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ゴーレム娘は今生を全うしたい  作者: 藤色蜻蛉
8章 参加!! 彼と彼女等の結婚式
170/264

第161話 ゴーレム娘とまさかのアイツ

141 ~ 167話を連投中。


1/4(土) 11:20 ~ 19:40くらいまで。(前回実績:1話/17分で計算)


word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿してますので、時間が掛かります。


申し訳ありません。



ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。

「な、なんとかなった……」


「お疲れ様です……」


疲弊した体から緊張を解くと、服が濡れるのも構わず川の中へ座り込み、そのまま仰向けになった。

川下側に頭を向けているため、ものの数秒で下着からインナーから全て水浸しになってしまう。

とはいえ、ずっと走り続けて火照った体には、流水の冷たさは何物にも代え難い御褒美だと言える。

流れに乗って髪が逆立つのも気にせず、全身から力を抜いた。


『急に体を冷やすのは良くないぞ』


「まぁまぁ、たまにはいいでしょ~。頑張ったんだし~♪」


『その理屈はよく分からんが…………まぁ、いいか』


ナツナツとナビの了解も得られたので、気兼ねなく体を冷やすことにする。

水面からギリギリ顔が出るように頭の位置を調整して空を見上げると、くぐもった音だけが世界を満たしているように感じる。

『じゃぼん』とすぐ横で何かが沈む音がしたのでそちらを見ると、オズが私と逆さになって寝転んでいた。


「濡れちゃうよ?」


「お姉ちゃんがそれ言いますか…………それに今更ですよ」


「……まぁ、確かに」


肩から降ろした段階で、靴やスカートの裾は濡れてしまっていたからね。それに、戻る前に簡易お風呂魔法で全身を洗うつもりだから、全身濡れてしまっても構わない。


オズは横に寝転んだ状態で、私のお腹に頭を乗せて寛いでいる。

ナツナツもうずうずしてきたのか、私とオズの間に出来た水溜まりに飛び込んできた。


「……ぷはぁ!! 冷たい!!」


「もうそろそろ冬ですからね」


「まぁ、この辺は四季の影響が少ないから、今くらいが寒さのピークだと思うけど」


少なくとも、200年前は冬だからといって雪が降るような寒さにはならなかったはずし、ぶくぶくに着込んで膨れ上がる必要もなかったはずだ。


「それにしても、今日は大変でしたけど、収穫が多かったですね」


「そだね……《飛翔制御》の確立、《孤独の嘆き》の実地検証、魔獣の追い払い、か……」


「元々の目的の素材と食材の採取を忘れてるよ~」


「「…………そういえば、それが目的だった」」


『まぁ、後半の印象が強すぎたからな……』


ナビのセリフが正論過ぎる。


今日の成果を指折り数えていると、『ぱしゃん』と音を立ててナツナツが私の胸に飛び乗った。


「次に使う機会があるか分からないけど、最後に魔獣を追い払った方法、もうちょっと練習しておく~?」


「そうだね…………まぁ、手に負えない数の魔獣が現れたりしたときに役に立つかもしれないから、練習しておこうか。夢茶会で」


先程、小型魔獣たちを追い払うため、川原を火の海に変えた方法。それは至極簡単な方法だった。


まず、私の腕から吹き上がった焔。そして、川を横断するように立ち上がった焔の壁。魔獣たちの中から立ち昇る火柱。

これらは全て、ナツナツの《エラー・オール》による幻覚だ。

ただし、これは視覚のみの幻覚でしかないので、他の五感情報からバレる可能性がある。

特に熱を感じないのは致命的だろう。


そこで、私とナビで《ホット・ウェブ》《ミニ・サイクロン》を使用し、焔の熱と風を再現した。

ここで逃げ出してくれれば良かったのだが、互いに強い団結力を持っていた魔獣たちは、そうなってはくれなかった。

なので、ダメ押しにオズが私の背後でこっそりとベースソードをスレイプナーに変化させ、その武器スキル《ドッペル》を使用した。

《ドッペル》の効果は『闇の分身を作る』だが、込める魔力により本物と同等の外見の分身を作り出すことが可能だ。

そしてその分身は『使用者』の分身に限るものではない。

つまり、オズは魔獣たちの分身を産み出したのだ。


魔獣たちは、団結力の強さにより逃走を踏み留まっていたが、それは逆に『周囲の仲間の行動に引き摺られる』ということでもある。

逃走を始めた仲間の分身を見た魔獣たちは、それに引き摺られて逃げ出したわけだ。


溶岩地帯や砂漠地帯に生息するような、火属性というか熱を好む魔獣でもない限り、魔獣は火から逃げ出す傾向にある。

幻覚でそれが簡単に再現できるなら、利用価値はあるだろう。

…………ちなみに、ナツナツの妖精魔法で、『実際に焼殺できる焔の幻覚』を産み出すことも可能だったりする。《一視同仁》で空間を騙すという反則技で。


この方法だと、熱を加減して追い払うのは難しかったため、今回は選択しなかったが、幻覚を用いることで『延焼を気にしなくてすむ』のは有難い。

『延焼が大きくなると術者が制御不能になる』という火魔法最大のデメリットがなくなるからね。

そういう意味でも、幻覚による焔は練習しておくに越したことはないだろう。


『まぁ、戦力を強化するのも大事だが、もっと大事なことがあるだろう』


「あぁ…………飛行」


『《孤・独・の・嘆・き》だ』


「はい、すんません……」


ちょっとしたお茶目なのに……


そろそろ頭が痛くなってきたので、身を起こす。

どうやら私に、石に枕する生き方は出来ないらしい。枕はやっぱり柔らかい方が良い。ついでに添寝の相手は温かい方が良い。


『よっと』と声を出して身を起こす。

オズも一緒に起き上がるが、まだ疲れているのか、私に寄り掛かったままだ。

いつの間にか飛行ユニットは格納されていた。


「武器スキルだから、感覚的に詳細が分からないのが痛いよね~……」


その通り。だが、ヒントはある。


「《孤独の嘆き》。その効果は『孤独に対する忌避感情を増大させる』で、この影響を受けた者は仲間同士で集まりたがるようになる。

この効果はあくまでも、『無意識』に作用して行動に影響を与えるものなので、意識して離れるようにすることは可能。実際 スレイプニル・ワークゴク戦では、領軍の人たちは最初こそ一塊になったものの、定期的に互いに距離を確認して適正な距離を保っていた」


『ちょっと待て。スレイプニル・ワークゴクのスキル効果と武器スキルの効果が、同じとは限らないだろう?』


「いえ。確かにそうですけど、武器スキルの方の説明に『大罪"悲嘆"の一』とあることから、同一 又は 劣化効果の可能性が高いと思います。スレイプニル・ワークゴクのスキル効果から、武器スキルの詳細を類推することは悪くないかと」


『む。そうか』


まぁ、ナビの疑念は正しいので問題ない。私はうっかりしてたけど。

そんな私のうっかりはバレバレかもしれないけど、表向きはそんな気配を微塵も漏らさず話を続ける。


「どんな追加効果や派生効果が隠れていたとしても、この主効果から逸脱していることはないはず。となると、あの魔獣たちの状態異常…………多分、状態異常だよね、アレ。あれも『孤独を忌避する』効果の一面のはずよ」


「そうだね~……『孤独を忌避する』って、要するに『独りは嫌だ』ってことだよね」


「ですね。魔獣たちはまず『独りは嫌』という動機で一箇所に集まりました。その後、集団行動を取り始めますが、これも同様の動機が原因となります。となると、例えば一体が予想外の行動をして群から突出したため、他の個体がその距離を埋めるため移動し、さらに他の個体も移動し…………を繰り返した結果、群体としては一方向に移動し始めた、とかでしょうか?」


オズが恐らくほとんど信じていない予想を口にする。

議題を進めるには、とりあえず口に出すことが重要なこともあるのだ。

額に張り付いた髪が気になったので、一房摘んで横に避ける。


『だが、それだと追い掛けてくる理由にはならないよな』


「そうなんですよね……」


「魔獣たちはルーシアナを敵として認識してたよね~。逆に仲間として認識してたのは、同種族だけだったのかな?」


「……………………いや、異種族も仲間認識っぽかったよね。私たちが逃げた先に待ち構えてた魔獣もいたし。連携して罠に追い込んでるように感じたけど」


その最たるものは、あまり思い出したくないが、毛虫だろう。明らかに下を通るのを待っていた。

でも、そうなるとちょっと不思議なことが。


「捕食者と被捕食者も普通にいたよね。それなのに仲間認識してたってことは、スキルの効果なのかな? 説明に無いけど」


「「『うーん……』」」


スキル使用者とそれ以外を敵味方で分ける効果があるのなら、その説明もありそうなものだけど。

それとも、連携していたように見えたのがそもそも勘違いなのか?


…………やはりよく分からない。


「…………まず色々考えないで、ひとつずつ潰していこう。仲間同士で集まって一安心した魔獣たちが、動き出すとしたらどんな理由かな?」


「そりゃあ、やっぱり力を合わせて敵を倒しに行くときじゃない? 実際に襲われたし~」


「…………一安心していない可能性もあるのでは。つまり、まだ合流していない個体を求めて移動する、とか」


『動機は『孤独の解消』で共通だが、その方法が異なるということか。ナツナツの場合は『敵に襲われて孤独になることを防ぐ』という積極的行動、オズの場合は『仲間を集めて孤独を解消』という消極的行動』


「うん……」


ナビの説明に、『なるほど』と思いつつも、イマイチしっくりこないのは、魔獣たちと正面から向かい合ったときの違和感からだ。


あの時、私たちに向けられた意志からは、『独りは嫌だ』『独りになりたくない』といった、後向きな感情ではなく、もっと前向きな感情を感じていたからだ。

…………そうだ。《孤独の嘆き》の『孤独』にばかり目が行っていたけど、彼らからは『嘆き』の感情を感じなかった。


私が重要な何かに気が付いたとき――――突如として世界がひっくり返った。

晴天の澄んだ大気に満たされた風景は、薄闇に沈む霧掛かった夕闇に。

心落ち着かせる川のせせらぎは、不安を煽る重苦しい無音へ。

肌を撫でる涼やかなそよ風は、ドロドロと粘っこく体に纏わり付く。

そして、ズシリと空気が重くなったような圧迫感、心臓を握り潰されるようなこの気配には、心当たりがありすぎた。


「スレイプニル・ワークゴクの気配…………!?」


反射的に立ち上がると、オズも同様に立ち上がっており、背中合わせになって周囲を警戒する。

《ロング・サーチ》に反応はない。

ただ、スレイプニル・ワークゴクの気配だけが、全方位から満遍なく、私たちを押し包むように漂ってくる。

本能的に体の芯の方から沸き上がってくる震えを、意志の力で抑え込んだ。

当然これは、流水で体温を奪われてしまったためでは、無論 無い。


……………………………………………………………………………………


無音のまま、十数秒の時が過ぎた。

スレイプニル・ワークゴクの気配は、なおも強くなっている。


……………………ゥゥン


重苦しい沈黙の中、それは何故か、私たちの警戒心に一切の刺激を与えずに姿を現した。

ほんの十数m前方の川底に、遥か上空から一本の円柱が突き立ったのだ。

色は黒。艶やかに光を反射するそれは、私が10人ほど手を繋いでようやく一周できるほどの太さに見えた。


「…………………………………………」


「…………!? お、お姉ちゃん……」


正体が分からず眉を顰めていると、背後にいたオズが袖を引いた。


「な、なに?」


「う、上…………」


「上?」


なんとなく、円柱から目を離した瞬間 動き出すような錯覚に襲われていたため、固定していた視線を上にあげた。


そこには……


「…………うそやん……」


ビックリし過ぎて、言語野が変なところに繋がった。

黒の円柱を上に見上げていくと、途中で節のようにぷくっと膨れ、徐々に太くなりながらさらに伸びていく…………

そうして、ほぼ真上を見上げる程となったとき、ようやくその根元が見えた。


「……………………」


『……………………』


ナツナツもナビも唖然としている。


そこにあったのは、前後に長く伸びた さらに太い円筒。奥の方は霧に霞んでよく見えない。

円柱はもう一本、円筒の逆側から生えていて、木々の向こうに消えていた。

そして、二本の円柱の逆側、円筒の上部から一際太い円柱が伸びており、雲にでも届きそうな高さでこちら向きに折れ曲がっていた。

その背面にたなびくオレンジの鬣には見覚えがある。


「「『「…………………………………………」』」」


それは明らかに大き過ぎるサイズに膨れ上がっているものの、いつかのスレイプニル・ワークゴク、そのものだった。

あの時は頭まで10mくらいだったが、今は倍以上。見上げているだけで首が痛くなる。

そして、血のような紅い瞳で、静かにこちらを見下ろしていた。


「「『「…………………………………………」』」」


思わず揃って無言で固まってしまう。


なかなか判断に困る。

まさかこちらに気付いていないはずも無かろうが、あちらに動きがないのだ。


闘う選択肢はない。

戦闘というものは、対等の存在同士で発生するもので、こんな山みたいな存在が相手では、ただただ一方的な蹂躙となるだろう。どちらが蹂躙するかは言わずもがな。

しかし、不用意に逃げるわけにもいかない。

相手がこちらをどう思っているか分からないが、その行動がきっかけとなって攻撃してくる可能性も否めない。

いやほら、虫が壁にくっ付いている時は特に気にもならないけど、飛び始めた瞬間潰す気になるときとか、あるじゃん?


…………私たちが取れる選択肢は、あちらの気が逸れた瞬間に山中に飛び込んで姿を(くら)ますしかないだろう。

後ろ手に回した腕で強くオズを抱き寄せ、ナツナツにはオズの胸ホケットに入っていてもらう。

そして、チャンスを逃さぬよう、細心の注意を払って状況が動き出すのを待っ


――――――――――――――――!!!!


前兆も予兆も兆候も何一つ無かった……と思う。音も風圧も匂いも。

ただただ視界を埋める存在感と、緊張に一瞬で苦くなった口腔の感覚だけが、ソレを現実足らしめていた。


つまり――――川上から濁流となって流れ来る、莫大量の泥濘である。


「オズ掴ま」


「おね」


ほぼ一本道の素直な形状だったのが、果たして良かったのか悪かったのか…………


素早く濁流に気付くことが出来たのは良かったが、ストレートに進んできた濁流は、一切の抵抗なく速度を上げ続けながら流れてきた。

警戒はしていて、反応速度は及第点だったと思う。

それでも、濁流の速度に対応することが出来ず、私たちは一塊になって泥濘に呑み込まれてしまうのだった…………


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