第117話 ゴーレム娘、入浴
100 ~ 140話を連投中。
10/12(土) 13:00 ~ 未定。
前回実績:1話/30分で計算すると1日を超えます。
一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。
word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿。
申し訳ありません。
ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。
一度に4人も消えると、急に静かになったように感じられる。
ちょっと寂しさを誤魔化すように、明るくオズに声を掛ける。
「それじゃ、お風呂に入りましょうか」
「はい。ナツナツ?」
「待ちくたびれた~♪」
天井から自由落下で落ちてきたナツナツをオズが両手でキャッチする。
それを確認したら、
「ナツナツ、ナビ。周囲を誤魔化すのはよろしく」
『あぁ。《リバース・エコー》』
「《エラー・ビジョン》。就寝中の姿~っと」
「私は《クリア・プレイト》と」
「《異界干渉》」
豪快にテント内を浴室に作り替える。
《リバース・エコー》で水の音が漏れないようにし、《エコー・ビジョン》で万一覗かれた際の幻覚を。
《クリア・プレイト》でテント内面を覆うように障壁を展開すれば、どんなに水浸しになっても大丈夫だ。
オズの《異界干渉》は、私の《異空間干渉》と同じ効果のスキルで、足元に[トラッシュボックス]行きの排水口、頭上に[アイテムボックス]内のお湯に接続された給湯口が設置される。
これで準備は完了。
「ルーカスたちじゃないけど、家でもないのにお風呂に入れるなんて、便利だよねぇ~」
「四人掛かりで魔法を使わなきゃならないですけどね」
「まぁ必須は、《クリア・プレイト》と《異空間干渉》だけだけどね」
周りに人がいなければ、水音と覗き対策はしなくても大丈夫だからね。この前のカフォニア山脈とか。
全員 一糸まとわぬ姿になると、まず行うのは洗濯です。
といっても、手でゴシゴシ洗ったり、魔法でジャバジャバ洗ったりするわけではない。いや、魔法ではあるんだけど。
「どうぞ」
「ありがと」
オズが《異界干渉》で取り出したのは、私たちの背格好に似せた型枠。要するにマネキンだ。
『マネキン』と直接表現しなかった理由は、それが『服を着せて見せる』ためのものではなく、『服を着た状態で洗う』ためのものだからだ。
つまり、外側からだけでなく内側から洗うことが可能。『水を通すマネキン』というのが、最も簡単なイメージか。
そのマネキン五体に、下着、インナー、スケイルクロス、ハーフコート、プリーツスカートをそれぞれ着付ける。グローブや靴は適当に。
要するに服同士が重なり合わないように着付けたのだ。
ナツナツとオズも同じように着付ける。
そして、それらをまとめて[クリーニングボックス]へ送り込んだ。
そう。オズが見付けた異空間 第二弾。洗濯専用異空間だ!!!!
……………………贅沢ですね。
この異空間の特徴は、『狭い』『時間経過あり』『魔力自然回復』『空間に術式書込み可』である。
大きさはちょっとした小部屋程度。そこに整然と並んだマネキンたち。
まず行われるのは水洗いである。マネキンひとつひとつを包み込むように水で覆い、表面のゴミを水流で巻き込んで、大雑把に落とす。
次に洗剤が溶けた水を、外側から内側へ、内側から外側へ、繊維の中に染み込んだ汚れを外に押し流すように対流させる。途中から徐々に水温を上げ、さらに汚れを溶かしていく。
十分に汚れを落としたら、水を変えてもう一度。また変えてもう一度。
最後に水魔法を使って水分を直接操作して大雑把に脱水したら、内側から風を吹かせてシワを伸ばし、その状態で素早く乾燥させる。
こうして得られるのは、パリッとシワのない綺麗な衣装一式である。大体お風呂が終わる頃に出来上がる。
これらが自動で行われるよう術式を組んであります。
ちなみに『狭い』は特に意味はないが、『魔力自然回復』と『空間に術式書込み可』のお陰で魔道具を設置しなくても大丈夫。
あ、もちろん水は[アイテムボックス]から、汚水は[トラッシュボックス]へ、それぞれ移動するようになってますよ。
というわけで、いってらっしゃーい♪
次にようやく私たちを洗う番だ。…………と、その前に。
「《フル・スキャン》」
私、ナツナツ、オズに分析魔法を掛ける。対象は髪だ。
「ずっと外を歩いていたからかな? ちょっと傷み始めてるっぽい」
投影させた分析結果を横目に、オズの髪を摘まんで肌触りを確認する。若……………………干、触り心地が悪くなってる、かも。
「そうですね。ただまぁ、毎日お手入れしてますので、そんなに強くなくて大丈夫そうです。……………………この辺で良いと思いますよ」
オズが[アイテムボックス]から取り出したのはシャンプー……ではなく、トリートメント。
オズに教えてもらったヘアケア用品で、錬金術師ギルドで取り寄せた (この辺では) レアな素材から創られたものである。詳しい製法は秘密…………というか、よく分からなかった。てへ。
髪の傷みを補修し、新たな傷みから守る効果があるとのことですが…………正直、良く分かりません。
『コンディショナーの効果もあります』とか『髪を治す訳ではありません』とか…………困惑している私を見て、楽しんでいるようにしか見えませんでしたよ、まったく。
私やオズでは効果の程が実感出来なかったものの、お義母さんと義姉さんは『これ凄い!!』と言っていたので、確かに効果はあるのだろう。
「じゃ、いつもの通りに。私はオズを」
「私はナツナツですね」
「私はされるがまま~♪」
椅子に座って洗うなら、この順が自然ですからね。それに、ナツナツは[アイテムボックス]に干渉できないし。
まずはブラッシング。柔らかい毛のブラシで、髪の絡まりを解すように優しく梳いていく。まぁ、私も含めて絡まることは殆どないのだが。
十分に解したら、次はぬるま湯洗い。ちょっとぬるいくらいのお湯で、水で落ちる汚れをしっかりと落とす。
それが終わったら、シャンプーを手に取って良く泡立て、頭皮を洗うように隅々に行き渡らせる。そしてマッサージするように、もみもみもみ…………この時に『痒いところはございますかー?』『ないでーす』とかやると幸せになります。私が。
この幸せを何度か体感した後、シャンプーをしっかりと流します。どのくらいかというと、しっっっっっっっっかりとくらい。シャンプーが残るとそれが傷みの原因になるんだってさ。
最後に、やっぱり水魔法で髪を濡らす水分を直接操作して水気を切り、掌に広げたトリートメントで毛先からもみもみもみ…………順に上がっていって耳の辺りまで。均一に髪と馴染ませたら、くるくると頭上で丸めてタオルで巻けば、第一段階終了です。
「こんな感じでどう?」
「はい。大丈夫ですよ。じゃあ、交代してナツナツを洗ってあげてください」
「私はされるがまま~♪」
オズと私は席を入れ替える。今度は私がナツナツの体を洗い、オズが私の髪を洗う。よって、これからオズが座る椅子はちょっと高めだったりする。
体を洗う方は洗髪ほど気にすることはないが、私が目覚めた当初、思い付きでナツナツの体をまさぐって気不味い雰囲気になったことを、否が応でも思い起こされますね。
もう、何度も洗ってあげてるんだけど。
こちらもやっぱり石鹸を掌でしっかりと泡立て、撫でるようにゴシゴシゴシ…………いや、コシコシコシくらいで。
首回りから始めて、胴体前面、胴体背面、両腕、両足…………最終的には、泡でできた雪ダルマみたいにするのがお約束。
ちなみに、羽は物質じゃないため、触れないので気にしなくてOK。
「ダルマー」
「そうだね」
「子ダルマー」
「……………………それ、後で洗い流すんだけど……」
ナツナツが妖精魔法を使って、泡のみでできた小さな泡ダルマを量産する。
生れたての泡ダルマは、生命を謳歌するようにナツナツの周りをぴょんぴょんと跳ね回った。
「流しますよー」
「子ダルマー!!!?」
無慈悲。
頭上から雨のように降り注ぐお湯が、一気に泡ダルマたちを押し流した。一瞬で融けた生クリームのようになって、そのまま排水口へ…………
「子……ダルマー……」
ガックリと両手を付いて打ち拉がれるナツナツ。
ナツナツ自体にお湯は直撃していなかったので、所々に残った泡がちょっと扇情的……
「湯船用意しましたよ」
「はいる~♪」
「復帰が早い」
陶器で出来た浴槽というか 深皿にお湯を張ると、コロッと表情を一変させて頭から飛び込んだ。
「あぁ……トリートメントが……………………まぁ、大したダメージじゃなかったので、もう流してもいいですけど」
「ぷはっ。オズ~♪ シャワーして~♪」
「はい」
お皿の上から、しとしと雨くらいの強さでお湯が降り注ぐ。ナツナツは両手を掲げると、気持ち良さそうに全身でお湯を浴び続けている。
「贅沢だよね……」
「まぁ、ナツナツが浴びる分くらいなら大した量じゃないですよ。私たちが浴びると とんでもないですけど」
実は、霧状に細かく分散させることで、見た目以上に節水出来ているらしい。
「じゃ、次はオズの番だね」
「お姉ちゃんの番でもありますよ」
まずはお互い、たっぷりの泡を用意する。それは掌分だけでなく、洗面器にもたっぷりと、だ。
十分に用意出来たら…………闘いの始まりである!!
「先手必勝!!」
掌の上に乗せた泡玉…………ではなく、洗面器に蓄えた泡ストックを直接ぶちまける。ファーストアタック・マックスパワーである。
こっそりと洗面器内の容積を拡張していたので、拡張を元に戻しながら振ると濁流の如く泡が吹き出る。
一瞬の内に視界が白に染まった。
「『後の先』って知ってます?」
「わひょ!?」
白に染まった視界からではなく、背後から声が聞こえると共に、『ガシュニュルン!!!!』といった感じで、私の胸から太股の部分まで一気に白で覆われた。
「引っ掛かる部分が無かったので、一気に下まで行きました」
「アンタもでしょーーーー!!!!!!!!」
「お義母さまとお義姉さまは引っ掛かるんです」
「うわーーーーん!! こんにゃろー!!」
ストックはすでに使い切ってしまったが、まだ両手に残った泡玉がある。潰れてるけど。
体を回して、腰に抱き付いたままのオズに反撃のまさぐり!!
「あはははははははは!!!! なんでそんなこそばゆい動き出来るんですか!?」
「才能かなぁ」
脇からおへそ、股下に掛けて左手が、脇から腕、首筋に掛けて右手が縦横無尽に走り回る。
途中でオズの泡ストックも横取りして全身を泡まみれにしてやった。
その頃には私もバッチリ泡まみれである。当然にもう、どちらも立ってはいない。
「私だってぇ~~~~!!」
「生温いわ」
「じゃ、ここ」
「うひひょひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」
不意を突いて最も弱いところに全力攻撃を仕掛けるのは、さすが我が妹なり。
ちなみにこの闘いに勝利条件は設定されていないので、飽きるか怒られるまで続きます。
なお、今日は怒る人がいないので、飽きるまで終わらない。
「平和だねぇ~…………あ、ナビ? 《クリア・プレイト》の最高強度上げておいて。ぶつかったら壊れちゃうかも」
『了解したが…………私は今視覚を遮断している。ケガをしないように注意していてくれ』
「内側に減衰型の障壁展開しておきますか~……」
……………………結果的に新品の石鹸が二個消えたので反省した。




