第131話 サポートフルパワー (オズ視点)
100 ~ 140話を連投中。
10/12(土) 13:00 ~ 未定。
前回実績:1話/30分で計算すると1日を超えます。
一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。
word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿。
申し訳ありません。
ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。
「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
お姉ちゃんを含む四人が、慟哭の叫びをあげています。
私はそれを見ていることしか出来ませんでした。
ザッと音がして隣を見ると、そこには次男が立っていて、きつく歯を噛み締めています。
私はこの人のことを良くも悪くも思ってな…………いえ、ちょい悪くらいに思ってますけど、さすがにこの時ばかりは同情を禁じ得ませんでした。
だってそうでしょう?
この人は70人の部下を失い、さらにこれから19人分の死を受け止めなければならないのですから。
見ていられなくなって次男から視線を外します。
先程からどうにか出来ないかと、色々と考えているのですが、設備も道具も技術も足りません。
最もそれらが充実しているところはガア・ティークルですけど、それでもあそこにあるのは医務室レベル。無理です。
「…………………………………………」
『…………………………………………』
ナツナツとナビも同じように知識を総動員して考えているのが伝わってきますが…………たとえ方法があったとしても、それを実行した場合、この上なく目立つという弊害もあります。
『治療』という表向き平和な力は、担ぎ上げられやすいし、群がられやすいし、そしてやっぱり狙われやすいです。
もし見付かったとしても、それをお姉ちゃんに伝えるかどうかは、二人の役割としても難しいと思います。
そんなことを考えていると、不意にお姉ちゃんは座ったまま背筋を伸ばし、
ゾクッ…………
得も言われぬ予感に体が震えました。ナツナツとナビもそうだったんじゃないでしょうか?
それは……………………覚悟を決めた背中だったのですから。
「ナツナツ、ナビ、オズ」
私たち三人の名前を呼びます。
自然と背筋が伸び、気持ちが高揚していくのを感じました。
だって、ほら…………こんなに格好いいんですよ。
「全員救ける。完璧に。だから…………付き合って」
「今更だよね~♪」
『御意』
「どこまでも」
私たちの返事は打てば響く鐘の音より早かったです。
そしてナビ経由でお姉ちゃんの考えが伝わってきました。
「うわエグい」
『ふむ……ルーシアナの負担が大きいが…………』
「いえ、コレ全員に等しく厳しいですよ」
「うん。でも、お願い」
お願いされてしまいました。応える以外に選択肢はないですね。
隣で驚いた表情をこちらに向けている次男はとりあえず置いておいて、アサルトスタッフを取り出し天に掲げます。
その先からは不可視の術式が伸び、《異界干渉》が中央テント上空で[アイテムボックス]への扉を開きました。
そこから列になって現れるのは、ドローン型マルチデバイス。計 20機です。
それらは、1機を中央に残して、8機が均等に八方位に飛ぶと中央の1機を中心に公転し、続けて6機、5機が均等に六方向、五方向に飛ぶと、その場に静止しました。
これらは最外縁から円、六芒星、五芒星、点を表し、外から内へ行くに従って強力な効果を付与する強化結界として働きます。
ここには拠点の守護結界があるので、これに効果を追加する形で利用しましょう。
効果は、【治癒能力向上】【生命属性強化】そして【通信強化】。
【治癒能力向上】は、《滋養強壮》などと同様で身体の活力を向上させる効果があり、周囲で衰弱している彼等を擬似的に延命させます。
【生命属性強化】は、名称そのままですね。これからお姉ちゃんが行う魔法を補助するもののひとつです。
【通信強化】は、お姉ちゃんの短距離通信システムを拡張し、光照射情報収集システムを通じてガア・ティークルの中枢システムと接続するものです。使い方は…………これからお姉ちゃんが見せてくれるでしょう。
「ナビ、ナツナツ」
『情報格納領域、確保。問題なし。
情報処理補助システム、準備完了。問題なし。
短距離通信システム、【通信強化】術式と連動。ガア・ティークル中枢システムへ接続、準備完了。問題なし。
ゾル状全合成食・水分・マナポーション(大)、消化器系へ直接投入。随時継続。問題なし。
欠損充填素材として、食材類を選択。[錬金室]にて原子へと還元。[アイテムボックス]内に補充完了。問題なし。
その他 バックアップシステム、予備システム、準備完了。問題なし。
いつでもいける』
『【エリア・アンチレジスト】。可変型でいくよ。必要な時に超強化するね~』
すでに私の《限界突破》は使用済み。
ナツナツにそういったスキルはありませんので、可変型は途中で魔力切れにならないようにするための措置でしょう。
私も【魔力譲与】で魔力を供給するつもりですが、正直焼け石に水でしょう。
「ありがとう」
お姉ちゃんはお礼を言うと、ルーカスさんの体に両手を少し広げて近付けました。
その様子に、次男を含む四人が怪訝な表情を向けています。ガッツリと声に出してましたからね。
お姉ちゃんは集中を始めたので、私から説明しておきましょう。
「これより、ルーカスさんを含む重傷者の再生処置を行います。治癒魔法が効く状態まで回復させますので、続きはそちらでお願いします」
「……ぇ? あ……? え……?」
「は?」
「中央テント内に限り、自然治癒力を強化していますので、治癒魔法は一時停止して問題ありません。再生後の治療に備えて魔力充填に努めてください」
四人共、混乱した状態のまま、しかしリリアナさんから最も重要なことを問われました。
「救……かる……の?」
その回答はただひとつ。
「未知数です。私たちが失敗しても、貴方たちが失敗しても、そして患者が諦めても、恐らく失敗します。ですが、0ではありません。幸いな結果を望むなら、手伝いをお願いします」
徐々に希望で明るくなる三人とは対照的に、次男は慌てた様子で私の肩を掴みました。
「おい、ちょっと待て!!」
「待ちません。質問は短く」
「え、あ、く……まだそんな時期じゃねぇだろう!!!! そんなことしたらクソ目立つぞ!!!! 平穏に生きたいんだろ!!!?」
「そうですね。目立つでしょうね。どんな悪党に狙われるか、どんな権力者に囲われるか、分かったものじゃないですね」
リリアナさんたち三人から、『ひゅっ』という息を飲む音がしました。
詳細を話した訳ではないですが、これまでの付き合いから何かを察したのかもしれませんね。
「だったら……!!」
「でもお姉ちゃんは決めたんですよ。『全員 救ける』と。なら、私は付いていくまでです。世界の果てでも、地獄でも。懸かる火の粉を全て粉砕するために」
「んな…………ぁ……」
次男が言葉を失って肩から手を離しました。驚いた表情でこちらを見ていますが、何か不思議なことを言いましたかね?
…………そろそろ頃合いですね。お姉ちゃんに動きがありました。いえ、見た目には何をした訳ではないですが。
「これより私たちはそれぞれの作業に集中します。次の重傷者はお姉ちゃんの背後に寝かせていってください。順に処置します」
言うだけ言って、私も集中に入りました。
アサルトスタッフを正中線に沿って構えると、徐々に集中のため周囲情報が欠落していきます。
その中、次男が難しい顔をして指示を出していくのと、キリウスさんが魔力充填に集中し始めるのと、
「お願い…………救けて……」
「(こくこくこく)」
リリアナさんとフェリスさんの懇願が届きました。
…………………………………………お姉ちゃんが動きます。
「《フル・スキャン》」
力ある言葉と共に、ルーカスさんの身体を上から下へ術式が走ります。
読み取る情報は、『現身体情報』に『遺伝子情報』、そして『記憶情報』です。
ひと一人分のそれは、まずお姉ちゃんの脳と精神にガツンと衝撃を与え、【通信強化】の術式を通じてガア・ティークルの中枢システムへと注ぎ込まれます。
中枢システムを利用してまず行うのは『遺伝子情報』の解析。次に『記憶情報』を修正情報とした、『予測身体情報』の構築です。
その『予測身体情報』と『現身体情報』を比較して、詳細の誤差修正。
こうして出来上がった情報から欠損箇所情報を取得、それを《メガリザレクション》の術式への組込型式にコンバート。
お姉ちゃんへと送り返します。
言葉だけで言うと簡単に聞こえますがいえ簡単じゃないですよ簡単とか言ったヤツ出てこい。
情報の送信と受信の要になっている私もキツいですが、あの情報解析・予測・構築・変換は、中枢システムのサポートがあってもとんでもない負荷となって身体に襲い掛かります。
正直、生身の有機体でやるような作業じゃないですが、お姉ちゃんはやりきりました。
魔方陣の【治癒能力向上】効果の余力を全てお姉ちゃんに充てますが、すでにオーバーヒート気味です。
ナツナツが本番に入る前に、妖精魔法で強制的に疲労を初期化しました。
そう…………まだ準備が終わっただけで、本番はこれからなんです。
お姉ちゃんが本番を開始する寸前、一区切り付けるように深呼吸します。ナビはもちろん、ナツナツも本番です。
私は一仕事終わった段階ですが、【通信強化】の比率を下げて【治癒能力向上】【生命属性強化】を最大限強化してお姉ちゃんとナツナツに傾けます。そして今の内に【通信強化】の改良を。
そして、
「…………【フルリヴァイブ】」
静かに、始めた。
『カッ!!!!』と眩いばかりの白に輝く術式が、ルーカスさんの体を挟み込みました。あまりの高効率、高魔力での稼働を強いられた術式が、半物質化しているのです。
まず光が集中したのは、やはり腹部。抉られた断面が白に染まり、一時的に肉の生々しさを忘れさせてくれました。
そしてそれは、1秒間に1mmくらいの速度で徐々に進んでいき、同時に腹部の膨らみも再生していきました。補充した原子から直接身体を作りあげているのです。
光が通り過ぎた箇所は、若々しい皮膚が再生しており、異常は見られません。
それが終われば、次は左腕。同じように断面が白に染まると、先に進むに連れて腕が再生していきます。
最後に薄く身体全体が輝き、身体全体を統一・最適化し、消化器系にゾル状全合成食と水分が投入され、次の治癒魔法に備えさせます。
……………………終了しました。
終わるまで、約10分。冗談みたいな早さで再生が終わりましたが、それはあまり時間を掛けすぎると魔力が足りなくなるからです。
その代償として、魔力とは関係ない部分にとてつもない負荷が掛かっていることが容易に想像が付きます。
その証として、お姉ちゃんはどしゃ降りに降られた後のような汗を流し、すでに一日分に相当するエネルギーを消費してしまいました。
次に移る前に小休止です。
すでに背後には次の重傷者が控えていますが、急いては事を仕損じます。
慎重に魔方陣の効果を落として待機状態にさせると、ようやく周囲の状況が把握出来るようになりました。
まず、リリアナさんたちが、今にも飛び付かんばかりの表情で固まっているので、
「ルーカスさんの再生は終了しました。治癒魔法をお願いします」
「分かった」
三人に話したのに、返事をしたのは次男でした。
部下に指示して、ルーカスさんを離れたところに連れていきます。
「あり……ありが、とう、う、うぅぅ~……」
「ふ、ふええぇぇ~……」
「まだ、早いですよ」
泣きながらお礼を言うリリアナさんとフェリスさんに応えながらキリウスさんに視線を向けると、力強く頷きを返され、
「ありがとう。無駄にはしない。後は任せてくれ」
まさしく戦場に向かう雰囲気でルーカスさんの後を追っていきました。
その後を、こちらにペコペコと頭を下げながら、二人は付いていきます。
それと入れ違いに次男がやってきました。
「助かった。何か手伝えることはあるか」
「大丈夫です。その調子でお願いします」
空気を読まないであれやこれやと聞いてこなくて良かったです。殴ってましたよ。
そして、次男は心配そうにお姉ちゃんを見ると、
「ルーシア……は、大丈夫、か?」
「まだ、疲労しているだけです」
終わる頃には疲労だけじゃ済まなくなっているでしょう。
お姉ちゃんを見ると、力無く地面に座り込み、両手を突いて倒れそうな体を支えています。
その膝上にはナツナツが仰向けに倒れていました。
その隣に次男が座り込むと、倒れそうな体を支えます。
……………………まぁいいです。
「お姉ちゃん、大丈夫じゃないでしょうが大丈夫ですか」
「…………………………………………きっつい」
でしょうね。
「何かして欲しいことはありますか?」
「……………………さっぱりしたい」
「分かりました。次男、お姉ちゃんをそのまま支えていてください」
「分かった」
次男の返事に満足し、[アイテムボックス]から冷水を取り出すと、足先から少しずつ慣らしながら浸していきます。
ついでにナツナツと次男もずぶ濡れになりますが、後で謝ることにして、まとめてさっぱりさせます。
その間、周囲からは戸惑いと急かすような雰囲気が伝わってきますが、放置です放置。
乾燥が大雑把になりましたが、簡易お風呂魔法が終わると、お姉ちゃんはすっきりした顔になり、次男の支えから離れ、背後を振り返りました。
「うわ…………」
「…………………………………………」×たくさん
そして、兵士たちの様々な種類の視線に晒されて、少し引きました。
後ろに仰け反るお姉ちゃんを、次男が再び背後から支え、
「すまん。みんな、お前の救いに期待しているんだ。……………………終わった後の事は気にするな。俺の全てを懸けて秘密にさせる。だから、頼む。ルーシア」
「……………………任せて」
あ~~ぁ。お姉ちゃんのやる気がまた一段上がってしまいました。
まぁ終わった後のことを、多少は心配しなくて良いのは助かります。どこまで期待出来るかは知りませんけど。
お姉ちゃんは次の重傷者に向き直ると、ルーカスさんと同じように両手を広げて近付けました。
それに合わせて、私の方も待機状態の魔方陣を最大駆動状態に持っていき、ナツナツも膝上から復帰します。
「…………《フル・スキャン》」
…………………………………………41人の重傷者の再生処置が完了したのは、大体三時間後でした。
終わると同時に私たちは全員ぶっ倒れました。治癒魔法がどうなったのか…………それはまだ分かりません。




