第163話 ゴーレム娘とアイツの思惑
個人的には違うと思うんですが、念のため 百合展開にご注意ください。
141 ~ 167話を連投中。
1/4(土) 11:20 ~ 19:40くらいまで。(前回実績:1話/17分で計算)
word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿してますので、時間が掛かります。
申し訳ありません。
ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。
「ふぐっ……ふぁっ……ちゅ…………んぅ……ひぃぅぅ……」
「オズ…………ん、ちゅ……は……」
今日も一切の変化を見せなかった泥海の上を飛び、昼食と思しき時間になると、舟を出して食事を始めた。
雰囲気の沈みがちな空気を、みんなで盛り上げて食事は終わったのだけど…………突然、オズが涙をぽろぽろとこぼし始めてしまったのだ。
私たちが指摘するまで本人は気付いていなかったが、しかしそれに気付いてしまうと、もう堤防が決壊するかのように止まらなくなり、声をあげて泣き出してしまう。
抱き締め、背を撫で、声を掛け続けたが収まらず、『お願い……』と言われて口付けしているのだった。
正直……………………ヤバイ。
オズが、ではない。全員すべからく、ヤバイ。
このようなことは、初めてではないのだ。
ナツナツも、ナビも、私だって訳が分からないまま泣くのを止められないことがある。
…………ナメてたわけではないが、予想以上だった。
私はおじいちゃんと15年二人暮らしを続けていた。オズなんて一人で数千年だ。
それらに比べれば、今の状況は大分恵まれているように思えた。
ここには昼も夜もなく、雨も風も大地すらもなかったが、それでも話し相手が自分を含めて四人もいるし、食糧など生きるのに必要なものは[アイテムボックス]に大量にあるのだから。
ただ、それでも…………常時『孤独』の精神干渉を受け続け、毎日代わり映えのない空を飛び、そして…………私たちでない『誰か』を求めても、一切得られないのが殊の外 心に重くのし掛かる。
この口付けは、自分以外の誰かを強く意識したいという、心の悲鳴なのだった。
「ルーシアナぁ~……」
「ナツナツも。おいで」
「うん~……」
眼尻を下げた泣きそうな顔で我慢しているナツナツを呼び寄せ、そちらも力一杯抱き締め、望まれるなら口付けもしてあげる。
「ん……ゅ…………は……ナビは、大丈夫?」
『……………………あ、あぁ。大丈夫、だ。また、夜にでも撫でてくれ』
「ぅん……」
反応の鈍さがナビの衰弱を表している。
…………………………………………いつも通りに静か過ぎる世界に、ナツナツとオズの嗚咽が響き渡っている。
それ以外は何も聞こえない。風の音も、波の音も。
そんな場所で無力感に苛まれていると、いつぞや蓋をした思いが顔を覗かせる。
まるで、この世界に――――ただ独り取り残されたようだ、と。
危険な思考に『はっ』とした私は、強く頭を振ってそれを霧散させる。
落ち着こう。私だけじゃなくて、ナツナツもナビもオズもいるのだ。
……………………今日は、もう、休もう。
次の日。
鼻をくすぐる美味しそうな匂いで目が覚めた。
目を開けると、オズとナツナツがちょっと硬めの笑顔で朝食を作っていた。
『無理矢理だとしても、笑顔でいよう』というのは、ずいぶん前に私たちで約束した決まり事だった。
悪いことを考え始めると、止まらなくなるから。
「あ、お姉ちゃん。おはようございます」
「おっはよ~♪」
「おはふ」
挨拶している最中にナツナツが顔面に飛び込んできたので、おかしな感じになった。
顔面からナツナツを引き剥がしてお腹に抱く。
『おはよう』
「おはよう、ナビ」
「おはろ~♪」
「おはようございます」
二人も挨拶したということは、ナビは私と同時に起きたのかな?
そんなことを考えていると、オズが出来上がった朝食を小さい机の上に並べてくれる。
ライ村で買い込んでおいたお米を使った焼き飯をメインに、新鮮な野菜と温かなスープ、デザートまであるガッツリメニューだった。
朝からヘヴィだわ…………まぁ、時間的には真夜中のはずなんだけど。
……………………その方がヘヴィだったわ。
「今日の朝食は、ガッツリ系にしましたよ。昨日、夕食を食べずに寝てしまったので」
「おなかへたー」
「うん。私もお腹減ってツラいや」
なお、既に生活リズムはおかしくなっているので、寝て起きた時の食事が朝食で、休憩の時の食事が昼食、寝る前の食事が夕食である。
規則正しい食事タイミングで生活リズムを作るべきかもしれないが、下手に何もしない時間が続くと余計なことを考えてしまうので、このようにしていた。なるべく正しい時間帯に合うようにはしているが。
わいわいがやがやと、全員で楽しく食事を摂る。ナビも一緒に擬似的な食事を摂るようにしているので、本当に全員だ。
朝食を終えると、簡単に準備を整え、飛行を開始する。
この世界から脱出する方法として、確実なのはスレイプニル・ワークゴクを倒すことだろう。ただ、無策で挑んでも勝機はない。
そこで、次案としてこの世界の果てを目指すことにしたのだ。
果てが無い可能性も無いではないが…………それ以外に方法が思い付かなかった。
あと情けないことだが、既にスレイプニル・ワークゴクの正確な位置が分からない。
大体真っ直ぐに移動しているつもりだが、泥海に目印など無いし、星も見えないので、本当に真っ直ぐに進んでいるのか根拠となる指標がないのだ。
それでも、逆走はしていないだろうと信じて行くしかない。
オズを背中に掴まらせて飛んでいく。
飛行ユニットの使い方も、もう随分と慣れた。
戦闘を想定しなくて良いならば、移動手段として十二分に使用できる。
「ルーカスさんたち、怒ってますかね……」
「そうだね。結婚式の料理を作るって言って付いてきたのに、当日にいないんじゃね」
「ソレ以外の恩恵は、沢山もたらしてたと思うけど~?」
『まぁ、あれだけギルドを騒がしていればな……』
「さ、騒がせるつもりはなかったんだよ……?」
「うん。それはそれで問題なんじゃないですかね?」
「ルーシアナ~。もっかい言っとくけど~……目立つなや」
「さーせん……」
『一応、ナツナツの妖精魔法、《エラー・オール》の複合効果で、『ルーシアナたちの事を正常に思い出せない』ように細工はしてあるがな』
「さらりと言ってますけど、かつての文明でも難しい超絶技巧だと言っておきます」
「なにそれすごい」
飛行中は意識して会話を続けている。
……………………この話題も何回目だろうか…………初めての体で話すことにしているが、同じ返答はしないようには注意している。
これで分かったのは、意外に同じ話題でも違う展開ができるという事だった。
こんな状況でもなければ気付かなかっただろう。今はソレに縋り付いている状態なのが、哀しいことだが。
数時間も進んだ頃…………
『!!!? ルーシアナ!! 陸地のような反応があるぞ!?』
「「「マジで!?」」」
思わず全員で同じ反応をしてしまった。
一先ず速度を緩めて、その場で停止する。
ナビが私たちの正面に、私を中心とした円型の平面図を投影した。
確かに右斜め前方に、泥海ではない反応がある。
「この世界の果て……じゃないよね?」
「てっきり壁か何かが出てくるものだと思ってたからね~……」
「陸地…………スレイプニル・ワークゴクが創った世界に、どんな意味のある場所なんでしょうか……」
確かに…………ここまで何もなかったのに、わざわざ陸地があるということは、これを創る目的があったということだ。
…………………………………………
「どうしようか……」
「行かない選択肢はないんじゃない~?」
『そうだな』
「このままだとジリ貧ですし……」
全員 疲れているのもあるし、この状態が長く続けられない状態だと分かっているのもあり、選択肢はひとつだった。
私も尋ねておいて何だが、スルーする選択肢はないと思っている。
確かに危険があるかもしれないが、無視して進んだ場合、後悔で心が折れる予感しかしないからだ。
「…………行こうか」
「うん」
『あぁ』
「はい」
ようやく動いた状況だ。万全を尽くしてから向かおう。
一度その場に舟を出し、食事と休憩をとってから上陸することにした。
その陸地の第一印象は、『何もない』だった。
砂。無い。
波。無い。
石。無い。
木。無い。
あるのは、黒色の大地だけで、奥は霧に霞んで見通せない。
上陸箇所から左右にも延々と延びているが、ナビが言うには若干曲線を描いているとのこと。
奥に向かって傾斜しているので、山のように膨らんでいるのが分かる。
「「『「…………………………………………」』」」
全員で周囲を警戒しているが、ようやく訪れた変化に、結構 気持ちは上向いていた。
しゃがんで地面を撫でていたオズが、首を傾げながら言う。
「なんでしょう、この地面…………土でもないし、石でもないですし……」
「どれどれ……」
「あ、ホントだ~……固いけど、石っぽくないね~。ゴムみたい」
『《フル・スキャン》結果、『不明』』
《フル・スキャン》は、多少なりとも対象を把握していないと、正しく分析できないことがある。
例えば、箱の中に入っている物を調べるとか。
『野菜が入っている』と分かっている状態であれば、『どんな野菜があるか』『野菜以外の物はあるか』など分かるのだが、『何が入っているかは不明』の状態では、『箱のサイズ』『箱の材質』などは分かるが何が入っているかは分からないのだ。何故か。
この場合は、一度中を確認するか、《ロング・サーチ》で内部の概略が分かれば分析できるようになる。不思議ですよね。
で、だ。
この大地の場合、『結果が不明だった』をもうちょっと詳しく説明すると、『材質:土・石等ではない。サイズ:測定不能』などの分析結果だったというわけ。
「なんだろう……」
「削り取ってみる~?」
『結構頑丈そうだが……』
「刃が通りますかね」
「待て待て待て待て」
ランナーズ・ハイじゃないけど、みんな抑えてはいるもののテンションが高い。
そのせいで短絡的な思考に流れている。
使い慣れていないくせにグリズリソードを取り出したオズの手を押さえて、全員を落ち着かせる。
「破壊活動……という程ではないけど、そういうのはちょっと待とうか。まずは、一番高いところでも目指さない?」
「あ~、そうだね~。何か見えるかも~」
『そうだな。まぁ、霧に沈んで何も見えない可能性は高いが』
「ナビ~、いつもならギルティ」
『パイセン!! 来てくれてもいいんすよ!?』
「よしきた。今夜は覚悟しろ~♪」
『あざっす!!』
ナツナツとナビが仲良く戯れている。良いことだ。
私たちはスルー。
「折角ですし、歩いて行きませんか。久し振りですし」
「そうだね。でも疲れたら言ってね」
「はい」
オズの手を引いて、緩やかそうな傾斜を選んで、適当に山頂を目指した。
結果から言うと、山頂は結構高かった。
普通の山と違って木や草が生えていないため、ほぼ真っ直ぐに登れたにも関わらず、三時間くらい掛かった。
歩くのに邪魔となる下草などが無い代わりに、安定して足を下ろせる凹凸が少なかったのも大きいかもしれない。
ただ、久し振りの登山 (?) だったので、殺風景で登りづらいものであったものの、意外に楽しく登ることができました。
そして、山頂に到着して分かったことだが、この山は円錐状の山ではなく、三角柱を横にしたような細長い山だった。
なので、尾根が濃霧の先に向かってずっと延びている。
ただ……
「結局何も無かったわね……」
「まぁ、想定内だよね~……」
『周りも霧が濃くて良く見えないな……』
「やっぱり剣を刺してみるしか……」
「「『待て待て待て待て』」」
「冗談です」
徐にグリズリソードを取り出すオズを全員で止める。
『何も無かった』とは言ったが、この明るい雰囲気こそが成果だった。
全員、すっかり元通りだ。
「さて。じゃあ、このまま尾根を進んでみましょうか」
「そだね~」
『転げ落ちるなよ』
「結構平らなので大丈夫ですよ」
「まぁ、念のため手を繋いでいこうか」
オズに左手を差し出すと、嬉しそうに飛び付いてきた。
そのまま手を引いて一歩を踏み出す。
…………次の瞬間。
ザゾオオオオオオオオォォォォ…………!!!!!!!!
突然の爆音が響き渡った。
あまり聞き覚えのない音だが、昔聞いた滝の音に似ている気がする。
そして、それは恐らく正しかったのだろう。
霧の向こうから現れたのは、空へと登り落ちる泥濘の滝だったのだから。
「ち……!!」
「お姉ちゃん!!」
近くを飛んでいたナツナツを掴んでオズへ託し、二人まとめて正面に抱き寄せると、覆い被さるように体を密着させた。
私の下に入ったオズも、《積層断空》の発動に備える。
全員が、次に何が起こってもいいように、警戒しながら待機している。
…………………………………………?
てっきり、そのまま倒れてきて泥濘に呑み込まれるかと思いきや、それ以上の変化は起きなかった。
悪い結果ではないが、これから何が起こりうるのか、その僅かな前兆も逃さないように神経を張りつめる。
…………いや、変化はあった。気付かなかっただけで、変化は起き続けていた。
暴力的ですらあった爆音が段々と小さくなっていき、ついにはこれまで通りの、味気ない無音の世界に舞い戻っていったのだ。
しかし、空へ落ちる泥濘はそのまま。
視覚は煩いくらいに泥濘が騒ぎ続けているのに、聴覚は早朝の草原のようにどこまでも突き抜けた無音を返しているので、そのギャップに体調がおかしくなる気さえする。
…………………………………………
警戒は維持したまま、ゆっくりと立ち上がる。
泥濘の滝は、背後と左右に高く聳え立っていて、変化は見られない。
これは正面に進めということなのだろうか…………
「…………敢えて上に行くって手もあるけど……」
「……………………その発想は私の母に似てますね」
「あぁ~……選択肢を頑なに選ばない人っているよね~」
「はい」
『だそうだが?』
「真っ直ぐ行こうか」
いや、別にオズ母と同じなのが嫌という訳ではないですがね?
周囲に視線を配りつつ、いつでも泥濘が襲い掛かってきてもいいように、警戒しながら先に進む。
が、それはすぐに止めることとなった。
正面の霧を掻き分けて、『ぬっ』と何かが現れたからだ。
それは、漆黒の肌を持ち、血のように紅い瞳を輝かせ、鮮烈なオレンジの鬣が首後ろに揺らしている、面長の顔の持ち主…………スレイプニル・ワークゴク、だった。
すぐにオズの前に出ると、[アイテムボックス]からベースブレイドを……
「!? 《異空間干渉》が使えない!?」
「え!? …………私の《異界干渉》もです!!」
「ナビ!!」
『くっ……!! 何故だ……!?』
マズイ……
武器が無いのもマズイが、飛行ユニットや武神も取り出すことが出来ないのがもっとマズイ。
逃げることも闘うことも出来ないということなのだ。
「くそ……!! この島は罠だったってこと!?」
思わず悪態を吐いたその時だった。
『…………否。罠デハナイ…………落チ着クガイイ、継グ者ヨ…………』
「「『「!!!?」』」」
少々聞き取りにくいが、明らかに人の言葉が私たちに投げ掛けられる。
不思議なことに、声は全周から聞こえてきた。
「…………だ、誰?」
突然の事態にパニックに陥りそうになったが、何とか抑え込んで聞き返す。
『落ち着け』と言っているということは、少なくともこの声の主は、会話を望んでいるだろうと思ったからだ。
『我ハ スレイプニル・ワークゴク。汝ニ滅ボサレ、汝ノ糧トナッタ者。今、汝等ノ正面ニイル者ダ』
「…………………………………………そう」
意外にあっさりと受け入れられたのは、以前ベーシック・ドラゴンに話し掛けられたことを思い出したからだ。あれは夢の中だったが。
オズを背後に庇い、スレイプニル・ワークゴクに相対する。
「それで、用件は何? わざわざこんな島を用意して待ってたってことは、何か用があるんでしょう?」
それが御礼参りで無いことを祈りたいけど、無理かな……
会話を続けて時間を稼ぎながら、どうにか逃走方法を模索する。
が、その問いに対する答えは、私にとっては予想と異なるものだった。
『島デハナイ。ソコハ我ガ肉体。我ノ背ノ上ダ』
「………………は?」
「ん?」
『ほ?』
「え?」
思わず全員で足元の大地を見る。
…………言われてみれば、正面のヤツの皮膚に似ている?
すぐに飲み込めないでいたが、スレイプニル・ワークゴクは話を進めてしまう。
『コノ世界ハ、我ガ生ミ出シタ仮初ノ世界……我ノ内、我ガ箱庭……
本来ナラバ、ココデハ我ハ万能ノハズデアッタ。
然レド我レ、未熟ナリ。『自身』ヲ確定スルニ肉ガ要リ、故ニ知覚ハ肉ニ縛ラレ、慣レガ居ル。
汝等ガ逃ゲタ後、我ハコノ場ニ留マリ、意思ヲ届ケル術ヲ試行セリ。
遂ニ成果ヲ挙ゲシ時、汝等ガ再ビ舞イ戻ッタノダ』
「んー……と……」
人差指でトントンとこめかみを叩いて、情報を整理する。
聞き取りにくい上に、言い回しがややこしいから、理解するのに時間が掛かる。
とりあえず、相手が嘘を言っていない前提で、好意的に かつ 補正マシマシにまとめると……
「話がしたかったから、この世界に引摺り込んでみたものの、うまく話せなかったので『どうしようかなぁ』と思ってたら私たちが逃走。追っても仕方無いから、その場で話すための練習をしていた。
ようやく話せるようになったら、逃げてった私たちが戻ってきて背中に乗り始めたから、天辺に来るのを見計らって声を掛けた、と?」
『然リ……』
「……………………最初に泥濘で呑み込んできたのは?」
『ソレガコノ世界ニ引キ込ム手段ナリ……』
「……………………さ迷ってた間、ずっと精神干渉喰らってたんだけど」
『《孤独の嘆き》ニヨル精神干渉ハ、我ガ世界、我ガ魔力ノ基礎能……封ジル事 能ワズ……』
「……………………精神干渉防御スキルが封じられてたのは?」
『…………? ソレハ我ニヨルモノデハナイ。ガ、我ハマズ汝ノ持ツ『夢魔ノ魔石』ニ干渉シ、汝等ヲ夢ノ世界ヘト引キ込ンダ。ソノ際、何カ予期セヌ発動ノ仕方ヲシタノカモシレナイ』
「え? ここ、夢の中なの?」
『然リ……』
慌てて『夢魔の魔石』を取り出し確認するが、私の所持しているそれが発動している様子はない。
だが、そんな私とは別に、ナツナツたちは各々で何かを確認し、私とは異なる結論に達している。
「うわ、マジだ~……夢茶会用のシステムメニューが開く……」
「えっと?」
『つまりだ、ルーシアナ。現実では、私たちは未だ最初の山にいて寝ているんだ。
小型魔獣たちを追い払った後、コイツは私たちが持つ『夢魔ノ魔石』に干渉、現実をそのまま模倣した夢の世界を構築し、姿を現した。そこで改めてコイツの力で、この世界に引きずり込まれた。
夢の中で夢を見ているようなものだ』
「なんでそんな面倒なことを……」
『我、残念トナリテ残レドモ、ソノ力、僅少ナリ。故ニ、夢ノ世界ニ入ル事デ、ソノ不足分ヲ補ワセテモラッタ』
『夢の中なら、色々な上限や制限を取り払ってスキルを再現できるからな。本来なら出現させられないような大量の泥濘を出現させたり、それに必要な魔力を無しにしたり…………私たちだって似たようなことはしただろ?』
「ですね……しかも、アイツがイレギュラーに魔石を使ったものだから、夢設定が初期化されていません。精神干渉防御スキルが使えなかったのは、これのせいですね…………
ほら、最後にここを使ったとき、『一度《魂城鉄壁》なしで《孤独の嘆き》を受けてみよう』って言って、何故か設定を弄ってスキル効果を切ったじゃないですか。それが残ってたみたいです」
そう言ってオズが設定を変更すると、ずっと心にのし掛かり続けていた圧迫感が消え、どことなく周囲が明るくなったようにすら感じた。
「これで元通りです。ついでに《異空間干渉》も使えるようにしておきました。…………これを使えなくしたのは……」
『我ダ。無意味ニ、攻撃サレテハ敵ワンカラナ』
…………………………………………少なくともこの1ヶ月間、精神的に苦しんだのはこちらのミスだったらしい。
なんとも言えない脱力感に耐えて、背後のオズに振り向くと、こちらもなんとも言えない表情で私を見上げていた。
「オズ……」
「……はい、なんでしょぅ……」
「キスしよう」
「え!? ちょ!! なん!? ん~~~~~~~~!!!!!!!!」
私は私の精神安定のため、暴れるオズを抱き寄せてガッッッッツリと口にキスしたった。




