第152話 ゴーレム娘の(役に立たない)井戸修理実習
141 ~ 167話を連投中。
1/4(土) 11:20 ~ 19:40くらいまで。(前回実績:1話/17分で計算)
word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿してますので、時間が掛かります。
申し訳ありません。
ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。
「さて、今日は井戸の修理です」
「頑張れー」
「埋もれないように気を付けてください」
『不穏』
久しぶりに修理を依頼された第27号井戸にやって来た。
まぁ、久しぶりとは言っても一週間は経っていないのだが。
以前にも打ち合わせた通り、井戸に潜るのは私だけで、ナツナツとオズは地上で非常時に備えてもらう。
『もう一度概略を説明してくれ』
「え? うん。
① 井戸の揚水管の上部を外す。
② 揚水管を収納。
③ 井桁に梁を渡し、縄梯子を降ろす。
④ 降下しながら、井戸壁を補修。
⑤ 《クリア・プレイト》で地下水の流入を防ぐ。
⑥ 水と土砂を収納し、砂利を再充填。
⑦ 井戸から出て、梁・縄梯子を回収。
⑧ 新しい揚水管を設置。上部を付け直す。
こんな感じ?」
ぼんやりとイメージしている作業行程を、指折り数えて説明する。
『まぁ、大体そんな感じだ。注意事項としては、⑥で充填する砂利は洗浄して細かい砂や泥は除いておくこと』
「砂利の洗浄は私がやっておきます」
『頼んだ。それと井戸に降りる前に、井桁が劣化してないか確認するのと、この小屋分でいいから地表面を硬化させておけ』
「いいけど…………なんで?」
『井桁に梁を懸けて降りる訳だからな。途中で崩れられたら危険だ。
それと大丈夫だとは思うが、地表面が脆いと井桁ごと落下するかもしれない。
特に、今は井戸壁の一部が崩れているから、設置時に比べると強度が落ちていることが想定される』
「おおぅ……了解しました」
命綱である縄梯子が落ちたり、作業中に上から井桁が落ちて来たりするとか勘弁願いたい。
さっそく、《フル・スキャン》で井桁に十分な強度があることを確認。
次にオズと手分けして、念入りに地表面を硬化させ、ついでに井桁としっかり固定させる。
これで、井桁と地面はほぼ一体化したようなものなので、後は元々想定していた、内部での井戸壁崩壊による生き埋めだけ気を付ければOKだ。
「こんな感じ?」
『あぁ。それと、魔力消費が激しいだろうから、マナポーションを飲んでおけ』
「それと、私が【魔力譲与】で随時送っておきますね」
「了解したけど…………そんなに消費する?」
「すると思うよ~」
……………………そうかな?
疑問には思うものの、まぁ備えあれば憂いなしということ、[アイテムボックス]からマナポーションを取り出して一息に飲み干す。
ちなみに、割と無造作に消費しているこのマナポーションだが、通常流通しているものより遥かに効果が高いレアアイテムと言っていい。
作成するのに必要な錬金素材が、ガア・ティークルでしか手に入らないから量産出来ないが、実感して分かるほど魔力が回復していく。
「よし、始めますか」
① 井戸の揚水管の上部を外す。
まず、井戸と水槽を揚水管が繋いでいるので、それを外そう。
地上部に出ている配管は特に腐食はないので、その部分は流用する予定だ。
魔石がセットされた上部配管と、下に延びた揚水管を繋ぐボルトとナットの固定を外す。
これも腐食してないようなので、簡単に外せ……外…………外せない!!!!
「なにこれ かっっっったい!!」
「錆びてるようには見えないんですけど……」
『想定内だ。まぁ、長年外していないならそうなる。錆びてないなら、一度動き出せば問題ないはずだ。ナツナツ』
「お任せ~♪」
ナビの合図に、ナツナツがナットをひとつずつ ペチペチと叩いていく。全てに触れ終わると、『どやっ』と離れたので再挑戦。
……………………恐ろしいほど抵抗なく外れた。
「…………なにしたの?」
「妖精魔法で摩擦抵抗を減らしただけ~。つけるときには元に戻ってるから心配ないさ~♪」
「いえ、ボルト類は新しいのに交換です」
「むぅ。揚げ足を取り~!!」
思わず口を挟んだオズにナツナツが体当たりした。
じゃれてるだけなので作業を進める。
② 揚水管を収納。
上部配管を外したら、次は井桁に揚水管を固定しているナットも外す。
このナットは、井桁の内部に埋め込まれた長ボルトと揚水管を固定しているものだ。
長ボルトの交換は井桁を壊さないと出来ないので、これはそのままにしておく。
全て外したら、揚水管を[アイテムボックス]に収納。
他の人がやる場合は、小屋の天井を抜いて上に引き抜くか、複数人で協力した収納魔法に収納するらしいので、《異空間干渉》にはしっかり感謝しよう。
③ 井桁に梁を渡し、縄梯子を降ろす。
先程も言ったが、この梁は私の命綱みたいなものなので、しっかりと固定しないといけない。
梁は[←のような形状の木材が、十字に組み合わさった形状をしているので、四本の脚が井桁を跨ぐように設置する。
梁を正しい位置に設置すれば、揚水管を固定していた長ボルトを利用して、ナットで固定できるようになっている。
固定が終わったら、縄梯子を梁に懸けて準備完了。
ちなみに梁も縄梯子も、どちらもギルドの貸与品である。…………当たり前か。
④ 降下しながら、井戸壁を補修。
「【ライト】っと。じゃあ、行ってくるね」
「気を付けてね~」
「途中で力尽きないように気を付けてくださいね」
「…………そんなにうっかりしないよ?」
妙に心配されてる気がする。…………いや、からかってるだけかな?
ほんのり笑みを浮かべるオズの両頬をぐりぐりっとしてから、縄梯子を降りる。
先日 確認した通り、井戸壁は掘ったときに露出した地層をそのまま加工せずに硬化させたもので、元々デコボコしていたものが、崩れたことでさらにデコボコが酷くなっている。
『……………………これ、このまま固めて大丈夫?』
『大丈夫だとは思うが、推奨はしないな。ほら、この井戸は真っ直ぐ下に掘り進めて作った井戸だろう。井戸壁が崩れているということは、下がるほど穴が大きくなってしまっているということ。つまり、井桁を支える強度が下がっていることが予想される』
『なるほど』
極端な言い方をすれば、井桁を下から支えるものが無くて、水平方向から張り出した地表面が支えているような状態なのだろう。
『どうするの?』
『まぁ、依頼通りに井戸壁を硬化し直しても 恐らく問題ないはずだ。地表面も硬化させたからな。ただ、万全を期すなら、直下から井桁を支えるようにした方がいいだろう。井桁の形状に合わせた井戸側を作ることを提案する』
『……………………魔力で大量の土を生み出すのは、大変なのよ?』
『そのためのマナポーション』
『そのための【魔力譲与】』
『です♡』
『こなくそ!!!!』
さっき笑ってたのはコレか!!
三人に協力してからかわれると、手も足も出ない。
とりあえず、井戸壁は簡単に固めるに留めて底に降りていく。底の方から上に向かって井戸側を作っていくことにしたのだ。
結構重くなるはずだから、井桁から井戸側を伸ばしていって、途中で井桁ごと落ちてきたら怖いし。
当然、井戸側と井戸壁の間に隙間が出来てしまうから、これは登るときに埋めていこう。
⑤ 《クリア・プレイト》で地下水の流入を防ぐ。
『ナビ』
『《クリア・プレイト》』
地下水面まで降りたら、井桁の外周に沿って《クリア・プレイト》の魔法障壁を下ろしていく。そのまま水面に入り、土砂を越えて底まで到達したら、最後に下側を塞ぐ。
イメージとしては、底が塞がったでかい円筒。
こうすれば横からも下からも地下水は入ってこないし、余計な土砂が入り込むことも防ぐことができる。
⑥ 水と土砂を収納し、砂利を再充填。
魔法障壁の内側に残った水と土砂を[アイテムボックス]に収納しつつ、最深部を目指す。
『オズ行ったよ~』
『了解しました』
[アイテムボックス]経由でオズに物が届くのは、今更だけどかなり使い勝手がいい。
ついでに言うと、オズの《異界干渉》の使用権限をデバイスたちに与えれば、家庭農園で収穫した食材を[アイテムボックス]から受け取れるようになるので、超絶便利。
[アイテムボックス]が食糧庫になる日は近い。
まぁそれはともかく、ナビには《クリア・プレイト》を維持してもらい、私が 収納 → 壁硬化 → 収納 → 壁硬化……と、交互に発動させていく。
最深部に到達したら、次は砂利を充填……なのだが、オズは終わったかな?
結構 泥が多かったので、砂利だけ篩い分けするのは大変かもしれない。
『終わりましたよ』
終わったそうです。
洗浄が終わった砂利を充填する前に、《クリア・プレイト》の内周に沿って井戸側を作成する。まずは大体私の身長くらい。
少し登って、適当に『どじゃーー』と砂利を流し入れ、適当に圧し固める。
あ、ちなみにこの砂利は0.5 ~ 1cmくらいの大きさで、地下水を吸い上げる際に、泥とか砂を捲き込むのを防ぐために充填するものだ。
なので、適度に隙間はありつつも、密に圧し固める必要がある。
適当に『どじゃぱんぱん』と、充填 → 圧し固め → 充填 → 圧し固め……を繰り返す。
最後に圧し固めた砂利同士を地魔法で粗く結合させ、立体的な網目状にすれば、崩れることもないだろう。
⑦ 井戸から出て、梁・縄梯子を回収。
井戸側を上に伸長させつつ、《クリア・プレイト》の向こう側、つまり井戸側と井戸壁の隙間を埋めていく。
そういえば、こうやって魔法で出現する土は、どんな土なんだろうね。
『基本的には、出現させる周囲の土と同じ組成になります。ただし、何らかの鉱石の近くで出現させても、その多くは不要な組成のものとなるようです。要するに、金鉱脈で土を出現させても、金は増えないということですね』
なるほど。良く出来てるような、神の作為を感じるような…………いや、金が量産できる世界なら、そもそも金に価値はなかっただろうから、当然か。
もしかしたら、私たちが不要だとして捨ててる土が、とんでもない価値を持つ世界だってあるかもしれない。
例えば、大地がほとんどなく、多くの人が大型船や雲の上などで生活していて、作物を育てるための土が不足している世界とか。
まぁ、果たしてそんな世界の生物が、地上で生きるような進化をするとも思えないし、土が無いと育たないものを主食にするとも思えないが。
と、そんなどうでもいいことを考えながら、井戸側伸長 → 土補充 → 井戸側伸長 → 土補充……と繰り返す。
さっきの砂利の充填は《異空間干渉》でどじゃーーだったから、面倒だったのは砂利の圧し固めだけだったが、今回の井戸側の伸長と土の補充は、どちらもスキルじゃないから面倒だ。
あ、いや、スキルなら魔力を流すだけで発動できるけど、スキルじゃない魔法は自分で術式を構成しなきゃならないからね。
せめて、片方だけでもスキルにならないものか…………
▽地魔法マスタリーのレベルが上がりました!!
▽地魔法:ソイル・ウォールを取得しました!!
▽地魔法:ロック・ウォールを取得しました!!
▽《ソイル・ウォール》が《ロック・ウォール》に統合されます。
▽ステータスを確認してください。
特殊スキル
・地魔法マスタリーLv.5 → 7
取得スキル
・ソイル・ウォール:土で出来た壁を作り出す。強度、数、形状等は込める魔力、イメージに依る。
・ロック・ウォール:《ソイル・ウォール》の上位互換。あらゆる性能の上限が上がる。
……………………新しいスキルを取得しました。
怠けたいと思ってるのが伝わったようで、なんだか恥ずかしい……
そのまま登っていき、最後に井桁と井戸側をしっかり結合させれば終了です。
⑧ 新しい揚水管を設置。上部を付け直す。
「おつ~」
「お疲れ様です」
「ただいま……確かに疲れたよ……」
魔力消費もそうだけど、細かく交互に魔法を切り替えたからね。
片方だけ一気にやってもいいんだけど、そうするとムラができる可能性が高いのだ。
差し出されたオズの手を取って外に出る。
閉所恐怖症ではないけど、やっぱり外に出ると解放感があるね。
『《クリア・プレイト》を解除するぞ』
「あ、お願い」
ナビのセリフに、三人で井戸を覗き込む。
暗いので、一緒に付いてきた【ライト】の光球を、再度 底に落とす。
そこから見える光景は、綺麗な円柱状の深い穴で、底に水は一切溜まってはいなかった。
…………………………………………
やがて、じわじわと底から水が湧き出ると、みるみるうちに水面が上昇していく。
『これで完成か』と思いきや、どうにも水が濁っているような…………?
「濁ってない?」
「濁ってるね~」
『濁ってるな』
「濁ってますね」
……………………あれ? 失敗?
正直、もう一度潜ってやり直すのは勘弁願いたいのだが……
「大丈夫ですよ。最初は大抵濁っているものなんです。しばらく濁った水を汲み出し続ければ、その内 綺麗になると思います」
「そうなの?」
良かった。また潜らなきゃならないかと思った……
ホッと一息着いていると、オズがちょっと目を逸らし、
「ただまぁ、綺麗になるまでどの程度掛かるかは不明ですけど」
「今日中に綺麗になるかなぁ~?」
『一週間くらい掛かるかもしれんぞ』
「思ったより長い!?」
揚水管を設置できないじゃん!!
まさかのフェイント…………いや、揚水管を設置してから汲み出せばいいのか?
「まぁ、そうですね。ダメだった場合、揚水管を片付けるところからやり直しですから、どこまで進めるかはお姉ちゃん次第ですけど」
「まぁ、やらないと終わらないから~」
『千里の道も一歩から……と言うしな』
「基本的には綺麗な水のはずなので、[アイテムボックス]に別口で保存してください。[錬金室]で精製して飲み水に加えておきましょう」
「…………りょ~かい」
揚水管の設置は後回しにして、水中に[アイテムボックス]の扉を開いて時間を潰しました……
プロの意見でもない以下略(2回目)




