第124話 ゴーレム娘V.S軍馬④ (オズ視点)
100 ~ 140話を連投中。
10/12(土) 13:00 ~ 未定。
前回実績:1話/30分で計算すると1日を超えます。
一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。
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申し訳ありません。
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残った軍馬たちは、遅すぎた決断を下そうとしていた。
『撤退』である。
通常であれば、半数を殺られたタイミングで撤退を選択していてもおかしくはなかったのだが、それが暗殺に近い方法であったことと敵が姿を現していたことから、『倒せる』と判断していた。
暗殺とは、姿を隠している時にこそ、最も効果があるからだ。
これは本来であれば、然程間違った選択ではなかったが、今回に限っては間違いだったのだ。
誰が真っ向から闘って六倍の戦力差を引っくり返されると予想できるのだ。
この敵は今後の作戦を実行する上で脅威となる。
せめて情報を持ち帰らなければ……
生き残った仲間と簡単に作戦を共有し、同時に駆け出す。
敵から大きく迂回するような、明確な逃走ルートだ。
東西から二手に分かれていく。
さらに
「ブロロロォ!! (《ハード・スキン》)」
皮膚を硬化させ敵の攻撃に備える。さらに
「ブロロロォ!! (【サンド・アーマード】)」
地面からサラサラとした砂塵が舞い上がると、硬化した皮膚を覆うように砂の装甲が形成される。
現状、己が取れる最高峰の防御力だ。
代わりに柔軟性が無くなった皮膚と砂の重量で、小回りが効かなくなるが生存確率優先だ。
可能性として未だ姿を現さない伏兵の存在も考慮しなければならないのだから。
自分は西側から行く。仲間は東側からだ。
周囲を警戒しつつ、少しずつ速度を上げていく。
重くなった分 速度が乗りにくいが、敵に最接近する頃には最高速度に乗れるだろう。
敵を見ると、狙い通りどちらを止めるか判断に迷っているように見える。
…………伏兵はいない、か?
敵が複数いるなら、自分たちと同じように二手に分かれればいいだけの話だ。
だが、それを隠すためのフェイクの可能性もある。
……………………どちらにせよ、自分に出来ることは加速することだけだ。
油断することなく行く。
反対側の仲間と速度を合わせて、迷いを長引かせる。
…………と。
『弓か!!』
敵がどこからかともなく深緑色の弓を取り出し、こちらに向けると素早く三射。
すぐに身を翻して反対側の仲間に向かって行った。
微妙に速度を調整された矢が、逆回しのように位置を合わせると、ほぼ同時に着弾した。
ボボバアアァァァァ!!!!
砂の装甲に刺さった矢は、次々とその先端から衝撃波は発生させ、めくりあげるように装甲を剥いでいく。
見事な攻撃だった。
着弾タイミングがズレていたら、最初に発生した衝撃波に後の矢が吹き飛ばされてしまう。
それを防ぐため速度を少しずつ速め、着弾タイミングを合わせたのは理解できるが、実行できるかどうかは別だ。
やはり危険な相手…………だが、分かったことがいくつかある。
一つ目は、先程遠距離から仲間を仕留めたのは、やはりこの敵だということ。すなわち伏兵はいない可能性が高い。
二つ目は、防御を万全にしておけば攻撃に耐えられるということ。
そして、最後の三つ目は……
『あちらの仲間に向かって行ったということは、こちらはノーマークだということだ!!』
もしかしたら、あの攻撃で仕留められたと勘違いしたのかもしれない。
だが現実は、自分は健在で駆けるのに支障は全くなく、むしろ重しとなっていた砂装甲が剥がれたため、すぐに失った速度を補填できる。
『…………すまない』
恐らくは生きて戻ることは出来ないだろう仲間に、心の内で謝罪すると、加速するため大きく息を吸
「ボォォホオオォォォォ!!!?!!!?」
息を吸ったと同時に口腔から喉、肺に至るまで、灼熱の炎に熱せられたかのような痛みが走る。
それは気のせいでも錯覚でもなく、確かに己の呼吸器系は一瞬で使い物にならなくなった。
反射的に振り上げてしまった頭にバランスを崩し、横向きに倒れ、地面を滑走する。
「ゼッ……!!!! ゼヒーー!! ゾヒューー!!」
自分の喉から今まで聞いたこともない異音が響き、嘔吐くように痙攣する。
開いたままの口からだらだらと涎が垂れ落ち、視界は涙で歪んだ。
訳がわからないまま、ガクガクと頼りなく揺れる脚で、本能的に立ち上がると、
「!!!?」
「ごめんなさいね」
仲間に向かった敵と瓜二つの人間が、死神の鎌のようなものをこちらに降り下ろしているところだった。
――――やはり伏兵はいたらしい。
今更ながらそのことに気付くと、世界は回って闇に閉ざされた。
「ふぅ……」
アサルトスタッフを土台として展開していた水刃を解除すると、コップ一杯にも満たない水が弾けて消えました。
あまり近接戦闘は得意ではないのですが、この方法だと《杖術》の範囲内に入るので、比較的扱いやすくなります。
アサルトスタッフは、魔力伝導経路の関係で両端が曲がっているので、鎌のような水刃となるのが難ですが、まぁ動きの鈍った軍馬の首を刎ねるくらいは出来ますよ。
「それにしても、エグい倒し方ね~……」
「お姉ちゃんの作戦になんですけど……」
「うん。ルーシアナがエグいね~って」
「…………そですね」
お姉ちゃんの作戦…………それは大雑把に言うと、『軍馬が大きく息を吸うタイミングで、高温の空気を吸わせる』です。
具体的には、軍馬が私の近くを通るのに合わせ、お姉ちゃんが《烈破》による三連衝撃波を当てます。
その衝撃波によって速度を減じられた軍馬は、再加速のため必ず大きく息を吸います。
そのタイミングに合わせて、風魔法で圧縮高温化した空気をムリヤリ肺の中に押し込みました。
それだけでも口腔 ~ 肺を焼かれたでしょうけど、肺の中で圧縮を解除された空気は、一気に膨らんで肺を破壊。逆流して再度 喉を焼いたはずです。
通常、圧縮を解除され膨張すると温度は下がるものですが、肺の中という密閉空間であったため、ほとんど下がらなかったようですね。
どちらかというと、膨張圧力による肺破壊の方がタメージが大きかった気がしますが、まぁいずれにしろ そんなものを吸い込んでしまった時点で、敗北は決定的でしたでしょう。
「それにわざと弓の攻撃を見せて、『伏兵はいない』と勘違いさせるとか、小技が効いてるよね~……」
「いえ、その勘違いで明らかに周囲の警戒が薄れたので、どちらかというと大技だと思います……」
意外にお姉ちゃんの戦闘センスが高い。
あの位置から矢を放って命中させるのは、まぁ、なんとか射撃マスタリーの効果かと納得できますが、バラバラに放って同時に着弾させるとか、本気ですか。思わず二度見しましたよ。
なんでこんな人がロックグリズリーなんかに殺されたのか甚だ疑問なんですが、まぁ、当時はマスタリー系はなかったはずですし、また、油断すればどんな強者も殺られるということでしょう。
……………………その経験ゆえの、あの闘い方なのかもしれませんね。私も心に刻みましょう。
倒した軍馬に簡単な黙礼を行い、[アイテムボックス]に仕舞ってお姉ちゃんの方を見ると、軍馬の前に立ち塞がったところでした。
そのお姉ちゃんに、砂の装甲を纏った軍馬が体当たりを仕掛けます。
単純な強度なら砂より岩の方が上ですが、攻撃の命中箇所に瞬時に砂を集めることによって、局所的に防御力を高めることができるので、必ずしも砂が不利とは言い切れません。
どうするのでしょうか……?
あ、お姉ちゃんが構えを変えました。あれは突きですね。《斬撃制御》は突き動作も補整してくれるんでしたっけ?
…………は!?
ここからではよく見えませんでしたが、多分、一瞬で連続突きを放ちました。
自信が無いですが、三連突きでしょうか。相対速度と相まってとんでもない威力になっているでしょう。
先の二度突きで砂を集めて、装甲が薄くなったところに最後の突きを心臓に叩き込んだようです。
一瞬で武器を抜いたお姉ちゃんは、軍馬の体当たりを半身になってすり抜けます。
体当たりに失敗した軍馬は、そのまま10m程走ると、力を失って頭から地面に倒れ込みました。
……………………マジですか。
お姉ちゃんが冒険者やってる大目標は『ランクを上げて国に対し人権を認めさせる』だったかと思いますが、ランクが間に合ってないだけでもう強さ的には十分なのでは……
「でも、この前次男にもギリギリだったし、セレスやギルド長には敵わないから、まだまだだと思うんだけど~……」
「…………人間って不思議」
一息ついて合流するために移動しましょう。途中でお姉ちゃんが《烈破》で倒した首なし軍馬も回収します。
岩塊が山となっている場所で合流すると、ギュッと抱き締められました。
「ありがとね、オズ。ケガは無かった?」
ふわああああぁぁぁぁ~~~~~~~~!!!!!!!!
柔らかいです良い匂いですほんのり滲む汗も綺麗ですキスして良いですかダメですかでも誰もいないしでもダメですか!!!?
一瞬でテンションMAXに達し、全CPU系の処理速度が限界値を突破したように、欲望駄々漏れの思考に埋め尽くされます。
濁流滾々とした激情が吹き荒れる内面を強引に抑え込んで、何でもない風に答えました。
「いえ、大丈夫です。ナツナツも手伝ってくれたので、基本的に見付かりませんでしたし」
「どやぁ」
「ナツナツもありがとう。よしよし♪」
私を抱く手が離れて、肩に乗るナツナツを撫でます。
でも、ナツナツ越しに私の頬を撫でられている感覚がするので、まっっっったくテンションが落ちる気配を見せません。
先日お姉ちゃんに『独り占めしたい訳じゃない』とか『結婚するなら祝福できるつもりはある』とか偉そうなことを言いましたけど、前言撤回した方が良さそうですよコレ。
表向きは九割方隠せていると思いますが、突発的にキスしたくなるのはなんとかしないといけないとは思ってますよ無理ですね。
内心はともかく、表向きは平静を装って話を続けました。
「それでは、少し休んでから補給拠点Bに向かいましょうか」
「そうね。さすがに私も疲れた」
地面に直接座り込みながらそんなことを言いますが、疲れるだけでこれだけのことが出来るなら、みんな願ってもないことでしょう。
「オズは大丈夫?」
「大丈夫です。魔力だけでも回復させますので、ちょっと失礼しますね」
一言断り、お姉ちゃんの背後から抱き付きます。
「? どうしたの?」
「いえ。こうするとやり易いんです。自分の魔力を分け与える魔法ですから」
はい、嘘です。そろそろくっつきたくなっただけです。
「……………………他の人にしちゃダメだからね?」
「はい」
したとしてもくっつかないから大丈夫です。
「【魔力譲与】」
この魔法は、瞬間的に分け与えたりは出来ないので、わざわざスキル化はしていません。
じわじわと触れている部分から魔力が滲み出していくような感覚がして、お姉ちゃんが『ふあぁ~~~~……』と気持ち良さそうな声を漏らしました。
「気持ちぃぃ~~……」
「ああぁぁぁぁ~~…………ホントだねぇ~……」
…………ナツナツにも分け与えられているようです。
…………
……………………
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…………………………………………
しばらくそのままでいると、ナビが怪訝な声を上げました。
『…………ん? 何か近付いて……!?』
「ちょ!? 立って立って!!!!」
いえ、ナツナツも慌てて立つように促します。
「どうし…………はぁ!!!?」
立ち上がる途中でお姉ちゃんも驚きの声を上げました。訳が分からないのは私だけです。
「どうしたんです?」
誰に聞くともなく聞くと、ナツナツが南の方を指差して、
「軍馬!! 軍馬大量!!」
『恐らく軍馬の本隊だ!! 撤退中の領軍の騎兵隊を追ってきている!!』
「何しとんじゃあの男ーーーー!!!!!!!!」
思わず一度も口にした記憶の無い口調で叫んでしまいました。
ナツナツの指差す方を見ると、ここを襲撃した軍馬の倍以上の数を引き連れた次男 他 十数名の騎兵隊が、こちらに爆走してきているところでした。
ここまで来ると、さすがに『ドドドドドドドド……!!!!』という爆音と共に振動すら伝わってきます。
次男たちは、並走しながら攻撃してくる軍馬を、振り払うようにしながらこちらを発見すると、
「おお!! 無事だったか!! ルーシアナ!!」
「アンタのせいでピンチになったわーーーー!!!!」
お姉ちゃんの絶叫に激しく同意します。あと、本名言わないで。
ここが襲撃されて逃走したという信号は上げた筈ですが、あの男は何しにここに戻ってきたんでしょうかね!!!!
いつでもガア・ティークルへ逃げられるようにしておきましょう。




