第141話 ゴーレム娘、ライ村に行く
141 ~ 167話を連投中。
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「お。ようやく見えた」
「言った通りでしょ? この登り坂を越えたら見えてくるって」
「意外に大きいですね」
「意外ってどういう意味だ、オズリア」
「『もっと小さいと思ってた』って意味です」
「…………素で返されると何も言えねぇ」
「ルーカス アホなの?」
「むしろ何て返事が返ってくると思ってたんだ?」
…………オズの何気ない一言で、ルーカスが酷い目に合っている。いつものことだ。
今、私たちは小さな丘のような登り坂の頂上から、眼下に広がる風景を一望していた。
私たちが進んできた一本道は、左右を畑に囲まれながら緩やかに弧を描き、終端の大きな農村に続いている。
その村の周囲には、内部と外部を区切るように木でできた柵が左右に延びていて、その途中には柵に食い込むように頑丈そうな丸い小屋が建っていた。
目視で判別は出来ないが、守護結界も展開されていて、あの小屋の中に結界用の魔道具が安置されているのだろう。
少しだけその風景を楽しむと、私たちは一本道をわいわいとおしゃべりしながら進んでいく。
『私たち』というのは、私、オズ、ルーカス、リリアナさん、フェリスさん、キリウスさんの六人に、こっそり隠れているナツナツに姿の無いナビの二人。計十人だ。
私たちはこの前のクエスト中に約束したルーカスたちの結婚式に参加するため、彼等と共に故郷の村に向かっているのだった。
ちなみに村の名前は、ライ村というらしい。
ここに来るまで徒歩で約一週間。
詳細は家族と相談して決めるとのことだが、ひと月以内を目途にしているとのこと。
…………なお、これに参加するに当たり、ギルド飯店のバイトを長期に休むことになるので、それを伝えたところ……阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。ウェイトレス仲間だけでなくお客さんまで。
ウェイトレス仲間の方は『今月欲しいものがあるのにぃぃ!!』という意見が多かったので、単純にボーナスが減るのが嫌だったのだと思うが、スレイプニル・ワークゴクのクエストが終わってからシフトを増やしてたんだから我慢してください。
一方、お客さんの方は『仕事後の癒しがぁぁ!!』と言っていて、まぁマスコット扱いとはいえ、そんな反応してくれるのはうれしいものではあります。オズに変なファンでも着かないか心配ではありますが。
「結婚式。楽しみですねぇ」
「私は、貴女たちの料理が楽しみ」
「それな」
「そういえば、農村としか聞いてなかったけど、主に何の作物を育ててるの?」
今更ながら、ふと思い立って聞いてみる。
正面に見える畑は、すでに収穫が終わっているのか地肌が丸見えで、そこで何が育っていたのか類推することは難しい。
収穫の跡から根菜類では無さそうなのは予想がつくが。
「色々作ってるけど、メインはお米かな。小麦も作ってるはずだけど、収穫量は断然お米だったはずよ」
「そうだな。他に特徴的な作物といったら栗だな。子供らの遊び代わりに集めに行かされるんだ。あとはまぁ、一般的な物を色々と」
「「そうだったのか……!!」」
「…………おい」
キリウスさんの説明を聞いて、ルーカスとフェリスさんが愕然としていた。
恐らく子供の頃、良いように利用されていたのだろう。
ちなみに、リリアナさんは表に出さないようにしているものの、『スッ……』と目を逸らしたのを確認した。
まぁ、それは置いておいて周りを見渡すが、今見える範囲内には水田跡らしいものは見当たらない。
「それなら、この辺は元小麦畑? 水田の跡が見当たらないし」
「ん? いや、この辺りは稲畑のはずだぞ」
「ちょっと待ってて」
私の質問にルーカスが答え、フェリスさんが軽い足取りで畑の中に入っていった。
そして、少ししゃがんで何かを拾うと、すぐに戻ってくる。
「やっぱり稲畑だね。取り損ねた籾が沢山落ちてた。あげる」
「え? あ、ありがとうございます」
フェリスさんが両手に乗せた籾を差し出してきたので、こちらも両手を差し出すと、そこにモサッと拾ってきた籾を入れてくれた。
確かに見覚えのある形をしていて稲の籾だと分かるが…………私にコレをどうしろと?
若干思考停止していると、それを見ていたキリウスさんが苦笑しながら小さめの袋を開いて差し出してくれた。
お礼を言ってその中に入れさせてもらう。
「ありがとうございます。というか、貰っても大丈夫ですか?」
「まぁ、そのくらいならな。後でやっぱり子供らが拾い集めるんだが、それまでに鳥やら獣やらに食われるのを考えれば大した量じゃない」
「そうですか」
それなら、わざわざ返す必要もないので貰っておく。オズの家庭農園で栽培してもいいし。
「それにしても、珍しい言葉が出たな。水田とは」
「キリウス。水田ってなに?」
キリウスさんが感心しように言うと、フェリスさんが『初耳』とでも言いたげな表情で問いかける。なお、ルーカスとリリアナさんも同じような顔をしている。
「水田というのは、稲を栽培する方法のひとつだ。水を大量に使用できる地域で行われる栽培方法で、沼のように畑に水を引き込んで、泥の中で稲を育てるらしい」
「泥の中で? なんでわざわざ」
「その方がメリットが多いらしい。収穫量や食味は上がるし、連作障害もなく、雑草を取る必要も少ない」
「えぇ……!? そっちの方がいいじゃない。なんでウチの村はそれをしないの?」
「水を大量に使うと言ったろ? 定期的にまとまった雨量のある地域や安定した大きな河が無いと難しい。それに事前にしっかりと灌漑設備や水が溜まるように土地を整備しないといけないし、苗を作って植え替えとかの作業も必要になるし……まぁ、畑作でもメリットはあるんだ」
「「ふ~ん」」
「どやぁ」
「なんでフェリスさんが自慢気なんですかって分かりきってますね すみません」
キリウスさんの説明にルーカスとリリアナさんが感心したように頷いて、フェリスさんがドヤ顔になった。
そのフェリスさんにオズがツッコミだかなんだか分からないことを言うが、貴女もたまに似たようなことをするよね。
そんな感じで、わちゃわちゃしながら村の入口まで行くと、兵士のような農民のようなどっちつかずの格好をした人がふたり立っていた。
「お!! やっぱりキリウスたちだったか。ようやく戻ってきやがったな」
「今か今かと待ちわびたぜ!! 我慢できずに主役抜きで騒ぐところだった!!」
「久し振りだな、二人とも」
「ひさ」
そのふたりは、キリウスさんとフェリスさんが近付くと、嬉しそうに笑いながらそう話し掛けてきた。
「おいこら、お前ら。俺たちには何も無しか」
「そうよ~。それにフェリスちゃんはキリウスのなんだから、あんまり近付いちゃダメ~」
「ちょ、ね、姉さん!!」
挨拶から省かれたルーカスとリリアナさんも、からかいながらそこに近付く。
そして、リリアナさんは後ろからフェリスさんに抱き付き、二人から遠ざけるようにずりずりと後ろに引き寄せた。
「あっははははははは!! 確かにそうだな!! あんまり馴れ馴れしくしちゃ、キリウスにブッ飛ばされるわな!!」
「お前らも久し振り!! そっちはいつ式を挙げるんだい!!」
「おいおい、そう言ってやるなよ。こいつらにその発想はねぇって!!」
ひでぇ言い草だ。
まぁ、ルーカスたちが結婚するつもりになったのは、割と最近のこと。この二人どころか家族にすら連絡が行ってない可能性は高い。というか行ってない。
キリウスさんたちが結婚するって話をした時は、ルーカスたちに結婚の意志は全くなかった。
その二人が結婚するつもりになったのは、多分あの時からだろう。
…………ルーカスが死に掛けた、あの時だ。
付き合いの短い私でさえ、感情を制御できずに無茶をしたくらいなのだ。好き合っていた二人なら尚更で、その際、何かしらの心境の変化があってもおかしくない。
まぁ、その辺が実際どうだったのかは二人が知っていればいいことで、私が知っているのは四人で同時に式を挙げるらしいこと。つまり、同時婚。
こういうことには詳しくないが、結構珍しいことではないだろうか。
門番のふたりも、ルーカスたちが結婚するつもりで帰ってきたとは思っていないのだろう。からかうように『ゲハハ』と悪役のような笑い声をあげた。
そのふたりにルーカスとリリアナさんは悪巧みが成功したような顔をする。
…………この場の悪人顔率高けぇな。4/6だよ。
「ふふん。聞いて驚くがいい、愚民共よ……」
「なんと!! 私たちも結婚式を挙げることにしたの♪ ダブル・ウェディング? みたいな」
「「…………………………………………は?」」
そう告げられた門番ふたりは、悪人面から間抜面……失礼。ポカンとした表情になって、動きを止めた。
それを面白そうに見ていたリリアナさんは、さらにからかうようにルーカスに抱き付く。ルーカスもちょっと照れ臭そうにしながらも、リリアナさんにされるがままにしていた。
『暑いね』
『熱いわ~』
『まだまだ残暑が厳しいな。私は暑さを感じないが』
『バカップルってこういうのを言うんですね……』
オズ、気を付けろ。それはブーメランだ。
人前でチュッチュしてた私たちも、多分そう見られてるから。最近落ち着いたけど。
……まぁ、私たちのことはどうでもいい。
キリウスさんたちだけでなく、ルーカスたちまで結婚するという情報に、門番ふたりは大慌てで詰め寄った。
「どどどどど、どういうことだ!? どうしたんだ、ルーカス!!」
「そそそそそ、そうだぞ!? この前会った時はそんなこと言ってなかったろ!? 『俺たちゃこのくらいの距離感が丁度いいのさ』なんてスカしてた癖に!!」
「弱味か!? 弱味を握られたのか!?」
「それとも借金か!? いくらの負債を抱えたんだ!? あれほど旨い話には飛びつくなと言ったのに!!」
「ちょっと待て!? お前ら俺のこと何だと思ってんだ!!」
「そうよ!! というか、私だってその場にいて『このままでいい』って言ってたでしょ!?」
わいのわいのぎゃーぎゃーと騒ぐ四人。
そこにキリウスさんとフェリスさんも混ざって、しばらく旧交を温める六人に放置されることとなった。
仕方無いので、オズと並んで三角座りして風景を眺めることにする。
『景色がいいねぇ。どこまで畑なんだろ』
『もうちょっと早ければ、一面の稲穂に埋め尽くされて、もっと綺麗だったのにね~』
『刈り取った後の風景もまた、侘しさを感じさせてよいものだ』
『お米ですか…………どうせ栽培するなら、品種改良したいですね。もうちょっと色んな種類のお米が欲しいです』
おっとぉ? 一人だけ食欲に走ってる輩がいるぞ?
でも、テモテカールに帰る前に農業ギルドにでも寄ることにする。
のんびりとしていたら、ようやく再会のテンションが下がって落ち着いたのか、ルーカスに呼ばれた。
「おーい、すまんすまん。うっかり仲間内で盛り上がっちまった」
「ごめんね、ふたりとも」
「冒険者なんてしてると、滅多に会えなくてなぁ。言い訳だが」
「ごめん」
「いいですけどね」
軽くお尻を叩いて立ち上がり、門前の分析魔道具に案内される。
それにギルドカードを押し当てながら魔力を流すと、いつも見ている情報が表示される。もちろん、問題などひとつもない。
ただ、魔力を流す私たちを門番さんふたりが不思議そうな顔で見ていて、ついに堪えきれなくなったのか、恐る恐る声を掛けてきた。
「……………………なぁ、さっきから気にはなってたんだが」
「あぁ…………その子らは誰だ?」
身長差から、無意識なのだろうけど上から覗き込むような形になり、オズがちょっとビビって背後に隠れた。
そんなオズを庇うようにしながら簡潔に一言で説明する。
「こんにちは。パパとママの娘です♡」
「「やっぱりデキ婚だったーーーー!!!!」」
「「やっぱりってなんだーーーー!!!!!!!!」」
ルーカスたちと私たち。どこにも共通する特徴などない穴だらけのボケは、想定外の信憑性をもって信じられました。
結局村に入れたのは、一時間くらい後だった。
予告は飛ばした人もいるかもしれませんので、ここでももう一度。
あけましておめでとうございます。
今年ものんびり頑張りますので、よろしくお願いします。




