第125話 領軍V.S軍馬①
100 ~ 140話を連投中。
10/12(土) 13:00 ~ 未定。
前回実績:1話/30分で計算すると1日を超えます。
一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。
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申し訳ありません。
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時は少し巻き戻る。
俺たち領軍は、軍馬たちが居座っている場所へやって来た。
ここは前線拠点から南へしばらく進み、途中で西へカーブする道をさらに倍程 進んだ場所にある草原だ。
正面からは軍馬共がこちらを警戒するように、じっと見ていた。
自分と同じように馬に乗った副長に声を掛ける。
「軍馬共の様子はどうだ?」
「はい。ほば事前の情報通りですが、数が少ないです。現在確認できている軍馬は、約60頭。事前の情報では、約80頭でしたので、20頭程見当たりません」
「森の中はどうだ?」
「斥候隊を編成し調査させていますが、周辺の森の中には潜伏している様子はありません。ただ、もっと西……軍馬側の森の中に潜伏している可能性は否定できません」
「…………そうか。挟撃の可能性は捨てきれんということだな」
「はい」
面倒な…………だが、軍馬の数が減っているということは、その分戦力も減っているということだ。
挟撃部隊が出てくる前に本隊を叩けばいい。
「ボス格の軍馬は残っているのか?」
「そのようです。最奥にいる一際大きな個体を確認出来ますでしょうか? アレが恐らくボス格と見られています」
「情報通りか」
どの個体がボス格かなど、群の行動を長期間 観察して精査しないと分からないから、とりあえず最も体の大きな個体をボス格と仮定するしかない。
まぁ戦闘中に標的を変更することも想定内だ。
「地形はどうだ?」
「情報通りです。南北に森があり、東から西へ緩い上り坂の草原となっています。
北の森は東北東に進めば前線拠点に、北北東に進めば拠点Bに辿り着けます。
南の森はすぐに山になってしまいますので、抜けることは難しいです。
が、どちらにも挟撃部隊が潜んでいる可能性は否定できません」
「一応聞くが、北の森に罠などは無かったか?」
「ありませんでした。ただ、もっと軍馬側寄りは不明です。……………………罠があるとお考えですか?」
「軍馬だからな。術式を使った罠を使った記録もある。それに万一撤退する場合、騎兵隊以外は北の森を抜けていくことになる。事前に安全を確保した方がいい」
「承知しました。現在の斥候隊をそのまま運用し、進軍と並行して西進させましょう。挟撃部隊、罠などあれば、すぐ連絡があるはずです」
「よし。…………一先ずはそんなところか。
伝達!! 戦場は想定通り!! 敵軍馬は20程数が減っている!! 挟撃に警戒せよ!!」
《マインド・オブ・オール》。己の指揮下にある者に、意思を通じさせるスキルだ。
言葉に出してはいるが、それ以上に詳しい情報が兵士たちには届いている。
先程副長と話していたのは、情報確認の面もあるが、ここで伝える情報を明確化する意図もある。
「戦闘陣形は盾槍陣 二型!! 撤退時は北の森を抜けろ!! 何か質問はあるか!?」
『楯一小隊 ありません!! 了解です!!』
『楯二小隊 同じです!!』
スキル経由で全小隊長から返事が届く。まぁ、この規模だからできる伝達方法だ。
全小隊からの返事に問題ないことを確認し、進軍の号令を掛ける。
「《インスパイア》!! 総員、進撃せよ!!」
「おおぉ!!!!」×たくさん
《インスパイア》。これも己の指揮下にある者を対象とする、ステータス向上スキルだ。
ステータスの上昇率・継続時間は込める魔力に依るが、大体10%上昇、2時間を目安に発動させる。
魔力を消費し過ぎず、かといって短時間過ぎず、のバランスを考えるとこの程度がいいところだ。
それに大体2時間も経てば、戦闘を続行すべきか撤退すべきかを判断する時間帯に突入するという面もある。
己のスキルにより、戦闘力を強化された者たちが行動を開始した。
まずは楯士隊が楯を構えながら横並びとなり、その楯士隊員の間に入るように槍士隊員が配置する。これを一列として複数列を成し、これが盾槍陣の最外面となる。
楯士隊の持つ盾は、凡そひと二人分を保護できる大盾である。楯士本人は盾の中央にいるので、0.5人分が左右にはみ出すことになる。
つまり、楯士二人の間に槍士が一人入る余裕があり、槍士はここから攻撃するのだ。
その最外面の後ろには、弓士隊と魔道士隊の弓魔混成小隊が余裕を持って展開する。
この混成小隊は遊撃隊のようなもので、敵が固まっているところや敵の攻撃が激しいところに移動して攻撃や怪我人の回復など、ある程度自由に動き回ることになる。
盾槍陣というのは、敵の攻撃を楯士で防ぎ、その隙間から槍士、後方から弓士・魔道士が攻撃する、というのが基本形となる。
二型はここに騎兵隊を投入し、左右から回り込んでくる少数の敵を防ぐ型となる。
また、敵全体で回り込んできたり、分散して包み込んできたりする場合は、控えに回っている楯士隊がその進行を食い止めることになる。
理想としては、正面から当たって敵を包み込むように包囲していっての殲滅。
現実的なところでは、1/4程倒せたところで撤退される、といったところか。
今回の目的は、軍馬を追い払うことだからどちらでも構わないが、懸念はやはり別動隊による挟撃。
本当なら、草原を完全に封鎖するように展開して押し込んで行きたいが、それだと後方が完全に無防備になる。
そのため楯士隊の列を厚くし、挟撃の際には最後列の楯士隊が反転して防御に回れるようにしておく。20程度なら騎兵隊と弓魔混成小隊で十分対応できるはずだ。
歩調を合わせて前進する楯士隊に、軍馬から魔法が飛ぶ。
多くの軍馬は基本 地水火風の四大属性か生命の特異属性魔法に適正を持つ。時空と精神の特異属性、光と闇の根源属性を使うことはほとんどない。
故に飛んでくる魔法は、四大属性のいずれかになるが、地水は楯士隊が、火風は魔道士隊が対応することになっており、実際に飛んできたのは火属性の火球だった。
これは比較的珍しい。
火以外は術者の制御を離れると、霧散して危険がなくなるが、火は術者の制御を離れると、爆発するように広がる。
これだけなら軍馬に有利といえるが、延焼した場合それは両者にとって脅威となる。場合によっては、せっかくの餌場を台無しにする危険もあるのだ。
まぁこちらもしても、街道を焼け野原にされる訳にはいかないので、最優先対応事項だ。
「魔道士隊、迎撃!!」
「【アクア・スナイプ】!!」×たくさん
火には水。子供でも分かる理屈だ。
頭大の火球に対し、拳大に圧縮された水球が飛ぶ。
正確無比に火球の真ん中を撃ち抜いた水球は、その中心で圧縮を解除され、火球を吹き散らしつつ消火する。
よし。訓練通り出来ているな。
「楯士隊、進め!! 近接戦に持ち込むぞ!!」
「イエッサー!!」×たくさん
空から温水となった滴が降り注ぐ中、楯士隊を前進させる。
軍馬の方がどうするかといえば、こちらと同程度に広がり正面から順当に当たるつもりらしい。
散発的に魔法が飛んでくる中、程なく楯士隊と軍馬が衝突した。
ドンッ!!
鈍い衝突音がここまで届く。
恐らく身体強化などの近接戦に長ける軍馬が、大地に蹄を食い込ませギリギリと押し合いをしている。
個々の戦力で言えば、軍馬と兵士はステータス的に同程度といったところ。
一対一であれば、楯士隊が押し負けることはない。
さらに言えば、こちらは『一』ではない。
「槍士隊、攻撃!!」
「おぉっ!!!!」×たくさん
合図に合わせる必要もなかったが、それぞれが最も近い軍馬に対して、渾身の突きを叩き込む。
ズブシュッ!!!! キン!!!!
肉に刃が食い込む音と皮膚に刃が弾かれる音は半々くらいだった。
が、一度で終わらせる理由もない。
刃が食い込んだ者はさらに深く押し込み、弾かれた者は再度攻撃を仕掛ける。
ズブシュッ!!!!!! キン!!
二度連続で弾かれた奴等は後で特訓だな……
領軍で支給されている武具は、Bランク中位のものを揃えている。身体強化した軍馬に対しても、適切に扱えばしっかりと刃が通るはずだ。
ただ、こちらが一方的に攻撃しているかと言われれば、そうでもない。
攻撃された軍馬はもちろん、そうでない軍馬も暴れまわる。
「ブヒヒヒヒーーーーーーーーンン!!!!」
ガギンッ!!!! グシャッ!!
後ろ足だけで立ち上がり、高く前肢を持ち上げると、全体重を込めて正面の楯士に叩き付ける。
殆どの楯士は足を踏ん張って耐え切り、少数の楯士は盾を斜めに当てることで力を逃がして軍馬の体勢を崩させる。
問題は一部の楯士で、軍馬の重みに耐えきれず、不自然な姿勢で潰されてしまった。
だが、そのための控えだ。
潰れた楯士に代わり、控えの楯士二名がタイミングを合わせてシールドアタックを仕掛け、潰れた楯士に掛かる体重を軽減させる。
すかさず控えの槍士が、潰れた楯士を地面を滑らすように最後列まで運んだ。
それを治療するのは、弓魔混成小隊だ。しばらくすれば復帰するだろう。
……………………まぁ、今潰された奴等も特訓な。
防御の要が一撃で沈むんじゃない。
やはり実戦と訓練は違う。
そうそう実戦を経験するのは難しいが、だからといっていざというときにやられてしまっては意味がない。
冒険者ギルドと相談になるが、実戦の機会を増やそう。
戦況を見ながら今後の訓練計画についても思考していると、じわじわとこちらの戦列が軍馬の戦列を食い破り始める。
一撃必殺とはいかないがダメージは通るし、被ダメージはすぐに後列に下げて回復しているので、予想通りの結果ではある。
今も軍馬の後方から火球が飛んでくるが、弓魔混成小隊が的確に撃ち落としていくし、余力があればこちらからも攻撃が飛ぶ。
左右に展開している騎兵隊は、時折回り込みを仕掛ける軍馬に、追い払うように攻撃してそれを阻止するだけに留めている。
現状、騎兵隊の役割は、どこかにいるはずの挟撃部隊の兆候を見落とさないことだ。




