第157話 ゴーレム娘、宝石商モドキになる
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元々遅い時間にギルドにやって来たのもあって、農業ギルドで解散したのは、お昼も過ぎて随分経ったくらいの時間だった。
私たちは昼食を食べに出る前に、忘れずに錬金術師ギルドに寄ってノーラさんたちに頼まれたアイテムを納品する。
『いや、忘れて帰ろうとしたよね~?』
『オズが引き止めなきゃ、また明日だったろうな』
…………忘れずに錬金術師ギルドに立ち寄りました。
「納品をお願いします」
「いいわよ。どのクエストの納品?」
「今 受注している分、全部です」
「早いわね。それじゃここに並べて」
ノーラさんに依頼された分のポーションなどを受付台の上に並べていく。
それらをセイディさんが端から鑑定していった。
なお、常設依頼分は、後日チマチマと納品予定。
「はい。問題ありません。ってか、全部上等品じゃない。さすがね」
「まぁ、教えてもらった橙翡翠の羽根を集めましたからね」
「結構大変でした……」
「そうでしょうね。普段なら冒険者ギルドに収集クエストが出てるから、ここで購入も出来たんだけど、時期がね」
「そういえば出てましたね」
「ちなみに当然だけど、納品して得られる報酬より、購入するために支払う金額の方が多いから」
「報酬の二重取りは出来ないってことですね。当たり前ですが」
セイディさんにギルドカードに記録してもらうと、報酬と共に返却される。
「はい。お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
「それにしても、貴女たちホントに何者なの?」
「なんですか、それは……」
報酬の入った袋を手渡す流れで、両手を掴まれると、そのままぐいっと顔を近付けられる。
「だって、ルーカス君たちに『優秀な冒険者』って聞いて、まぁ『歳の割には』って注釈でも付くのかなぁって勝手に思ってたけど…………
井戸の修理から始まって、これらポーション、さらにさっきの料理……幅広い知識に、それらを適切に扱う技術力。
15や13の女の子が、容易に身に付けられるようなものじゃないわよ?」
「あ~……」
幅広い知識=オズと前々世の記憶のおかげ、技術力=《どこでも錬金》のおかげ。
でも、そんなこと言えるわけもなく。
「まぁ……………………色々あるんですよ」
「もしかして、特別な魔道具でも持ってる『魔具士』だったりするの?」
…………なんですか、『魔具士』って。ロール?
『『魔具士』は簡単に言うと、『闘う錬金術師』だ。戦闘用の魔道具を自作し、それを使って闘う』
『ほら、敵や自分の戦闘スタイルに合わせて、魔道具の微調整も臨機応変に出来るし、魔石だってその場で創れるでしょ? そういう汎用性の高さを生かしたロールだね~』
『セイディさんが言った通り、状況に合わせて適切な判断が出来る豊富な知識量、それを実現させる確かな技術力が必要なロールですね。パーティに一人いると何かと便利ですが、ロール名に見合った実力の人は少ないです』
なんで知ってるんだろ…………?
……………………いや、逆に考えるべきか? なんで私だけ知らないんだろ、と。
『じ~~~~……』っとこちらの瞳を覗き込んでくるセイディさんに、こちらは特に気負いもなく、ぼけっと見つめ返す。
「…………………………………………」
「…………………………………………」
「…………………………………………むぅ。教えてくれてもいいじゃない」
「井戸はたまたま知ってただけで、ポーションは流用できる錬金陣を創ってあっただけですよ。料理は出身地が東方だったから知ってただけです」
「……………………嘘臭い」
嘘だからね。
とはいえ、本当のことは言えないのだから仕方ない。
諦めたように乗り出していた体を戻すセイディさんに苦笑していると、
『グゥゥゥゥ~~~~…………』
あまり可愛くない音が響いた。
私ではない。オズでもない。
「セイディさん…………」
「さっき、お煎餅 結構食べてましたよね……」
「う、煩いわね!! 大人はあれだけじゃ足りないのよ!?」
いや、私はその音に対してツッコミたかったんだけど。
「まぁ、お昼も随分と過ぎてしまいましたからね。いい加減お昼を食べましょうか」
「セイディさん、そこのテーブル使ってもいいですか?」
「いいわよ。私も一緒させてもらっていい?」
「…………別の場所で食べようか、オズ」
「そうですね」
「しくしくしくしく…………」
「冗談ですよ。早く取ってきてください」
「わ~ん、幼女がいじめる~~」
「じゃあ、公園にでも行こうか、オズ」
「そですね」
「ごめんごめん、冗談だからそこで待っててね。帰ったらホントに泣くからね!!」
泣き真似していたセイディさんが急いで昼食を取りに行くのを見送った。
私たちはテーブルに移動すると、一応テーブルクロスを敷いて[アイテムボックス]から今日の昼食を取り出す。
「スープはポトフでいい?」
「はい。メインはどうしましょうか」
「ピラフが食べたいで~す」
「じゃあ、それにしましょうか」
「ナツナツ。野菜も食べなきゃダメだからね」
「分かってる~♪」
三人分の昼食を並べると、ギルドの一角がレストランのような風景に変化した違和感を受けるが、まぁいつものことだ。
飲み物を用意していると、タッタカと足音が響いてきた。
「お待たせ~……ぇええ!?」
そして、テーブルの上を見ると、素っ頓狂な声をあげた。
その反応は予想していたが、敢えて聞く。
「どうしました?」
「『どうしました?』じゃないよ!? なにこの料理!! なんでお皿に乗ってるの!? どこから出したの!! それとも作ったの!?」
「収納魔法に仕舞ってただけですよ」
「その割には温かそうなんだけど!?」
「温め直しました」
これは嘘。
時間操作系は難しい魔法ではないけど、長時間の使用は難しいのだ。
セイディさんをからか……誤魔化していると、オズが軽くお腹を押さえたので話を切り上げる。
「セイディさんもスープ食べます?」
「…………いただきます」
セイディさんのお昼は、野菜のサンドイッチだ。サラダは不要だろう。
「「『いただきます』」」
「い、いただきます……」
私とオズはポトフから、ナツナツはピラフに突っ込んだ。
コンソメでじっくりと煮込まれた野菜は、箸が簡単に入るほど柔らかく、スープがしっかりと染み込んでいる。
お肉はこの前ノーラさんたちと一緒に作ったベーコンだ。なかなか美味しく出来た自信作。
噛み締めると溢れるスープが、また違ったアクセントとなって楽しめる。
「おいし……」
「ですね」
「ホントに美味しそうに食べるわね~、貴女たち。…………え、なにこれうま……!!」
苦笑しながら一口スープを啜ったセイディさんだが、眼を剥いて驚く。
「ふふん♪ オズの料理の腕を嘗めてもらっては困りますね」
「なんでルーシアちゃんが自慢気なの。まぁ、確かにプロかと思うくらいだけど」
「セイディさん。お姉ちゃんだって負けてませんからね。私は設備が整っている場所でならそこそこ出来ますけど、お姉ちゃんは設備がなくてもしっかりした料理が出来るんですよ」
「いや同じように習ってるはずなのに、私 オズに全然敵わないし。オズの方がすごいから。ほら、あーん」
「あーん。ありがとうございます。でも、家庭的な温かさみたいなのは、お姉ちゃんの方が出てると思いますけどね。はい、あーん」
「……………………突然イチャつかないでくれませんかね」
おっとうっかり。いつもの調子で食べさせっこしてしまった。ナツナツにまでやらなくてよかった。
突然のイチャつきを見せられてしまったセイディさんは、『ポトフが甘くなったわ……』と複雑な表情で固まっている。
「そういえば、お煎餅の話になる前も軽くイチャついてたわね…………まぁ、仲悪いよりいいけど。ちょっとそのピラフもちょうだい」
「どうぞ。…………もし欲しいなら、一食分出しますよ?」
「…………………………………………いえ、遠慮しておくわ。さすがにそれは食べ過ぎ」
言われてみれば確かに。元々自分の昼食を用意してあるもんね。
ちょこちょことセイディさんにつまみ食いされながら昼食が終了した。
「「「『ごちそうさまでした』」」」
満腹そうなセイディさんに悪いので、デザートは無しにしておいた。あ、ナツナツの分はあるよ。
「ふぅ。もう貴女たちが何しても驚くのはやめておくわ。キリがないし」
「失礼な」
「だって、まだ帰るまで半月はあるでしょ? まだまだびっくりさせられそうな気がするのよね」
「むぅ」
私とセイディさんが話している間に、食器類はオズが片付けてくれた。
そして、セイディさんは受付に戻る。
「それじゃ、今日はそろそろ帰りますね」
「えぇ。今日はありがとうね。お煎餅とかお昼とか」
「料理教室の準備が出来たら教えてください。またポーションでも納品に来ますので」
「助かるわ、ホント。連絡するからよろしくね」
「では」
「さようなら」
オズと一緒に手を振ってセイディさんと別れ
「あれ? なんでルーシアがこんなところに?」
「いや、『最近は錬金術師ギルドのクエストをしてる』って言ってたじゃないか」
「そうだったっけか?」
別れようと思ったら、出入口から男が二人入ってきた。
ルーカスとキリウスさんだ。
「こんちは~」
「こんにちは。ルーカスさんたちがここに来るなんて珍しい…………と、言っていいんでしょうか?」
オズが断定できずに言い淀む。
確かにルーカスたちが、普段どういう行動をしているかなんて知らないものね。
ルーカスたちは、そのまま真っ直ぐこちらへ近付いてくると、受付に片肘を突いて体を寄り掛からせる。
「言ってもいいぞ。確かに錬金術師ギルドなんて、殆ど来る理由がないからな」
「消費アイテムの類は冒険者ギルドで買えるしね」
「それで? あんたたち何しに来たのよ」
セイディさんがルーカスたちに声を掛ける。
まぁ、ルーカスたちが錬金術師ギルドにクエストを受けに来るわけはないのだから、何かを依頼しにきたのだろう。
もしかしたら、私が手伝ってあげられるかもしれないので、帰らずに聞いてみることにする。
問われたルーカスは、ちょっと気不味そうに言葉を選び、しばし言い淀む。
「あ~~……えぇ~~、と…………あのなぁ…………」
「…………………………………………」
「あぁ~~………………えぇと~~…………あ~~…………」
「そろそろぶん殴るけどOK?」
「ちょ、ストップストップ!! いきなり襟首掴まないでください!?」
セイディさんの堪忍袋の緒は、随分と劣化しているらしい。
なかなか話し始めないルーカスの襟首を掴むと、威圧するように拳が高くあがった。
「ほれ。早く話しなさい」
「セイディさんはもっと男の機微と言うものを知って欲しいな………… そんなだから、結婚できないんだよ (ぼそっ)」
「ぁあああん?」
「いえ、説明させていただきます……」
…………まぁ、いいや。
セイディさんの射程範囲から逃れたルーカスは、言いにくそうに説明を始める。
「いや、なんというか…………簡単に言うと、『宝石無い?』って話なんですが……」
「宝飾屋行け」
「無かったからここに来たんです!!」
セイディさんが受付台の下から取り出した何か固そうな物を振りかぶると、ルーカスはキリウスさんの背後に隠れた。
弟を盾にするな。
「ちょ、こら、私を盾にするのはよせ!!」
「おらぁ!!」
「ぐはぁ!?」
……固くなかったらしい。
勢いよく壁に叩きつけられたそれは、鋭角に反射してルーカスの後頭部に命中した。
満足気に頷くセイディさんに、私の足下に転がってきた何かを拾って返す。
ルーカスとセイディさんに任せると話が進まなそうなので、キリウスさんに聞くことにする。
「なんで錬金術師ギルドに宝石を探しに?」
「それがな……ルーカスたちが結婚指輪を用意してなかったのは覚えているだろ?」
「えぇ。お二人で探しに行くと…………無かったって言いませんでした?」
「言った」
「…………どうするんですか」
「というか、もうそろそろ半月も経つのに、まだ用意出来てなかったんですか……」
問題は簡単に理解できたが、解決策が見つからないパターンだ、コレ。
ルーカスを見ると、さすがに落ち込んだように立ち上がり、
「いや、すぐに頼みに行ったんだがな。俺らに買える宝石が売り切れてたんだ。ただ、今日辺りに入荷するって話だったんだが……」
「仕入れられなかったらしい。どうも全体的に供給不足らしくて、ここみたいな小さな村の宝飾店には回ってこないんだと言っていたな」
「なら、王都かテモテカールに行くしかない?」
「それも考えている。だが、天然の宝石ではなく、錬金術師が創る人工宝石でも良いのは多いからな。そう思ってまずはここに来たわけだ」
「そんなわけで、セイディさん。宝石を創れる錬金術師に心当たりはありませんか?」
「う~~ん…………リリアナちゃんの晴れ舞台だし、なんとかしてあげたいのは山々なんだけどね。この村にそんな錬金術師がいたら、多分宝飾店に就職してる。若しくは、王都にでも行ってる」
「ですよね……」
「ぬあ~~!!!! 王都行くしかないか~~……!!」
セイディさんの答えに、ルーカスが頭を抱えた。
…………ここで、ちょいちょい、と袖を引かれる。オズだ。
『どうしたの?』
『いや、え~と…………手伝います?』
『どうやって?』
『案①。代わりに買ってくる』
『その場合、ケンタウルス型下半身部パーツがあるから、彼らより遥かに早く往復することが可能だ。問題は、そのあまりの速さをどう誤魔化すか、といったところか』
『案②。私たちが創る』
『錬金レシピはある。後は素材だが、無色透明のダイヤモンドが一番楽だろうな。問題は出来上がるものが、ある意味凄すぎるものばかりということか』
『あれ……? 私、もしかしてすっごい簡単にお金持ちになれる?』
『なれると思いますが、宝石を大量生産できる小娘なんて、鴨がネギどころか、生産・流通・販売経路まで用意して待ってるようにしか見えませんよね』
『わーこわい』
そうならないように冒険者ランクを上げてるところですからね。
改めて目立たないように気を付けないと。
『でもそうなると、案①で協力するくらいしかないかな? 時間は、まぁ、適当に潰せばいいし』
『いえ、実はもうひとつ案はあって、そっちが本命かと』
『あ~、オズ 言っちゃダメ~』
『ふむ。案③。この前レイミーで拾った宝石を提供、だな』
『あ、そういえば、そんなのもあったね』
即行で[アイテムボックス]行きになったから忘れてた……
『材質的にもそんなに珍しい宝石ではないはずですし、サイズも小さいので高過ぎることもないかと』
『まぁ、ルーカスがどのくらいの予算を持ってるかは知らないけどね』
足りなかったらトイチで貸したげよう。トイチって知らんけど。
話がついたので、セイディさんにお説教喰らってるルーカスに声を掛ける。
「ねぇ、ルーカス」
「はい…………はい…………私が悪かったです…………はい…………」
「……………………えぃ」
「ぉぐはぁあ!? な、何すんだ、ルーシア!?」
脇腹を突付いたら、思った以上にクリティカルヒットした。
脇腹を押さえて飛び退いたルーカスに、軽く手をあげて謝罪する。
「ごめんごめん。それで宝石の件だけど、私がなんとかしてあげようか?」
私がそう言うと、真っ先に反応したのは何故かセイディさんだった。
「ちょっとおぉ!? 貴女たち宝石まで創れんの!?」
「もう驚くのはやめたんじゃないですか」
「これが驚かないでいられるか!! 宝石の作成なんて最低Bランクでもなければ無理だからね!?」
受付から身を乗り出し、こちらを掴まえるように伸ばされた手を躱す。
セイディさんはバランスを崩して受付から落ちかけ、キリウスさんが慌てて支えた。
「お、落ち着いてください、セイディさん!!」
「これが落ち着いてられるか!!!! 何なのこの子達!? とてもその辺の幼女には見えないんだけど!!!?」
「「「「『『幼女じゃないからね』』」」」」
ナビたちのみならず、ルーカスたちともセリフが被った。
とりあえず、セイディさんの興奮を落ち着かせるため、これを言おう。
「違いますよ。この前、外に採取に出掛けたんですけど、その時に岩影に落ちてた宝石箱を見つけたんです」
「…………………………………………マジで?」
「マジで」
まぁ、半分くらいは。
ちなみに、街や村の外で誰かの落とし物を拾った場合、その所有権は拾った者にある。採取なんかと考え方は一緒だ。
セイディさんが暴れるのをやめると、重心が上半身に偏ったのか、キリウスさんが支えきれずに手を滑らせた。
「んべ!!」
「のあぁぁぁぁ!? すみませんすみません!!」
慌てて抱き起こそうとするが、足先が受付に引っ掛かってて上手くいかない。
まぁ、セイディさんはキリウスさんに任せよう。
私はルーカスを手招きすると、[アイテムボックス]から例の宝石の入った箱を取り出す。
蓋を開けると、様々な色の宝石が綺麗に整頓されている。
一応 箱の中を小分けして、互いにぶつからないようにはしたのだ。もちろん緩衝材代わりに綿を敷き詰めている。
「どう?」
「い、いや、『どう?』とか言われてもだな…………疑うみたいで申し訳ないんだが、これホントに宝石か?」
「宝石なのは本当だよ。鑑定魔法で確認したし。まぁ、隠蔽魔法とか偽装魔法とかが掛かってたら、分からないけど」
「そりゃそうだが……」
まぁ、無いけどね。
適当にひとつ摘み上げて、光に透かしてみる。
サイズはそれこそ小粒と言っていい程度の小さなものであるものの、透かして見える光景に一点の曇りもなく、不純物やクラックが一切存在しないことが分かる。
「私もよく分からないんだけど、不自然なほど高い透明性は、人工宝石のよくある特徴らしいよ」
「へぇー…………そんなの見て分かるもんか?」
「ふふふ。よく分からないって言ったじゃん」
「……あぁ。確かに……」
ルーカスもひとつ手に取って光に透かしているが、私と同じように首を傾げている。
「こっちに鑑定用の魔道具あるから使ってみる?」
ようやく体勢を整えたセイディさんが、受付台の向こう側を指差しながらそんなことを言った。
「ほら。ここ錬金術師ギルドだから、錬金術師が創ってきたアイテムを鑑定するための魔道具があるのよね。偽装系が掛かってても分かるわよ」
そういえば、テモテカールでも冒険者ギルドのそれで、私の《ディスガイス》がバレたんだよね。あっちは『分析魔道具』って言ってたけど。
ちなみに、先程私が納品したポーションにこの鑑定魔道具を使用してなかったのは、高々ポーション程度に偽装魔法を掛けるメリットが少ないのと、鑑定対象が慣れたアイテムだからだろう。
ルーカスが持っていた宝石を受け取ると、セイディさんは受付台に乗った鑑定魔道具をこちら側に向け、鑑定を開始する。
◇◇◇鑑定結果◇◇◇
種類:宝石
名称:キューブライト・カッツェ
品質:最良 (98)
効果:特になし
付与効果:超高純度、超硬質、安らぎ
偽装:無
「……………………本当に拾得物?」
セイディさんが『盗んでないわよね?』とでも言いたげな疑惑の瞳でこちらを見るが、なんとも酷い誤解だと言わざるをえない。
拾ったのは間違いないのだ。場所と物が特殊過ぎるだけで。
「本当ですよ。捜索クエストなんて出てないでしょう?」
「まぁ、そうだけど……」
「それに最初に拾った時は、全部まとめてごっちゃになってたから、元の持ち主にとって大した物でも無かったんじゃないですか?」
「いやいやいや…………確かに小さいけど、もしこれ全てが同等以上の品質なら、一財産あるわよ…………」
「へぇ~……」
全て同等の品質だと思われるので、つまり一財産ありますね。ところで、一財産っていくら?
しかし、ちょっとした勿体ない精神で、何でもかんでも拾うもんじゃないですね。思ったより大事になってしまった。
いや、[アイテムボックス]にいくらでも入るから、とりあえず放り込む癖が、最近ね?
『私たちが言うのもなんだけどぉ~……』
『全部出さなきゃ大事にはならなかったな……』
『ほら、リリアナさんに合いそうな色のを、五個くらい出すのに留めておけば、ですね……』
……………………過ぎたことは仕方ない。あぁ~仕方ない。
というわけで、改めてルーカスに宝石箱を差し出す。
「ま、まぁ、これで宝石であることは確認できるようだし、これでよければ売ってあげるよ。あ、でも相場が分かんないか」
「いや、私が教えてあげるわよ……ここ、商業ギルドも兼ねてるし」
「「…………………………………………」」
ルーカスとキリウスさんはしばし顔を見合わせる。
「本当にいいのか? そう簡単には手に入らない代物だぞ、多分」
「あぁ。同じ金額を出しても、それより低品質で大きな物は手に入るかもしれないが、再び同じものを手に入れるのは難しいだろう」
「いいよ。飾らない宝石に何の意味があるのさ」
私の言葉に二人は呆れたような表情を浮かべ、緊張を抜くように一息突いた。
「なら、売ってもらうぜ。二つでもいいか?」
「どうぞどうぞ」
「取り置きしてもらうことは可能かな? いつになるか分からないが、何かの記念にフェリスに贈りたい」
「いいですよ」
ルーカスとキリウスさんが、『リリアナにはどっちが似合うと思う』とか『ペアにするなら同色の方が……』とか楽しげに悩み合うその背後で、新婚 (予定) の幸せオーラに当てられたセイディさんが、なんとも言えない表情をしていたのは秘密だ。




