第146話 ゴーレム娘たちの夢茶会 (後半)
141 ~ 167話を連投中。
1/4(土) 11:20 ~ 19:40くらいまで。(前回実績:1話/17分で計算)
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…………………………………………飽きた。
「早いよ」
「早くない?」
「早すぎませんか?」
三者一様の答えが、三方から返ってくる。声に出してないのに。
「だって~……最近コレばっかなんだもん」
体を動かして新しい動作を身に付けたり、勉強して新しい知識を覚えたりするのは、何かしら『増える』ものであり、目に見える成果があるから楽しいんだけど、コレはどちらかと言うと『減る』もので、『効果がないのを目指す』、というものになり徒労感が半端ない。
モチベーションも下がるというものだ。
「まぁ、私は別に《孤独の嘆き》を抑える必要はないと思うけど~」
「同じく」
「基本的に共闘しませんしね」
再び三者一様の答え。
そうですね、私が言い出したことなんですけどね。
とはいえ、マンネリ化してきたし、何か別のこともしてみたい感じ。
「じゃあ、任意発動スキルとか試してみたら~?」
「そうだね。最初に軽く発動させてみただけだったし、限界を確かめてみるのはどう?」
「ですね。現実世界でそんなことをしたら、『白光事件』ならぬ『黒光事件』とか発生しちゃいそうですからね」
『黒光って何さ』と思ったけど、《ダークブレッド》の闇弾とかそれっぽい。
そんなことを考えていると、三人はさっさと場を整え始めた。
普段、夢茶会に使用しているのは、グランディア家の私室を模した『私室』フロアである。
夢魔の魔石を手に入れてから、割りと頻繁に夢茶会を開いているので、それぞれの目的に合った部屋を『フロア』として登録してあるのだ。
適当にササッと部屋を片付けた三人が私の周囲に集まると、私室フロアに格子状の境界面が上下縦横に走る。
そして、間を置かずに境界面で区切られたブロック状の空間が、それぞれの中心に向かって集束、消滅していく。
消滅した後に残るのは、本来の夢空間である真っ暗闇と境界面である。
一度全てのブロックが消滅し、境界面で区切られた闇の中に私たちがポツネンと浮いているような状態になるが、然程時間を置かずに逆のプロセスを経て再びブロックが現れ始める。
それらのブロックが次々に闇を駆逐していくと、そこに現れたのは『フェルー草原』フロアであった。
私室フロアと同じく私の記憶から再現したフェルー草原フロアあり、大体は現実のそれとほぼ同じだが、多少異なる点もある。
まず、どこを見渡してみても、テモテカールが存在しないこと。
次に、100m四方程度であるが、不自然に丈の短い草しか生えていないこと。
最後に、至る所に円形の的が浮いていることである。
ここは主に、私が戦闘訓練を行うために利用するフロアで、100m四方の広場で近接戦を、その奥では遠距離戦を行うようになっている。
他に『ガアンの森』フロアや『カフォニア山脈』フロアなどがあり、目的に応じた戦闘訓練が行えます。
……………………色気の無い使い方だなとか言わない。
その内、海フロアを作って泳いだり、雪山フロアを作って遊んだりするもん。
「出来ましたよ」
「近接にする? それとも遠距離にする?」
「それとも、ぶ・し・ん♡ きゃっ♡」
「それだ、ナツナツ!!」
『ジュビシィィ!!』と人差指でナツナツを指さす…………のは失礼なので、手の平を上にして指し示す。…………なんか違うな。
まぁ、いいや。ナツナツの言葉で、あるアイディアを思い出したのだ。
「あ、あれ~? 冗談のつもりだったんだけどぉ~……」
「ルーシアナ。武神の使用訓練は、現実世界でやった方がいいよ。ああいうのは、実際に動かすことで個々の部品を馴染んで動きが良くなるものだからさ」
「そうですね。ここは現実世界準拠の仮想世界ですから、お姉ちゃんの熟練度を上げるには打って付けですけど、やっぱり夢でしかないから、そういう『慣らし』みたいなのは出来ませんから」
ナビとオズの言うことは尤もだが、そういうことじゃないので、多分OK。
「いやさ。瞬迅鬼鋭のアタッチメントパーツのスラスタってあるじゃん?」
「あるね~」
「で、軍馬との戦闘中に『足場の悪い場所の移動方法ってなんかないかなぁ』って思ってたんだけど」
「……………………そういえば、『空でも飛べたらいいのに』とか言ってたような。でも、瞬迅鬼鋭は飛行できないよ」
「ナビ、よく覚えてるね。それでさ、武神サイズをスラスタで姿勢制御とか加速とかできるなら、私サイズなら空飛べないかなって。ほら、スラスタを背負ってさ」
「……………………お姉ちゃん。空を飛ぶって、そんな簡単なことじゃないですよ……?」
「ルーシアナは夢があるね~」
「まぁ、誰でも一回は思い付くかな……」
「あ、あれ? ダメ?」
良いアイディアだと思ったんだけど、三人の反応は良くなかった。というか、おバカな子を見るような目で見られた。
「えっとね~、ルーシアナ。私みたいに魔法的に空を飛ぶ種族は別として、空を飛ぶには揚力なり推進力なり、なんらかの力が必要なんだよ~」
「ルーシアナが取ろうとしている手段は、圧縮空気を推進力とする方法だね。その場合、加速度ベクトル上に適切に重心を乗せ続けないと、バランスを崩して吹っ飛ぶ羽目になるよ」
「空中でバランスを保つには、三軸回転制御が必要ですね。つまり、体を水平にして飛行している状態で考えると、進行方向を軸とした回転、左右方向を軸とした回転、天地方向を軸とした回転ですね。
これらは通常、翼を広げたり翼の角度を変えたりすることで抵抗を生み行うものですが、お姉ちゃんにそんなものは無いので、他の方法でバランスを取る必要があります。
推進力と同様に圧縮空気を使おうと考えているのかも知れませんが、バランスを保つために圧縮空気を使うと進行方向がズレ、進行方向を修正するために圧縮空気を使うとバランスが崩れ、バランスを修正するために圧縮空気を使うと進行方向がズレ…………と、無限ループに入ることが多いので、かなり難しいですよ。
錐揉みして飛んでもいいなら別ですけど」
「それ飛行じゃなくて、かち上げじゃない?」
よくお義父さんがやってるヤツ。…………やられてるヤツ。
まぁでも、言いたいことは分かった。
原理としては、義姉さんにかち上げられたお義父さんと同じなわけだから、それで飛行したいなら、空中で錐揉み回転を止められるような技術が必要だと言うことだろう。
「でもまぁ、ここは夢だし、とりあえずやってみる~?」
「墜落しても死にはしないから大丈夫だよ」
「墜落する夢って悪夢の代名詞みたいなものですけど」
「……………………夢なのに夢ないな……」
話してる間に興味が湧いてきたのか、三人ともわちゃわちゃと私の周りを取り囲んで、試作を始めた。
「メイン・スラスタとサブ・スラスタ、どっちを付けようか~?」
「サブでいいんじゃない? どうせ小型化するし。あ、でも動力どうしよう……」
「そもそもどうやって固定するんですか?」
「瞬迅鬼鋭は直接主骨格に固定されてたけど~」
「絵的に不味いから、それは止めよう。時空魔法でよく使う、相対距離固定術式を使おうかな」
「あぁ、それは良いですね。自由な位置に固定できますし。動力問題は、とりあえず置いておきましょう。成功したら必要出力に応じて考えるということで」
「そだね~」
「なら今回は夢設定を変更して、擬似動力に接続しておこう」
……………………思ったより上手くいく、かも?
「……………………あれ、上手く行かない……いいや、これで (ヒソヒソ)」
「……………………いや、それ無茶が過ぎる…… (ヒソヒソ)」
「……………………まぁ、夢ですし (ヒソヒソ)」
……………………覚悟は決めておこう。
不安を煽るヒソヒソ話に、覚悟を決めたり青くなったりしながらしばらく待つ。
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「上手にできました~♪」
「理論上は飛べるはずだよ。理論上は」
「まぁ、プロトタイプなんてこんなものでしょう」
「不安!!!!」
特に後者二人のセリフは、失敗からデータ取る気満々のセリフだ!!
出来上がった『飛行ユニット ― プロトタイプver.1.0 ― 』は、メイン・スラスタを小型化させたような先端が尖った円柱状をしていて、それら四基が私の四方に空間固定されているものだった。
そして……………………ただ、それだけだった。
「…………………………………………私が言い出したことなんですがね……………………簡単過ぎやしませんか?」
これ、さっき話題に出たバランス云々ってどうすればいいの?
「【重量軽減】を自分の体に掛ければ、とりあえず空気の浮力で浮くことは出来るから~。まずは細かく噴射して、歩くくらいの速度で移動してみよ~♪」
「最初は単純な上下動が自在に出来るようになるのを目指そう。安定してそれが出来るようになったら、次に水平移動かな」
「少なくとも、お姉ちゃんが考えてた『メイン・スラスタを背負って飛ぶ』よりかは現実的ですよ」
「え? あれダメなの?」
「さっき、ナビが『加速度ベクトル上に重心を乗せ続けないと、バランスを崩して吹っ飛ぶ』って言ってたでしょ~?」
「よく考えて、ルーシアナ。背中に背負ってる時点で、加速度ベクトルはルーシアナの重心からズレてるから。それを防ぐための四方固定だよ」
「多分ですけど、噴射と同時に胸辺りを中心として前転する羽目になるかと。その時、パニックになって噴射を止め忘れると、地面とスラスタに挟まれたまま、『ジャリジャリジャリーーーー』って滑ってくと思いますが、試してみます?」
「……………………拷問かな?」
「ルーシアナ、用意したよ~♪」
「ナツナツさん!?」
ナツナツがイイ笑顔で渡してくるバックパック型スラスタは丁重に遠慮させてもらった。
「さっきも言ったけど、飛行ユニットの加速度ベクトル上に重心を乗せないと、バランス崩すから。プロトタイプだからスラスタは完全固定にして、強制的に重心が加速度ベクトル上に乗るようにしたよ。その内、姿勢連動か何かで飛行ユニットの角度や位置を変更できるようにして、加速度ベクトルを調整できるようにするけど、まずはデータ取りだよ」
「圧縮空気は、[アイテムボックス]内の同一気体から取り出すので、噴き出し圧力はほぼ一定です。取り出すための扉の開度も一括で制御しますので、噴き出し量も全ユニットで均一になります。
今後、開度を個別に調整して噴き出し量を変化させる、つまり、加速度ベクトルを変化させるという使用方法もあるかもしれませんが、今回はしないでください」
「む、難しいな……」
「翼も無しに空を飛ぶならそんなもんだよ~」
「そうだね。一応、知識だけならオズがいるから、まだマシかな。ケガもしないし」
「とは言っても知識だけで何とかなるなら、誰も苦労しませんけど。でも、後で流体力学からお勉強です」
「さぁって、早速試してみるかなぁ!!」
お勉強は分かり始めると楽しいけど、そこまで行くまでが地獄なので苦手です。
とりあえず、どこに飛んでも大丈夫なように広場の中心へ移動する。
そして、地面の設定を変更して、耕したばかりの畑のようなふわふわの状態にする。
夢だから、岩場に落下したとしても痛みは無いはずだけど、気分的にね。
「じゃ、行くよ……」
「「「頑張れ~」」」
三人はそれぞれ適当な位置に移動してデータ収集するつもりみたいだ。
とりあえず、まずは開度を少しずつ…………
「あれ? そういえば、スラスタの出力範囲、調整したっけ~?」
「「あ」」
「ひょわはああぁぁぁぁ――――…………」
……………………私は悪くないと思うんだ。
いきなり開度を全開にしたりなんか勿論しなかったし、目標値まで一気に開けたりもしなかった。
ただ、やっぱり最初はある程度一気に開度が開く。無と有の間には、歴然たる奈落の断崖が横たわっている。決して地続きではありえない。
開度は1%くらいに収めたつもりだったけど…………武神を加速するような出力の1%は、私を吹っ飛ばすのに十分過ぎますよね? 過剰ですよね?
気付いた時にはフロアの上端に達していて、勢いよく天井にぶつかった私の意識はプッツリと途切れたのでしたまる。
これがホントの夢 (で) オチ (る)。
「飛べない豚は ただの豚だよ、ルーシアナ~」
「それは暗に飛べなかった私を豚だと言ってるのかな? んん? こら」
「一応、飛んではいたので豚ではないのでは?」
「飛んだというか跳んだというか」
「どちらにしろ、豚だね~」
「わ~~ん!! ナツナツがいじめる~~!!」
…………というネタを思い付いたけど、最初のセリフを言わせられなかったので頓挫した。
…………というあとがきを書いて、年齢を実感した。




