第153話 ゴーレム娘、ヘタを打つ
141 ~ 167話を連投中。
1/4(土) 11:20 ~ 19:40くらいまで。(前回実績:1話/17分で計算)
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結局、湧き出る地下水の濁りがとれるのに、4時間ほど掛かってしまった。
地下水の汲み上げは[アイテムボックス]を開いておくだけで自動で行えるので、ただただ暇な時間だった。
暇すぎて依頼とは関係ないことまでしてしまったよ。
今は昼も過ぎて午後3時くらい。
今日は予定通り、報告だけしてのんびり休もう。
『農業ギルドは~?』
『…………忘れてたね。それも行こうか』
『ぴょこん』と反応したオズを一撫でしてギルドへ向かう。
いつもの大通りをテクテクと進んでいく。
多くの人は午後の仕事の真っ最中であろうから、大通りであろうと人通りは多くなかった。
ギルドに到着すると、錬金術師ギルドではなく冒険者ギルドの入口から中へ入る。
いや、移動距離的にはどちらから入ろうとも大した差は無いし、直接 錬金術師ギルドに入っても、受付嬢さんがいない可能性が高い。
冒険者ギルドなら大抵一人はいるので、こっちから入れば気を利かせてくれることが多く、この方がどちらにとっても結果的に楽なのだ。
冒険者ギルドの扉を開けると、顔馴染みになりつつある受付嬢さんが笑顔で手を振ってくれた。
「いらっしゃい。完了報告かしら」
「錬金術師ギルドの、ですけどね。向こうに誰かいますか?」
「あら、残念。先程、セイディが回遊を始めたので、多分いると思いますよ。いなかったら呼び鈴を鳴らしてください」
「分かりました。ありがとうございます」
回遊は巡回です。
それにしても丁度いい。
セイディさんから依頼されたクエストだし、本人に報告すれば都合がいいだろう。
クエスト報告と思しき冒険者がギルドに入ってきたので、さっさと場所を譲って錬金術師ギルドへ向かった。
錬金術師ギルドに入ると、珍しく数人の錬金術師が掲示板を眺めている。
そして、受付台の向こうを見ると、セイディさんと初見のお爺ちゃんがなにやら口論しているようだった。
「本当に大丈夫なのかね?」
「進捗も聞かずにそれは判断できませんよ。ただ、ランクは十分でしたし、記録された実績も問題なかったのですから、こちらの判断で受注を差し止める訳にもいきませんでしょう」
「差し止めも何も、キミが紹介したのじゃろう?」
「えぇ。ランクも実績も問題ありませんでしたから。それに、同じことは他の錬金術師にも行っています。彼女らだけ、特別に不当な対応をするのもおかしいでしょう?」
「じゃが、経験が……」
「どんな熟練者でも、最初は素人ですよ」
……………………なぜだろう。私たちのことを話してる確信がするのは。
あそこで口論の対象になっているのは、井戸修理の依頼のことな気がする。
少しだけどうしようか迷っていると、私たちを目敏く見付けたセイディさんが、イイ笑顔でこちらに手を振った。
「ルーシアさ~ん。ちょっといいかしら?」
「急用を思い出したので、良くないです。また今度」
「待ちなさい♡」
開けたままの扉に即行 振り返ると、後ろから伸びてきた腕が扉を閉じてしまう。当然、セイディさんだ。
そこそこ距離がある上に、受付台もあるのになんて速業だろう……
「セイディくん。受付台を蹴るのは止めなさい。はしたない」
と言って、お爺ちゃんは横っ飛びに乗り越えた。
なお、受付台は別に壁に接している訳ではないので、端まで行けば普通に出てこれる。
「申し訳ありません、ギルド長。次は気を付けますわ♡」
「その口調は忘れる口調だね?」
私もそう思う。
お爺ちゃん……ギルド長は、私たちの方に近付くと、
「はじめまして、お嬢ちゃん。儂はここのギルド長をやっとる、モーフィスという者じゃ」
「はじめまして。私はルーシアです。テモテカールで冒険者 兼 錬金術師をやってます」
「私はオズリアです。お姉ちゃんの妹で、冒険者です。よろしくお願いします」
お互いに挨拶をした。
ギルド長は、私たちを孫でも見るような表情で微笑んでいる。
「それで何でしょうか? 私、今日は早めに帰って、オズとしりとりする予定なんですが」
「それ明らかに暇潰しよね? まぁ、時間が掛かるかもしれないから、席で話しましょう」
適当な理由で逃げようとしたけどダメでした。
『理由が適当過ぎたからだろ……』
そうとも言う。
まぁ、今日を回避したところで、後日捕まるのは目に見えているので冗談だ。
セイディさんに後ろに回られると、初日に参考書を読んだテーブルに押されていく。ギルド長も特に何も言わずに付いてきた。
席に座ると、セイディさんが早速話を始める。
「単刀直入に聞くんだけと、井戸修理どこまで行った?」
「待て、セイディくん。まずは経緯を説明したまえ」
「……………………はぁ。えっとねぇ……」
ギルド長に対して、思いっきりタメ息を突いたわ、この人……
苛立ちを表すように、ギルド長のこめかみがヒクついたのは、多分気付いてる。
澄ました顔で無視したセイディさんの説明は、詰まるところこんな感じだった。
村民から井戸修理の依頼を受理した錬金術師ギルド。
今は収穫の時期だから緊急に必要ではないが、修理に時間も掛かるので、あまり後回しにすると必要な時に間に合わない。
なので、この村の錬金術師に一通り声を掛けたら、すぐに王都の方へ回す予定だった。
そこに現れたのが私たちで、この依頼を受注してしまう。
セイディさんは、『ランクも十分だし、ダメならダメで、その時に王都に回せばいい』と考えた訳だが、今日ギルド長がクエストの進行状況報告書を見て、不安になって聞きに来たとのこと。
理由としては、『ランクは足りているが、初めての内容だし、ガキだし、余所者だし、やっつけ仕事で終わらせられたりしないか不安』とのこと。(セイディ談)
そして二人が口論というか、セイディさんがのらりくらりと躱しているところに私たちが顔を出したらしい。
「ごめんなさいね。この頑固で偏屈で偏見の塊みたいなギルド長が、貴女たちのことどうしても信用してくれないから、進行状況を教えてほしくてね」
「…………………………………………貴様、給料カットな」
「横暴だ!!!!」
「黙れ小娘」
遠慮なくじゃれ会う姿は、お義父さんと義姉さんの姿を否応なく思い起こす。
ちょっと話が途切れたタイミングで聞いてみた。
「お二人は親子なんですか?」
「「ないない。もしあっても縁を切ってる」」
「…………………………………………」
「「なんだとオリャーーーー!!!!」」
「血縁関係は無いけど、仲良しなんですね」
「「その評価は物申す!!」」
「はいはい……」
私の問いにもオズの問いにも、一切のズレもなく答えているのだから、もう親子でいいんじゃないですかね。
呆れた顔をして見ていると、素を晒しすぎたと思ったのか、一度『ペチン』とハイタッチならぬロータッチして仕切り直す。
「不本意な評価をされてそうだから訂正しておくけど、ギルド長との関係は、まぁ、師弟関係かしらね」
「セイディくんが、昔 冒険者だったのは知っているかね? 彼女が新人の頃は、私もまだ冒険者でね。一時期パーティを組んで色々教えたりしてたんじゃよ」
「…………そうなんですか」
いきなり調子を戻されると戸惑うね。
向こうもそれは分かっているのか、ひとつ咳払いをして本題に入る。
「まぁ、悪意に満ち満ちた説明だが、傾向としては伝わったじゃろう。申し訳ないのだが、君らの実力が不安でね。年寄りを安心させると思って、何か成果を見せてほしい」
「一昨日ミスリル鉄の素材は渡したわよね。もう出来てたりしない?」
「…………セイディくん。ミスリル鉄の作成は、慣れた者でも一日掛かりじゃ。初めてで出来ている訳ないじゃろう……」
「分かってますよ。念のためですよ、念のため」
…………返答する前に話が進んでしまった。
でも、そうか。普通は、まだミスリル鉄を創ってる段階なのか…………
『失敗しましたね…………まさか、そんなに時間が掛かるとは……』
『そういえば、ミスリル鉄のトータル所要時間、15時間くらいだったもんね~……一瞬で終わったけど~』
『普通は、連続15時間も付きっきりには出来ないから途中で区切る。となると、基本的には二日で作成が一般的なのだろう』
しまったな…………練度による所要時間の増減なんて考慮してなかったし、そもそも一瞬で終わるせいで所要時間なんて見ても頭に入ってこなかった。
もうクエストが終わってるのは異常なのか。
『一応、余ったミスリル鉄はありますけど……』
『もう井戸修理は終わってるもんね~』
『もし『まだミスリル鉄を試作しただけです』と言った後に、修理が終わってることがバレたら、『なんであいつ嘘ついた?』とか余計な詮索をされかねないな』
『バレるかな?』
『さぁなぁ……ただ、あの小屋は物置としても使われていたし、誰かが入ることもあるだろう。そうなった場合、井戸が新しくなったことに気付く者がいないとは限らない。そして、試しに動かすなり、もう使えるのか確認に来るなりして、ギルドに知られる可能性はあると思わないか?』
『『『……………………ありそう』』』
どうしたものかと悩んでいると、数人の男性が入口の方から入ってきた。
そして、受付に向かう途中でこちらに気付くと、
「これはギルド長。ありがとうございます」
「……? 何のことかね?」
「先日頼んだ井戸の件ですよ。セイディちゃんもありがとな」
「え? どういたしまして?」
……オワタ。
「さっき道具を置きに井戸小屋に戻ったら、見違えるほど綺麗になってまして!! まさかと思ったら、井戸が完璧に直ってるじゃないですか」
「2 ~ 3ヶ月は掛かると思ってたから、ビックリでしたわ」
「それに小屋とか道具も!!」
「んだんだ。後でまとめて直そうと思ってた農具類も全部修理されてたし、壊れてた壁とか立て付けが悪かった扉も直ってたし、驚いたべさ」
「あそこまでやってもらっておいて、井戸修理の代金だけってわけにもイカンと思ってな。少ないかもしれないが、追加報酬を持ってきたんだ。受注してくれた錬金術師さんに感謝してるって伝えておいてくださいよ」
「じゃ、報酬は受付に渡しておくから、よろしく頼んますわ」
言いたいことだけ言って、男性たちはぞろぞろと受付に移動すると、いつの間にか現れていた受付嬢さんに報酬を渡し、ゾロゾロと出て行った。
…………………………………………
『ギギギ……』という擬音を鳴らしながら、二人の顔がこちらを向く。
あ、いや、『ギギギ……』と鳴っていたのは私の首だったわ。
「…………今の、話は、本当、かね?」
「……………………まぁ……………………井戸修理は、終わってますよね……………………はい」
「…………農具も、直して、くれたの?」
「……………………暇だったので…………」
「暇って…………」
「小屋もかね?」
「暇で」
「むぅ…………」
二人とも何とも言えない表情で黙り込んでしまった。
やり過ぎたね…………
どうしたもんかと思っていると、男性たちから追加報酬を受け取った受付嬢さんがやって来て、
「え~と…………ギルド長。井戸修理の追加報酬という話で、『既に話してあるから』って渡されましたけど…………本当にもう終わったんですか?」
こちらをちょっと困惑した表情でチラ見した。
「儂も混乱中だ。これから確認……そうじゃな。これから確認に行ってくるから、それは追加報酬として預かっておきたまえ」
「分かりました」
「セイディくん。付き合え」
「言われなくても」
そう言って立ち上がる二人。
そして、うっかりボケッと座ったままのこちらを見ると、
「当然君らも来るんだよ?」
「そうそう」
「「……………………はい」」
有無を言わせぬオーラを放っていたので、先程通った道をリピートすることとなったのでした。




