第133話 テモテカール混成軍V.S軍馬混成群①
100 ~ 140話を連投中。
10/12(土) 13:00 ~ 未定。
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一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。
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申し訳ありません。
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領軍の隊長から『軍馬の襲撃があるかもしれない』と通達があってから約一時間後。
俺たちでも確認できる位置に軍馬とアンデッド・ホースの軍団が現れた。
「本当に現れたな……」
「そうね。何者なのかしら、あの子たち……」
「『人形遣い』だけじゃないことは確か」
「何でもいいさ。重要なのは、私たちの味方で、彼女たちに大きな借りがあることだ」
リリアナとフェリスの疑問も尤もだが、確かに重要なのはキリウスの意見だ。
「救けられた借りは返さないとな」
「そうね」
「……………………その前に自分の身の安全を優先して。特に姉さん」
「そうだな。また死に掛けたら、借りを返すどころか借りが累積するぞ、兄さん」
「「き、肝に銘じます…………」」
弟たちの視線が痛い…………
一応、武具は領軍から予備を借りたのでBランク魔獣にも対抗できるはずだが、油断は大敵だ。この装備で本隊は負けたのだし。
すでに一度確認済みだが、念押しの意味を込めて再度武器の感触を確かめていると、キリウスが話しかけてくる。
「体調はどうだい?」
「さっきも言ったろ? すこぶる良い。いや、マジで」
これは見栄とかそういうものではなく、本当に調子がいい。
何だろう。一度体をバラして不具合を取り除いて組み直したみたいに、身体の各部の連係がスムーズだ。
俺と同じように、ルーシアに治療された兵士からも似たような感想を聞くので、原因は推して知るべし、である。
「普通は身体の欠損を再生させると、元々の体と齟齬が出るものなんだがなぁ……」
「でもルーシアちゃんだし」
「あんまり驚いていても仕方無い」
キリウスはどうにも納得できないようだが『まぁルーシアだしな』っていうのは俺も思う。
「それよりそろそろくるぞ」
「あぁ」
「そうね」
「分かった」
皆への合図と共に取り出すのは、紙に包まれたフカフカしたもの。
…………『バームクーヘン イチゴ味』だな。
全員微妙に違うが、『一口サイズのお菓子』という点では共通している。
それらを薬よろしく口に放り込む。
…………水が欲しいな。
▽ バームクーヘン イチゴ味の潜在効果が発動しました。
▽ 一時スキル:災禍の閃き
▽ 持続時間:2時間
摂取するだけでスキルを付与するなんて、どんなマジックアイテムだよ……
ちなみに俺たちが貰った料理は次の通りだ。
・俺
料理:バームクーヘン イチゴ味
付与:災禍の閃き
効果:危険に対する感覚を向上させる。
・リリアナ
料理:ホワイトマカロン
付与:魔道の閃き
効果:効果的な術式構成を閃きやすい。
・フェリス
料理:オレンジグミ
付与:精密
効果:狙った場所、軌道で攻撃しやすい。
・キリウス
料理:しゃりしゃりカステラ
付与:先読み
効果:周囲の状況から少し先の展開を予測する。
……………………これ、なんて、レアアイテム?
契約魔法しておいて本当に良かったわ。さらりとこんなもん ばら蒔いてんじゃねぇ。全員に。
ただまぁ……
「ここまでしてもらっておいて、恩を仇で返せないよな」
「えぇ」
「だからと言って死ぬ訳にもいかないからな」
「分かってる」
こちらの身を案じている気持ちは、痛い程に伝わってきている。それは他の兵士たちも同じだろう。
今ここに、ルーシアたちの敵はいない。
アンデッド・ホースが動き出す。その直前。
「全!! 軍!! 進!! 撃!! 狙いは正面、ボス格の軍馬だ!!」
「お、お、お、お、お、おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」×たくさん
隊長の号令を受けて、領軍が動く。
その先頭には、当の隊長と……
『気を付けろよ……!!』
ルーシアナが重大剣を掲げて突っ込んでいった。
「おっ…………りゃあ!!!!」
大きく牙を剥いて噛み付こうとするアンデッド・ホースの口腔に、ベースブレイドを突き刺し、そのまま唐竹割りにする。
刃が抜けたところで軌道を左に逸らし、その流れに乗って体を左に飛ばす。
その空いたスペースをぶち抜いて、迎え入れるように開いた胸郭に無数の槍が突き込まれた。
「《ライト・ボム》!!」×それなり
槍先から光属性の爆発が起きると、アンデッド・ホースの上半身を消し飛ばす。
領軍は、あらゆる属性の魔獣に対抗するため、各属性の下級魔法を発動させる魔石を準備している。《ライト・ボム》もそれだ。
しかし、それでも動きを止めず、再生するのがアンデッド。
だが、
「《ライト・ボム》!!」
「《ライト・ボム》!!」
「《ライト・ボム》!!」
「《ライト・ボム》!!」
一瞬だけ動きを止めた隙を逃さず、破壊を続けていく。
それでも闇の魔力は靄のように集って再生しようとするが、その状態であれば防御力は無きに等しい。
人海戦術で一頭ずつ屠っていく。
次男側でも同様だ。
そちらでは次男がアンデッド・ホースの首を飛ばし、返す刀で前肢を落とすと、トドメに傷口から重大剣を差し込んで背開きにしてのけた。
そうして開いた背面に槍士隊の突きが襲い、光爆が内面で弾けてアンデッド・ホースを霧に変える。
同じような戦闘は、騎兵隊の面々を中心に他の場所でも行われている。
彼等は常に最前線に立ち続けることになるため、私たちと同様に負担が大きいが…………まぁ、本職に対してステータス頼りの素人が心配するのは失礼か。
しかし、このような戦法は人数差あってこそ行えるもの。
私たちの人数は約120人。敵の数は軍馬を含めても約60頭。倍程度しかいない。
集団戦では敵と味方の接触面が戦闘箇所になるため、単純に比較することは出来ないが、敵の一部に味方の攻撃を集中させれば、当然に味方の一部に敵の攻撃が集中することになる。
「ぐ、お、お、お、お、ぉ、ぉ、ぉ、ぉ……!!!!」
その猛攻を偏に受けるのは楯士隊の者たち。
「来ると分かっていればあぁぁ、二度なら耐えられるぶぅああああぁぁぁぁ!!!?!!!!」
確かに二度耐えた。
アンデッド・ホースの体当たりを喰らってぶっ飛ぶ楯士であるが、その行き先は治癒魔道士隊。
そして空いた穴には……
「次は俺だああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
すぐに次の楯士が立ち塞がる。さすがです。
でも、これでは結局戦力を集中させて凌いでいるだけなので、余ったアンデッド・ホースが背後に回り込もうとしてくる。
そこには
「そこは戦場じゃありませんよ」
簡易で組み立てた射手用の高台から、ぎゅっと凝縮したような光矢を放つのは、私の大切な妹です。
アンデッド・ホースの進路を塞ぐように撃ち込まれた光矢は、その場に刺さると秘められた光を解放し、周囲を昼間のように照らし出す。
アンデッド・ホースは闇属性の魔力で動いているため、光属性が強い場には近寄り難いのだ。
無理に行くと、防御に回している魔力が喰われて防御力が下がり、
「射て!!」
「《ライト・ショット》!!」×たくさん
他の弓士の餌食になります。
あ、ちなみにオズは《弓術》などの汎用スキルは持っていないのですが、ほら、アサルトスタッフって両端が曲がってるでしょう? 大雑把に言うと、〔←な感じ。
焦石は両端と中央下寄りの計三箇所に付いてるわけだけど、両端を結ぶ光糸を弦として、中央の焦石から光矢を発生させれば、《杖術》でも扱える弓になるわけですね。
……………………無茶苦茶な。弓士隊や魔道士隊の小隊長さんたち、超驚いてたじゃないですか。
今のところ順調とはいえ、ボス格を倒さないことには戦闘は終わらない。
すでにこのクエストの目的は『軍馬を街道から追い払う』から、『アンデッドを生み出す魔獣を討伐する』に変更されている。
だって、そうでしょう?
Bランク魔獣をポコポコ生み出す魔獣を野放しにしたら、いずれ手に負えなくなることは確実なんですから。
だから、アンデッド化か闇属性魔法のスキルを持つ軍馬を倒してようやく終了となるわけです。
その軍馬がボス格の軍馬かどうかは不明ですけど、一番怪しいのはやっぱりあれ。
というわけで、私は適当に露払いしつつ、目標に向かって突き進むのみ。
二頭目のアンデッド・ホースに対し、サイドステップを踏んで左右に視線を振らせて接近。叩き付けの前肢を躱して、右上から左下へとベースブレイドを斬り下ろす。
人だったら袈裟斬りですね、相手馬だから何て言うのか知りませんけど。
ギャギン!!!!
しかし、思い切り振り下ろしたベースブレイドは、金属質の音をさせて通り抜ける。
アンデッド・ホースの表面には、痣のような筋が付いただけだ。
『やはり光属性を付与させた上でも、強度的に弱い部分を狙わないと刃が立たないな』
『そうだねっ!?』
無傷のアンデッド・ホースが、こちらの攻撃が無かったかのように、無造作に首元を狙って噛み付いてくる。
私がベースブレイドの陰に入ってそれを防ぐと、刀身に噛み付かれ、ギリギリと力が加えられた。
ギャリギャリと音がして、少しずつ刀身に歯が食い込んでいくのが分かる。
その瞳目掛けて、[アイテムボックス]から取り出したベースソードを突き込む。
「《光輝剣》」
それにも当然、光属性を付与する。
しかし、突き込みの初動から見られていては、当たるはずもない。
刀身を噛んだまま首を上に振り、ベースブレイドを当てて突きを弾き、軌道を逸らす。
でも、狙い通り……!!
「やって!!」
「おお!!!!」×それなり
楯士の背後に隠れて隙を窺っていた槍士たちが、アンデッド・ホースの喉元を狙って、一斉に突きを放つ。
その多くは弾かれるが、数発は槍先を半分ほど食い込ませていた。
刺さりさえすれば、後はどうとでもなる。
「《ライト・ボム》!!」
喉元で光爆が弾けて、ベースブレイドを噛む力が緩んだ。
その隙を逃さず、ベースブレイドを押し込んで、アンデッド・ホースの頭半分を斬り飛ばす。
「ありがとうございます!!」
「気にするな!! 後は任せろ!!」
名前も知らない誰かの言葉に背中を押されて先に進む。
そろそろ立ち位置的に突出した場所に来ている。つまり、周囲を囲まれる危険が高いということだ。
懸念を証明するように、後方を除く全方位から来た。
「ルーシア!! 出過ぎだ!!」
「輝ける力、白き破邪の力よ。集いて誇れ、浄化の顕現。気高き清浄は、昏きモノの毒とならん…………【テスタメト・ロウ】!!」
次男の鋭い声を置いて飛び込み、ベースブレイドを右手一本で正面のアンデッド・ホースに叩き込む。
…………粘土に差し込んだような、『ぬるり』とした反力に背筋が粟立つが、そのまま振り抜く。イケる!!
「来ないで!!」
「!!!?」×たくさん
追撃……いや、掩護しようと駆け出し掛けていた次男たちが、慌てて踏ん張る。
そして私は、右手に重大剣、左手に片手剣を握り、高速回転しながら前に進む。
光属性付与を強化した刀身は、どちらも易々とアンデッド・ホースの体を断ち割っていく。
だが、それだけだ。
アンデッド・ホースを倒すには、断ち割った隙間から攻撃を連打し、魔力を使い切らさなければならない。
「ルーシア!!」
次男の叫び声が聞こえる。
無数に割られた隙間は、逆再生するように閉じ始める。
回転が緩み、重大剣を掲げた。そこに
「オズ!!」
オズの放った極太の光矢が突き刺さる。
光矢は重大剣を中心として、周囲に光の波動として拡散していった。
その波動に、再生のための闇の魔力を奪われ、閉じ始めた隙間が再び口を開く。
「追撃!!」
「おおぉぉ!!!!」×たくさん
次男の合図で槍士隊が突っ込む。
口を開けたアンデッド・ホースの体は、易々と槍先を呑み込んで次々と内破させられていった。
一気に数頭のアンデッド・ホースを倒せたが、残りはまだ20頭以上いる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はあ!! …………キッツい」
「おい、あんまり無茶するな。確実に、少しずつ進んでいくのが肝要だぞ」
「まぁ、それが無難なんだけどね…………」
確かに今のところ、アンデッド・ホースを相手に、被害を最小限に抑えて倒せていっている。
アンデッドは、減った魔力を補充することは可能だが、一度0になった場合 補充は不可能となる。
半端に残さないで完全に殲滅していけば、徐々にこちらは有利になっていく。
…………いくのだが……
「何で軍馬たち、何も作戦を変更もせずに待ち構えてると思う?」
そう。アンデッド・ホースという戦力が削られていく中、ボス格を含めた軍馬たちは、未だに動きを見せない。
…………何を、狙っている?
「……………………分からん。順当に考えれば、『自分たちが闘う前に戦力を削っている』と考えられるが…………」
「それで得られるものはなに? 開戦時の状態ですら、負けが決まったようなものだったよ?」
当初いた軍馬は約80頭。すでに1/4近くまでその数を減じ、その損害は群を維持するのも困難なくらいだ。
『群を維持する』ことに重きを置く軍馬の習性と、噛み合わなくなってきている。
それとも、また特異体? 群の生存よりも自分の生存を優先する特異体がボス格になってる、とか? でも、それだとしたら、わざわざ追ってくることはないと思うんだけど。
一応、幻惑鳥のように姿を隠しているヤツがいるかと思って、先程オズの光矢を拡散させた範囲攻撃をしてみたけど、それっぽいのはいないし…………
「理由は不明だけど、軍馬の思い通りに進めるのは不安じゃない?」
「…………確かにな。だが、それで突出してお前がやられたら、戦力がガタ落ちだ。それは忘れるな」
「りょーかい」
『心配するのは戦力だけか、この野郎……』
『落ち着こうか、ナビ。ここで『お前の身体が心配だ』とか言われても怒るでしょう』
『当然だ。何様なのかと』
何を言っても嫌われる 運☆命♪
せめて私に出来るのは、嫌われの絶対量 (反感度?) を下げることだけである。
まぁ色々と不安はあるが、結局のところ急いでボス格を倒さなきゃならないことに変わりはない。
そろそろ休憩は終わりにして再開しよう。
なお、私たちが休憩がてら話をしている間は、楯士隊のみんなが体を張って防いでいてくれました。
その分以上に成果を出さないとね。
「行こうか、次男」
「今更だが、名前で呼んでくれよ……」
「……………………いっきま~す」
「ドチクショーーーー!!!!」
叫ぶ次男と一緒に軍馬へ向かって進攻する。




