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ゴーレム娘は今生を全うしたい  作者: 藤色蜻蛉
7章 襲撃!! 嘆きの魔獣
129/264

第121話 ゴーレム娘V.S軍馬①

100 ~ 140話を連投中。


10/12(土) 13:00 ~ 未定。

前回実績:1話/30分で計算すると1日を超えます。

一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。


word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿。


申し訳ありません。



ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。

私たちの突然の行動に、他のみんなは数瞬動きを止めていたが、まずルーカスたち、次に仮料理長が拠点長に連絡しつつ続いて、最後に兼業冒険者が慌てた動きで走り出した。


オズを担いだ逆側の肩に掴まるナツナツが落ちないように気を付けて聞く。


『ナツナツ!? 何がヤバイの!?!?』


『分かんない!! でも《魔勘》がバッチバチだよ!?』


「お…………っ!!!! お姉ちゃん!! 見て!! 軍馬が!!」


「なに!?」


チラリと左を見ると、設営されているテントの隙間からチラチラと迫り来る軍馬の様子がこちらに届いている。

見える軍馬たちは擬態を止め、頭を低くして速度を高め続けている。


……………………その姿が薄茶色の何かに隠された。


それは岩壁だった。軍馬たちの前面に幅5m、高さ3m程の岩壁が現れ、軍馬に装着されると、身体能力に物を言わせて突っ込んでくる。

それぞれが掲げる岩壁は互いに接続され、地面を舐めるような怒濤のシールドアタックとなる。それはまるで……


『ラッセル走行ーーーー!!!?』


まさしくそれ。西から東へ、南北に約100mを掘り起こす、横薙ぎの暴虐だ。

さすがにアレを真っ向から止められる力は、ここの兵士たちにはない。範囲外に逃げるしかないだろう。


と、ここで空にふたつの信号弾が上がると、赤と緑の煙幕が花開く。

『襲撃により逃走』『北へ』を意味する、本隊と補給拠点Bへの合図だ。

ただ、《ロング・サーチ》で捉えている兵士たちの位置と速度では、半数以上が間に合わないだろう。

というか、こっちの兼業冒険者も速度的にギリギリだ。


『だああああぁぁぁぁ!!!! やるしかないの!?』


『別に義務ではないぞ』


『というか、ナビゲーターとしては逃げて欲しいかなぁ~~!!!!』


『逃げましょう。空間転移行けます』


『行けません!!!!』


そんなに親しいわけでもないってか名前も知らんけど、目の前で死ぬのを放っておくわけにはいかんでしょうが!!


前線拠点の最北端から外に出たところで足を止め、オズを下ろす。

それを見ていたルーカスたちから急かすような声が飛んできた。


「ルーシア!? どうした!?」


「先に行って!! 足止めするから!!」


「無茶よ!! 踏み潰されるわよ!?」


「私たちだけなら避けられるし、逃げられるから!!」


「でも……!!」


「それにこのままだと、半分は死ぬよ!!」


「くっ……!! 確かに足は速かったが……!!」


キリウスさんが、初日の狩りを思い出して、常識と自分の見た現実との狭間に揺れている。

でも、迷ってる暇はない。


「仮料理長!!」


「なんだ!?」


「全員に伝えて!! 全力で走れ!! 止まるな!!」


「了解!! 聞こえたか!?」


『おぅ!!』


『マジか!?』


『信じるからな!?』


『南無三……!!』


仮料理長の襟元の魔道具から複数の声が聞こえてくる。


信じられようが信じられなかろうが、彼らは走るしかないからね。

でもこれでもう後には引けない。


足を止めた私の脇を、ルーカスたちが走り抜けていく。


「くそっ!! 死ぬなよ……!!」


「当たり前でしょ。抜けていったヤツがいたらよろしく」


「任せなさい!!」


「数頭くらいに抑えるから」


「十分だ!!」


「途中で運搬の冒険者と合流してね」


「ん!!」


「期待してるからね、兵士さん」


「撤退戦は得意じゃないんだがなぁ……!!」


「貴方たちは足を引っ張らないように急いで下さい」


「「(こくこくこくこく!!)」」


最後に兼業冒険者が頷くだけに留めて、全速で駆け抜けていった。


「みんな、行くよ!!」


「おっ任せ~♪」


『御意』


「はいっ!!」


全員に声を掛けると、追加術式を重ね掛けして《アクア・ブレイド》の効果に変更を加えていく。


「清澄成りし水の流れよ。今時はその本性を顕せ。暴虐たる奔流は、あらゆるモノに纏わりて深淵へと引き込まん…………」


「我。古に契りし契約を破りて、恣意をここに示さんとす。水よ。結氷の力よ。我が意を具象し、その身を形造れ……!!」


「【エリア・アンチレジスト】。最大で~」


『[トラッシュボックス]及び[アイテムボックス]内、用水取り出し開始。確保してくれ』


ナビが異空間から取り出した用水を、空に掲げた両手で掴むようなイメージで捕らえ、空中に巨大な水球を作り上げていく。

…………なお、[トラッシュボックス]内の汚水も混じっているが、昨夜のシャワー水がメインでそれ以外の汚水は分解済みだからそんなに汚くないはず。[アイテムボックス]内の清水も多いし。


とかなんとか考えている内に、水量が私の制御限界を超え掛けて水球が不自然に歪んだ。


「ナ、ナビ。ちょ、限界……」


『私も補助に入る。もうちょっとイケる』


おいこら。


私の制御限界の1.3倍位の水球が、自重に負けて楕円形に歪む。

腕力で支えているわけではないのだが、変に力が入ってプルプルが止まらない。


「あの…………撃ち出した後、私にバトンタッチされるの考慮してます?」


「そっちは私が補助するから大丈夫だよ~……………………多分」


「多分って言った!!」


そんなことを言ってる間に、軍馬は残り50m程にまで距離を詰めてきている。そろそろ放たないと、間に合わない。


「行っく…………よ!!!!」


返事は待たなかった。返事が無くとも準備が完了していることは伝わってきている。


「【アクア・ブレイド・ストライク】!!!!」


「【水低氷化】」


私とオズの力ある言葉と共に、左腕を右から左へ振り抜く。

その動きに引っ張られたように楕円球が延伸すると、全長100mクラスの大根棒となって、軍馬の掲げる岩壁に激突する!!!!


ドッッッッ……………………バァァァァアアアアンンンン!!!!!!!!


堤防が決壊した時のような爆音が轟いた。

斜め上から押し潰すように放った水棍棒は、岩壁の全面に等しく命中すると、半分は粘度の高いジェルのように岩壁にへばりつき、残りは岩壁を越えて軍馬たちの上から降り注ぐ。

さらに


カカ…………ピキキキピキピキピキキキ!!!!


軍馬たちに降り注いだ用水は、岩壁と軍馬を繋ぐように次々と凍っていく。


こうして出来上がるのは、氷で形作られた拘束具だ。

岩壁に関しては【重量軽減】などの魔法で軽く出来るだろうが、氷の拘束具に関しては未だ私とオズの制御下にある。直接干渉することはできない。

とはいえ、サブ的な狙いは果たせたものの、メインの狙いは上手いこと躱されてしまった。


メインの狙い。それは単純に軍馬たちを一網打尽にすること。

方法は然程難しくはない。岩壁を上から押さえ付けるだけだ。

軍馬たちが前線拠点をラッセルするために、岩壁を掲げて突っ込んで来たわけだが、別に地面を掘り返しながら突っ込んで来た訳じゃない。

ここからではよく分からないが、地面から数cmくらい浮かせているのだろう。

そこに上から攻撃すれば、岩壁は地面に突き立ち、障壁となって軍馬たちの前に立ち塞がる。

そうなれば、自身の速度と水棍棒の衝突力をモロに受けることになる軍馬は、よくて転倒、悪ければ首の骨を折って即死するはずだった。


ところが軍馬たちは、水棍棒がぶつかる寸前に岩壁をパージ、空いた隙間を利用して体を捻り、岩壁に対して側面からぶつかることで接触面を増やし衝撃を分散させた。

さらに岩壁からつっかえ棒のような脚を伸ばすことで、水棍棒の衝突ダメージの殆どを地面側に逃がしてしまった。


示し合わせたような揃った動き…………軍馬の軍馬たる所以か。

……………………あ、離れてるのにこんなに詳細が分かるのは、《ロング・サーチ》を集中させているだけでなく、制御下にある水経由で情報を得ているからです。


いずれにせよ、メインの一網打尽の狙いは叶わなかったものの、サブの狙いは達成できた。

サブの狙いは、進行の脚を止め、拘束具にて動きを鈍らせること。

うまくいけば、このまま兵士たちが逃げ切れるかもしれない。


ギャリ…………バリン!!


そうは問屋が卸さなかった。

ガラスが擦れ合うような耳障りな音が響くと、まず岩壁を覆っていた氷が大小様々な大きさに砕けて散った。

そして、一度『ゴン!!』という鈍い打音と共に岩壁が揺れると、再び岩壁が持ち上がった。

微かに見えた軍馬の体表面には、氷の破片ひとつ無い。


「お姉ちゃん、ごめんなさい。全部砕かれました……」


つまり、振り出しに戻った。


「おーら、最後尾ーーーー!!!! もう援護できないからなーーーー!!!! 最後のアンタ ギリギリだぞーーーー!!!!」


「サ、サー!!!!」


サー、違う。何度言わせるんだ。


ようやく私の正面辺りを駆けている兵士に、大声で活を入れる。

残りは約40m。軍馬と同じくらいだ。

再び動き始めた軍馬たちが、最高速度を取り戻すのは、まだ少し時間が掛かる。

それまでに駆け抜けられるかどうかだが、頑張ればなんとかなるはず。


「岩壁に水を染み込ませておいたので、先程より速度を上げにくいでしょうし」


というように、軍馬的には先程と違ってハンディキャップが課されていたりもする。

叩き付けた水量の1/10程度だが、元々の水量が多いから結構な重量増となっているはずだ。

以前語った通り、【重量軽減】で岩壁を軽くしても質量に変化はないので、速度を乗せるにはより多くの力が必要だ。つまり、時間が掛かる。


軍馬たちは、まず岩壁を体に固定することから始めた。

先程よりも高く、斜めに掲げることで、重心が前に寄るのを防ぎ、支えやすくしている。


軍馬 残り40m、兵士 残り35m。


軍馬たちは、落ち着いてタイミングを合わせながら、歩き始める。

一歩、二歩、三歩…………徐々にリズムが早くなる。


軍馬 残り35m、兵士 残り25m。


二十歩目で軽い駆け足になり、四十歩目で本格的な駆け足となった。その間、兵士も死に物狂いで全力ダッシュを続けている。

でも、このラッセルを躱せたとして、そのまま逃げ続けられるか少々不安だ。

身体強化を全力で施してこそ、あの速度が出せているはず。常時出し続けられるものではない。


軍馬 残り25m、兵士 残り15m。


一歩毎に軍馬の速度が上がり、兵士との距離が加速度的に縮まっていく。

しかし、兵士の方もやる。

間近に死の奔流とも言うべき、軍馬のラッセルが迫ってきているというのに、慌てずに全速力を維持することに尽力しているのだから。

まぁ、顔色も変えまくっているし、慌ててないだけで落ち着きなんて存在してないけどね。


軍馬 残り10m、兵士 残り5m。


……………………これ、間に合わなくね? ギリギリで轢かれなくね?


「間に合わないかなぁ~……」


『間に合わないな』


「間に合いませんね」


「言うてる場合か!!」


あ、あれ!? 間に合うと思ったのになぁ!?


予想が外れて慌てて対策を考え始めるが、ここから兵士に何かしたところで、届く前に軍馬に轢かれる。

逆に軍馬に何かしたところで、生半可な威力の攻撃では微かに進行を遅らせることもできない。


「なんでーーーー!?」


「どうも、走行中に岩壁の密度を上げて、染み込んだ水を排出してるみたいですね。その分軽くなって、予想より加速が強くなったのでしょう」


「器用だな!!!!」


岩壁の維持と【重量軽減】、その他補助魔法各種。

これらを維持しながら、岩壁中の水分を抜くことができるとは思わなかった。


「終わったーーーーーーーー!!!!」


「いや、大丈夫だから」


思わず叫んだら、いやに冷静なナツナツが否定する。

その視界の中、逃げ切れなかった兵士が残り1mの所で、今まさに轢かれようとしていた。


「うおおおおぉぉぉぉーーーー!!!!」


兵士の叫び声にも、若干の絶望感が滲んでいる。

いや、それだけで済んでるだけで凄い。見習わなければ……

とはいえ、現実は無情。諦めなくても、ダメなときはダメだ。…………が。


「うおおおおぉぉぉぉーーーー!!!?」


若干叫び声のニュアンスが変わった。私も多分同じ状況なら、同じ反応をしている。

今まさに轢かれようとしていた兵士だったが、突然一歩のストロークが『ぐんっ!!』と伸びて、ギリギリ範囲外に飛び出したのだ。


まるでスライド移動したようにも見える不思議な移動だったが、あれには私も心当たりがある。


「疑似空間転移!?」


「そうだよ~。私の妖精魔法で、あの辺の空間を圧縮しておいたの。ナイスでしょ?」


「ナイス!! でも、どうやったの!?」


通常、魔法というのは自分の周囲までしか影響を及ぼさない。

遠くに魔法効果を届かせたいなら、『手元で物理効果を発現させてから発射する』か『何かに術式を仕込んで投擲し 遠距離から魔力だけ注ぎ込んで発現させる』かしなくてはならない。

先程の水棍棒を例に取れば、前者が私がやった形状を整えて叩き付けたタイプで、後者がオズがやった散った水を凍らせたりしたタイプだ。

でも、ナツナツは私たちの周囲空間の魔法抵抗値を軽減した後 オズの補助に入ったから、何か投射したようには見えなかったんだけど…………


「『幻惑鳥の魔石』に『あらゆるモノを等しく看做す』というスキルがあったのは覚えてる~? 『幻覚スキルを無生物に対して使用できる』ってやつ」


「…………うろ覚えだけど」


「あったんです。ただ、ナツナツには使用できなかったのですが、放置するには惜しいスキルでしたので、ナツナツの妖精魔法で似た効果を再現できないか検討していました」


『その結果がアレだな。それにプラスして《催眠眼》の『視界内の対象に幻覚を見せる』効果で、あの空間に対して『距離が短い』という幻覚を掛けたことで、空間が自発的に圧縮したんだ』


「結果としては、『視界内の対象を疑似空間転移させる』っていう効果になったかな~。誉めて♡」


「みんなすごーい♪ でも、教えてくれなかったってことは、何かデメリットがあるの?」


「魔力消費が激しいのと、実際の検証がまだだったことですね。あまり乱発はできません」


「さっきの兵士さん実験台!? ごめんなさい!!」


『それよりも、早くしろ。そろそろこっちが轢かれるぞ』


「「「あ」」」


気が付いたら割と目の前まで軍馬の岩壁が迫ってきていた。

進むごとに粉砕する前線拠点の断面積が大きくなっていくから、先程までと比べると随分遅くなっている。


「オズ!! 体は大丈夫!?」


「はい!! 《限界突破》で、一時オーバーヒートしましたが、普通に使う分には問題ありません!! お姉ちゃんは!?」


「私は普通に魔力切れ!! まだ回復しきってないけど、近接戦闘主体で行くなら問題ないよ!!」


もしかしたら、『何をボケッと眺めているんだ』と思われていたかもしれないが、積極的に体を休めて回復に専念していたのです。

サボっていたわけではありません。


「オズ!!」


「はい!!」


私がオズの両手を掴むと、オズは私を中心に半時計回りに回転を始める。

私も踵を中心として自転し、回転速度を上げていく。

二周目辺りでオズが浮かび上がった。まだまだ。


「う…………く…………」


私の口か、オズの口か。それは不明だが、堪えるような声が漏れる。

大体十周で必要な加速は得られた。


『北を向いたタイミングで離せよ』


「了解……!!」


回転運動時、振り回される対象の速度は直角方向を向いているとかなんとか…………とにかく、西を向いたときに離しても、西には飛ばない。


「らぁ!!!!」


「うっっきゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!?」


ナビの指示通りに北を向いたタイミングで仰角45° (適当) を目掛けて手を離すと、オズがくるくると回転しながら飛んでいく。

…………水切りの時の石に似ている。


『まぁ、似たようなものだ』


……………………と、とにかく、これでオズは大丈夫。

不安は着地だけだが、最悪ナツナツがいるからなんとかなるだろう。

後は私だけだが……


「【光環鎖誘】ぅ……!!」


遠くの方でオズが魔法を発動させる。

途端にオズと私の腰回りに、光で出来た環が連なる鎖が巻きつく。

それはオズが離れるに連れて、一切の抵抗なくするすると延びていった。


「いくよ!!」


「はぃ~~~~……」


…………大丈夫かな?


私は両手で光鎖を掴むと、軍馬に向かって瞬発。タイミングを見計らって、全力で跳んだ。

身体強化が掛かってるため2mくらいなら余裕で届くが、岩壁は5mだ。それだけでは避けられない。

が、地面を蹴ったタイミングで光鎖の伸長が止まり、逆に私をオズの方へと引き上げるように縮み始める。

ただ、私とオズとでは体重にそこそこの違いがある。当然 私の方が重いから、このままだとオズが引っ張られる方が優先してしまう。

対策としてはオズの体重を増やすことで、でもそれは出来ないから……


「重……」


遠くの方からオズの漏らした本音が聞こえた。

今、オズは[アイテムボックス]から取り出したベースブレイドを背負っている。

魔獣素材のベースブレイドは、金属素材の重大剣に比べると軽いが、それでもオズと合わせれば私の体重は軽く凌駕する。

ゆえに、縮む光鎖に引かれて私の身体は面白いように上昇していった。


ぞどどどどどどどどどっっっっっ!!!!!!!!


曲げた脚の下を、土石流も()くやのえげつない爆音を奏でながら軍馬たちが蹂躙していく。

音を聞いているだけで、肌が粟立ち、身が竦むような恐怖を抱かせた。


とはいえ、このまま通り抜かせて逃げるわけにもいかない。

軍馬たちが前線拠点を破壊後どう行動するのか不明だが、北に行こうが南に行こうが、私たちにとって不利になることに違いはない。


足元を岩壁が通り過ぎ、軍馬の背中が見えたところで光鎖を振り回すように体を捻ると、光鎖を掴む手の平から『プツン』という錯覚の手応えが響く。

光鎖が切断されたのだ。


引き上げる力が途切れて自由落下を始める前に、予め捻っておいた予備動作を使って、円弧を描くように光鎖をブン回す。

光鎖は狙い通り、軍馬の首を数周してガッチリと固定される。

そして光鎖を縮めれば、導かれるのは軍馬の揺れる背中の上だ。

オズが作り出した魔法の鎖だが、制御権限を移されているので、私でも簡易な操作は可能だ。


「ぶるろろおぉぅぅ!!!?」


背中を足蹴にされた軍馬から、苦情の鳴き声のようなものが上がる。


それはそうだろう。敵の後方部隊を一網打尽にするために来たのに尽く逃げられて、最低限の成果として物資と拠点を破壊していたら、まさかの上から強襲だ。


こいつらのラッセル走行には、ひとつ大きな弱点がある。

大きな一枚岩の岩壁を、体に固定して全員で押しているから、その内の一体が異なる行動……例えば背中に乗って来た敵を振り払うような動きを取ることが出来ないのだ。

皆の速度に遅れれば、体に固定した岩壁に自分が引き摺られていくことになる。

もちろん、先程水棍棒を叩き付けたときのように、パージすることは可能だろうから、あまりチンタラしていることは出来ない。

だから……


「えぇ。早速だけど、さようなら」


西から東へ流れる蹂躙を、北から南へ蹂躙する。




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