第148話 ゴーレム娘、現地確認
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「これか」
ライ村の周囲に広がる農耕地区を、セイディさんに貰った地図 片手に進んで行くと、ようやく目的の井戸に辿り着いた。
それは、道の端に建てられた物置のような建物で、その中に井戸が設置されているらしい。
ただ、私が気になるのは、その隣にある物置よりも大きな石の塊だ。
「なんだろコレ」
触ってみると、ひんやりとした感触が手の平を通じて返ってくる。
「水槽ですね。ほら、この規模の畑に水を撒くのに、人が持てるサイズの容器に水を入れて、運んで、撒いて、じゃ時間がいくらあっても足りないじゃないですか。
だから、この水槽にある程度水を溜めておいて、必要な時に水路に流すことで、水を供給してるんですよ。
一度に汲み上げる水量にも限度がありますしね」
「人が水やりするのは、よっぽど雨が降らない時だけだからね~。基本、水やりは雨任せだったはず~」
『なぜそんなことを知っているのだ……?』
言われてみれば、石塊 (水槽?) の下部に栓があり、その先から繋がる溝が畑の中に縦横に走っている。それが恐らく水路であることは容易に想像がついた。
今は収穫が終わっているためか、水路の形がしっかりと見えるので尚更だ。
疑問が解決したので、建物の扉に向かう。
その入口には『故障中』の張り紙がしてあったが、気にせず扉に手を掛ける。
立て付けが悪いのか、ちょっと苦労しながら中に入った。
建物内に照明は無く、朝にも関わらず薄暗かったため、すぐに窓を開けて外光を採り入れる…………が、こちらもなかなか開かなかった。
全体的に老朽化が進んでいるのかもしれない。
陽光に浮かび上がった屋内には、井戸の他に農作業で使う物と思われる道具が適当に山積みされていた。
よく見ると刃が欠けていたり、柄が折れたりしているものもある。
どうやら、壊れた農具類をまとめて置いてあるらしい。
見た目通り、物置小屋も兼ねているのか。
井戸はその建物の中心にあった。
「井戸の構造について簡単に説明しましょうか。
井戸と言うのは、大雑把に言ってしまえば、深い穴と水を汲み上げる揚水管の組み合わせです。穴の底に水が湧き出すので、それを汲み上げるわけですね。
綺麗な水を汲み上げるには、まず地下水面より深く穴を掘り、出てきた地層を壁として硬化させるか、井戸側と呼ばれる壁を作って、底以外から地下水が入ってこないようにします。
そして、底に砂利を充填して泥が巻き上がらないようにしてやれば、使った分だけ綺麗な水が湧き出てくる、という寸法です。
あとはここに揚水管を差し入れれば完成ですね。
次に汲み上げ方法ですが、これは揚水管の内部を真空にすることで吸い上げる方法が一般的です。ただこの方法だと、最大でも10m、実用的には7 ~ 8mまでしか吸い上げられないので、地下水面がそれより深い場合は、途中で直接水を操作して引き上げる必要があります。そのための魔石はどちらも揚水管の頭に付いてますね」
「なるほど」
石を組んで円形に作られた井桁は木板で塞がれ、その中央から伸びた金属の揚水管は、途中で曲がって屋内に食い込んで設置されている水槽に繋がっていた。
その根元辺りに二つの魔石が埋め込まれているので、これが水を汲むための魔石なのだろう。
とりあえず、《フル・スキャン》を使う前に直接井戸の中を見てみることにする。
木板は特に固定されているわけではなく、乗せているだけなので簡単に外せた。
「【ライト】」
簡単な光魔法で拳大の光球を二つ産み出すと、それらで揚水管を挟むように降下させていく。
オズも隣に並んで覗き込んできた。
「……………………予想通りにサビサビだね」
「ですね。壁がデコボコなので、これは掘った地層をそのまま壁にしているようですね。
あ、あそこの壁が一部崩れてます。そこも。…………結構多いですね。これは降りながら補強していかないと、下で作業中に埋まる危険がありますね」
光球はそのまま下がり続け、ついに地下水面に沈む。が、すぐに底に達してしまった。
セイディさんの言った通り、崩れた土砂が底に堆積しているようだ。
「これ以上は目視じゃ分からないか」
「ですね。でも、結構深いです。現状で14~5mといったところでしょうか」
「どうやって降りるの~?」
『梯子だろうなぁ……井桁を跨ぐように梁を掛けて、中心を縄梯子で降りる感じか』
そうなるかな?
「あと、万一が怖いから、オズとナツナツはここで待機してて。埋まったら助けてね」
「やるんですか?」
「まぁ、何事も経験だからね」
井戸を修理するなんで機会、早々あることだろうか。いや、ない。
目視確認が終わったので、《フル・スキャン》で詳細情報を収集しておく。
……………………セイディさんは『配管が腐食して穴が空いた』と言っていたが、私の感覚だと井戸壁の中程が崩れた時に土砂がぶつかり、その衝撃で割れたっぽい。
それと水が出て来ないのは、漏れているのもあるが、揚水管の内部にある逆流防止弁の噛み合わせが悪いのも原因と思われる。
これが正常に作動しないと、毎回毎回水が一番下に落ちてしまい、一から水を汲み上げなきゃならなくなるので、魔石の能力的に吸い出すことが難しくなるのだろう。泥が混ざって重くもなるし。
「それじゃ、クエストは受注するってことでいいですか?」
「そうだねぇ……………………ん? この揚水管の素材の『ミスリル鉄』って何?」
貰った資料を眺めていると、錬金素材に『ミスリル鉄』という見慣れない名称が記載されていた。
もちろん、それの錬金レシピもあるので、素材さえあれば作成に問題はないはずだが、チコリちゃんのとこで見掛ける鉄素材武器は、アイアン系とスティール系の二種類しかなかった。
それが全てではないことは分かってはいるが、初耳なので気になるところ。
私の疑問を聞いたオズは、少し考える素振りを見せると、言いにくそうに答えた。
「ミスリル鉄は……………………ミスリル鉄です」
「おいこら」
「いえ、どう説明すればよいかと……
え~と……組成的にはミスリルと鉄の合金です。性質的には錆びにくいくらいですかね、違いは」
「……………………ごめん。ミスリルについて もうちょっと教えて」
「……分かりました」
私に頼まれたオズは、しかし難しい顔をして腕を組んだ。
「あれ? そんなに難しいの?」
「難しいというか、応用範囲が広すぎてどこまで話したものかと……」
「概要でいいんよ?」
申し訳ないが、そんな細かい話を聞いても覚えてられない。
「そうですね…………
まずミスリルというのは、魔法との親和性が異様に高く、かつ、あらゆる物質に対し異様に反応性が高い物質のことです。『この世の全てに対して高い反応性がある』と考えて大きな違いはありませんね。
そのため、この世のありとあらゆる場所に存在しますが、単一成分として単離するのがほぼ不可能です。
とはいえ、『魔法との親和性が高い』というメリットは、諦めるには惜しい特質であり、多くの者たちがその利用法について研究を重ねてきました。
自然界に存在する物の中で、比較的ミスリル純度が高い物質は魔獣から得られる魔石です。その純度は、ピンからキリまでありますが、高ランク魔獣の物ほど高い傾向にあります。なお、錬金術で創る人工物の『高純度魔石』は大体純度40%程度です。
ですが魔石ですと、硬度はありますが柔軟性に欠けるため脆く、武器や防具といったものの素材には適していません。
そこで、試行錯誤の結果 産み出されたのが、各種金属とミスリルの合金です。
ミスリル鉄はその代表的なものですが、ミスリル純度も数%と低く、『魔法との親和性が高い』という特徴は残念ながら発現していません。
代わりに先程言った『錆びにくい』といった性質があるので、普通の鉄が錆びるような環境に使用する場合には、ミスリル鉄を使用することもあります」
「なるほど。じゃあ、この揚水管もミスリル鉄なんだ」
井戸から水槽に繋がる揚水管をペチペチと叩く。
その割りにはサビサビだけどね。
「いえ。この揚水管は普通の鉄ですね。あ、いや、正確にはミスリル以外の鉄合金です。
ミスリル鉄でなくても『錆びにくい』という性質を持った合金はありますので、それじゃないかと。
ミスリル鉄くらいだと、非ミスリル合金の方が色々と都合がいいことも多いので、必ずしも選択されないこともあります」
「そうなの?」
「えぇ。性質が似通っている場合、どちらを選択するかは、職人の好みや金額、入手の容易さなどにより様々です。
一概には言えませんが、鍛冶師は非ミスリル合金、錬金術師はミスリル合金を選択する傾向にありますね」
「あ、だから、この設計図はミスリル鉄製なのね」
「多分ですけど」
なるほど。…………………………………………ん?
「今の説明、そんなに複雑だった?」
「まぁ、今のはほんの触り、要点の部分ですから。
ここからさらに非ミスリル合金とミスリルの合金、つまり多成分系合金とか、ミスリル純度20%以上の変性系合金とかが加わってくると、もう……」
『お手上げです』と言いたげに両手を上げた。
私は小さく片手を挙げた。
「え~と……多成分系合金はなんとなく分かるけど、変性系合金って?」
通じてなくてごめんね……
「ミスリル合金は、ミスリル純度が20%を超えた辺りから『魔法との親和性が高い』という性質が現れ始めるのですが、合金作成時に特殊な魔法を掛けると、物理的性質が大きく変わるんです。本来の性質が魔法によって変わるので、変性系合金と言います。
これがまたややこしいところで、変性する前は大した性質を持っていない合金も、変性するととんでもなく有用な性質を獲得したりと、検討の幅が極端に広がるので、技術者や研究者が頭を悩ませるところでもあります。
ただ、この変性系合金こそがミスリル合金の真価といえるものですから、これから目を逸らす訳にもいきませんけどね」
「な、なるほど……」
それは確かに、底無し沼のように深みに嵌まって、抜け出せなくなるほど奥が深い。
まぁ、私は彼等の成果を享受するだけでいいや。
説明も終わったようなので、具体的な話を進めよう。
「ミスリル鉄の作成はそんなに難しい訳じゃないんだよね?」
「そうですね。錬金素材はギルドで購入できるようですし、レシピもありますから」
「うん。労働的に大変なのは泥浚いくらいだし、受注しようか」
そうと決まれば、今日はこのくらいにして素材集めに行こう。
そろそろお昼なので、もう半日使ってしまったことになる。
出て行く前に井戸に木板をしっかりと被せて蓋をする…………前に、
「ヤッホー」
「何してるんですか…………」
「いや、なんとなく」
さすがに山彦 (山じゃないけど) が返ってくるほど深くはなかった。
でもでも、このくらいの深さがあればやるよね?
「やめてよね、ルーシアナ~。……………………返事があったらどうするの」
「返事ってなに!?」
『詳しく説明すると、作業が出来なくなるだろうから秘密だ』
「それ怖い話だーーーー!!!!」
思わず悲鳴をあげたら、それは反響して返ってきた。
タイミング悪い!!
「まぁまぁ~。何事も経験でしょ~♪」
「何の経験なのかな!?」
『やめておけ。眠れなくなるぞ』
「やっぱりやめるーーーー!!!!」
「ダメです。代わりに一緒に寝てあげますから」
「いつも一緒でしょでもいつもよりくっつくからむしろ今からくっつくから!!!!」
急いで蓋をして外に出た。
プロの意見でもない井戸の説明を聞いて、いったい誰が得をするというのか……と、思ったけど書いた。
一応、ネットでは色々調べましたよ。




