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ゴーレム娘は今生を全うしたい  作者: 藤色蜻蛉
7章 襲撃!! 嘆きの魔獣
117/264

第109話 ゴーレム娘、次男とお話

100 ~ 140話を連投中。


10/12(土) 13:00 ~ 未定。

前回実績:1話/30分で計算すると1日を超えます。

一応、事前に下記手順の一部を済ませていますが、途中で投稿を中断するかもしれません。


word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿。


申し訳ありません。



ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。

廊下に出ると、次男と並んで玄関へ向かう。

使用していた客間は奥まったところにある上等な客間なので、到着までに少し時間が掛かる。

正しい見送りの方法など分からないので、このまま行くことにする。


「改めて言うけど、ごめんね。オズたちが妙に喧嘩腰で」


「ホントだよ…………ホントだよ」


「なんで二回言った」


「大事なことだからだ」


「…………まぁ、いいや。ついでに、この見送りでさらに嫌われただろうけど、それもごめんね」


「分かっててやったのか、こら」


これ見よがしにタメ息なんぞ突いて見せる次男。

この見送りを断ったとしても、同じように嫌われる未来しかないことを察したのだろう。

私に声を掛けられた時点で負けが決まっていたのだ。


……………………ホントごめん。


「そんで、なんか用があったんじゃねぇのか? わざわざくっついて出てきたんだから」


「あ、うん……え~と、伝わってるかどうか分からなかったから、改めて伝えておこうかと思って」


「ん? 何をだよ」


「なんであんなに喧嘩腰なのか」


そう。そのために次男の好感度を犠牲にして付いてきたのだ。犠牲になった好感度は、後で回復できるように気に掛けることにします。


『今更追加する情報なんてあるのか?』とでも言いたげな表情の次男を横目で見つつ、話を続ける。


「私とナツナツたちの関係って知ってるよね?」


「…………ナビゲーターと聞いたが」


「そうだね。私の体は大賢者マイアナ・ゼロスケイプが造り出したフレッシュゴーレム。表向きは人間っぽく見えるけどね。

そしてこの体は違和感もなく記憶にある通り動かせていて、特に不都合はないんだけどさ、見えないところはもう手の施しようがないくらいブラックボックスなんだよね」


「……………………言葉の選択がおかしくねぇか?」


「ニュアンスでよろしく。

つまりね、正常に稼働してる間は問題ないんだけど、どんなに小さな異常が現れても私には手の出しようが無いってこと。

分かるかなぁ。この綱渡り感。一歩踏み間違えれば、そのまま奈落に直行かもしれない不安感」


「あ~~……よく分からねえが、『今』の自分の状態が『どの程度正常から外れているのか?』が分からなくて不安、ってことか? だから、些細な不調が生じたとき、『これは実は致命的な不調の前兆なのでは?』と思ってしまう、とか?」


「そうそう、そんな感じ。例えば、次男が不意に『熱が出て、咳が止まらなくなった』として、今までの経験から『風邪だな』って自己判断できるし、医者に聞けば『風邪ですね』って診断してくれるし、前例もたくさんあるわけだよ。『大したこと無い』っていう証拠がさ。

でも私の場合は、自己判断も医者の診断も、『人間(・・)なら風邪ですね』っていう判断なんだよね。そして、フレッシュゴーレムの前例はあるかもしれないけど、おじいちゃんが改造しまくったこの体がどこまで参考になるかなんて分からないじゃない?」


「…………まぁ、言いたいことは分かる。スケールの小さい話で言えば、森で初見の果物を食っちまって、腹が痛くなったみたいな感覚か。そのうち治る症状なのか、重篤な症状の前触れなのか、判断が付かないし、判断が出来るやつもいない。

『その不安を何倍も大きくしたものなんだろうな』とイメージは出来るが、まぁ、その程度しか分からないよな、俺には」


「ふふ」


思っていた以上に真剣に考えてくれた次男が可笑しくて、ちょっと笑ってしまった。


「なんだよ」


「んーん。なんでもー。

さらにはさ。120年越しの蘇生で以前の生活は続けられなくなってるし、社会常識も変わってるし。ついでに言えば、この体は利用価値がやたらと高いし。

…………これがどれだけ不安なことか。貴方に分かる?」


「…………………………………………空想物語を読んだくらいなら」


「十分だよ。というか、私もそんなもんだし」


「おい」


からかわれていると思ったのか、次男が不機嫌そうに睨む。


「からかってるわけじゃないよ。私にはさ、初めからナツナツたちがいてくれたんだよ。不安にならないようにしてくれたの。だから私も『不安で仕方なかったろうな~』って、想像するだけで済んでるの」


「……………………よかったな」


「うん」


もしナビがいなかったら。多分、私はあの家でおじいちゃんの帰りを待ったまま、衰弱していったかもしれない。ナビが記憶を思い出させて、私を定義してくれて、現実を突き付けてくれた。だから、すぐに次を考えることが出来た。

もしナツナツがいなかったら。まぁ、その時はナビが代わりをしただろうけど、直接触れ合った温かさは確かに私の安らぎになっていた。今思うと、あの頃ナツナツがやたらと私にくっついてきたのは、そんな私の不安を察してたんじゃないかと思う。


どの仮定も想像でしかない。想像でしかないようにしてくれたのだ。


「でもさ、なんでそうしてくれると思う?」


「なんで?…………『ナビゲーターだから』っていうのは答えじゃないよな?」


「そだね」


「なんで…………なんで……」


「あ、クイズじゃないし、多分答えは色々あるだろうから、考え込まなくてもいいよ。私が言いたいのは、『ナビゲーターは私に好意を抱くように出来てる』ってこと。理由がなくても……いいえ、嫌う理由があっても、私のこと好きでいてくれるの」


「それは…………」


私の答えを聞いて、次男が難しそうな顔をする。

うん。そうなるとは思った。でも、違うのだよ。


「そんな顔しなくてもいいよ。別に空想物語みたいに『ソレのせいでナツナツたちの心を歪ませてしまった』みたいなことは考えてないから。ソレも含めてナツナツたちなんだよ。それに、だからこそ絶対に嫌われるようなことはしないと決めてるからね」


「そうか」


ホッとしたように一息つく次男に、『やっぱりあんなに嫌われる程悪い人じゃないよね』と改めて思う。

だからせめて訂正しないといけない。


「だから、ナツナツたちがあんなに喧嘩腰なのは、それのせいであって次男に何か落ち度があるわけじゃないんだよって言っておきたくて。多分、男で歳が近くてある程度距離が縮まると、みんな同じような対応になるんじゃないかなぁ…………」


「関係改善の余地なしかよ……」


「ごめんね~。証拠としては、バイト先の店長代理にも同じ感じだから、特別嫌われてるわけじゃないよって言いたい。簡単に言っちゃえば、あんまり気にしないでって。

あ、でも、この前 寝てるときに好き勝手しようとしたのは別ね。お義母さんから次同じことがあったら、ぶっ飛ばして良いって言われてるから。気を付けてね」


それを聞いた次男は、心底嫌そうな顔をして片手で顔半分を覆うと、


「あれはまぁ、本気で悪いと思ってる。もうしねぇよ。

ただ、訂正させてもらえるなら、好き勝手しようとしたわけじゃねえ。ちゃんと顔を見たかっただけだ」


「その理由もどうなのか……」


「……………………確かに」


ヴェールで顔を隠す女性に『おい、ちょっと顔見せろよ』と言ってヴェールを捲り、中を覗き込む男……………………殴られても仕方無いね。


とりあえず、私が言いたいことは通じたようだ。

ナツナツたちの態度を気にして、例えば真剣に何が悪かったのかと悩んだりして無為に時間を使わせては申し訳ない。きっと、どんな態度でもああなのだから。


「しっかし、好意を抱くように出来てるからって、嫉妬し過ぎじゃね? あれじゃ、男友達も出来んだろ」


「ん? あぁ、嫉妬も混じってるかもしれないけど、それよりも多分、恋仲にさせたくないんだと思うけど……

あ、だから、次男が早いところ結婚相手を決めれば、改善の余地ありだよ?」


「そのためだけに決めたくないな……」


「いや、ついででいいんよ?」


住民ひとりのために結婚相手を決めるって、それ、そのひとりが結婚相手の場合だよね。


…………………………………………


「オズはやらんよ」


「何の話だ。一番ねぇだろ」


いや、一番ないのはナツナツでしょう。


…………………………………………


「ナツナツもやらんよ」


「お前とは一度話し合う必要があるな」


「冗談だよ。やらないのはホントだけど」


と、いうところで玄関に着いた。

そのまま玄関扉を開いて、門の所まで行く。

そして、次男は軽く頬を叩いて表情を引き締めると、一度こちらに振り向いた。


「そんじゃ、ま、さっきの依頼 当日は頼むぜ」


「そっちこそ、魔獣はよろしくね」


「おぅ」


「じゃ~ね~」


門の所で両手を振って見送ると、次男は背中越しに片手をひらひらさせて去っていく。


…………馬車とかじゃなくて歩きなのか。まぁ、領主の屋敷までそんなに距離はないけど。


一応、角を曲がって見えなくなったところで家に戻る。


……………………あ、さっき秘密にされた内容を聞いておけばよかった。


『正直そのために見送りに出たと思ってたんだが』


ごめん、ホントに全然そんなことは考えてなかったよ。



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