第165話 ゴーレム娘、結婚式に参加する①
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さぁ!! 今日はついにルーカスたちの結婚式です!!
長かったなぁ…………領軍の物資運搬クエスト中に誘われてから三ヶ月くらい掛かったんじゃない? 夢の中含めて。
私たちが用意する料理は、事前に調理して[アイテムボックス]に収納しておいた。
他の人たちは当日に調理しないといけないからね。そのために、少しでも炊事場は空けておかないと。
それらは今、広場に並べられた たくさんのテーブルの上に置かれている。
式の一番重要な所は、教会の中で両家の親族のみで行われる。
いや、正確に言えば、私たちも誘われたんだけど、そこに部外者はいちゃいけないと思ったので遠慮したのだ。狭いし。
……………………あ、いや、『狭い』が一番の理由じゃないですよ!?
…………ま、まぁ、そんなこんなで、私たちは今、ルーカスたちの友人等と一緒に教会の外で出てくるのを待っている所です。
周囲にはオズとこの村の子供たち。全員で花ビラの詰まったバスケットを持っている。
「ルー姉ちゃん!! リリ姉ちゃんたちまだかなぁ!?」
「う~ん、もうちょっとかなぁ……」
「花ビラ綺麗だね~!!」
「みんなで一生懸命集めましたからね」
「兄ちゃんたち出てきたら叩き付けるんだよな!?」
「やるなら男の方だけにしなさいよ?」
「ガッテン!!」
分かりにくいでしょうが、少女A → 私 → 少女B → オズ → 少年A → 私 → 少年B、の会話です。
何故このような状況になっているかというと、式の当日にいきなり顔合わせって言うのも気不味いだろうからと、半月程前から参加者とその家族とは顔合わせがあったのだが、その際に私たちが『料理人』ではなく『御守り要員』だと勘違いされたのだ。
というか、今日の料理の打ち合わせ集まった際、親たちが連れてきた子供らを私たちに押し付けた。
このやろう。
まぁ、自分たちの子供と同年代 (未満) に見える私たちが、まさか料理人としての参加だとは夢にも思わなかったのだろう。
ちくしょうめ。
私たちの分の打ち合わせは、ノーラさんたちがしておいてくれました。
結局、私たちのことを正しく認識し始めたのは三日前くらいで、未だに私たちのことを『子供の御守り要員』だと思ってる親は多いだろう。
現に……
「ふぅ……疲れた疲れた」
「そう? これだけ大量に料理するのも楽しくない?」
「楽しいけど疲れた」
「ふふふ。そうね。でも、今回は子供らの面倒を観てくれる子がいてくれて助かったじゃない」
「まぁね。これをガキ共捌きながら捌くとか、やってらんないわ」
「捌きながら捌くの? バイオレンス」
「それ、意味逆よね?」
……………………自分の子供混ざってるからって、ガキ言うなよ……
まぁ、このグループは私たちを完全に子守りだと思ってるグループね。
一度だけとはいえ、料理教室開いたのになぁ……
「あら? この料理 誰が作ったのかしら?」
「あら、ホント。初めて見るわ」
「あぁ、それ? リリアナたちが連れてきた子が作ったらしいわよ?」
「え!? マジで!? ……………………キープ」
「ちょっと待ちなさい!! それは私のよ!!」
「(こそこそこそこそ……)」
「「「どさくさに紛れてやらせるかああああ!!!!」」」
「ぎゃああああ!!!?」
……………………まずは主役に食べさせてあげてください、ホントに。
このグループには、料理人の証拠としてちょっと一品作ってあげたら、怖いくらいハマってくれたグループだ。
レシピも教えたけど…………オズじゃないと用意出来ない調味料もあるし、必然的に劣化版となってしまう。
今後、独自進化してオリジナルとなる可能性は十分にあるが、今は私たちの料理の方が二 ~ 三段階上だ。
ハマるのも仕方ないかな。うんうん。
後は~……
「ひっく…………あぁ~、ちくしょう~……キリウスならまだしも、ルーカスに抜かれるなんてぇ……っく……」
「『結婚なんて考えてませ~ん』なんて面しといて~……ひっく。リリアナめ~、裏切者~……」
「俺だって彼女欲しいぞ~!!」
「私だって彼氏欲しい~!!」
……………………あのふたりがくっついたらいいんじゃないですかね? あと、始まる前から呑むなや。
とまぁ、教会前の披露宴会場というか宴会場は、すでにこんな感じでカオスです。
「ひゃっふぅ~~い!!」
「ああ~~~~!!!! カイルのバカが私の花ビラ盗った~!!」
「油断してるお前が悪いんだろノロマ~♪」
「え~~ん!! ルー姉ちゃ~~ん!!」
「はいはい。私のあげるから。あと、カイル。一発いれるからちょっとこい」
「ぐすっ……ありがとう~」
「へ、へへ~~んだ!! だ、誰が近付くかよ~だ!! い、いくら怪力女でも、ここまでは届くまい!! 届かないって言ってください!! お願いします!!」
「……………………」
ひゅごぅ!!
「へぶあ!?」
5mくらい離れたところで、イキってたクソガキに制裁を加えてやった。
え? 子供に《チャージル・スラッグ》はやりすぎだろって?
やぁ~ねぇ、ただの拳圧だよ? 周りに影響が出ないように、集中はさせたけど。
『……………………こんにちは、人外の扉』
失礼な。
一足先に花ビラに埋もれるカイルに、疲れた顔をした子供が近寄って、助け起こしている。
よくカイルの後始末に巻き込まれるタイプのガキンチョ仲間だ。
とはいえ、ルインから遊びに誘ったりしているので、凸凹コンビとでもいう間柄なのだろう。
こっちはこっちで、大人に怒られるギリギリのところでカイルを見捨てるので、どちらが上ということもない。
「お姉ちゃん。そろそろ出て来そうですよ」
と、こちらはこちらで子供たちに群がられているオズ。
私の周りにいる子供よりさらに小さい子供が多く、オズを取り合うように引っ張り合っている。人気だね。
まぁ、魔道士系とはいえ冒険者やってるオズが負けることもないが。
「……………………しにそう」
ダメっぽい。
まぁ、ルーカスたちが出てきて、食事タイムになれば、子供たちも離れていくだろう。
むしろ、つまみ食いを始める子供がいないのにビックリだけど。
「ほらほら、みんな。ルーカスお兄ちゃんたち出てくるから、入口の周りに移動して」
「は~~い♪」×たくさん
「高砂席……あそこまで道を作るんだからね~」
「は~~い♪」×たくさん
宴会場の端にあるルーカスたちの席を指差しながら言うと、元気良く返事をしてチビッ子たちは移動していく。
そんな何度も遊んだ訳でもないのに、思った以上に聞き分けが良い。
意外にしっかりと躾をしているのかもしれない。
『いや…………最初にガキ大将的なカイルを一発で伸したからだろ…………』
まぁ、初っ端スカートめくりとかしてくるクソガキには適切な対応かと。
図体だけは私よりあるからなぁ、アイツ。それなりに、力を込めないと効果が無いので仕方ない。
子供たちで高砂席への道を作り、その外側に大人たちが並ぶ。
この道が長いほど祝福を長く受けられ、幸福な夫婦生活が約束されると考えられているため、参加者は割と膨大なのだった。
なお、『参加者が多過ぎて結婚費用が払えないから、結婚しない』みたいな本末転倒なことが起きないように、参加者は料理を作るか食材を提供することになっている。
あくまでメインはルーカスたちが用意することとなっているが、これで大分負担は軽くなっていることだろう。
それにまぁ…………娯楽の少ないライ村。たまに騒げる冠婚葬祭は、多少の負担をしてでも参加したい催物なのだろうが。
みんなが並び終えると、教会のシスターが扉の両隣に現れ、宣言と共に扉を開け放つ。
そこには、四人の晴れ姿があった。
まずは前座。ルーカスとキリウスさん。
二人とも白いタキシードをビシッと着こなし、髪もオールバックに決めていた。
その顔は自信に満ち溢れ、すっかり『大人』の顔になっていた。
先程まで勝手に酒盛りを初めて管を巻いてた独身男性共よ。ああいう顔が自然に出来るようにならなきゃ、一生独り身ですからね?
続いて真打ち。リリアナさんとフェリスさん。
二人はお揃いのウェディングドレスを身に纏い、一見すると双子のようにも見える。
『どうせ同時に式を挙げるなら、姉妹でお揃いにしたい』と、お揃いの服を着ていた私たちを見ながらリリアナさんが提案して、フェリスさんが『それいいね』と即行で乗っかって、ルーカスたちが苦労した。
…………私たちのせいじゃないよ?
とはいえ、その選択は正解だったと思う。
リリアナさんとフェリスさん。二人は姉妹であるものの、リリアナさんの方が背が高く長髪、フェリスさんの方が背が低く短髪。
顔立ちも活発なリリアナさんと大人しいフェリスさんの内面が現れたのか、結構違う。
そこでリリアナさんには髪は短く見えるように纏め上げ、化粧も大人しめに。フェリスさんにはヒールの高い靴を履かせて化粧は強めに。
その結果、『パッと見そっくりに見えるが、どことなく違う』という、双子には出来ないどこか幻想的で不思議な雰囲気を纏うことに成功したのだ。
さらに、薄いヴェールの向こうで幸せそうに微笑んでいた日には、さながらここは天界か桃源郷か。
陽光も空気を読んだか、二人を引き立てるかのように降り注ぎ、キラキラとした輝きが周囲を舞い、鳴ってもいないチャペルの鐘の音すら聞こえてきそ……
『あははははははははは~♪』
ナ・ツ・ナ・ツーーーー!!!!
あんにゃろ、姿を見せないと思ってたら、四人の上で楽しそうに踊っていやがった!!
ということは、キラキラもベルの音も げ☆ん☆じ☆つ☆か!!!!
「わぁ~~…………お姉ちゃんたち、きれ~~い……」
「くっ…………神がかってるわ、リリアナ、フェリス…………負けたわ……」
…………………………………………まぁ、どうせ教会の中でも色々やらかしてるんだろう。もう止めても遅い。
なるようになぁ~~れ。
『私は無関係です、マム』
失礼な……ナツナツの行動でナビを怒ったことはないでしょ…………多分。
そんなことを考えていたら、四人が歩み出す。
ナツナツもちゃんと『四人』が主役だと分かっているのか、男性二人が除け者みたいにはなっていなかった。
引立役にはなっているが。
「おめでとー♪」
「幸せになー!!」
「リリ姉ちゃーん、フェリ姉ちゃーん、素敵~!!」
「兄ちゃんたちも格好いいぞ~!!」
子供も大人も、みんなが口々に祝福の言葉を投げ掛け、子供たちが花ビラを降り注がせ、大人たちがそれを風魔法で舞い上がらせる。
その花道の中を、ルーカスたちは祝福に応えながら、幸せそうに進んでいった。
私たちの前を通る時に手を振ってくれたので、苦笑しながら振り返す。
そうして高砂席へルーカスたちが到着すると、私たちも適当にテーブル席へ移動する。
それを確認して、まずルーカスから挨拶を始めた。
「皆さん。本日はお忙しい中、私たちのためにお越しいただきまして、誠にありがとうございます」
おぉ。普段の様子からは想像できない、しっかりとした挨拶だ。
手に持ったカンペをチラチラ見ながらで無ければ、なお良かったけどね。
「私たちは先程、親族に祝福されながら挙式を挙げることができました」
「兄弟姉妹共に式を挙げるという変則的なものとなっておりますが、これは『夫婦共に助け合っていくだけでなく、二組の夫婦としても助け合っていこう』という、意志の表れです」
「私たちは、今後も四人で力を合わせて苦難に立ち向かっていきます」
「「「「皆さん。これからも未熟な私たちを、四人まとめてよろしくお願い致します」」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!
『任せとけ!!』という気持ちを込めて、全員が強く拍手する。
ルーカスたちは、はにかむような表情をすると、誤魔化すようにグラスを取る。
私たちもテーブルの上に置かれたグラスをそれぞれ手に取り、各々の飲み物を注いでいった。
「では、皆さん。美味しいお料理を頂きましょう!! 後で私たちが招待したシェフによる、特大ケーキがありますので、お腹は少し空けておいてくださいね!! 乾杯!!」
「かんぱ~~い!!!!」×たくさん
ルーカスの合図でグラスを鳴らし、宴会……披露宴が始まった。
「「「「わ~~~~い!!」」」」
「よっしゃ食うぞ!! さっきから旨そうな匂いが腹にキツかったんだよ!!」
「どれから頂こうかしら? 迷うわね~♪」
「肉!! 肉!!」
「端からちょっとずついこうぜ~♪」
「さんせ~い!!」
「ケーキがあるらしいから、手加減しなさいよ~」
「大丈夫!! ケーキは別腹!!」
ルーカスたちの挨拶が終わると同時に、周りにいた子供たちがようやく離れていった。
そして、大人たちも容赦なく食べ始める。
屋外の立食パーティだが、料理の置かれたテーブルは保温効果のある魔道具だから、美味しい温度のままだ。
一気に混沌とし始める会場の端で、私たちはのんびりとジュースを頂いていた。
何のジュースかは知らないが、甘酸っぱくて美味しい。
「お疲れ様、オズ」
「ホントに疲れました…………子供の体力すごい…………」
『『お前も子供だろ』って突っ込むべきか、『冒険者が何を言ってる』って突っ込むべきか…………悩む……』
「両方言ってるじゃないですか……」
本気で疲れた様子のオズに、テーブルからミートパイを選んで取り分けると、一口大に切り取って差し出す。
「まぁまぁ。食べたら元気になるかもよ? はい、あ~ん」
「あ~ん……………………美味し。これ何のお肉ですか?」
「軍馬」
「ごっふぉう!?」
吹き出しかけたオズだが、両手で口を押さえてリバース回避。
今度はジュースを注ぎ直して渡してあげる。
「ほら、ジュース。…………そんなに驚く? 馬肉苦手だったっけ?」
「ぎゃ、逆に聞きますけど、お姉ちゃんは抵抗ないんですか? まだ、あれから一週間くらいしか経ってないですよ……?」
「特にはないかなぁ……」
馬肉の持ち主ではないものの、お仲間とそれなりに仲良く話したことを言っているのだろう。が、
「個人的には、錬金素材として[アイテムボックス]の肥やしになってる方が申し訳ないんだよね。
ほら、肉って錬金素材としては、義体用くらいしか利用できないじゃん?
ケンタウルス型も予備を含めて十分創ったし、通常型の強化にも使ったし。体力も上がったでしょ?
後 利用方法としては、原子化して再生魔法用の欠損充填素材とするくらいだけど、それは別に何の肉でもいいってか、肉でなくてもいいし」
「まぁ、炭素 窒素 酸素 水素 燐 カムシウム その他色々……その辺の植物や空気、水、土辺りから大体手に入りますからね」
「でしょう? そういうのと一緒にしちゃうのは、約束と違うかなぁって思って」
「約束?」
「『有効に活用してくれ』って言われちゃったしねぇ……」
「……………………」
「美味しいお肉は魔法じゃ創れない。錬金術でも再生魔法でもね。立派に生きた証じゃない」
「……………………ま、勝手な解釈をするのも勝者の特権ですね。美味しいのは確かですし」
「そうそう。……………………それに、隔離保存してるから大丈夫なのは分かってるんだけど、長く仕舞ってると武器とか服とかに匂いが移りそうで……」
「台無しです」
ジト目のオズに言われるまでもなく、言わなくても良かったわ。
なお、軍馬の素材は、半数以上をギルドに納品したのもあって、馬肉はほとんど使い切った。
残りは一頭分くらいだ。
『まだ残ってるじゃないか』
ごもっとも。
でも、元々五頭分くらいあったのが、たったひと月で一頭分まで減ったのだから、ほとんど使い切ったでもいいじゃない。
「そういえば、スレイプニル・ワークゴクのお肉はどうしたんだろ。食肉として流通した様子はなかったけど」
「まだ言いますか。Sランク魔獣の素材ならお肉でも錬金素材として有用ですし、食肉には回さないと思いますよ。そもそもSランク魔獣の素材なんて、そうそう出回らないですから、丁重に処理されて各所に配分されてると思います」
「そっか」
無駄に腐らせてるとかで無ければ問題ないかな。
と、そんな場にそぐわない会話をしていたら、各所に散っていた子供たちが再び集まってきた。




