第154話 ゴーレム娘、ヘタを確認される
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意外に健脚だったギルド長の移動速度に合わせたが、途中で先程の男性たちに追い付くことはなかった。
いや、井戸小屋に戻ったとは限らな
「あれ? ギルド長。どうしましたか?」
戻ってました。
さらにその周りや中には、十数人くらいの男女がいて、嬉しそうに農具や小屋を確認していた。
「いやなに。実を言うと、儂もさっき完了報告を受けたばかりだったのだよ。だから、結果を確認しに来たのさ」
「そうでしたか。では、じっくり見てください。驚きますよ!!」
「なんでお前が自慢気なんだよ」
「い、いいじゃねぇか」
機嫌良くじゃれ合う男性の背後にある井戸小屋は、骨組みから全体的な歪みを修正し、その結果生じた隙間を新しい建材で埋め、扉や窓の歪みも一から作り直してある。
また、硬化させた地表面は緩く傾斜を付け、中で水を溢しても外に流れ出るようにしてある。
もちろん、パッと見 補修したように見えないように、補修箇所が周囲から浮かない色合いに調整したりもしている。
「セイディくんは井戸を頼む」
「分かりました」
ギルド長の指示でセイディさんは井戸に向かい、ギルド長は残って男性たちから話を聞いている。
「それで、気付いた範囲でいいから直った部分を教えてもらえるかい?」
「いいですよ。まずはやっぱり扉でしょう。元々、立て付けが悪くて、開閉すると『ギギギギ……』と音がする上、ドア枠にぶつかるんで、少し持ち上げながら閉めなきゃならなかったんですが、ほら、もうこんなスムーズですよ!!」
「ほぅ…………立派なものじゃな」
ギルド長はそう言いながら扉だけでなく、周囲の壁や柱なども丹念に確認していく。
「扉だけかと思ったが、しっかりと小屋の骨組みから補強されているね。これならまた同じことが起こることはそうそうなさそうじゃ」
「おぉ!! それは嬉しいですね!!」
その辺はオズがやってた場所ですね。
『だって、大分歪んでたんですもん……』
『いや、怒ってるわけじゃないんだよ?』
『ぷりぷりしながら直してたなぁ』と思っただけで。オズ的には、そもそもの設計が、不合格な井戸小屋だったらしい。
その後、差し換えた壁 (元々穴が空いてた部分から派生して見つかった) や硬化した床 (足を踏み入れた瞬間気付かれた) 、傾斜 (男性が嬉しそうに紹介した) など、大体全て見付かってしまった。いや、もう別にバレてもいいんだけど。
一通り小屋を確認した頃、井戸の確認が終わったセイディさんが戻ってきた。
「終わりました」
「どうだったね」
「ケチをつける余地も無いですね。ほとんど別物ですよ」
「別物」
「もちろん上位互換」
「上位互換」
ギルド長がセイディさんの言葉を繰り返すだけのシステムと化した。
そして二人は、一度こちらをチラ見すると話を続ける。
「元々、素掘りの土壁を固めた簡単な井戸だったはずですが、中に井戸側を作って崩れないようになってますね。
元々の土壁との間もしっかりと埋め戻してるようなので、地面が陥没する心配はなさそうです」
「底の砂利はどうじゃった」
「問題ないです。全力で揚水しても、巻き上がる気配もないですね。地下水の湧水速度も速いので、『新品の砂利でも詰めたのか』って言いたいくらいです。ちなみに、配管もバッチリです。構造的にも素材的にも品質的にも」
「なるほど」
もはや驚くのも疲れたといった気配をさせながら、最後に水槽近くの床を見る。
そこには、元々存在しなかった設備が設置されていた。
つまり、私たちの悪ノリの集大成。
「で、これは?」
「洗い場ですね。水槽に繋がる送水管から分岐する形で、こちらに水が出るようになってます。普段は水槽の蓋を開けて、桶で汲み出していたらしいですが、これで作業が楽になりますね」
「水は傾斜で流れて、外の側溝に通じてるのか。段差や溝もあるし、中や外が水浸しになることもないね」
「えぇ」
お互いグリグリとこめかみを押さえると、揃ってこちらに振り向く。
その二人の視界に写った私たちは、主に女性陣に囲まれてオロオロしている姿だっただろう。
「本当にありがとうね、お嬢ちゃん」
「こんなちっちゃいのに優秀だね~」
「でも、どこの子? この村の子なら見覚えくらいありそうだけど……」
「あ、いえ、私たちは……」
「あ、うちの子が言ってたルーカスが連れてきたって子じゃないかい?」
「あら、残念。それじゃ、そのうち帰っちゃうのかぁ~」
「規格外品だけどいるかい? さっき収穫してきたヤツだから新鮮だよ」
「あ、ありがとうございます」
当の私たちが、セイディさんたちの検分に一切の口を挟まなかったのは、こんな感じになってたからでした。
そりゃあ、ギルド長とギルド員の後ろに見知らぬ誰かがいたら、そいつが『依頼を受けた錬金術師かな?』くらいは思うよね。
問われたら『違います』と言うのもおかしいし、『まぁ、はい……』と答えたらこうなりました。
「やれやれ……みんな。私たちは引き上げるから、その子らをそろそろ解放してはくれんか?」
「あら、そうなの?」
「お疲れ様です」
「ほれ、これも持ってきなさい」
最後に両手に抱える程 大きな袋を渡されて、セイディさんたちの方へ押し出された。
「大量ね……」
「セイディさんもいります?」
「家にあるからいい」
ですよねー。
ちなみに[アイテムボックス]に仕舞わないのは、『収納魔法使あるなら、入るだけ持っていきなさい』とか言われそうな雰囲気だからです。
戻る前にギルド長が彼らを集めると、
「今回はこの子らが気を利かせてやってくれたが、本来は別口で依頼を出すような内容だ。分かっていると思うが、他の錬金術師たちに同様のサービスを求めんようにな」
「分かってますって~」
「むしろ、今から依頼を出しましょうか?」
「いや、それはいい。では、諸君。大切に扱ってくれよ」
「了解です。ありがとうございました~」×たくさん
多くの村人に見送られながら、ギルドに戻ったのだった。
「ふぅ…………やれやれ、久しぶりに疲れたわい」
「同じく。ちょっと飲み物用意してきますわ」
比較的大きなソファに身を沈めたギルド長が深いタメ息をつくと、セイディさんも同じような表情をして隣の部屋へ入っていった。
ここはギルド長室。
ギルドに戻った私たちは錬金術師ギルドではなく、ここに案内されたのだ。
さすがにギルドと井戸の間を1.5往復もしたので、そろそろ日も暮れ始めている。
「さて、長々と付き合わせてしまってすまなかったね。井戸修理の依頼は文句なしに合格じゃよ。
ただ、先程村人にも言ったが、あまりサービスし過ぎないようにな。それが普通だと思われてしまうと、それが出来ない新人錬金術師が不当に評価されてしまうからね」
「はい。すみません」
「とはいえ、絶対にやるなというわけではない。報酬など適正に評価するから、一言相談してほしいというだけじゃ。君らにとっても損はないと思うよ」
「ははは……」
言い含めるようなギルド長の言葉に、私は乾いた笑い声を返すしかない。
ギルド長は忘れているのか、ヘタな冗談だと思っているのか知らないが、アレは私たちにとっての暇潰しでしかなかったので、その発想に至れない可能性が高いのだが。
セイディさんは戻ってくると、それぞれの前にカップとお菓子を並べてくれた。
そして、本人もギルド長の隣に座る。
「しっかし、驚いたわよ。まさか、あんなにしっかり修理してくれるなんて。いえ、どちらかというと、修理じゃなくてリメイクだったけど」
「そうじゃな……」
「ランクは満たしてたけど、経験は確かに不安だったからね~。最悪、途中でギブアップされる可能性も考慮してたけど、結果オーライってね」
「おいこら」
「おっと、ギルド長。ストップストップ。子供の前で暴力は良くないわ。それに王都に回すより良かったじゃない」
「まぁ、確かにな。でも貴様、減給な」
「横暴だ!!」
再び仲良くじゃれ合い始める二人を放置して、私たちは黙ってお菓子をいただく。
『いいなぁ~……』
『私の分を食べてもいいよ、ナツナツ』
『それだとお姉ちゃんの分が無くなっちゃいます。私の分もあげますから、半分残してください』
『わ~い♪』
『ナツナツ…………もうちょい我慢をだな……』
あ、結果的に、ナツナツが一個分食べることになるのね。
お茶とお菓子を食べ終わっても、ギルド長たちのじゃれ合いが終わらなかったので、仕方なしに声を掛けた。
「え~と……私たち、そろそろ帰ってもいいですか」
「おっと、申し訳ないね。それじゃ、セイディくん。彼女らの評価は最大点を付けてやって、ギルド側からも追加報酬を出してやってくれ」
「了解しました。それじゃ、一緒に戻りましょう」
「え!? …………いいんですか?」
思わぬ報酬につい聞き返してしまった。
「そこは『ありがとうございます』とでも言っておきたまえ。『なら、無しで』と言われたら、キミらが損するだけじゃぞ」
「えぇ!? なら、いただきます。ありがとうございます」
「うむ。代わりと言ってはなんじゃが、この村にいる間は、色々と依頼を受けてもらえると助かるよ。この時期は人手不足じゃからな」
「はは……分かりました」
元々そのつもりだったけど、まぁ、いいか。
セイディさんに連れられて、ギルド長室を後にしたのだった。
錬金術師ギルドの受付に戻ると、この時間帯は冒険者ギルドが忙しいためか、そこには誰もいなかった。
受付の内側に回ったセイディさんを追って、私たちも受付の外側に移動する。
「それじゃ、ギルドカード出して。あ、他に終わってるクエストあれば一緒に受け付けるけど」
「…………………………………………いえ、特にありません」
「…………ホントに?」
「ホントに」
本当は、ポーションとかも納品しようと思ってたけど、井戸修理が早過ぎるというなら、ポーションとかの作成が終わってるのも早過ぎるだろう。
揚水管と同時に作成していたってことになるし。
セイディさんの疑わしげな視線は、素知らぬ顔をしてスルーする。
しばらくそのままでいると、諦めたようにギルドカードの処理を始めた。
『危ない危ない……』
『引っ掛けみたいなの、やめて欲しいですね……』
『まぁ、もしギルド長たちがどこかに報告書みたいなの書こうとしても、ルーシアナたちのことは正しく書けないから大丈夫だよ~』
『ん? どういうことだ?』
『えっとねぇ~……』
ナツナツが何をしていたのかも気になるが、同時にセイディさんの作業も終わり、話し掛けられてしまったため、そちらに意識を戻す。
「はい、ギルドカードを返却しますね」
「あ、はい。ありがとうございます」
「それとこれは報酬ね。元々の報酬に、依頼人からの追加報酬、ギルドからの追加報酬。合計300,000テトになります。ご確認ください」
「はい」
最少なら100,000テト金貨3枚なのだが、100,000テト金貨なんて普段使わないので、10,000銀貨以下の硬貨がじゃらじゃらしている。
ので、ちゃんと数えないといけない。
《フル・スキャン》を使えば一発なのだが、これ以上怪しいところを見せるわけにもいかないのだ。
そして、数えるのに集中していたら、ナツナツの説明はほとんど入ってこない。
まぁ、後で聞けばいいのだが。
…………………………………………
当然ではあるが、過不足はなかった。
…………いや、たまに不足してる時があるから当然ではないか。なお、過剰な時は経験がない。不思議ですね?
「では、いただきますね」
「はいはい。今回はどうもありがとうございました。次もお願いね」
「はい。ポーションとか創ったらまた来ますね」
「失礼します」
セイディさんに手を振られながら、ギルドを後にした。
なんやかんやで、今日も遅くなってしまったよ…………
足早にリリアナさんたちの家に向かったのだった。
……………………そして、また農業ギルドに寄るのを忘れていたのを思い出したのは、夕食を頂いているときだった。




