第158話 ゴーレム娘、未開の山登り
141 ~ 167話を連投中。
1/4(土) 11:20 ~ 19:40くらいまで。(前回実績:1話/17分で計算)
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さて。
ルーカスたちの結婚指輪もなんとか揃い、準備も着々と進行している。
二人にはセイディさんがいないところで改めてお礼を言われたが、あのとき言った通り 飾らない宝石に価値は無い。
お金も貰ったし、気にしなくていいのだが、『もし恩に思うなら浮気したり、喧嘩したりしないでね』と言っておいた。
『当たり前だろ、ば~か』と小突かれたが。
後は、お煎餅の料理教室も開いた。
とはいえ、レシピ自体は簡単な物だったし、参加した女性陣は普段から料理をしている人たちばかりだったしで、一度目の前で作って見せれば、特に苦労することもなく すぐに作れるようになった。
余った時間は、私がセイディさんに干し芋の作り方を教えてもらったりしたので、クエスト報酬をもらうのがなんだか申し訳ない感じになってしまった。
そして、結婚式まで残り約一週間。
万一を考えて、そろそろ外出は控えようと思い、最後に素材収集のためちょっと遠めの山にやって来た。
これには他に『妖精の痕跡を探す』という目的もある。
忘れてませんよね? シャルドさんとの約束ですよ?
これから初めての場所に行ったら、こういう人里離れた所に足を伸ばさないとね。
ライ村の人たちは基本的にここまでやって来ることはなく、周りに集落もない。素材もわんさかあるはずだ。
注意点はほとんど未開の土地に近いので、魔獣なんかもわんさかいることか。
とはいえこの辺の小型魔獣が多く、最も大きいのでも熊くらいなので危険も少ない。
ちなみにこの熊は、ロックグリズリーよりも遥かに弱い種類なので、ランク的にはEランク程度の魔獣だ。
「代わりにという訳でもないけど、虫も多くて快適とは言えないよね……」
「そうですね。わざわざ襲ってくるような虫はいないでしょうけど、条件反射的に毒を吐いて逃げ出す虫とかはいますので、注意しなきゃならないのは普段と変わりありません」
「まぁ、快適に移動できるなら、未開のままになってないだろうしね~……」
『未開のままになっているのは、周囲に平地が少ないことも大きいだろうが…………あ、ルーシアナ。そこ気を付けろ』
「ありがと」
小型魔獣…………蛇が隠れている草むらを、ナビがマーキングしてくれる。
私たちが何かをするつもりはないのだが、不用意に近付くと、勝手に襲われたと勘違いして攻撃してくるので、近付かないのが互いのためだ。
大袈裟なくらいに遠回りして先に進む。
「ナツナツ?」
「ちょっと待ってね…………あっちだね」
そして、ナツナツの指差す方へ進路を微調整。
初めての場所、情報の無い場所では、目的地を決めるのはナツナツの《魔勘》《透視》《遠視》に頼る。
《魔勘》で目的の素材がありそうな方向を察して、《透視》と《遠視》で実在を確認し、そこへ至る経路を導き出す。
当然、こんな山の中を真っ直ぐ行ける訳がないので、時々 軌道修正を掛ける必要がある。
こう言うと面倒そうだが、あるかどうかも分からない素材を求めて、未開の山中を右往左往するのに比べたら、余程ストレスフリーに行ける。
途中で目的外の素材も手に入るし。
「あ!! お姉ちゃん、これ長芋の蔓ですよ。これも採っていきませんか?」
「ん、いいよ」
オズが木に絡まるように伸びる蔓を指差した。
私も知識でしか知らないが、確かこの蔓の先に長芋が埋まっているはず。
ジャガイモやさつまいもを極端にしたように、地中に向かって深く成長するので掘り起こすのが大変だったはずだ。
蔓の根元を追って、慎重に下草を掻き分けていく。
ここで適当にして蔓を切ってしまうと、どこに長芋が埋まっているか分からなくなってしまうので、注意が必要だ。
ときたま顔を見せる虫に嫌な汗を流しながら、なんとか地面を露出させた。
「ナビ」
『《フル・スキャン》』
地中に埋まった長芋の形状を読み取る。
…………どうも石が多かったせいで、ぐにゃぐにゃと曲がりくねりながら成長してしまったようで、然程深くまで伸びていないが、色んなものに絡みつくような形状になってしまっている。
元々無理だとは思っていたが、引っ張って抜けるようなものではないな。途中で折れる。
そんなときはコレ。
「《クリア・プレイト》」
長芋を傷付けないように、円柱状に大地を切り取る。
切り取った大地ごと長芋を引き抜けば、折れる心配など皆無。
そして、大量の水で土を溶かすように洗い流せば、綺麗な長芋が姿を現す。
「こんなもんかな?」
「そうですね。ついでにこの辺も貰っていきましょう」
「それなに~?」
見れば、オズはオズで近くの地面から小さな苗のような物を掘り出していた。
「長芋を栽培する方法は二種類あって、他の芋と同じように種芋を使う方法と、むかごと呼ばれる種のような物を使う方法があるんです。これはむかごが落ちて発芽したものです」
「なるほど」
まとめて[アイテムボックス]に仕舞った。地面に空けた穴も地魔法で塞いでおいたよ。
「でも、あれね……やっぱり虫がひょっこりいるから、気が抜けないね……」
周囲1m程度の《ロング・サーチ》索敵範囲内密度をかなり高くしても、虫のような小さな対象を捉えることは難しい。
遠距離の索敵が疎かになるのもいただけない。
「一応、虫除けは使ってますけど、全く近寄ってこなくなるわけでもないですし、小型魔獣には効かないですもんね」
「贅沢な悩みなのは分かってるんだけどね……」
相手のテリトリーに侵入しているのだ。『寄ってくるな』とは、なんとも傲慢な意見だろう。
「とはいえ、気が滅入る…………」
「まぁ、同感です……」
「同じく~……」
『ノーコメント』
共感できないのはナビだけだが、知らない方がいい。
『せめて一塊になっててくれれば、《ロング・サーチ》での捕捉も楽になるのだが……』
「一塊ねぇ……」
ナビの呟きを、なんともなしに反復する。
習性的に群れないタイプの虫や小型魔獣に、それを期待するのは無理だ。
もし、そんなことをしていたとしたら、イレギュラーな状態に陥っていることの証明でもある。
例えば、繁殖の時期とか、天敵に狙われているとか…………
「……………………そういえば、《孤独の嘆き》の効果は『一定範囲内の生命体の、孤独に対する忌避感情を増大させる』だったよね」
「そうですね。私たちは精神干渉防御スキルがあるので実感として分かりませんが、領軍の人たちは仲間同士でまとまろうとしてましたね。……………………あ」
「マジで? 虫除けに大罪スキルを使用するの? 過剰戦力もいいとこだよ~?」
確かにその通り。
初めての大罪スキルの使用目的が虫除けとは、泳ぎたいからと言って草原に湖でも作るようなものだ。
とはいえ……
「最近はそれなりに抑えられるようになったし、少なくとも採取で立ち止まったら、虫の方からどっか行ってくれそうじゃない?」
「まぁ、そうなるでしょうけど……」
「こんなところに人もいないしさ。試すだけでも」
「いないだろうけどさ~……」
『そんなに嫌か』
「いや、別にそこまで嫌な訳じゃないけど、『出来るかも?』と思ったら試したくなるのが人情じゃない? 大した手間でもないし」
これが技術の、ひいては文明の発展というものである。知らんけど。
「まぁ、試す分にはいいんじゃないですか?」
「分かってると思うけど、最初はホンットに全力で抑えてね~」
『近くに集落がないから他人に迷惑が掛かる可能性は低いが、魔獣を混乱させて良いことはないからな』
三人の回答を待っていると、あまり乗り気では無さそうな口調であるものの、一応のGOサインを貰えた。
まぁ私としても、虫や小型魔獣が嫌なのもあるが、単調な道程にちょっと飽きてきたのもあるのだ。
それに、夢茶会ではちょくちょく発動させてはいるものの、やはり現実でも使ってみたい気持ちもある。
念のため、周囲に虫等がいないことを確認してから、両手を見えるように掲げる。
そこには、深緑色のベースグローブが装着されており、これを《マテリアルシフト》でスレイプネルへとシフトさせる。
手の甲部分に象眼された魔石が闇属性を現す濃紺色に染まると、深緑色の竜鱗が滲み出る夜闇に侵食されていった。
同時に周囲1kmに及ぶ、嘆きのフィールドが形成される。
……………………どうかな?
『ふむ。効果はあるようだな。詳細は分からないが、私たちから離れる方向へ、無数の反応が移動している』
「魔力消費は~…………そんなに多くないね」
「常時発動スキルですからね。低効果で発動させているのもあって、大分軽減されています。…………まぁそれでも、他の常時発動スキルに比べると多いですけど」
それは仕方ない。元々強力なスキルなのだから。
でも、とりあえず……
「しばらくコレで行くよ。異常を感じたら、即キャンセルで」
『それはルーシアナがやるしかないからな?』
「分かってるぅ~♪」
そこから目的地までは、結構快適に進めました。
……………………………………………………………………………………
『チチ…………チチッ、チチチチッ』
『キュイ。キュ……キュイキュイ!!』
『シャ~……』
私たちがソレに気付かなかったのは、一度として《孤独の嘆き》を実感したことが無かったからかもしれない。
『孤独から解放された魔獣たちが、次に何を行うのか』ということに気付けなかったのは。




