こちらに話し掛けてきた。
「まったく……早く行きましょ」
「セレスちゃんも気を付けてね」
「分かってるわ。王都内ではもちろん、クエストも出来るだけ一緒に受けるつもり。ルーシアナたちのランクアップは遅くなるけど、元々駆け足でCランクまで来たんだから、ここでのんびり経験を積んでも遅いことは無いでしょ」
「うん。それもあるけど、セレスちゃんも気を付けるのよ? 可愛い女の子なんだから」
「お母さん…………私、もう25だから。女の子は無理があるって……」
「あらあら? セレスちゃんが『女の子』で無理なら、私は何のかしら? おばあちゃん? うん?」
「青二才もいいとこのクソガキでした!! お母さんはお姉さんです!!」
「うん。よろしい♪」
なにがや。
義姉さんにも『ぎゅっ』と抱き付いて、お義母さんは離れた。
そのやり取りをニヤニヤしながら眺めていたお義父さんがまとめに入る。
「さて、タチアナが大体言ってしまったが、例の件よりも、お前たちの身の安全が最優先だ。これだけは忘れるな」
「はい」
「分かりました」
「了解~」
「任せなさいって」
「あぁ。任せる」
今度は茶化さずに頷くお義父さん。
「行ってこい。無事に帰って来いよ」
「――――はいっ」
どこまでも私たちを心配してくれる二人に嬉しくなって、私たちからもお義父さんたちに抱き付いた。
「おっ……と」
「あら」
「ありがとう…………行ってきます」
「行ってきます」
「行ってきま~す」
「ふっ…………あぁ。気を付けてな」
「うん。気を付けてね」
お義父さんたちは、ひとりひとりの頭に手を乗せて優しく撫でてくれた。
その様子を隣で見ていた義姉さんが、呆れた口調で呟く。
「…………なんだか、今生の別れみたいなノリね……」
「セレスちゃんは来ないの?」
「いや、私は別に……」
ごにょごにょと口ごもる義姉さんに、私たちも振り返って催促してみる。
「しないの?」
「しないんですか?」
「しないの~?」
「う…………」
私たちの視線を受けて、ちょっと怯んだ義姉さんは、右見て 左見て 上見て また右を見て、一歩お義父さんに近付いた。
「えと…………気を付けて、行ってきます」
「あぁ」
真っ赤になりながらそれだけ言った義姉さんの頭に、お義父さんは優しく手を乗せた。
「~~~~っ!! さぁ!! 行くわよ、みんな!!」
「はーい」
「それでは、行ってきます」
「お土産期待しててね~♪」
堪えきれなくなった義姉さんに連れられて、ついに王都へ旅立つのだった。
あ、別にギルド長たちの死亡フラグというわけではありませんので悪しからず。




