第139話 テモテカール混成軍V.S軍馬混成群⑥
100 ~ 140話を連投中。
10/12(土) 13:00 ~ 未定。
前回実績:1話/30分で計算すると1日を超えます。
一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。
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申し訳ありません。
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強めの風が、場を仕切り直すように一度だけ吹き抜けた。
先程まで、オズの雷光にざわついていた領軍も、今は『シン……』と静まり返っている。
その領軍の最後尾の辺りには、オズを背負ったルーカスたちがいるのが分かった。
草原に満ちていた泥濘は、衝撃波に吹き散らされ、闇の魔力として大気中に薄く広がっていた。
瞬迅鬼鋭は、その中において圧倒的な存在感を放って、しかし自然体で存在している。
今は細い体躯に、長い矩形の腰部装甲をスカートのように纏い、胸部には軽鎧型装甲、四肢には籠手や脛当などを動きに支障の無いように装着していた。
だが、何より特徴的なのは、両肩部から短砲塔のように突き出したメイン・スラスタだろう。
こちらも武器を振り回したとしても、邪魔にならないように装着されている。
「……………………戦乙女」
戦乙女?
……………………言われてみればメイン・スラスタは折り畳まれた翼のようにも見えるし、先程言った通り腰部装甲もスカートに見える。そして、素早さ重視の軽鎧。
確かに創作物語に登場する戦乙女に見える姿形をしているかもしれない。
そして、その正面でオズの爆雷矢を受けて倒れ込んでいたスレイプニル・ワークゴクが、何事もなかったかのように立ち上がった。
『スレイプニル・ワークゴクは、どうやら半魔法生物らしい。単純な電撃ダメージは通ったようだが、追加の麻痺効果は半減したらしいな』
『あの雷喰らってもその程度なのか……』
『一応追加で説明しておくと、スレイプニル・ワークゴクが発生させている泥濘があるだろう。あれはヤツの高密度魔力だ。経験を積めば、あれのある範囲内において、ほぼ万能の力を発揮する。
恐らく、無意識に電撃を魔力に逃がして、ダメージを軽減していたのだろう』
『なるほど……』
『闇属性の魔力は、魔法として発動していなければ、光属性の魔力で相殺出来る。戦闘中は光属性魔力を纏わせておくが、離れた場所の敵の魔力には気を付けろ』
『ありがと。でもまぁ、そんなに時間は掛からないよ』
『? そうなのか?』
ナビから訝しげな声があがる。それはそうだろう。
『瞬迅鬼鋭』…………武神を持ち出せば倒せる相手なら、Sランク魔獣の脅威はもっと低いはずだ。
尤も、武神を作成できる程の技術力と金銭的余裕がある国が殆ど存在しないというのも、理由のひとつだろうけれど。
『えぇ。そうでしょう? ナツナツ』
『あれれ~~? バレた?』
妙なハイテンションで姿を現したのは、最も長い付き合いにして、最も短い付き合いになったナビゲーター、ナツナツである。
『パタタ……』と忙しなく羽を震わせながら、最近は懐かしい肩口に腰を下ろす。
オズが加わってから、情報伝達のためというのもあって、ナツナツとオズは殆どペアでいてもらったからね。
『進化したんだ』
『うん、そう~~♪ サイト・フェアリー♡ どう? どうどう?』
くるくるっと楽しそうに肩上で回転するのを、ちょっとホッとしつつ観察する。
いつもなら片手を伸ばして触れ合うところだけど、武神状態じゃそれは出来ないので残念だ。
『見た目的にはあんまり変わらないね』
『あー、そんなこと言う? 視界は360°全周が見えて、《遠視》も取得~♪ 加えて《透視》も併用すれば、妖精魔法が届かない場所は無いんだよ~?』
『それは凄いね。凄いけど、見た目が変わらないのは確かでしょう。…………ちょっと安心しちゃった』
『え?』
『前に『大きくなりたい』って言ってたからね。進化するなら、サイズが大きくなる大妖精方向にするかなって思ってたんだ』
『……………………その方が、良かった?』
何故か不安そうに聞くナツナツに気軽い感じに答える。
『『ナツナツの好きにしていいよ』って言うつもりだったんだけどね。…………ホントは、我が儘かなって思ってたけど、小さいままでいて欲しいなって思ってたんだ』
『…………言ってよ。今日、このタイミングじゃなかったら、大妖精コースだったわよ』
『ごめんね』
『結果オーライだったから、別にいいけど……でも、なんで?』
『…………………………………………』
ナツナツの疑問はもっともで、でも私の理由は激しく自分勝手で、そのくせ何の根拠もないものだと分かっているから、やはり言い淀んでしまう。
『……………………?』
『…………まぁ、ちっちゃいナツナツに慣れてるってのも大きいけど……』
『うん』
『……………………ナツナツが大きくなって、ひとりで色々出来るようになっちゃったら、独り立ち、されちゃわないかなって、ちょっと不安だったんだよね』
『…………………………………………』
『いや、『ナビゲーターだからそんなこと無いよ』って言うだろうし、『そもそも小さくても出来ないことなんて多くないよ』ってのも分かってるんだけどさ。なんか、こう……ねぇ? 小さい方がお世話出来てる感が……その……………………ごめん』
『…………………………………………』
ナツナツの沈黙が痛い……
武神なった体は汗なんてかかないのだけど、背骨に沿って『ぶわっ』と汗が浮き出たような感覚がする。
表面温度も内面温度も変化がないのに、顔が熱い。
『…………………………………………』
『…………………………………………』
『……………………ふ、ふふ……ふふふふふふふふふ!!』
しばらく顔を伏せて沈黙していたナツナツは、不意に肩を震わせて笑い始めた……
『ふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!!!』
ぺちんぺちんぺちんぺちん!!
『ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!!!』
『……………………埋まりたい……』
『止めとけ』
肩装甲を激しく叩きながら笑い転げるナツナツに、『言うんじゃなかった』と後悔が広がった。
なお、スレイプニル・ワークゴクは、警戒しながら私の周りを回っていますが、実は今、ちょー無防備だよ……
『ふふ、ふふふふふふふふ!!!! ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!!!』
ぺちんぺちんぺちんぺちんぺちんぺちん!!
『…………ナビ。シャベルちょーだい』
『無いから止めろ。ナツナツ。嬉しいのは伝わってくるが、そろそろ笑うの止めろ。素手で地面を掘り出しかねないぞ』
『ふふ、ふふふ……もう~~ナビ、先に言わないでよね~♡』
『まだ戦闘中だ。巻いてくれ』
『しょ~~がないなぁ!!』
『…………ナツナツ? ナビ?』
『『独り立ちされちゃうんじゃないかなぁ』な~んて思ってるのは、こっちの方だよ!! どんどん強くなるし、妹も出来るし、家族も出来るしさぁ~!!
…………ホントはさ、大きくなれば、オズみたいに妹としていられたのかなって、ちょっと思ってたんだよね。そうなれば、たとえナビゲーターとして不要になっても一緒にいてくれるかなって』
『…………そっか』
そんなことはない。
ナビゲーターが不要になるかもなんて考えてもいなかったし、もしそうなっても一緒にいない選択肢を選ぶつもりなんてなかったのだが…………それはナツナツたちの方も同じだろう。
『『二人で今生を平穏に全うする』でしょ!!』
『『二人で』の所は増えたけどね』
『…………私も入ってるよな、それ。あとオズも』
『『当然』』
ナビが慌てたように追加してくるが、そこはノーという流れではない。流れで言ったとしてもすぐ修正するけど。
『はぁ~~笑った笑った。笑ったからそろそろ終わりにしましょう』
『そうだな』
『そうね。早く終わらせて夢茶会でみんなとのんびりしたい』
『いいね~♪』
『今日はオズが参加出来ないかもな』
それはあかん。明日に持ち越しかも。
それはともかく、
『ナツナツ、入って』
ナツナツが座る右肩の一部がカポッと開くと、そこには小さな空洞が空いている。
『なにこれ』
『私のところまで行く直通の通路。そこじゃ、危ないからね』
『なるほど』
『なにこれ』と聞いてる間に、頭から飛び込んでいる。思い切りが良すぎて怖い。
なお、内部はチューブ状の滑り台となっていて、使用後は潰れて動きを妨げない親切設計。
『それで作戦は?』
『先手必殺♡』
『スレイプニル・ワークゴクは、時間を掛けるほど経験を積んで強くなるのは分かり切ってるからね? なら、悠長に相手の出方を窺ってないで、初手から全力で攻撃した方がいいわ』
『なるほど』
『ナビは内側からの補助をよろしく~。私は外側から~』
『いつも通りだな』
『そうね』
ここにオズを絡めた戦法も確立したいところ。
まぁ、それはともかく。
『いくよ』
『うん♪』
『御意』
一歩目から全力で行った。
その戦闘はここに至るまでに捧げられた、多くの労力と、多くの思いを、一点に集中したかのように呆気なく終わった。
戦乙女が両手を左右下へ降り下ろすと、その両手には二振りの片手剣が現れる。
そして、スレイプニル・ワークゴクへ向かって踏み込むと同時に、背後から暴風が吹き荒れた。
それは戦乙女を一気に加速し、一歩目で最高速度へ押し上げる。
スレイプニル・ワークゴクはそれに対し、漏れ出る泥濘を無数の杭と化してカウンターを狙う。
戦乙女は、その悉くを直角に近い軌道で強引に回避した。……………………左右に。
それを見ていた兵士たちからは、無数のどよめきが巻き起こり、さしものスレイプニル・ワークゴクすら、戦闘中でありながらも驚愕に動きを止めてしまう。
その隙を突くように、鏡像のように対称の戦乙女が、スレイプニル・ワークゴクを挟むように移動すると、揃った動きで同時に襲い掛かる。
驚愕に一時固まっていたスレイプニル・ワークゴクだがすぐに立て直すと、左右から迫り来る戦乙女に対し、素早く左へ向き直る。
そして、右側への戦乙女へは後ろ脚蹴りを、左側の戦乙女へ噛み付きを放った。それは馬系魔獣として、最も得意とする攻撃方法だ。
それゆえ、巨体となったばかりであっても慣れたスムーズな動きとなって、最適な力、最適なタイミングで二人の戦乙女に襲い掛かる。
後ろの戦乙女は、交差させた二刀で蹴り足を受け止め、しかし刀身を砕かれると胸部を蹴られて宙を舞った。
前の戦乙女は、左の刀身で口を断ち斬るように薙ぎ払い、右の刀身で心臓を狙って突きを放つ。が、スレイプニル・ワークゴクの開いた口に虚空から泥濘が纏わり付くと、その口を巨大化させるように形状変化する。そうして出来上がった大顎で刀身ごと戦乙女の左肩から斜めに喰い付くと、そのまま真っ二つに噛み千切った。
領軍のそこかしこからは、力無い声や嘆きの声が漏れ広がる。
………………そして二人の戦乙女は、宙に溶けるようにかき消えた。
そこに闇杭を飛び越えて最後の戦乙女が襲い掛かる。
スレイプニル・ワークゴクは、その奇襲に気付けていようとも、後ろ脚を蹴り上げている現状では回避することは出来なかった。
戦乙女は、無防備に晒されたスレイプニル・ワークゴクの横っ腹に左の一刀を突き刺し、首へ右の一刀を斬り下ろす。
それら二刀は、滑らかにスレイプニル・ワークゴクの肉体に喰い込み、心臓を破壊して首を飛ばした。
…………………………………………軍馬との開戦から数えて、半日と少し。
簡単な運搬クエストのはずが、軍馬の討伐、怪我人の治療、Sランク大罪魔獣の討伐へとランクアップしていった一日がようやく終わった瞬間だった。




