第155話 ゴーレム娘、ライ村農業ギルドへ行く
141 ~ 167話を連投中。
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三日後。
もういい加減、時間稼ぎはいいだろうということで、ギルドに向かう。
今日の目的は、まず農業ギルドにする。
ついでで行くつもりでいるから毎回忘れるのだ。うん。
『いや、ルーシアナがうっかりし過ぎているだけだろう…………』
『ナビ!! しっ!!』
…………ナビゲーターのふたりがヒドイ。
すでに新しい空間転移施設であるレイミーでは、水田の準備も終わっており、後は苗を植えるだけの状態になっている。
施設の修復と並行して進めていたらしい。
オズは何も言わないが、呆れられてはいないだろうかと、ちょっとビクビクしています。
『いえ、呆れたりはしてないですけど……』
まぁそうだとしても、せっかく鈍人形たちが整備した土地を、意味もなく放置し続けるのも気が引ける。
この三日間は、錬金素材を求めて山に草原に色々な場所に出掛けていた。
お陰でテモテカール程とは言わないが、周辺の地理は大体分かるようになった。
今日は早朝の忙しそうな時間帯を避けたので、少し遅い時間にギルドに到着する。
「セイディさんはいるかな?」
『むしろ、彼女では無い方がよいのでは?』
『セイちゃんとムダ話してるうちに、本題を忘れる傾向にあるよね~』
『セイちゃん…………』
その意見は確かにその通りだけど、話すなら慣れたセイディさんの方が気楽。オズも慣れたようだし。(重要)
いつもと同じように、冒険者ギルドの方から建物内に入る。
…………いたし。
今日も今日とて、暇そうに受付台に頬杖を突いているセイディさんと目があった。
あれは本当に仕事中なのだろうか。
私たちを見付けたセイディさんは、嬉しそうな表情をして身を起こすと、こちらを手招きした。
その姿は、飼い主を見つけた子犬……と言いたいところだが、実際のところは……
「「おはようございます」」
「おはよ~♪ いや~、なかなか来てくれないから寂しくて泣いちゃいそうだったわ~」
「……………………その心は?」
「暇潰しの相手キターーーー!!」
「まぁ、いいですけど」
オモチャを見付けた狼かな。
暇なら別の仕事を探せばいいのにとも思うが、受付を無人にするわけにもいかないだろうから、仕方無いのかもしれない。
「今日は何の用事?」
「農業ギルドで種か苗を購入するのと、錬金術師ギルドで依頼品の納品です」
「…………農業ギルド?」
「はい」
セイディさんは、大袈裟なくらいはっきりと首を傾げてみせる。
「えっと…………もしかして、ここで農業でも始めるのかしら?」
「いえ、違います。ちょっと私たち、家庭菜園のようなものをやってますので、遠出したときは珍しい種とかその土地特有の種とか買うんです」
「そうなんだ」
「…………あれ? もしかして、農業ギルドでそういうの購入するには、何か資格とか必要ですか?」
農家じゃないと購入出来ないとか。ありえそう。
そんな不安を知ってか知らずか、セイディさんは軽く手を振る。
「あ、違う違う。在庫に影響が出るほど大量にでもなければ、誰でも購入は可能よ。ただ、家庭菜園レベルで楽しむなら、雑貨屋とかで売ってるので十分だから、不思議に思っただけ」
「あぁ…………ちょっと、プロっぽい道具の方が好きなだけです」
「なるほど。いるわよね、形から入る人」
「うぐ……」
そう言われると、反論したい気持ちがむくむくと沸き上がってくるが、雑貨屋で売ってる物は素人でも育てやすい品種ばかりなので、オズのお眼鏡に敵わないので仕方ない。
セイディさんはその説明で一応納得したのか、『よっこらせ』っと声を付けて席を立つ。
「じゃあ、農業ギルドの方に来てくれるかしら。二つ向こうだから」
「分かりました」
セイディさんは職員フロアから最短ルートで向かうので、私たちは錬金術師ギルドを経由して農業ギルドに向かう。
特に誰にも遭遇することもなく、農業ギルドに到着した。
農業ギルドは、錬金術師ギルドよりもギルドっぽいギルドだった。
具体的に言うと、窓と扉を除く全ての壁には、本棚が並び、その棚には整然と本が並んでいる。
そして、それらを読むためのテーブルや書き写すための設備も充実していて、多くの人が『あーでもない、こーでもない』と議論を闘わせていた。
錬金術師ギルドこそ、こうあるべきではなかろうか。
ちなみに、テモテカールの錬金術師ギルドには図書室があって、議論こそしていないが、似たような感じになっている。
表に置いてあるのは、基本的な参考書だけだ。
その熱気に若干怯んだものの、意を決して受付へ移る。
「いらっしゃ~い」
「どうもです。ここは人が多いですね……」
「農村だからね。ライ村はここが一番の主力よ」
なるほど。
「それで、何が欲しいの? 一応、メニューはこちら。無いのは要相談」
「ほら、オズ」
「え~と……」
後ろでおずおずしてるオズの背中を押して、セイディさんの前に出す。
「あら? オズリアちゃんなの?」
「えぇ」
オズはセイディさんに渡されたメニュー表とにらめっこしつつ、それぞれの特徴を確認していく。
それに対し、ほとんど淀みなく答えるセイディさんは、確かにギルドの受付嬢だった。
私は暇なので、ぼんやりとギルドの中を見渡している。
『何の話をしてるんだろね~』
『ん?』
『いや、ほら。テーブルに集まってる人たちはさ~』
『あぁ……』
確かに随分と白熱した議論を交わしている。
周りも煩いので詳細は分からない。
『う~ん……………………分からない。ナビは?』
『私か。米がどうこう言っているが…………………………………………ふむ。どうやら、毎年必ず売れない品種の米が出来るらしい』
『そうなの~?』
『さすが。でも、そのダメな米を次の年に蒔かなきゃ、その内 出てこなくなりそうだけど……』
『普通はそうだな。もしかしたら、周辺にそのダメな品種の米が生えていて、毎年花粉が混ざるのかもしれない』
気になったので、近くの席に移動して耳をそばだてる。
「あれ? この前の錬金術師ちゃん。どうしたい、こんなところで」
即行見付かった。しかも、私を知ってるっぽい。
「え~と……この前修理した、井戸の依頼人さんですか?」
「そうそう。さすがにあんな大人数の内の一人じゃ覚えらんねぇよな」
「すいません」
声を掛けられたのに、こっそりと盗み聞きしているわけにもいくまい。
椅子を持ってテーブルの端に加えさせてもらう。
「それで、何の話をされてたんですか? あ、聞いても大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。むしろ、新しい意見を聞きたい」
リーダーらしき男性の言葉に、他の人も頷く。
なら、いいかな。
「まぁ簡単に言えば、品種改良の話なんだがよ。ライ村の主な農作物が米なのは知ってるかい?」
「えぇ。米と栗が特産品、みたいなことを聞きましたけど」
「おぉ。大体あってる。
でな、高値で売れる良い米っていうのは、粘り気の少ないパラパラとした米でな。パエリアとか焼き飯、リゾットなんかに合う米なんだ」
「あぁ~、なるほど」
確かにその辺の料理は、粘り気が強くなるとあんまり美味しくない。
「で、そういう米は基本的に長粒種っていう細長い米なんだよな。例外もあるが。逆にダメな米は短粒種っていう。
ところが、だ。そういう長粒種だけを育ててるはずなのに、必ず一定割合で短粒種が生まれるんだよな」
「なるほど。周辺の草原とかに、その短粒種が生えてるとかですか?」
「普通に考えればそうなんだろうが、米は自然には自家受粉で実を付けるから、それは考えにくいんだよな」
「そうなんですか……」
『ナビ、ダウト~♪』
『い、いや、個々の植物の受粉方法なんて知らないぞ!?』
ナツナツがナビを弄るが、知ってたら知ってたで驚きだよね。
「昔は長粒種だけを選んで育てていれば、いずれそれだけになると思っていたらしいんだが、それはどうにも頭打ちでな。根絶とまではいかないのさ。
それで、原点に立ち返って、異なる品種の長粒種同士を掛け合わせてるんだが、上手くいかなくてなぁ……」
「なるほど~…………とてもじゃないですけど、アイディアなんて出そうにないですよ?」
「あ、やっぱり?」
『なんだか申し訳ないな』と思いながら言ってみるが、相手もそこまで本気で意見を求めていたわけではなかったようだ。
「う~ん……逆にというか、短粒種は出来るものとして、自分達で消費したり、新しい料理でも作ってはどうですか?」
「とはいってもなぁ……」
「俺たち料理人じゃねぇし……」
「お嬢ちゃん、なんか料理のアイディアない?」
あ、そういう流れになるか。
「ちなみにその短粒種は、今ありますか?」
「え? まぁ、あるけど……」
「嬢ちゃん、料理人だっけ?」
「料理も出来ますよ。オズも」
「なんですか?」
不意に後ろから声が降ってくると、椅子の背もたれ越しに抱き付かれた。
言わずもがなのオズリアちゃんです。
「お姉ちゃん…………妹のこと放置して楽しそうですね?」
「い、いやいやいや…………私はオズが気兼ねなく選べるように気を利かせてだね……」
「ふーん…………」
「なぁに? 寂しかった?」
「……………………ぅん」
「……………………ごめんなさぃ」
「冗談です」
とてもそうには思えなかったのだが……
最近、オズは不意に拗ねたり我が儘を言ったりするので……………………可愛くて仕方無いですね、もう致命的です、私。
椅子に座ったまま、右手を伸ばしてオズの頭を撫でてやり、手を引いて膝の上に乗せてあげた。
とりあえず、応急措置はこの辺でいいだろう。家に戻ってから、本腰を入れて機嫌を取ることとしよう。
「それで、どこから話を聞いてた?」
「『あれ? この前の錬金術師ちゃん』辺りからです」
「最初からじゃねぇか!!!!」×たくさん
何故か私じゃなくて、周りにいた男の人たちが突っ込んだ。気持ちは分かる。
「私、耳がいいので」
ホントは、ナツナツかナビ経由で聞いてたんだろう。多分。
「まぁ、それなら話は早ぇな。なんかアイディアあるかい?」
「そうですね……」
オズは人差指を頬に当ててしばらく考え込む。
ちなみに、気付いたらセイディさんも隣に座っていた。
「まず、品種改良に関しては地道にやるしかないですが、短粒種の特徴が消えないというのは、やり方が間違えてるんじゃないですかね? 詳細を聞かないと、断言できませんが。
それと聞いていただけですが、もう随分と交雑が進んでしまったようなので、見た目に拘らずに食味で品種改良を進めた方がいいと思いますけど」
「お? おぉ……思ったよりしっかりとしたアドバイス……」
「お、お嬢ちゃんは品種改良に詳しいのかい?」
「知識だけなので、実際には役に立たないかもしれませんが」
知識はどうだか知らないが、オズの《ファーマー》なら品種改良できることは確認されている。というか、スキルに《品種改良》がある。
オズの発言を聞いた男性たちは、目を剥いて驚いていた。……見た目だけなら10歳にも満たないのだから当然か。
男性たちが驚いている間にオズの話は進む。
「次に短粒種のお米を使った料理ですけど、簡単なところでお煎餅ですかね。まぁ、お煎餅と言うのは、厳密には『穀物粉を成形して焼いた物』を指すので、長粒種でも小麦粉でも出来ますけど」
「オズ…………しぶいね……」
「お煎餅? …………美味しいの?」
「たぶん……」
最初に食い付いたのは何故かセイディさんだった。
セイディさんは、男性たちに視線を送る。
「問題のお米は持ってるんでしたっけ?」
「セイディちゃん……食欲にまっしぐらだな……」
「太るぜ……」
「煩いです。それに、上手くいけば安く買い叩かれてた分のお米が収入源になかもしれないんですよ? ここで意気込まないで、いつ意気込むんですか」
「うっっ……確かにその通りだが……」
セイディさんがそれっぽいことを言っているが、本音は食欲のような気がする。
男性たちが差し出すお米を取り上げたセイディさんは、ワクワクした表情をこちらに向けた。
「それじゃ、試作と参りましょうか」
「セイディさん、仕事はいいんですか……?」
「大丈夫大丈夫。ギルドに簡易キッチンがあるから」
まぁ、本人が大丈夫というなら何も言うまい。
オズを引き連れてキッチンへ向かった。




