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ゴーレム娘は今生を全うしたい  作者: 藤色蜻蛉
7章 襲撃!! 嘆きの魔獣
145/264

第137話 テモテカール混成軍V.S軍馬混成群④ (時間稼ぎ パーティメンバー視点)

100 ~ 140話を連投中。


10/12(土) 13:00 ~ 未定。

前回実績:1話/30分で計算すると1日を超えます。

一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。


word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿。


申し訳ありません。



ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。

「もうちょい下…………行き過ぎ。……うん。その辺」


「術式書き込み完了したよ」


「キリウス」


「そのまま待機だ」


今、私の目の前では、ルーカスさんたちが細心の注意を払って、タイミングを見定めています。


「すみません。そろそろ、限界で、余力が無くて……」


「気にしない。適材適所」


「そうそう。それに十分過ぎるほど活躍してくれたからね。安心して倒れて」


「ありがとう、ございます」


気遣うように返事をしてくれるのは、フェリスさんとリリアナさん。

ルーカスさんとキリウスさんは、これからが本番なので、集中しています。


私はスレイプニル・ワークゴクが現れる前から、《限界突破》を発動させていたため、そろそろ身体がオーバーヒートしそうです。

ナツナツはお姉ちゃんの援護に向かわせましたけど…………間に合いましたかね?


今、領軍の人たちが、後先を考えない全力攻撃を放って時間を稼いでいてくれています。

天災に等しい脅威に対して、恐れずに立ち向かっていく彼等の評価を上方修正しました。…………一応、次男も。


しかし、それがために、楯士隊の捨て身のシールドアタックは、真実 捨て身となろうとしています。

その覚悟や良し……ですが、貴方たちが死んだらお姉ちゃんが悲しむでしょう。やめていただきたい。


スレイプニル・ワークゴクは、弓士隊の炎矢の爆圧には耐えたものの、続く魔道士隊の爆炎を喰らって、ついに大地へと倒れ込もうとしています。

その先には楯士隊が。


「残り約5秒。…………3、2、1、行け!!」


「ぉぉおらああああぁぁぁぁ!!!!」


それが現実となる前に、キリウスさんの合図と共にルーカスさんの全力投擲が放たれました。

《先読み》が正しく働いていれば、ギリギリ間に合うはずです。


投擲された剛槍は、放物線を描いて、しかし高速で飛びます。

数秒と掛からず着弾した場所は、スレイプニル・ワークゴクの真下辺り。

具体的には楯士隊の後方です。

それは、本当にギリギリのタイミングで大地に届くと、


ごああああああああああああぁぁぁぁ!!!!!!!!


えげつない暴風となって、楯士隊を吹っ飛ばします。

リリアナさんの時空魔法により、風圧を偏向したため、かなりの威力を発揮しました。狙い通り。

そして、楯士隊のいなくなったスペースに向けて、スレイプニル・ワークゴクが大地に倒れ込みました。


「よおおぉぉっっっっしゃーーーーーーーー!!!!!!!!」×たくさん


『時間を稼ぐ』という目的に対しては、最高の結果を得られたでしょう。

ダメージは殆ど通ってはいないものの、立ち上がるには数秒は掛かるはずです。


…………が。


チラリとお姉ちゃんの方を見ると、予想より時間が掛かっているようです。

バージョンアップ後の初回起動を済ませてなかったらしいですが、次からはガア・ティークルの広場を貸しましょうか。


「アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!!!」


スレイプニル・ワークゴクは、倒れ込んだまま咆哮をあげました。

《絶対精神防御》のお陰で"孤独の嘆き"の影響は受けないはずの私ですが、あの声を聞くと、まるで心臓を直接握られたような錯覚に陥ります。


…………やはり、あの声は鳴き声でなく、泣き声と呼ぶべきものなのでしょう。

魔法などではなく、ただただ現状を嘆く彼の感情が、鼓膜を通して私の感情を揺ぶっているのを感じます。

軍馬としての正しい選択は、彼にとって望まぬ選択だったということでしょうか。


Sランク魔獣はその強さのため、基本的には寿命が尽きるまで死ぬことがありません。そして、その寿命も進化により長寿化するため、千年くらいは余裕で生存するのが普通です。

さらに大罪魔獣は、己の大罪から解放される術を持たず、多くの大罪魔獣は心を壊してしまうと言います。


彼の未来は、悲嘆に心を壊され永い孤独の中を生きるか、心ある内に今 死ぬか。二つに一つしかありません。

せめて通常のSランク魔獣であれば、また違っていたのかもしれませんが…………彼にとっても、ここで討伐される方が救いとなるのではないでしょうか。


……………………そんなことを考えてしまうのは、ただのおためごかし、欺瞞ですかね。

一度気持ちを切り替えるつもりで、頬を叩いて気合いを入れます。

私たちは私たちの都合で討伐させていただきます。《龍王の系譜》の件もありますし。


と、スレイプニル・ワークゴクは、自身の周囲へ闇色の衝撃波を放ちました。

私が撃ち込んだ光矢はすでに無く、草原は泥濘に埋まっています。


実を言えば、この泥濘は半物質化したスレイプニル・ワークゴクの高密度魔力です。

これがある範囲内がスレイプニル・ワークゴクのテリトリーであり、大罪魔獣はこのテリトリー内に限り神とも評されるような力を発揮します。

彼はまだ進化してから間もないためこれの使い方が大雑把ですが、津波に人が抗えないように『大量』であることはそれだけで力を持ちます。

衝撃波に押されて、それこそ津波のようになった泥濘が放射状に流れ始めると、全力を使い果たした領軍の人たちは、濁流に呑まれた枯葉のように押し流されていきました。


私はというと、


「リリアナ!! 壁を!! フェリス、補助!!」


「ん!!」


「《ロック・ウォール》!!」


フェリスさんが突き立てた剣を起点として、鈍角を上流へと向けた三角柱の岩が()り上がりました。


「ほら、ここに上がりなさい」


「ありがとうございます」


そこにキリウスさんが、子供のように (まぁ子供ですが) 両脇から抱え上げて乗せてくれます。

泥濘の流れは、鈍角を境に左右に別れて通り過ぎ、足場の上には流れてきません。


「ちょっと情けねぇが、オズリアの後ろに入って体力を温存するぞ。オズリアが倒れたら、抱えて後方へ下がる」


「了解」×3


まぁ、そんなに時間は掛かりませんけどね。


今、周囲から領軍を吹き飛ばしたスレイプニル・ワークゴクは、ついにお姉ちゃんが展開中の狂防孤高に気付いてしまいました。

これまでは多分、ナツナツが遠くから《催眠眼》で隠していたのでしょうが、他に注意を引く対象が無くなれば、あれだけ堂々と展開中のパーツ類を隠しきることは出来ませんね。

スレイプニル・ワークゴクは、ダメージは無くとも痛みにままならないであろう身体を強引に起こすと、最も原始的で最も効果的な攻撃を放ちました。


…………体当たりです。


狂防孤高とスレイプニル・ワークゴクならば、狂防孤高の方がギリギリ大きいので万全ならば耐えられるかもしれませんが、未だオプションらしきパーツを展開中の狂防孤高にそれを期待するのは酷というものでしょう。

だから、私が止めます。


「……行きます」


「おぅ」


独り言に近い呟きに、ルーカスさんが律儀に返事を返してくれました。


左手に弓モードのアサルトスタッフを構え、右手首を軽く下へ振ると、袖に仕込まれたアイテム袋から一本の矢が飛び出します。

見た目はいたって普通の矢ですが、(やじり)に相当する部分には白に近い黄色の輝きを放つ魔石、畜雷珠が。

これには、この前のスタンロッドとは比較にならない雷がチャージされています。


…………貴重なんですから、しっかり喰らってくださいね。


これだけ強力な雷をチャージできる魔石は、お姉ちゃんの《どこでも錬金》でもなかなか作成できませんから。


弓モードのアサルトスタッフは、普通の弓と違って弦を引き絞る力は必要ありませんが、代わりに矢の威力=速度は込める魔力に依存します。

着弾と同時に畜雷珠を破壊しなければならないので、かなりの魔力が必要となり、限界を迎えつつある体は徐々に視界をブラックアウトさせていきました。


…………………………………………


ギリギリまで魔力を込めて放った一矢は、ほぼ一瞬で着弾したはずですが、その結果は覚えていませんでした。





「ふふ……うふふふふふふふふふふふふふふ」


スレイプニル・ワークゴクに簡易高台を打ち抜かれてすぐに、ルーシアナに向かって飛翔を始めたけれど…………ちょっと、間に合いそうもないかな。


妖精種族は空を飛べるけど、基本的にはさほど素早い動きは出来ない。

私の羽は蜻蛉型だからまだ速い方だけど、蝶型はもっと遅いはず…………会ったこと無いから知らないけど。

それでも飛翔に特化した妖精種族に進化すれば また違うんだろうけど、まぁ今のところそういう進化をする予定はない。


『ナビ』


『どうした? こっちはこれから、狂防孤高の展開に集中するぞ。アプデが溜まってるから、展開終了まで30秒を予想している』


『どうせ使わないとか思ってないで、どっかで展開しておけば良かったねぇ。今度はオズに言ってガア・ティークルでも借りようか。

それはともかく、私は間に合いそうもないから、上空から《催眠眼》で援護するね~。

スレイプニル・ワークゴクの関心から外すのと、領軍の人達にルーシアナが操ってるように見える幻影を肩に乗せる』


『頼む。と、展開する。また後で』


『うん。頑張って~♪』


『あ、あぁ……』


ナビに上機嫌で声援を送ると、ナビは若干戸惑ったような声をあげつつ念話を切った。

気にはなるが、今はルーシアナに集中する時間なので、自分の小さな疑問はグッと飲み込んだのだろう。


その判断は正しい。

私とナビの間柄でも伝わらないことはあるし、そういうのは大抵時間を掛けても伝わらない。

私も自分の感情を理解しきっている訳ではないのだから。


「うふふふふふふふふ……ふはははははははは……」


それでも分かっていることがひとつだけある。


…………ルーシアナの決断が、私のテンションを爆上げしている、ということだ。


お陰で溢れるように漏れる笑い声が、怪しくて仕方無い。


「ふ、ふふ、ふへへへへへへへへ……」


ヤバイ。少し落ち着こう。

《冷静》頑張りなさい。落ち着いて暴走よ。


極論になるけど、過程で世界が滅んだとしても些細なことではあるが、結果はルーシアナの利になるようにしなければならないのだ。

ちゃんと暴走のベクトルを調整しなければならない。別に敵にでもならなければ滅ぼすつもりもないけど。


足元では、今 次男の号令で楯士隊が突撃を仕掛けているところだ。

まだ余裕はある。ウソ、ない。


敵はスレイプニル・ワークゴク。Sランクの大罪魔獣。

討伐するなら、領軍ではなく国軍が動くべきレベルの魔獣であり、演習を兼ねたAランク魔獣駆逐隊で相対するものではない。


逃げ出したとしても、誰も文句は言わない状況だろうに、それでも瞬時に討伐を決意した理由は何なのか?

名声か? 経験値か? 素材か? それとも、自惚れか?

……………………そんな理由では無いことが分かっているから、私の心は燃え上がるのを止めてくれない。

止める気もないけどね!! おっちゃん、ウィスキーストレート、(バレル)で!!


「うふふふふふふふふ……!! しょうがないなぁ、ルーシアナはぁ~♪」


護ってあげたくなるじゃない。

え? それが役目だろって? さ・ら・に、だよ!!


「うっふふっふふ~♪」


高揚したテンションに従い、跳ねるように宙を舞う。

右へ跳んで、左へ跳んで、その場でクルッと廻って、自由落下で急上昇。

心の高まりに呼応して、蜻蛉型の羽がキラキラと輝きを放つ。舞の軌跡に沿って零れ落ちた光が夜空にたなびいて、立体的な絵画を描き上げた。


『今度ルーシアナたちに見せてあげよう』と思うと、その反応を想像してさらにテンションが上がった。



▽テンション上昇に伴い、ステータスが上昇しました。

▽ステータスが上限に達しました。

▽進化条件を満たしました。

▽限定進化条件を満たしました。

 条件:ステータスの一時上限値達成。

▽進化先:中妖精

▽進化しますか?



中妖精:妖精種族の順当な進化先。体も少し大きくなり、それに比例して妖精魔法も強くなる。物理系ステータスも上昇しやすい。


『順当な進化先』というのは、得てして多くの状況において対応可能であるということ。ある場面では無類の強さを誇るが、ある場面ではミジンコに劣るでは、生存に有利なのは大体において前者だ。

それに、さらに進化すれば大妖精になるはずだし、そうなれば体もちっちゃい子供くらいになるらしい。

それは……ルーシアナが寂しそうな時に抱き締めてあげたいっていう、私の願いにも適している。


……………………だけど。


「ノー。特殊進化先を提示」



▽特殊進化条件を検索……………………

▽ヒット:1件。

▽特殊進化条件を満たしました。

 条件1:ステータスの一時上限値達成。

 条件2:《魔眼》取得。

 条件3:『幻惑鳥の魔石』所持。

▽特殊進化先:サイト・フェアリー

▽進化しますか?



サイト・フェアリー:魔眼に特化した妖精種族。妖精魔法の効果範囲が『視界の届く範囲』になり、様々な効果の魔眼スキルを取得可能。


条件3で消費する魔石に応じて、得意とする属性が変わる。『幻惑鳥の魔石』なら精神属性だろう。

今後も《龍王の系譜》がこのレベルの試練を持ってくるようなら、狂防孤高を使用することも増えるはずだ。

今回は周りも暗いこともあって、今の私でも誤魔化せてるけど、明るいところでは少々難しい。それに人形遣いとしても、あまり目立たせたくはない。

となると、不特定多数に対して強力な精神干渉を可能とする方向に進化したいところで、精神属性を得意とするサイト・フェアリーはおあつらえ向きな進化先と言える。


…………ただし問題は、体の大きさは特に変化しないことだね。

…………………………………………まぁ、小さな話よ。代わりにオズもいるし、夢茶会もあるしね。


「…………イエス。進化先:サイト・フェアリー選択」


莫大量の雷光が周囲を白に染める中、サイト・フェアリーへの進化を開始した。



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