第119話 ゴーレム娘、お留守番
100 ~ 140話を連投中。
10/12(土) 13:00 ~ 未定。
前回実績:1話/30分で計算すると1日を超えます。
一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。
word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿。
申し訳ありません。
ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。
二日後。
ついに私たち混成軍は、軍馬の群に程近い、前線拠点設営予定地にやって来た。明日はついに軍馬と戦闘だ。
ここに至るまでの道程は、まぁ、大体一日目と同じ感じだ。
日のある内は歩いて、日が暮れる前に設営。
ただし食事に関しては、私たちの監修が入ったことにより、調理時間が短縮され、さらに食事の質がワンランクアップし、それにより食事速度が向上して、移動に余裕が出るようになった。
そのため、昼食と夕食の狩りは、どちらもDランク冒険者が受けられる余裕が出来、私たちは調理の指導に専念出来て、また調理時間が短縮される、という好循環が生まれていた。
これには次男もホクホクである。軍隊の移動に掛かる時間というのは、重要であるにも関わらず、なかなか短縮し難いものであるからだ。
…………………………………………
なお、私とオズが何かしら良い方向に決着が着いたことは、ルーカスとキリウスさんに もろバレしており、なんとも微笑ましい視線を向けられたものである。
でもその結果、ルーカスたちのコイバナを深堀することは出来なくなってしまった。うっかりすると、ブーメランで攻守が逆転するためだ、というか、気付くとこちらが質問攻めされてる。
人生経験が長い分、口では勝てません。あ、でも女子トークはしたよ。一般的なものかは知らないけど。
それで近々行う予定の結婚式に参加させてもらうことになりました。というか、『料理作ってくれない?』とのことで、主に料理人として参加です。
ルーカスたちの村の結婚式では、村の女性陣で作ったお祝い料理が振る舞われるらしいが、こう言ってはなんだが、新鮮味に欠けた料理ばかりになるのは否めない。
そこで何か目新しい料理を追加したいとのことだ。
ホントはリリアナさん達が作れるようになって帰れればいいのだが、あまり得意ではないらしい。私、空気読んだ。
まぁ、自分たちが食べたいというだけでなく、参加者たちに味わって欲しいというのもあるようなので、『私たちでよければ』と了承しておいた。
ビビるくらいでっかいウェディングケーキでも作ってやろうかな。
それはさておき。
混成軍は現在、その規模を減じている。
それは別に想定外の事態が起きて脱落者が出たわけではなく、想定通りに進行してきたためだ。
最も数を減らしているのは冒険者。
その多くは街、補給拠点A、補給拠点B、前線拠点にそれぞれ分散したので、ざっくり1/5に減っている。
1/4でないのは、拠点間を運搬する冒険者の他に、各拠点に残る冒険者もいるからだ。
ちなみに運搬の冒険者は、一日で往復することになっている。
『片道一日の距離を一日で往復はムリじゃね? 計算出来てなくね?』と思うかもしれないが、大人数での移動速度と少人数での移動速度は大きく異なる。
食事も短時間で済むので、割と余裕らしい。
この辺があるから次男も行軍速度を上げたいと思っていたのだろう。
各拠点には他に指示や護衛などの兵士も残っていて、こちらは基本的に拠点に留まって、拠点の防衛や管理を行うとのこと。
私たちの担当は、前線拠点に留まり、雑用……軍備品の管理などを手伝うことである。
最も戦場に近い場所なので、最も高ランクの私たちが担当せざるを得ない。
まぁ、戦場とは離れているし、次男もこちらに魔獣は逃がさないと言っていたし、大丈夫だろう。
……………………フラグの可能性も考慮して、警戒はしておくけど。
前線拠点の設営場所は、南北に延びる街道に中心を置いて半径10m程。
街道を封鎖する形になっているが、現在この街道は通行禁止になっているため、問題はないだろう。
東西は森に挟まれており、森の端まで100m以上離れている。
そのため、森の中まで《ロング・サーチ》が届かず、索敵範囲外となっていた。
…………この前思い付いた『回転式』を試してみよう。ちなみに普段使ってるのは『不均式』と呼んでいる。
『ナビ。よろしく』
『了解した。ただ、慣れるまでは10m内は『不均式』で警戒しておく』
『ありがとう』
『回転式』は『不均式』に比べて、得られる情報量が桁違いに増えるから、なるべく簡単に素早く情報を処理できるようにしなくてはいけない。
まぁ、しばらく使っていれば《時空魔法マスタリー》がなんとかしてくれるだろう。
さて、それは置いておいて、当面の課題は今日の夕食である。
『豪華目で頼む』と指示があったのだ。
明日の軍馬との戦闘は朝の内に始まる予定だという。それは、早朝に軍馬の棲家へ移動を始め、大体一時間で目的地に到着する、ということだ。
通常、人は一時間程度では消化は終わらない。そして、一般的に人は満腹状態だと、実力を発揮しにくい傾向にある。そのため、朝食は軽く済ませることになるだろう。
よって、しっかりと食事が摂れるのは、今日の夕食が最後のチャンスというわけだ。
…………でも、豪華目ってどうすればいいのやら。
スープはすでに具沢山だし、一人一品増やすにしてもサラダじゃ豪華にならないし、そもそも余分な皿はない。
となると、後はパンに一手間加えるしか無いわけだが…………
「何かアイディアはない? オズ」
「そう言われましても……」
私に問われたオズは困った表情で食料の在庫を確認する。
「生鮮食品の類は日持ちするのしかないんですよね。人参とか玉葱とか。あとは採取してきたキノコや香草類。チーズみたいな乾物系は多いですけど、メインになりますかね?」
「う~ん…………となると、やっぱりメインは肉か。でも皿が無い。……………………挟むか」
「サンドイッチですか? カツサンドにします?」
「でも、アレ、ソースを作るのが面倒臭いし、揚げ物は私たちじゃないと難しい…………なんかアイディアないですか? 領軍の仮料理長さん」
「振られるとは思わなかった!?」
私は関係ありません的な雰囲気で、黙々と調理を進める若い兵士に話を振る。
今回の行軍に限り、専門で調理を担当することになって、私たちから技術を盗むことを義務付けられた哀れなお人です。
たまたまノリで料理系の汎用スキルを取得していたのが運の尽きだ。
本人曰く『料理人になるために領軍に入ったわけではない』とのこと。当たり前です。
「一応、私たちはアドバイザーという立場だからね。出来れば仮料理長から『こういう料理を作りたい』と、意見が欲しいところ」
「そうですね。そもそも『豪華目に』という指示が曖昧なんです。『豪華にしたいから○○○○を追加してくれ』と言ってもらいたいです」
「そう言われてもな~……」
こちらも困ったように首を傾げるが、この人『沢山食べられれば味は二の次』的な思考の持ち主だから、『パン焼こうぜ』とか言いそ
「パン焼こうぜ、パン。いつも一人に二つだから、四つにしよう」
「…………………………………………」
期待を外さない男だ。
まぁ、仕方ない。聞いてしまったのはこちらだ。パンを増やそう。
「パンを増やすとして、しょっぱいのと甘いのどっちが良いですか?」
「両方」
……………………このやろう。
「じゃあ、しょっぱいのは間に肉、チーズ、野菜を挟んだロールパンで。甘いのはカステラにしましょう」
「カステラ用の型はありますかね?」
「無ければ深めのフライパンを借りよう。冒険者に」
自分たちでやるときは、《クリア・プレイト》で作った魔法障壁を使うが、他の人は無理だから何か容れ物がいる。
「じゃあ、パンはいつものに加えてロールパン型のも作ってください。カステラは生地から違うので、別に作ります」
「イエッサー」
「サー違う」
…………………………………………
結果だけ言うと兵士の人達には好評でした。豪華ってなんだろう……
次の日。
「これより軍馬討伐に向かう!! 接敵は約一時間後だ!! 総員進軍せよ!!」
「イエスサー!!」×たくさん
次男の号令により、領軍が移動を開始した。その数は約150人。
討伐対象の軍馬と倍程度だが、個体戦力は同程度。なので、単純に人数の差が戦力差になるはずである。
この戦力差をひっくり返すには、それなりに相性の良い戦術か奇抜な戦術が必要だ。
…………まぁ、具体的なところは分かりませんけど。
領軍の最後尾をゆっくりとした速度で次男が進んでいく…………途中でこちらを見たような気がしたので、一応手を振っておいた。
次男は特に反応を示さなかったから、気のせいかな?
「……………………お姉ちゃんを無視するとは良い度胸」
『タチアナに言い付けてやる…………』
『手を振り返すくらいするべきだろう』
「はいはい。落ち着こうね~」
また無駄に次男の好感度を落としてしまった。失敗。
ナツナツを頭に乗せたオズの肩を掴んで180°向きを変えさせると、本日の仕事を確認するため、集合場所に移動する。
集合場所は中央テントだ。
そこへ辿り着くと、もう他の人達は全員集まっていた。
「すみません。お待たせしました」
「構わないよ。時間通りだ」
ここの拠点長さんに移動しながら謝罪すると、にこやかに返してくれる。
現在ここに残っているのは、兵士が20名に冒険者が8名の計28名だ。その中には昨日の仮料理長もいる。
「はぁ…………俺も闘いに行きたかった…………」
「俺も……」
歳の近い仲間と愚痴っているのが聞こえる。
仮料理長にもなってしまったことだし、今後も拠点メンバー率が高くなる気がするね。ご愁傷さま。
「この近くで魔獣討伐してると思うと、武者震いしてくるな。こっちに逃げてきたら、俺が討伐してやるのに」
「止めとき。そりゃ、無謀だわ」
と、話すのは、冒険者メンバーの残り二人。
友人らしいこの二人は、ルーカスよりちょっと歳上くらいの男性。
私たちと違って、本業が別にある兼業冒険者だ。
こういう人達は割と多い。
Dランク歴は結構長いが、昇格ポイントは少ない。つまり、子供の内に遊び感覚でDランクまで上がって、仕事に就いたら息抜き感覚でクエストを受けているタイプ。
そういう場合、クリア条件だけ満たすことが多いから、こういう状態になる。
いや、悪いことじゃないけどね。
「よーし、仕事を振り分けるぞー。おしゃべりは止めろ~」
拠点長の号令に合わせて、全員で向き直る。
拠点長は手に持った資料をめくりながら、説明を始めた。
「まず、仕事は三つだ。
軍備品の在庫確認。軍備品の振り分け。周囲の警戒。
それぞれ与えられた場所の在庫を確認してもらう。それが終わったら種類毎に軍備品の振り分け……要するに整理だな。振り分けは、必ず兵士が同席の元 行うこと。分別方法のルールがあるからな。
周囲の警戒は、ヨルス、エイジス、アサンドラ、バードン。東西南北に分かれろ。
冒険者たちは、備品リストを受け取ったら、各自別れて確認だ。チェックミスは言わずもがなだが、チェック済みとそうでないものを明確にしてくれ。
兵士たちは、冒険者同様在庫確認する者と振り分け用のスペースを確保する者に分かれる。
質問はあるか?」
最後に全員を見回すと、誰も反応が無いことを確認し、
「では、始めよう。午前中に終わらせるぞ」
サラッと期限を追加して終わらせた。
それ言ってから質問を確認してください。もし、追加内容に質問があったらどうする気ですか。
バラバラと兵士たちが散っていく中、拠点長からリストを受け取る。
私たちは、
「食材ね」
「了解しました」
ちなみにルーカスたちは、
「俺たちは矢などの消耗武器か」
「まぁ、数が多いからね」
「人数と合わせたんだろう」
「妥当なところ」
兼業冒険者たちは、
「医薬品だな」
「汚すなよ」
と、いったところ。それぞれのテントに分かれて作業を開始する。
調理部のテントに入った私たちは、真っ直ぐに奥に置かれた木箱に向かい、適当に被せられた蓋を開けた。
「……………………仮料理長には、整理整頓を教えないとダメだね」
そこにあったのは、適当に食材が放り込まれた木箱だ。
表示と中身が明らかに一致していないというかこれ蓋すら違うんじゃ?
『臭いものに蓋』理論で見えないように隔離したのか、私に怒られるのが分かってて隠していたのか……………………後者かな?
いつも先に仮料理長が来ててある程度食材が取り出されていたし、『片付けは任せろ』とか言ってたので先に帰ってたし…………
今考えると、面倒な片付けにまで口を出されたくなかった仮料理長に追い出されていたと見るのが正しい気がする。
「酷いですね、コレ。『たまに張り切った父親の料理』って感じです」
『どういうことだ?』
「普段料理をしない人間が、思い付きで料理をした結果です」
『えーと?』
「『無駄に凝った食材、道具、調理法に挑戦した挙句、大して美味しくない料理を作り、片付けない』という、独りよがりが生み出す惨状ですね」
『……………………説明する気ないな』
「まぁ、見ての通りだよ。こういう惨状を、ある種の父親はやらかすの。感謝されてると思い込みながら」
『……………………二人とも、何か嫌な記憶でもあるの~?』
「「いえ、別に」」
そういえば、不意にヒートアップしたけど、何でだろ?
まぁ、それは置いておいて、とりあえず中身を軽く確認しておく。
がさごそがさごそ……
…………………………………………
表示は『人参』なのに、なんで人参よりジャガイモの方が多い……それに混じって玉葱とか…………あぁぁぁぁ……葉物野菜を入れるな。ぶつかったときに潰れるだろ。というか、ゴミを入れるなや、せめて。
お説教項目を脳内でリスト化しつつ、食材の残量確認を開始する。
「《フル・スキャン》」
異物混入していなければ、これで終わったのに……
《フル・スキャン》の対象は木箱とし、内部に収められた食材をリスト化。
そこから混入した食材とゴミを取り出し、正しい木箱に移していく。
同様のことをオズでも並行してもらい時間短縮。
最後に全ての木箱を対象として、もう一度 《フル・スキャン》を掛ける。
木箱毎の食材名、数量をリスト化して投影させると……
「ジャガイモ 168、人参 85、玉葱 130…………」
「キャベツ 50、大根 68、カボチャ 15…………」
拠点長から受け取った紙リストに、投影リストのデータを書き写していく。
私たちの投影リストは、魔力供給を止めると消えてしまうので、書き写すのは仕方ないのだが、二度手間感が半端無いな。
……………………まぁ、それでも一時間もあれば終わるよね。
『終わり~?』
紙リストから顔を上げたところで、暇そうにしていたナツナツが私の頭の上に降りてきた。
下から両手でナツナツを持ち上げ、胸に抱いて頭を撫でる。
『よしよし。暇なの?』
『まさしくそれ~』
『周囲の状況はどうでした? 上から眺めてみたんでしょう?』
『さすがに遠すぎた~。真っ直ぐに道が延びてるわけでもないしさ~』
ナツナツには、上空から領軍の状況が確認できないかと空に上がってもらったのだが、距離があったのと間に森が挟まれてしまったので、うまくいかなかったようだ。
横からオズも手を伸ばしてきて、一緒にナデナデナデ…………
『ごろにゃ~ん♪』
気持ち良かったのか、猫撫声ならぬ猫声が上がる。
『西の森はどう?』
『そっちもダメ~』
『こちらは捕捉し続けているがな』
『う~ん…………気になりますよね』
この『西の森』関連は、ナビが回転式の《ロング・サーチ》で気が付いたことだ。
どうも、西の森の外縁付近に四足獣系の魔獣が不自然に集まっているようなのだ。
四足獣…………軍馬も当然、四足獣。
まぁ、詳細が分からないので、大きな鹿やヤギを間違えている可能性は十分高い。この前もヤギと鹿を間違えたし。
それに軍馬だとしても、領軍が向かった先にいる軍馬と関係があるかも分からない。
ただ…………
『なんとな~く、嫌な予感がするんだよね~……』
《魔勘》持ちの『嫌な予感』は、それこそ『嫌な予感』がしてならない。
『拠点長に伝えておくべきかな、やっぱり』
『信じてくれますかね?』
『まぁ、どちらにしろ冒険者たちには伝えておいても良いだろう』
『そうだね』
領軍には領軍のルールがあるだろうが、冒険者には冒険者のルールがある。
危険があるかもしれないのに、黙っているのはルール違反だ。
『それじゃ、ルーカスたちに伝えた後、最後に拠点長に伝えよう』
『なんで最後~?』
『拠点長に『喋るな』って言われたら伝えられないから』
『んん~?』
『拠点長に『喋るな』と言われた後にルーカスさんたちに伝えると命令違反ですけど、言われる前に伝えてしまえば命令違反にはなりません。まだ『喋るな』と言われてませんからね』
『……………………屁理屈じゃないか?』
『屁理屈ですよ?』
『一応、こっちは雇われてる側だからね。屁理屈でも理屈を通しておかないとね』
ただまぁ最初だけに通じる屁理屈だ。
『今度から周りに知らせる前に伝えるように』と言われてしまえば通らないのだから。
「おーい、アドバイザー。確認終わったのどれだ~?」
『さて、そろそろ動こうか』というところで、入口からやって来たのは、仮料理長だった。
『終わったのどれだ?』と問われたならば、答えざるを得まい。
ズラッと山のように積まれた木箱を指差し、
「そこの全部」
「は?」
「そこの全部」
「……………………は?」
「悪いのは耳? 頭? どちらにしろ吹き散らすけど、辞世の一言くらい待ってあげるよ」
「待て待て待て待て!!!! 短気過ぎるぞ!?」
私の『イラッ』とした気配を感じ取った仮料理長は、慌てて両手を上げる。
「それより、もう全部終わったって!? 嘘だろ、まだ一時間くらいしか経ってないぞ!?」
「嘘だと思うなら、中を覗いてごらん? あと、お説教があるから」
「お説教って、何だよ。…………何ですか?」
「整理整頓の重要性について」
「…………………………………………」
原因に心当たりがあるのだろう。当然。
一筋の冷や汗が流れたのは見逃さなかった。
「いいですか。調理後の整理整頓は、次回の調理を速やかに行うためにとても重要で…………」
「…………あ、あの。先に振り分けを終わらせたいんですけど……」
「20分で終わらせな」
「ムチャだーーーー!!!!」
「そもそもですね。食材というのは、同時に保管してはいけないものがありまして…………」
「ちゃんと聞かないと体罰ですよ~」
「はい……」
仮料理長の後で、オズがアサルトスタッフをふりふりして威圧する。見た目で舐められたら、実力で叩き潰しておかないとね。
この後、30分程の短期集中説教で精神的にズタボロにしてあげた。




