第136話 テモテカール混成軍V.S軍馬混成群③ (時間稼ぎ 領軍視点)
100 ~ 140話を連投中。
10/12(土) 13:00 ~ 未定。
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「くそっ!! 時間を稼げったってなぁ!!」
人間が足掻いたところでどうしようもない、それが災害級とも言われるSランク魔獣だ。
アレを見て戦意を維持できているヤツが、ここにどの程度残っているというのか……
スレイプニル・ワークゴクは破壊した簡易高台から視線を外すと、再び天を仰いで泣き声あげる。
オズリアが撃ち込んだ決死の一手である光矢だが、大量の闇にあっという間に呑まれて姿を消してしまった。
同時に心臓を握り潰すような、嘆きの感情に心が侵食されていく。
兵士たちもこのような感情に支配されていては、精神に身体が引き摺られていつもの動きが出来ず、只でさえ大きなステータス差がより明確になって立ち塞がるだろう。
俺たちの使命は命を賭しても民を護ることだが、勝ち目のない闘いに『死にに行け』などと命令することは出来ない。
……………………兵士たちには撤退と同時に、スレイプニル・ワークゴクの注意を引いてもらう、か…………
スレイプニル・ワークゴクが撤退する兵士たちに興味を引かれた瞬間に俺が攻撃すれば、今度は敵としての注意が俺に移り、兵たちからもルーシアナからも注意が逸れるはずだ。
…………その後、俺が生き残れるかどうかは…………まぁ、気張るしかないか。
覚悟を決めて《マインド・オブ・オール》を使い、指揮下の兵士たち全てに声を伝える。
『総員』
『楯士隊 欠員ありません!! いつでも行けます!!』
『槍士隊 欠員ありません!! いつでも行けます!!』
『魔道士隊 合流中です!! 20秒下さい!!』
『弓士隊 合流中です!! 10秒下さい!!』
俺の指示を掻き消すように、各隊から連絡が届く。
『お前ら……!?』
「隊長。騎兵隊、合流しました!!」
「……セヴェン」
気付けば満身創痍の騎兵隊が背後にいた。
その強い眼差しに俺は自分の勘違いを知った。
「隊長!! 俺達は民を護るために訓練をしてきたのです!! 今、闘わないで、いつ闘うのですか!!」
「そうです!! それに、彼女に恩を返すのは、今、この時でしょう!!」
「隊長!!」
『隊長!!』
『隊長!!』
『隊長!!』
「…………………………………………バッカ野郎どもが」
思わず悪態を付くも、口元には笑みが浮かんでいた。
Sランク魔獣、スレイプニル・ワークゴク。
アレを見て戦意を維持できるヤツなんて、いないと思っていた。
当然だ。本来なら国軍が万全の用意をして、追い払うのが関の山の災害級なのだ。
…………そんなことはなかった。ビビってたのは俺だけで、闘う前から戦意を失うヤツも、負けるつもりのヤツもここにはいなかった。
こいつらの上に立つに相応しい存在となるには、まだまだ努力が必要だな。
周囲から燃えるように熱い意思が、スキルを通して伝わってくる。
《マインド・オブ・オール》は、俺から部下への一方通行の意思疎通スキルではない。
俺から部下へ、部下から俺へ、双方向に意思通じ合ってこその一心同体だ。
スキルによって流れ込んだ熱が、悲嘆に沈んだ俺の意思を奮い立たせ、与えられた以上の熱となって返っていく。
それは再び部下たちの熱を煽り、さらに強くなって俺に返ってくる。
互いに煽り立てる熱の循環は、俺たちを一個の存在として纏めあげる、熱き獣の意思である。
獣は思う。
それでもこの魔獣と真っ向からやりあえる力は無い、と。
真っ向からやりあえないのなら…………ひとつに突出するしかない。
そう……………………攻撃だ。
「いくぞおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」×全員
この時ばかりは、スレイプニル・ワークゴクの泣き声よりも俺たちの雄叫びの方が大きかっただろう。
僅かにヤツがたじろいだ気がした。
「楯士隊!! 突っ込め!!」
「おおおおおおおおおおおお!!!!」×たくさん
楯士隊が一群となって疾走を開始する。
「槍士隊、弓士隊、魔道士隊。順に攻撃!!!! 防御も次も今は考えるな!! 一撃に全てを込めろ!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」×たくさん
槍士隊は攻撃のため詠唱を開始し、弓士隊と魔道士隊はそれぞれ最適な場所に集まり始める。
「騎兵隊!! 合わせろ!!」
「サー!! イエッサー!!!!」×たくさん
そして攻撃の始まりは、俺たち騎兵隊だ。
声を揃えて詠唱し、ひとつの攻撃へと纏めあげる。
「我等は個にして全!!」×俺
「我等は全にして個!!」×騎兵隊
「仮初めなれど、一個となりて破天の力とならん!!」×俺
「破天の力とならん!!」×騎兵隊
「我は疾風!!」×俺
「我は閃光!!」×騎兵隊
「集う力は天翔ける蒼風の破!!」×俺
「集う力は天翔ける極光の破!!」×騎兵隊
俺と騎兵隊のそれぞれの重大剣に、風、そして光の力が集束する。
各々が極限まで集中させた力に、大気が悲鳴をあげた。
そして
「破天せよ!! 【風光十字斬】!!!!」×全員
領軍の領軍たる所以。俺たちが集団であることの最大の利点。
一人では扱い切れない複雑で巨大な術式を、全員で作り上げ 制御する。
人が築き上げた最大級攻撃力のひとつ。統合奥義だ。
全員 動作を揃えて、風刃は右上から左下へ、光刃は左上から右下へ。
その交点が、スレイプニル・ワークゴクの中心へと至るように降り下ろした。
莫大量の風と光を撒き散らしながら、十字の力は真っ直ぐに飛ぶ。
それに対し、スレイプニル・ワークゴクは…………反応を示さない。
騎兵隊の全力攻撃であるにも関わらず、あの程度の攻撃では己の防御力を抜けないことを本能的に察しているのだ。
攻撃を無視して、口腔に再び黒球を蓄積し始める。
「槍士隊!!」
「【震天魔吸槍】!!!!」×たくさん
【風光十字斬】がスレイプニル・ワークゴクに当たる直前に槍士隊に指示を投げる。
間髪入れずに、一条の軌跡を描いて巨大ジャベリンが交点に向かって翔んだ。
全員の槍を一本に束ねて行われる、槍士隊の統合奥義だ。
巨大ジャベリンは、【風光十字斬】に触れると四方に広がっていた風光の力を吸い込み、ただ一点に凝縮させて貫きの力となる。
弾かれたように加速したそれは、吸い込んだ力を糧として無防備に晒されたスレイプニル・ワークゴクの胸板に飛び込んだ。
「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!!!」
さしものステータス差でも、油断して無防備であったところへの一撃は防ぐことは出来なかった。
巨大ジャベリンは、その半身をスレイプニル・ワークゴクの体内に潜り込ませると、動きを止める。
Sランク魔獣に対して有効な一撃を与えられたことを喜ぶべきか、騎兵隊と槍士隊の全力でも致命傷を与えられなかったことを嘆くべきか…………
一瞬だけそんな思考が首をもたげるが、今すべきは時間稼ぎなのだから、喜ぶべきと判断した。
口腔に蓄積されつつあった黒球は、予想外のダメージを喰らい集中を乱されたため、その球形を維持できずに霧散した。
「楯士隊!!」
「おおおおおおおお!!!!」×たくさん
そこに楯士隊が突っ込んだ。
「楯士隊、全速前進!! 駆け抜けろ!!」
「イエッサー!!」×たくさん
闇色の泥濘が足に纏わりつくが、強引に振り払って前進する。
楯士隊は、防御の要であると同時に、敵に至るまでの道をつける先発隊でもある。
足場の悪い大地を行くのは想定の範囲内だ。
一踏みで広範の大地を踏み固め、後続が無駄な消耗なく行けるようにする。
と、
「!!!!!!!! 野郎共!! 我等が女神の御加護だぞ!!」
「おおおお!!!!」×たくさん
もう、余力も残り少ないのだろう。
真っ直ぐにスレイプニル・ワークゴクへと向かう直線上に、闇を払う光矢が数本突き立った。
これだけあれば、十分だ。
「吼えろ野郎共!!」
「イエッサー!!」
楯士隊員の全てに発破を掛ける。
《ガッツ & パワー》。
指揮下の者にテンションに応じたステータス上昇効果を与える。
あんまり効率は良くないけどな!!
「俺たちの背後には誰がいる!!」×俺
「イエッサー!!」×楯士隊
「他にはいないのか!!」×俺
「イエッサー!!」×楯士隊
「それだけか!!」×俺
「イエッサー!!」×楯士隊
「そうだ、その通りだ!! …………だが、今日だけはそれじゃ足りないだろう?」×俺
「イ、イエッサー?」×楯士隊
ここまではいつも通り。それに続きを追加させたものだから、戸惑ったような応答があがった。
「脚を無くしたヤツはいるか!!」×俺
「!!!! イエッサー!!」×楯士隊
「腕を無くしたヤツはいるか!!」×俺
「イエッサー!!」×楯士隊
「人生諦めたヤツはいるか!!」×俺
「イエッサー!!」×楯士隊
「恩は返さなきゃなぁ、おい!!!! 唱えろ!!!!」×俺
「イエッサー!!」×楯士隊
今までで最高にテンションが上がった。
そして、攻撃をひとつに纏めあげるための詠唱を開始する。
「我等は個にして全!!」×俺
「我等は全にして個!!」×楯士隊
「仮初めなれど、一個となりて破天の力とならん!!」×俺
「破天の力とならん!!」×楯士隊
「我等の一歩は小さな一歩!!」×俺
「我等の一歩は確かな一歩!!」×楯士隊
「不断の歩みは止めること能わず!!」×俺
「一途な歩みは逸らすこと能わず!!」×楯士隊
「蹂躙せよ!! 【割破倶縦進撃】!!!!」×全員
正面、先頭を行く自分の前に現れたのは、巨大な魔法盾。
俺たちの踏み込みに比例した力を加えられ、強大なシールドアタックとして共に行く。
途中で騎兵隊と槍士隊の一撃が飛び、スレイプニル・ワークゴクが苦悶の声をあげて、バランスを崩した。
「楯士隊!!」
「おおおおおおおお!!!!」×たくさん
そこに隊長どのの声が、狙うべきポイントと共に飛んでくる。
狙いは…………右前肢だ!!
苦悶に喘ぐ動きで天を仰いでいるため、重心が僅かながら後方へ寄っている。
数瞬後には再び前に戻るだろうが、その時に前肢を払われていれば、体を支えきれずに倒れ込む可能性が高い。
そうすれば、かなりの時間を稼げるはずだ。
「おおおおおおおおぉぉおぉ!!!!」×たくさん
ガ、ギギギャギャアアアアアアアアンンンン!!!!!!!!
魔法盾が不自然に歪み、耳障りな異音を周囲に撒き散らす。
数mだけ押し込んだ前肢は、しかし不自然に曲がったまま動かない。蹄を大地に突き刺すことでそれ以上 下がることを防いでいるのだ。
そして、こちらの意図を察したのだろう。
残りの五本の脚で体を支えると、右前肢を振り上げ楯士隊の中心へとその先端を叩き付ける。
「――――!!!! 包囲!!」
刹那の判断。
本来なら敵軍と正面から激突した後、後方の者が左右に別れて敵軍を包囲するという、殲滅行動のための行動。
これを回避に使った。
誉められるべきは、咄嗟の指示に一瞬の迷いなく従い、しかしこの場における的確な動きをして見せた部下たちだろう。
先頭を行く俺を起点に、後方の者が左右に別れて追い抜いていく。
そして俺は180°転身。
【割破倶縦進撃】は、楯士隊の『正面』に魔法盾を出現させる。
一瞬だけ『隊の正面』が無くなったせいで、魔法盾も存在が不確かになったが、すぐに『隊の正面』が再定義されたことで歪ながら魔法盾も再構築される。
つまり、楯士隊の先端を中心として、180°向きを変えたシールドアタックとして、だ。
何もない大地に打ち付ける前肢に、後方からアタックを仕掛ける。
ついには、足払いを掛けられたように、右前方へと滑るように体勢を崩した。
「弓士隊ぃぃーーーー!!!!」
俺の合図を待っていた訳ではないだろうが、極太の炎矢がスレイプニル・ワークゴクの頭上から襲い掛かると、刹那に弾けて大地へと押し付ける。
本来楯士隊は『走り抜ける』予定だったから容赦がない。
姿勢を崩したスレイプニル・ワークゴクは、ボディプレスのように楯士隊に降ってくる。
「後は任せた――――!!!!」
壊滅を覚悟した瞬間、背後から暴力的な圧が吹き荒れた。




